オリンパスは27日、国内外の企業買収で取得額を決めた経緯などを発表した。国内3社の企業価値を前提となった事業計画を明らかにするなど「買収額などは適正」と説明してきた根拠の一部を明らかにしたが、市場には財務上の問題がすべて解決されたのか説明が不十分との声がある。一層の情報開示を求めている株主との溝も埋まっていない。
(日本経済新聞2011年10月28日12面)
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「2006~2008年に買収した環境リサイクルのアルティスなど国内3社の2008年度売上高は計54億円。これが2012年度に約900億円に成長する計画を前提に企業価値を算定したが、2011年度見込みは65億円強。計画と実際の相違が、2009年3月期に実施した557億円の減損処理につながったもようだ」(前掲紙)
先日、とある中小企業のM&A仲介を専門に行っている会社の社長の話を聞く機会がありました。
その社長は、未上場の中小企業の評価は時価純資産をベースに行うべきで、DCF法によるべきではないと話されていました。
DCF法は恣意的にどんな金額でもはじき出すことができてしまうから、というのがその理由でした。
私はそれは違うと思いながらその話を聞いていました。
中小企業であろうと未上場であろうと継続企業である限り、その価値評価は適切な事業計画に基づき行われるべきです。しかしその事業計画は買い手の側で厳しく吟味されることが前提です。
DDにおいても最も時間をかけて検討されるべきも、この事業計画の妥当性です。
その上で売り手と買い手との間で行われる買収価格を巡るギリギリの交渉を経て、漸く適切な価格に落ち着くのです。つまり、恣意的に金額が算定されるのは、DCFという手法自体が悪いわけではなく、その使用方法に問題があるからなのです。
オリンパスの場合にも、事業計画の検討と価格の交渉がどのように行われたかが問われることになります。将来の事業計画は一律的に決まるものではなく、いくつかのシナリオとその生起確率に基づき決定されるものです。2012年度の900億円の売上高もこういった観点から検討されなければいけません。
オリンパスは、昨日公表した「当社の過去の買収案件に関する追加情報について」の中でこの辺りの経緯について言及していますが、今後第三者委員会においてその妥当性について調査されることになるものと思われます。
【リスク】
2011年10月23日「当社の過去の買収案件に関する追加情報について」オリンパス株式会社 [PDF]
株式時価総額が手元資金から有利子負債を差し引いた「ネットキャッシュ」を下回る企業が増えている。26日時点で77社にのぼり、6月末に比べ23社増えた。世界景気の減速懸念による株価下落に加え、成長投資や株主配分など手元資金の有効な使い道を示せていないケースもある。
(日本経済新聞2011年10月27日17面)
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「企業の時価総額がネットキャッシュを下回る場合、全株式を買い取れば、買収額より多い現金を手中にできる。株式市場ではPBRが理論上の解散価値を示す1倍を割り込む企業が東証1部の約7割に及ぶが、時価総額がネットキャッシュを下回るのは市場での評価がさらに低い状態といえる。
時価総額とネットキャッシュの差額が大きい企業をみると、船井電機やホシデン、半導体製造装置の新川など電機やハイテク関連銘柄が上位に並んだ。景気減速で家電や情報機器の需要が減り、収益が悪化するとの懸念を背景に株価が下落。時価総額がネットキャッシュを割る企業が相次いだ」(前掲紙)
株式価値=企業価値−(有利子負債−余剰資金)
=企業価値+(余剰資金−有利子負債)
=企業価値+ネットキャッシュ
したがって、企業価値がゼロだとしても株式価値がネットキャッシュを下回ることは理論的にはないはずです。
にも関わらずそういう企業が77社も存在するのは何故でしょう。
個別企業を検討していけば、その理由は色々と見つかるかも知れませんが、ここでは一般的にどんなことが考えられるか書いてみます。
まず考えられる理由の一つは手元資金=余剰資金とは限らないということです。
給料等の支払いに充てるために、手元資金を確保しているのであれば、その部分は余剰資金ではないので、株式価値を構成しません。
次に考えられるのは企業価値がマイナスである場合です。この場合には、
株式価値<ネットキャッシュ
となります。
そしてもうひとつ考えられるのは、手元資金が有効利用されず無為に費消されると市場が評価している場合です(エージェンシーコストですね)。
「評価の低さは手元資金を有効利用できていない点とみて活用を急ぐ企業が多い」(前掲紙)
というのはこのタイプの企業の株価対策としては有効です。
しかし、このタイプの企業ではなく、実は最初の2つのタイプのどちらかの企業であるにも関わらず、自社株買いなんぞしてしまったら、近い将来一気に資金不足に陥ることになる可能性もあるので、その見極めは慎重に行なう必要があります。
最後にもう一つ。
日本の株式市場全体が下げている中、個別企業を見ると理論価格を下回る水準まで下げている銘柄が存在している、ということが考えられます。
77社の中には、これに該当する銘柄も少なくないように思います。
【リンク】
なし
バフェットは同モデル(ブラック・ショールズ・モデル)には欠陥があると主張する。期間が数ヶ月単位のオプションなら同モデルは有効だが、バフェットが手がけている期間の長い保険(オプション)契約では、合理的な評価にならないという。
(日経ヴェリタス2011年4月10日56面バフェットからの手紙)
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「大学でブラック・ショールズ・モデルを、当然の真実として教える現在の慣行を見直す必要があります。さらに言えば、オプション価格の勉強に時間をかける傾向も改めるべきです。」(前掲紙)
私は10年ほど前、数理ファイナンスの専門家である上智の津野先生にお願いして、学部の授業に1年間通わせてもらい、ブラック・ショールズ・モデル理論について懇切丁寧な指導を受けたことがあります。
バフェット氏は、大学でオプション理論を勉強したことがないのでしょう。大学でブラック・ショールズを当然の真実として教えるなんてことはありません。むしろブッラク・ショールズの限界を教えることに時間をかけていると思います。
一番悪いのは、モデルの前提を理解せずに機械的にブラック・ショールズ・モデルやCAPMにパラメータを放り込みその結果を無批判に受け容れることでしょう。専門家にはまずそのモデルを使用することの是非を判断する能力が求められます。そのためには大学なりできちんと勉強することは有意義だと私は思います。
【リンク】
なし
4月に上場した第一生命保険の株価が低迷している。26日には一時、上場来安値の98,800円を付け、終値でも99,600円と初めて10万円台の大台を割った。世界的な株安基調が続くなかで、市場では「企業の不安材料に目が向かいやすくなっていることが株価の重荷になっている」との指摘が出ている。
(日本経済新聞2010年8月27日4面)
【CFOならこう読む】
「もっとも日本株全体の下落傾向が続くなかで、企業の業績を離れ、不安材料に過剰に反応しやすくなっている面も否定できない。
例えば、一般にはほとんど知られていないが、生保の企業価値を示す独自指標であるエンべディッド・バリュー(EV)をみると、第一生命のEVは2兆1000億円程度。時価総額(9,960億円、26日終値)の2倍以上に上り、EVからみれば、現在の株価は割安とも判断できる」
(前掲紙)
EVとは次のよう価値指標です。
「エンベディッド・バリューは、生命保険会社が現在保有する総資産と保険契約に基づき、株主に帰属すると考えられる配当可能利益の現在価値を計算したものであり、貸借対照表などから計算される「修正純資産(注1)」と保有契約に基づき計算される「保有契約価値(注2)」を合計したものであり、生命保険会社の企業価値を表す指標の一つです。現行の生命保険会社の法定会計では、新契約獲得から会計上の利益の実現までに時間がかかります。一方、エンベディッド・バリューでは将来の利益貢献が新契約獲得時に認識されるため、法定会計による財務情報を補強することができると考えられています。
(注1)修正純資産=純資産の部計(基金、評価・換算差額、社外流失予定額を除く)+負債中の内部留保(価額変動準備金、危険準備金、配当準備金中の未割当額)(税引後)+一般貸倒引当金(税引後)+有価証券等(デリバティブ取引を含む)の含み損益(税引後)+土地の含み損益(税引後)+貸付金の含み損益(税引後)-退職給付の未積立債務(税引後)
(注2)保有契約価値=将来の税引後利益の現在価値-資本コストの現在価値「資本コスト」は前提とするソルベンシー・マージン比率を維持していくために必要な資本等の額に対して割引率と運用利回りの差から生じる利息差です。」(http://www.dai-ichi-life.co.jp/support/glossary/term0194.html)
ヨーロッパでは、大手保険会社のCFOから構成されるCFOフォーラムによって2004年5月に制定されたヨーロピアン・エンベディッド・バリュー(EEV)原則があり、これに基づきEEVの計算・開示が行なわれています。
日本でも例えばT&Dホールディングスは、EEV原則に基づきEVを計算し定期的に開示を行なっています。
この開示資料を見るとT&DホールディングスがどのようにEVを計算しているかかなり詳細な説明がなされています。
【リンク】
2010年5月19日「平成 22 年 3 月末ヨーロピアン・エンベディッド・バリューの開示について」株式会社T&Dホールディングス [PDF]
鳩山由紀夫首相の発言の「ぶれ」が収まらない衆院選マニフェスト(政権公約)の目玉政策では子ども手当やガソリン税などの暫定税率を巡る方針が二転三転。沖縄県の米軍普天間基地の移設問題や民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体に関する政治資金規正法違反事件でも、自らの発言を一日で撤回するなど政権内の混乱のもととなるケースが目立つ。
(日本経済新聞2010年2月16日3面)
【CFOならこう読む】
文芸春秋3月号で、「米政府が分析する鳩山数学論文」というタイトルの佐藤優氏と手嶋龍一氏の対談が掲載されています。その中で、人は20歳の頃の姿を分析すれば、その後の姿が見通せるとして、鳩山首相が学生時代(東大工学部計数工学科からスタンフォード大の大学院で学び、Ph. Dを取得)に英語で書いた学術論文に注目しています。
「佐藤:実は今回、鳩山さんが英語で書いた学術論文を読んでみて、ビックリしました。まず英語が見事な上に、論文内容が素晴らしい。政治家になるまで腰掛で学者をしていたのではなく、間違いなく本物の学者でした。その論文のテーマはロシアの数学者、アンドレイ・マルコフが唱えた「マルコフ保全理論」の研究でした。
手嶋:一体どんな理論ですか。
佐藤:非常に複雑な概念ですが、ざっくり言うと、「ある事象はその直前の出来事に左右されるのであって、過去には左右されない」という理論。これを偏微分方程式を駆使しながら数理的に実証する
論文なのです。」
(文芸春秋2010年3月号)
そうファイナンスの資産価格理論の株価変動モデルを学ぶ際に登場する「マルコフ過程」のマルコフです。
「いわゆるマルコフ過程とは、将来の状態は現在の状態にのみ依存する。換言すれば過去の過程、つまり現状に至るまでのプロセスには依存しないという前提をおいた確率過程の一つである」
(「フィナンシャルエンジニアリング」第5版 ジョン・ハル著 三菱証券商品開発本部訳)
今日の新聞記事に首相のマルコフ性を示す記事を見つけました。
「首相周辺は首相の「ぶれ」について直近に聞いた話に引きずられる傾向がある」と認める」
(日本経済新聞2010年2月16日3面)
なるほど、”ランダムウォークしているんだなあ”、と妙に納得してしまいました。
ところで、例えば株価がマルコフ過程に従うということは、ウイークフォームでの効率的市場仮説を仮定していることにほかなりません。にも関わらず首相の口から市場の効率性を否定するような言葉が聞かれる
のは何故でしょう?
中小企業庁は多岐にわたる非上場株の「値付け」方法を整理し、指針を作成した。ベンチャー企業は将来の利益見通しに基づいて評価するなど、どの企業がどの方法を使うべきかについて一定の方向性を示した。非上場の中小企業の経営者が死亡した場合、その企業の株式は親族らに分散しがちだ。適切な評価の指針をまとめることで、円滑な事業承継を支える。
中小企業庁の研究会で指針を検討し、近く正式に公表する。
資産が少なくても成長力のある企業は、将来の収益を予想して算定する「収益方式」が適当だと指摘。収益性が低くても不動産などを多く持つ企業は、資産から負債を差し引いた純資産を株数で割る「純資産方式」を採用するのが望ましいとの判断を示した。
資産や収益による評価で納得が得られないときは、事業内容が似た上場企業の株価と比較して決める「比準方式」を活用する例もある。その際には客観性を高めるために、複数の企業と比較するよう求めた。
(日本経済新聞夕刊2009年2月9日3面)
【CFOならこう読む】
経営承継法は、後継者が贈与により取得した自社株式2について、「遺留分を算定する際の価額を合意の時における価額に固定する」ことを内容とする合意(以下「固定合意」という。経営承継法第4 条第1 項第2 号)を行うことができ、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可といった諸手続きを経ることで当該合意の効果が生じることとしています(同法第7 条から第9 条)。固定合意における価額は、「合意の時における価額(弁護士、弁護士法人、公認会計士(公認会計士法第16 条の2 第5 項に規定する外国公認会計士を含む。)、監査法人、税理士又は税理士法人がその時における相当な価額として証明したものに限る。)」(以下「合意時価額」という。)であることが必要ですが、非上場株式の評価方法に絶対の方法があるわけではありません。
今般の指針は、固定合意が利用される際の非上場株式の評価方法のメルクマールとなることを目的として策定されたものです。
指針を一読したところ、非上場会社の株式評価入門的な内容で特筆すべき点はありません。強いて言えば過去の裁判例が豊富なので、その点利用価値はあるかもしれません。
少し気になるのは、本指針を策定した「非上場株式の評価の在り方に関する委員会専門委員会」(委員長:品川芳宣早稲田大学大学院会計研究科教授)の事務局を担当したプルータスコンサルティングの名前が指針の中で散見される点です。
具体的には、
β値に関しては、東京証券取引所のほか、Bloomberg 社やプルータス・コンサルティング社が公表している。」(11ページ脚注)
「エクイティー(マーケット)リスクプレミアムとしては、Ibbotson Associates 社のほか、プルータス・コンサルティング社が、株価のヒストリカル・データに加え、現状の市場の株価とキャッシュ・フローのレベルを反映した指数を公表している。(12ページ脚注)
米国においては、Ibbotson Associates 社(正式にはその親会社であるMorningStar 社)が現地の上場企業に関するヒストリカル・データを利用して小規模リスクプレミアムを定量化している。これまでは、我が国では、同様のデータが整備されておらず、実務上は米国市場のデータに依拠した小規模リスクプレミアムが適用されてきたのが現状である。しかし、近時においては、プルータス・コンサルティング社が、我が国の株式市場の実績値から小規模リスクプレミアムを算出、公表している。(12ページ脚注)
Bloomberg 社やIbbotson Associates 社と並列にプルータス・コンサルティング社の名前を記載することで、同社の提供するデータがBloomberg 社やIbbotson Associates 社が提供するそれと同程度の信頼性があると中小企業庁がお墨付きを与えたかのようなミスリードにつながる可能性があり、ここに事務局を担当した一民間企業の名前を書くのは適当とは思えません。
【リンク】
平成21年2月「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」中小企業庁
ソフトバンクの企業価値はどのくらいなのだろうか。同社は複数の事業を運営しているので、事業価値を積み上げる「サム・オブ・パーツ」方式で試算してみよう。
(日経ヴェリタス2008年6月29日 14面)
【CFOならこう読む】
記事では、事業価値と上場保有株の時価総額を合計した企業価値から純有利子負債を引くことで株主価値を求め、これを自己株控除後の発行済株式数で割って理論株価を算定しています。

事業価値はEBITDA倍率により計算されています。
これは乗数アプローチ(マルチプル)と呼ばれる手法の一つで、実務上も多用されています。
評価対象会社の評価指標×類似会社のマルチプルにより株主価値又は企業価値を計算します。
株主価値が計算される評価指標としては、PER(株価/1株当り当期利益)、PBR(株価/1株当り純資産)、企業価値が計算される評価指標としては、EBIT(Earnings Before Interest and Tax: 支払利息、税金差引前利益)、EBITDA(Earnings Before Interest, Tax, Depreciation and Amortization : 支払利息、税金、減価償却費差引前利益)がよく利用されます。
マルチプルで使用される評価指標は、予想数値によるのが一般的ですがソフトバンクは業績予想を公表していません。したがって当然のことなら予想者によって相当のばらつきが生じます。
「例えば、携帯電話の事業価値について、日興シティグループ証券の山科拓氏は予想EBITDAを3504億円(2009年3月期ベース)、倍率を5倍として計算する。UBS証券の乾牧夫氏は3488億円(2010年3月期ベース)、6倍で算出。モルガンスタンレー証券の田中宏典氏は3510億円(2013年3月期ベース)。4.5倍で算定している。」
保有株の価値は27日終値ベースで計算されています。これをアフタータックスで計算すべきであるという考え方もあります。
例えば、ヤフー株の投資簿価は62億円なので含み益が1兆240億円あります。ヤフー株の価値を実現するにはこれを売却するしかないのだとすると、売却益に対する課税分(約4000億円)だけ価値を減じてやる必要があると考えるのです。
記事の評価は概ね現状の株価と一致しているので、少なくとも市場は保有株の価値をアフタータックスで見ていないということができます。
【リンク】
「ソフトバンクグループの国内外持株会社が直接保有する投資有価証券」
2008年06月27日 17:00(日本時間)現在
http://www.softbank.co.jp/irdata/share_data/index.html
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