株式市場で自社株買いを発表した銘柄の値動きが堅調だ。通期業績の予想を下方修正したにもかかわらず、自社株買い発表をきっかけに資金が向かい大幅高となった例も相次いでいる。目立った材料がないなかで、自社株買いが投資家の買い安心感につながり、株価を下支えしているとの指摘もある。
(日本経済新聞2013年11月7日19ページ)
【CFOならこう読む】
10月以降に自社株買いを発表した主な銘柄は次のとおりです。
銘柄名 |
発表日 |
発表後騰落率 |
フジクラ |
10月28日 |
14.21% |
●ケーズHD |
10月21日 |
13.83 |
イズミ |
10月3日 |
12.89 |
●CTC |
10月16日 |
9.66 |
●キヤノンMJ |
11月1日 |
9.65 |
●ヤマダ電 |
10月15日 |
6.87 |
宝HLD |
11月1日 |
6.78 |
富士通ゼ |
10月24日 |
6.73 |
● アステラス |
11月1日 |
4.25 |
積水化 |
10月30日 |
2.90 |
●ユニーGHD |
10月3日 |
2.49 |
ヤフー |
10月25日 |
▲ 5.59 |
●ワコム |
10月18日 |
▲ 21.15 |
(出所:前掲紙、●は通期や4~9月期の純利益もしくは経常利益予想を下方修正)
「りそな銀行の下出衛氏は「株主還元策への積極姿勢が評価されている」と指摘。自社株買いの実施は財務面での余力があるとの思惑にもつながり、投資家に買い安心感が広がりやすいという。」(前掲紙)
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なし
昨日の記事についてgonchan様より次のようなご質問を頂戴しました。
「半分質問になりますが、上場企業が投資の割引率を用いる場合は、やっぱりWACCじゃないといけないように思いましたが。投資家の目線で投資採算をはじいてほしい。」
この点、昨日と同様ブリーリー/マイヤーズの”コーポレートファイナンス”から引用する形でお答えします。
「会社の資本コストは、その会社の発行しているすべての証券から成るポートフォリオの期待収益率と定義される。これは、会社の資産に対する投資についての資本の機会費用であるので、その会社の平均的なリスクのプロジェクトについての割引率として適切なものである。
(中略)
しかし、新しいプロジェクトが会社の既存の事業に比べ、よりリスクが高いか、あるいは低い場合には、会社の資本コストは正しい割引率ではないことになる。プロジェクトは、原則としてそれぞれの(リスクに応じた)資本の機会費用によって評価されるべきである」(第8版 254頁-255頁)
したがって、スカイツリーのプロジェクトが東武鉄道の既存事業と比較してリスクが異なるなら、このプロジェクトのシステマティックリスクを反映した資本コストによりプロジェクトの評価は行なわれるべきということになります。
実際多角化経営を行なっている上場企業の場合、事業部ごとに異なる資本コストを用いてプロジェクトの評価を行っているケースが多いように思います。
但し、3%という割引率がシステマティックリスクを反映した適切な割引率であるかどうかは疑問です。
またそもそも割引投資回収期間法は投資案件をざくっとふるいにかける時に使われる方法で、ここで回収期間25年と計算されても、それがどの程度価値創造に寄与するのかわかりません。
鉄道の回収期間40年と比較してスカイツリーは25年だからこのプロジェクトは投資効率が良いとは単純に言えないと思います
gonchan様、いつも示唆に富むコメントありがとうございます。
東武鉄道が1430億円を投じて建設中の新電波塔「東京スカイツリー」。開業まで1年半余り、知名度は塔の高さに比例して高まってきたが、株式市場での評価は定まっていない。「集客の持続性や、資産の約1割に当たる投資をきちんと回収できるか不透明」(国内証券アナリスト)なためだ。資金回収までどれくらいかかるのか試算してみた。
(日本経済新聞2010年7月23日13面)
【CFOならこう読む】
「投資の回収期間はどうか。企業は投資に際し、その事業が生み出す現金収入を。「割引率」と呼ぶ一定の値で現在価値に割り戻す手法をよく使う。例えば1年後に100万円を生む事業は、割引率を10%とすると現在価値が約90万9000円。投資額と見合うのに、この現在価値を何年分足し合わせたらいいかを回収期間とみなす。
ポイントは割引率をどう設定するかだ。ツリーの現金収入が開業初年度から年間82億円と仮定し、不動産の超優良物件で使われることの多い3%の割引率で試算すると、回収期間は25年。鉄道新線の一般的な回収期間40年を下回る。東武もこの近辺の回収期間を見込んでいるとみられる」(前掲紙)
投資回収期間を、割引キャッシュフローにより計算する方法を割引投資回収期間法と言います。
普通の投資回収期間法の欠点として、
1.回収期間経過後のすべてのキャッシュフローを無視してしまう。
2.回収期間経過以前のキャッシュフローをすべて等しく取り扱っている。
の2つが挙げられますが、割引投資回収期間法によれば2の欠点が解消されます。
しかし1の欠点は依然として残ります。
このことについて、ブリーリー/マイヤーズの”コーポレートファイナンス”は次のように指摘しています。
「投資回収期間は、投資プロジェクトを説明するのに容易な方法である。投資家が高い株価収益率(P/E)の株式について話すのと同様に、担当者は早い投資回収期間について平易に語ることができる。担当者がプロジェクトの投資回収期間について語るということは、それによって判断をしているということではない。しかし、投資判断の際、投資回収期間を本当に使用している担当者もいる。その理由は不明である。おそらく、そうした担当者はずっと将来のキャッシュフロー予測を信じておらず、その不満から投資回収期間より先の予測をすべて放棄すると決めたのだろう」
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なし
環境銘柄の代表格、パナソニック電工株が5月上旬から大幅に値下がりしている。変調の背景には親会社パナソニックの「戦略転換」がある。「2012年度までの中期計画では、パナ電工や三洋電機との資本関係はこのまま」。
下落のきっかけになったのが、7日夜のアナリスト説明会でパナソニックの大坪文雄社長が述べたこの発言だ。
(日本経済新聞2010年5月26日15面)
【CFOならこう読む】
「直後の10日、パナソニックの完全子会社化をにらんで買われていたパナソニック電工株は7%安と急落。26日までの下落率は18%に達し、この間の日経平均株価の下落率(約8%)を大きく上回る」(前掲紙)
プレミアム期待が剥げ落ちたということです。
「背景にあるのが財務の悪化だ。三洋電の買収などで3月末の有利子負債は手元資金を約1200億円上回った。借入超過は14年ぶり。パナ電工の完全子会社化にはプレミアムを含め5000億円規模の資金が必要で、約16%分の金庫株(約4300億円相当)を活用しても余裕は乏しい。「強固な財務を取り戻す」(大坪社長)方が優先順位は高くなる」(前掲紙)
「強固な財務」とは、Net debtゼロを指します。しかし「パナ電工はパナソニックの連結経営に欠かせない存在」であるなら、市場環境を考えても今が完全子会社化の絶好のタイミングだと思います。無借金経営が何より優先するというのは理解できません。
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なし
大手商社が、株安による業績への悪影響を避ける目的で保有上場株の圧縮を加速する。三井物産は9月末の時価で5000億円近い保有株(関連会社分を除く)の削減に動くほか、新規の政策保有も原則廃止する。三菱商事も上場株を管理する仕組みを導入、1兆円超に上る保有株を減らす方針。保有株削減は株式市場にも影響を与えそうだ。
(日本経済新聞2009年11月25日16面)
【CFOならこう読む】
「三菱商事が9月末に保有する上場株は連結対象先が時価で約3700億円、取引先など一般上場株が約1兆1000億円。三井物産は連結対象先が2200億円、一般上場株が約4600億円。今回はこうした営業政策上の理由で抱える一般上場株が圧縮対象だ。」
(前掲紙)
こうした方向性は商社に限られません。商社以外の事業会社においても政策投資の意思決定(新規投資、継続保有、売却)を客観的な数値に基づき行うことが求められるようになると思います。”兄弟の契り”的なウェットで説明不能な株式の政策保有を継続することは不可能になると考えるべきです。特にIFRS強制適用後には含み益に頼った経営は出来なくなるのでなおさらです。
「三菱商事は配当と取引上の利益の合計が資本コストを下回る場合などに売却を促す「上場株管理制度」を導入。今月から各営業部門と協議を始めており、その結果を待ち売却候補を選定する。「今後3年ほどかけて新制度を徹底したい」(上田良一常務)。明確な数値基準を示し、安易な新規取得にも歯止めをかける。」(前掲紙)
定量的な評価だけで判断出来ない部分はあるにしても、三菱商事のような定量的な基準を持つことは今後必須になっていくものとCFOは考える必要があるでしょう。
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なし
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