政府の原子力損害賠償支援機構は、東京電力への資本注入で普通株式に加えて「種類株式」の活用を検討する。種類株はコスト削減などの目標を達成できなかった場合に議決権が発生する仕組みを促す。機構は普通株で過半数、種類株の潜在的な議決権を含めて3分の2以上の取得を目指す。
(日本経済新聞2012年3月15日1面)
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種類株式とは、「剰余金の配当や残余財産の分配、株主総会での議決権などについて、「普通株式」とは異なる権利内容を持った株式をいいます。
「機構は普通株式で過半の議決権を取ることに加え、種類株による出資を検討する。種類株は普段は議決権がないが、コスト削減や収益改善などの目標を達成できなかった場合に議決権が生じたり、普通株に転換したりする仕組みを検討する」(前掲紙)
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なし
国内で唯一上場する伊藤園の優先株が、普通株との価格差を縮小している。2009年には普通株より4割安かったが、足元では約2割と3年3ヶ月ぶりの水準まで差を縮めた。
(日本経済新聞2012年1月21日13面)
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「同社の優先株は議決権がない代わりに配当は普通株の25%増し。今期は普通株の年38円に対し48円で、配当利回りは普通株より1.6%高い」(前掲紙)
伊藤園の優先株の価格が普通株の価格を大きく下回る理由として、以前次のように説明されているのを紹介したことがあります(2008年7月19日「無議決権株の価格」)。
①無議決権優先株が東証株価指数に採用されていないため流動性が低い
②普通株にあって優先株にない議決権の価値が大きいから、価格差が拡大している
さらにイタリアや韓国の会社が伊藤園と同様に優先株の価格が普通株の価格を大きく下回る理由として次のような分析がされていることを紹介しました。
「国の法制度や市場のルールが未整備で、企業経営に対する規律付けが弱いと、株主は自ら議決権を握り、株主の利害に背かないよう経営を監視する必要性が増す。その場合、議決権の価値は増大し、結果として無議決権株と普通株の価格差が広がる。」
((日本経済新聞 2008年7月19日 14面 無議決権株を追う㊦))
だとすると、伊藤園の優先株の価格の上昇は、オリンパスや大王製紙の事件を受けて日本企業のガバナンスが今後改善するという期待を反映したものなのかもしれません。
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なし
コスモイニシアは23日、金融機関などが保有する優先株を10株に1株に併合する議案を6月29日の定時株主総会で提案すると発表した。
(日本経済新聞2011年5月24日15面)
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株式併合の理由は次の通りです。
「平成21 年11 月6日、当社普通株式10 株を1株に併合したことにより、当社が発行している議決権制限株式(第1種優先株式及び劣後株式)の数が発行済株式の総数の二分の一を超えた状態となっております。
このため、会社法第115 条に基づき、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の二分の一以下にするために必要な措置として、第1種優先株式の併合を行うものとし、第1種優先株式について株式併合を禁止する定めを削除するものであります。(変更案1 第11 条の2 第11 項)」
(2011年5月23日「定款一部変更、第1種優先株式の併合及び 第1種優先株式の配当予想の修正に関するお知らせ」株式会社コスモスイニシア [PDF])
株式併合に伴い、配当総額の変更はありません。普通株式を対価とする請求権の実質的な内容にも変更はありません。
また、株式併合に伴い1株に満たない端数も生じない予定であるとのことです。
【リンク】
2011年5月23日「定款一部変更、第1種優先株式の併合及び 第1種優先株式の配当予想の修正に関するお知らせ」株式会社コスモスイニシア [PDF]
普通株より割安に評価 日本市場の未熟さ反映?
「日本の株式市場のために、議決権のない優先株は必要だ。我々が実験台になる」。伊藤園の本庄八郎社長は他社に先駆け、昨年9月に同株を上場させた意義をこう強調する。「議決権の拡散を恐れ、資金調達に踏み切れない企業にとって成長の一助になる」と同社長。だが高い理想と裏腹に、伊藤園の無議決権優先株の株価は上場来、低空飛行が続いている。
配当が普通株に連動し25%上乗せされるにもかかわらず、株価は上場来ずっと、普通株より3-4割程度安いまま。伊藤園に続く企業が出ないのは「今、上場させても市場で割安に評価される」(大手食品企業)との警戒感もある。
(日本経済新聞 2008年7月19日 14面 無議決権株を追う㊦)
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このコラム、日経にしては珍しく(?)面白い記事です。
なぜ伊藤園の種類株の株価は普通株より3割以上も安いのか。記事ではその理由を2つ挙げています。
①無議決権優先株が東証株価指数に採用されていないため流動性が低い
②普通株にあって優先株にない議決権の価値が大きいから、価格差が拡大している
さらに記事は、イタリア、韓国の事例を引いて、
「国の法制度や市場のルールが未整備で、企業経営に対する規律付けが弱いと、株主は自ら議決権を握り、株主の利害に背かないよう経営を監視する必要性が増す。その場合、議決権の価値は増大し、結果として無議決権株と普通株の価格差が広がる。」
という仮説を立てています。

確かに、安定株主作りに勤しむ日本の上場企業を見ると、議決権の価値は思っている以上に大きいのかもしれませんね。
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なし
ソフトバンクが無議決権優先株、資金調達多様化へ動く
ソフトバンクは8日、議決権がない代わりに普通株より配当の多い種類株(無議決権優先株)の発行・上場に向け、定款変更などの準備に入ると正式発表した。地図大手のゼンリンも同様の定款変更を表明した。東証は種類株の上場に関する制度を7月に正式導入する。資金調達の多様化を目指した種類株の発行は年内に最大で10社程度に上りそうだ。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080509AT2C0801M08052008.html
【CFOならこう読む】
ソフトバンクの種類株は既存の普通株主に無償で割り当てられます。これは昨年9月
に上場した伊藤園と同じ手法です。
ソフトバンクと伊藤園の種類株の主な特徴は次の通りです。

ソフトバンクは種類株式の発行の理由を次のように説明しています。
「本優先株式は、投資家の嗜好が多様化するなか、配当を選好する投資家に対しては本優先株式を、また、より議決権を重視される投資家には普通株をという形で、その嗜好に応じた投資機会の選択肢を提供するものであり、新たな投資家層を開拓し、我が国の証券市場のさらなる発展に貢献できるものと考えています。従いまして、現実に発行する場合には、まずは既存株主に対し、無償割当という形で実行し、既存株主にその選択の機会を提供すべきものと考えております。
なお、将来的には本優先株式は、当社の企業価値の基礎となる経営理念・大きな志に基づいた中長期的な経営判断を可能とする株主基盤を維持しながら、当社における柔軟な資金調達や株式による買収等の選択肢を増やすものものでもあり、当社の企業価値の更なる向上に寄与するものと確信しています。」
また孫正義社長は、「M&Aなど攻めの経営の道具としても使える」と種類株発行の意義を強調しています。
無議決権優先株の市場株価が普通株の株価を上回る場合には道具として使え得ると思いますが、伊藤園の種類株のように普通株の株価を3~4割下回るようだとあまり種類株発行の意義は認められません。
http://cfonews.exblog.jp/7785958/
ソフトバンクの配当水準は普通株の2倍~5倍と伊藤園の1.3倍を大きく上回るので、これが種類株の株価形成にどう寄与するか注目されます。
【リンク】
2008年5月8日「定款の一部変更に関するお知らせ」ソフトバンク
http://www.softbank.co.jp/news/release/2008/080508_0001.html
http://www.softbank.co.jp/news/release/2008/pdf/080508_0001.pdf
「優先株式の無償割当て及び優先株式の内容」伊藤園
http://www.itoen.co.jp/ir/class1/outline/index.html
伊藤園が普通株と別に東京証券取引所に上場している「無議決権優先株」の株価が上場半年を過ぎても軟調に推移している。国内初の試みとして注目を集めたが、株価は普通株より3~4割安い水準のまま。議決権が無いことで割安に放置されているのか、投資家が優先株に及び腰なのか。背景を探ってみた。
(日経ヴェリタス 2008年4月20日 16面)
【CFOならこう読む】
記事では普通株と優先株の流動性の価値が同じであると仮定して、同じPER(18日終値ベース)で試算した議決権の価値を799円(普通株の株価の43%)と計算しています。

この計算は、当ブログで9月4日に説明したのと同様のものであると思われます。
http://cfonews.exblog.jp/6398916/
ただしこの計算だけをもって議決権の価値を推定することはできません。伊藤園の優先株の流動性は低水準であり、流動性ディスカウントを考慮する必要があるからです。
非流動性ディスカウントに関して、米国では制限付き株式(公開企業が発行するSECには登録されない株式)を検証することにより次のような研究結果が得られています。
1.マーハーは1969年から1973年の間に4つのミューチュアルファンドが購入した制限付き株式を調査した結果、同じ企業の公開株に対する平均割引率は35.43%であると結論づけている。
2.1970年以降のデータを使ったもろにーの調査によれば、10社の投資会社が購入した146銘柄の制限付き株式の平均割引率は35%である。
3.ジルバーは1984年から1989年にかけて発行された制限付き株式を調査し、割引率のメジアンが33.75%であることを見出した。
(資産価値測定総論3 アスワス・ダモダラン著 山下恵美子訳 Pan Rolling)
ということは上で計算された価値の大半は流動性の価値なのかもしれません。いずれにしてももう少し事例を重ねる必要がありそうです。
【リンク】
資産価値測定総論3―非公開企業から不動産、金融派生商品まで (ウィザードブックシリーズ 133)
アスワス・ダモダラン 山下恵美子


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