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‘買収防衛策’ カテゴリーのアーカイブ

6月の株主総会期限に買収防衛策相次ぎ廃止

上場企業の間で敵対的買収に対する防衛策を廃止する動きが相次いでいる。10日はモスフードと東洋シャッターが廃止を発表した。リーマン・ショック後の海外投資ファンドの退潮や、買収防衛策の存在が市場で否定的に受け取られかねないとの企業の懸念が背景にあるようだ。
(日本経済新聞2010年5月11日13面)

【CFOならこう読む】

「防衛策廃止の背景にはTOB(株式公開買い付け)ルールの改正もある。金融商品取引法の改正で、買収企業は買収目的などに関する被買収企業からの質問に回答する義務が生じ、企業は自前で防衛策を設ける必要性が薄れた」(前掲紙)

事前警告型の買収防衛策は、公開買付者に対し株主がTOBに応募するか否かを判断するための十分な情報提供を行なわせることを主たる目的として会社が自主的に導入しているものです。

法改正により、公開買付者による情報提供内容の充実や公開買付対象者に質問権の付与等(質問がある場合には「意見表明報告書」に記載されます。これを受けて公開買付者は質問に対する回答を「対質問回答報告書」に記載して5日以内に提出する義務があります)がなされ、情報提供の強化が図られたため、事前警告型の買収防衛策を維持する意義がうすれている、とい今日の記事は報じているのです。

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学研に株式買取請求

学習研究社 <9470> は13時30分に、事実上の筆頭株主である投資ファンドのエフィッシモキャピタルマネージメントから株式の買い取り請求を受けたと発表した。買い取り価格や支払時期については今後協議するため、未定としている。
Yahoo!ファイナンス 2009年9月30日

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学研は本日(10月1日)を効力発生日として株式会社学研ホールディングスに社名を変更、株式会社学研エデュケーショナルなど14社に分社化し持株会社制に移行しました。

本件については、6月25日の定時株主総会で承認決議されていますが、エフィッシモキャピタルマネジメントは総会に先立ち本件議案に反対し、株式買取請求権の行使を行ったということです。

会社法では、株式買取請求をする株主は、当該行為の効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の種類・数を明らかにしなければならないとされています(会社法116条5項)。

会社法制定前は、株式買取請求ができる期間は、総会決議の日から20日以内とされていましたが、会社法では、株式買取請求の撤回に制限が設けられたことから、請求者に従来より慎重な判断が要求されるので、行使期間を効力発生日に近づけ、会社の状況の把握を可能にする趣旨で改正がなされています(商事法務1753号 「組織再編行為」相澤哲/細川充)。

したがって効力発生日前日である9月30日における株式買取請求権の行使は適法です。

ところで、エフィッシモキャピタルマネジメントとは、「村上ファンド」の元社員が立ち上げたファンドとして有名ですね。同ファンドは、昨年、学研の遠藤社長の解任要求を突きつけたりもしたわけですが、ここでお開きということなのでしょう。

学研は買収防衛策発動ができるのは20%以上の株主としており、株式の買い増しもできず、ファンドの声は会社に届かず、で打つ手がないという判断なのでしょうか?

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2009年6月25日「第 63 回定時株主総会決議ご通知」株式会社学習研究社[PDF]

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東証の罰則制度改正へ

東京証券取引所は8月をめどに、東証の規則に違反した上場企業への罰則の種類を増やす方針だ。同じ違反行為に対して複数の罰則を用意し、悪質さに応じて使い分けるようにする。上場企業に法令順守や情報開示への姿勢を強化するよう促し、投資しやすい環境整備に役立てる。
NIKKEI NET 2009年7月23日

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今回の改正で、

1.大幅な株式分割で市場が混乱した場合
2.MSCBの発行で株主の権利を損なった場合
3.第三者割当増資で株主の権利を損なった場合
4.大規模な株式併合で株主の利益を侵害した場合

企業名の公表、違約金の徴収、改善報告書の提出、特設注意市場銘柄に指定、のいずれも可能になります。

「発行済株式数の25%以上3倍未満の第三者割当増資では、外部の有識者に客観的な意見を求めることなどを義務づけた。違反すると従来は公表措置どまりだったが、今後は違約金の支払いなど複数の罰則を受ける可能性がある。3倍以上の第三者割当増資をした企業は、上場廃止の審査対象とすると新たに規定した」(前掲紙)

何故20%ではなく、25%なのかについて納得できる説明して頂きたい。
もともと25%という水準には、株式相互保有の規制の必要性から、これ以上の株式を有する場合、保有された会社が有する保有した会社の議決権を行使できないという会社法の規定があり(会社法308条1項括弧書き、325条)、一定の抑止力が働いています。

北越・王子のケースで、北越の三菱商事に対する第三者割当増資は24%(25%ではなく)でした。

こういう買収防衛策を市場ルールで規制しようというのが、もともとの議論の発端であったと記憶していますが、東証はこの点どのように考えているのでしょうか?

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・買収防衛策廃止ーローム、Uアローズのケース

2009 年 6 月 17 日 コメント 1 件

今年の株主総会では買収防衛策の新規導入案が急減する。M&A助言会社のレコフによると、2008年6月~2009年5月末に導入を発表した企業数は20社強と、前の1年間に比べ約9分の1に減った。5月末時点の導入企業は約570社。前年同月とほぼ同水準だった。有力企業による導入が一巡したほか、金融危機を受けて投資ファンドなどの投資余力が弱まり、企業の警戒感が薄れてきたことが背景だ。買収防衛策を廃止する動きも徐々に広がっており、直近1年間で防衛策の継続を止めた企業は19社に上った。廃止を決めたロームは「導入当時と比べ制度整備が進んだうえ、経済情勢が変わって濫用的買収のリスクが減った」(広報IR)という。
(日本経済新聞2009年6月17日9面)

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5月11日にロームがリリースした、「当社株式の大量買付けに関する適正ルール(買収防衛策)」の廃止に関するお知らせで、廃止の理由が次のように説明されています。

「一方、適正ルールを導入後、改正された金融商品取引法により、1 経営関与に向けた重大提案行為等を目的とした株式取得には特例報告制度の適用が認められず「大量保有報告書」提出(5営業日以内)が義務付けられ、2 公開買付けが開始された場合には発行会社による「買付期間延長請求」、「質問権行使」が可能になる等、当社株主によるインフォームド・ジャッジメントに必要な情報と時間の確保に向け、一定程度、制度上の進展がみられることとなりました。」

ここに書かれている金商法の規定を以下解説します。

上場株券等の保有者でその保有割合が5%を超える者を大量保有者といい、大量保有者となった日から5営業日以内に大量保有報告書を提出しなければなりません。しかし、機関投資家は日常の営業活動を通じて反復継続的に株券等の売買を行っているので、そのつど大領保有報告書を提出することになると、事務負担が過大になります。

そこで機関投資家については、それぞれ基準日(月2回)を届け出ておいて、その日の保有株券等の数を報告すればよいということになっています。企業側にとっては、この制度は買収者が現れてもタイムリーにその把握が出来ず、十分な対応が出来ないということにもなりかねないため、金商法は、「発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為として政令で定めるもの(重要提案行為等)を行うことを保有の目的」とする場合には、特例報告制度の利用を許さなないとしています(金商法27条の26第1項)。

公開買付期間は、公開買付の公告を行った日から起算して20営業日以上で60営業日以内でなければならないのですが、買付者が設定した買付期間を20営業日台に設定した場合には、対象者は、買付期間を30営業日まで延長することを請求できます(金商法27条の10第2項2号)。対象者に対抗提案をしたり、株主に十分な情報提供を行う時間的余裕を与えるためです。

また、公開買付の対象者による意見表明報告書に公開買付者に対する質問を記載することができます。この場合、買付者は、意見表明報告書の送付を受けた日から5営業日以内に「対質問回答報告書」を提出しなければなりません(金商法27条の10第11項・13項、27条の14)ロームが言っているのは、買収防衛策を使わなくても、「株主が、十分な情報に基づき相当な検討期間をかけて適正な判断ができること(インフォームド・ジャッジメント)」が可能となるような法整備がなされたということなのです。

「エービーシー・マートによる株取得が注目を集めているユナイテッドアローズは、4月に取締役会決議で防衛策を導入したが、総会では改めてその是非を株主に判断してもらう」(前掲紙)

ABCマートは濫用的買収者(強圧的買収者又はグリーンメーラー)であるはずがなく、買収防衛策の発動は出来ません。また、ロームが言うようにインフォームド・ジャッジメントが法的に確保されいるなら、Uアローズの買収防衛策導入に全く意味がないということになります。

6月4日に書いたように、私自身はABCマートがUアローズを買収しても価値創造につながらないと思っていますが、それと買収防衛策の導入の是非は全く別の議論です。

この点株主がどのように判断するか注目されます。

【リンク】

2009年5月11日「当社株式の大量付けに関する適正ルール(買収防衛)の廃止に関するお知らせ」ローム株式会社

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許せぬ減配

2009 年 6 月 9 日 コメント 3 件

今年も株主総会の季節がやってきた。2009年3月期は東証1部上場企業の3社に1社が減配あるいは無配となり、10年3月期は約4割が減配・無配の方向だという。「許せる減配・許せない減配がある」。ある外資系運用会社の幹部が話していた。
許せない減配とは何か。この幹部によると、株主が積極的に要求しているわけでもないのに、買収防衛策を導入し、株式の持ち合いを進めながら、保有株の大幅な値下がりで減損処理が必要になって減益幅が拡大し、配当を削減するような企業だという。
どこにこんな例があるのかと主な企業の決算短信を調べてみると、日本の代表的企業も含めてかなり多い。「空前の危機だから仕方がない」と理解を求めるのだろうか。日ごろは「100年に1度の危機など大げさだ」とマスコミの論調を批判する経営者も、不満一杯の株主の前ではこの表現を使うらしい。
(日本経済新聞2009年6月日13面 一目均衡)

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そんな会社がどこであるか言わない貴方も腰が引けている、と僕は言いたい。

そんな会社は例えば新日鉄でしょう。
経常利益3,361億円に対し、投資有価証券評価損が684億円。

当期末の1株当たり配当金は1円、前期実績6円に対し5円の減配となりました。

その理由を会社は次の通り説明しています。

「当期末の1株当たり配当金につきましては、平成21年3月期第3四半期決算公表時点においては、景気減速に伴う生産・出荷の変動や株式市場の低迷による投資有価証券評価損等の変動リスクが大きく、経営環境の先行きが不透明であることから、未定とさせて頂いておりましたが、年度決算が確定したことから、一株につき1円(年間配当金としては、前期に比し5円減配の一株につき6円:連結配当性向24.4%、単独配当性向34.7%)とし、株主総会に提案させて頂くことと致しました。
なお、当期末の剰余金配当につきましては、下半期の連結純損益が赤字となりましたが、急激なマクロ経済環境悪化の影響を大きく受けたこと及び当社の内部留保の状況を踏まえ、株主への利益還元の観点から、当期に関しましては配当を実施することと致しました。 」

「それにしても、一般の個人株主は「企業は従業員や顧客、取引先、地域社会など多様なステークホルダーのものだから」と言って、経営者が打ち出す減配要求を黙って受け入れるしかないのだろうか。」(前掲紙)

一般投資家ができること、それはそんな会社の株は売り払ってしまうことです。
そしてそんな会社の株は二度と買わないことです。

【リンク】

2009年4月28日「剰余金の配当に関するお知らせ」新日本製鐵株式會社[PDF]

第三者割当増資 総会決議義務化へ

第三者増資、総会決議を義務化 法務省、会社法改正で検討

法務省は、買収防衛などに活用される第三者割当増資により利益が縮小しかねない既存の少数株主の保護に向け、会社法改正の検討に入った。現行法では事実上、取締役会の判断で新株を発行できるが、株主総会の決議を義務付ける方向。来年秋にも法制審議会(法相の諮問機関)で始める会社法の次期改正論議で論点の1つとし、2011年の通常国会への改正案提出をめざす。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT3S0600R%2006122008&g=MH&d=20081207

【CFOならこう読む】

「取締役会の決定だけでできる現行の第三者割当増資は「経営者が株主を選べる」という特殊な制度だ。濫用されるケースが目立っており、何らかの弊害防止策が必要になる。
現在の会社法でも、一応の濫用への対応策はある。著しく低い価格なら「有利発行」として例外的に株主総会決議を求め、主に保身目的の増資であれば「不公正発行」として、ライブドア・ニッポン放送事件などのように裁判所で差し止められる。ただ、司法判断を得るには莫大な費用がかかり、少数株主は泣き寝入りすることが多い。また裁判官が経済実態に通じていなければ市場関係者が納得する判断は難し
い。」
(日本経済新聞2008年12月7日3面)

第三者割当増資に何らかの規制が必要なことは、このブログでも何度もお話ししています。ですが、株主総会決議で決めれば良いというのは、本質的な解決策にならず、結局株式持合を促進させるだけのことになると、私は思います。

主要国の第三者割当増資への規制は次のようになっています。

第三者割当増資への各国の規制例

米国
ニューヨーク証券取引所が、議決権の20%超に相当する新株発行について、株主総会決議を義務付け

英国
会社法により、原則として第三者に新株を割り当てる場合には既存株主にほ引受権を割り当て

ドイツ
株主総会が事前に認めていれば、監査役会の承認のもと議決権の10%以下の新株発行は可能」

経営者が株主を選べない、という意味では英国の規制が優れています。ただし、これを未上場会社にまで適用させるべきではありません。したがって、以前からお話しているとおり、上場会社法を我々は必要としているのだと改めて感じます。

 

【リンク】

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敵対的買収へ? ノーリツ・スティールのケース

日米欧、時価会計一部凍結へ 金融危機封じへ非常手段

日米欧が一斉に、金融機関や企業が保有する債券や証券化商品などの金融商品を時価で評価する時価会計の適用を一部凍結する方向で動き出した。日本は民間の企業会計基準委員会(ASBJ)が16日、時価評価の対象外になる範囲を拡大するなど会計基準を見直す検討を始めた。市場の混乱を受けて時価会計凍結を検討する米国や、見直し策を打ち出した欧州に追随する。世界的な金融危機を封じ込めるため緊急措置に踏み切る。

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20081017AT2C1601T16102008.html

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新聞報道にある通り、ノーリツは、スティールの買収行為を、「大規模買付行為に関する対応方針」(以下大規模買付ルールという)の適用除外としないことを決めました。
したがって、今後はノーリツが事前導入にしている大規模買付ルールに従って事が進められることになります。具体的には次の通りです。

1.大規模買付ルール遵守表明書の提出
2.大規模買付ルール遵守表明書提出後10日以内に、大規模買付情報の提供とその開示
3.取締役会評価期間及び株主熟慮期間の設定等取締役評価期間ー情報提供後90日間(全部買付でない場合)株主熟慮期間ー取締役会評価期間満了後30 日間

特別委員会への諮問については次のように定められています。

「当該大規模買付行為が当社の企業価値及び株主共同の利益の確保・向上に反すると認められるか否かの検討及び判断にあたって、当社取締役会は、大規模買付者の提供する買付後の経営方針等を含む情報に基づいて当該大規模買付者及び大規模買付行為の具体的内容(目的、方法、対象、取得対価の種類・金額等)や当該大規模買付行為が当社株主共同の利益に与える影響を検討いたしますが、その客観性及び合理性を担保するため、当社取締役会が適切と判断する時点において、特別委員会に対して当該大規模買付行為が当社の企業価値及び株主共同の利益の確保・向上に反すると認められるかどうかにつき諮問し、その勧告に従うとともに、社外監査役全員の同意を得ることといたします。但し、当該特別委員会の勧告に従うことが、当社取締役の善管注意義務に違反することとなる場合にはこの限りではありません。
なお、当該特別委員会の勧告が、当該大規模買付行為は当社の企業価値及び株主共同の利益の確保・向上に反するとは認められないとする内容であって、当社取締役会が、これと異なる判断を行おうとする場合は、下記(3)の要領により株主意思の確認手続きをとることができるものとします。」

要するに特別委員会が、大規模買付行為が当社の企業価値及び株主共同の利益の確保・向上に反すると判断し、取締役会も同じ判断である場合には買収防衛策の発動が出来る設計になっています。

この点スティールはノーリツの大規模買収ルールについて、次のように批判しています。

「我々は、貴社取締役会が2007年に導入されている、貴社株式の大規模買付行為に関する対応方針(以下、「買収防衛策」といいます。)の内容を存じております。当ファンドは、過去の経験より、このような事前警告型の買収防衛策は、主に交渉の機会の限定と経営陣の保身を目的としているため、欠点が多いと考えております。また、貴社の買収防衛策に基づく手続きは一応「独立した」特別委員会の監督を受けることとなっておりますが、当委員会の委員は内部出身者からなる取締役会により選任され、当買収防衛策においては貴社取締役会が最高の意思決定機関とされております。このように、明らかに独立性を欠き、利益が相反していることに鑑み、当ファンドは貴社に対し、一切対抗措置を発動せず、当ファンドの買付提案に応じるか否かを個々の株主の一存に任せられるよう、要請いたします。」

今後の展開は予断を許しませんが、スティールは買収を止めないとすると、買収防衛策の発動、それに対する差し止めの仮処分の申し立て、最終的には最高裁の判断に委ねる、という風に進んでいくのではないか、と私は思っています。

【リンク】

2008年7月14日「スティール・パートナーズ・ジャパン、 ノーリツに主力事業への集中と不採算事業の閉鎖を要請」スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)、エル・ピー [PDF]

2008年9月11日「スティール・パートナーズ・ジャパン、ノーリツに買収提案」スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)、エル・ピー [PDF]

平成20 年10 月17 日「SPJSF からの書簡における当社大規模買付ルール適用除外同意の要請に対する回答について」株式会社ノーリツ [PDF]

2008年10月17日「『当社の見解』に関する補足資料」株式会社ノーリツ [PDF]

平成20年10月17日「SPJSF に対する回答書簡について」株式会社ノーリツ [PDF]

平成19年2月13日「当社株式の大規模買付行為に関する対応方針(買収防衛策)について」株式会社ノーリツ [PDF]

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ワークスアプリケーション、買収防衛策取り下げ

ワークスアプリケーションズ、買収防衛策を取り下げ

業務用ソフト開発のワークスアプリケーションズは22日、24日開催の定時株主総会の議案から買収防衛策(大規模買い付けルール)にかかわる事項を取り下げると発表した。半数以上の議決権が株主総会前に書面で行使された結果、反対が多数で、否決の可能性が高いと判断した。現在の防衛策は10月31日で失効する。
http://www.nikkei.co.jp/news/tento/20080924AT2D2201G22092008.html

【CFOならこう読む】

ワークスアプリケーションが導入を予定していた大規模買付ルールは、議決権割合が20%以上となる大規模買付の場合次の手順に従うことを要請するものです。

①大規模買付行為に関する意向表明書の提出
②大規模買付行為に関する情報の提出
③特別委員会の設置、対応
④取締役会としての意見の通知

買収者が上記ルールに従わない場合、必要に応じて対抗措置を講ずるとしていますが、その具体的な対抗措置については新株予約権の無償割当に限定されません。

ワークスアプリケーションが導入を予定していた大規模買付ルールは、特別おかしなものではありません。これが会社が説明するように、企業価値・株主共同の利益に対する明白な侵害をもたらすもの、いわゆる2段階買収のように株主に対象会社株券等の売却等の売却を事実上強要するおそれがあるもの、対象会社の株主や取締役会が大規模買収者の提案条件等について検討し、取締役会が代替案を提供するために必要な情報や時間を十分に提供しないもの、を排除するためだけに在るのなら問題はないと言えます。

しかしこのルールが経営者保身の道具となり得ることを、多くの株主は敏感に感じとり、反対票を投じたのでしょう。こういうニュースは、経営者をまたぞろ株式持合いに走らせるのでしょうね。

今必要なのは、岩井克人氏が「M&A 国富論」(プレジデント社)で強調しているように、買収防衛に関するルールを法制化することだと思います。

【リンク】

平成20年9月22日「定時株主総会における一部議案の上程取下げおよび『定款の一部変更に関するお知らせ』の一部変更に関するお知らせ」株式会社ワークスアプリケーションズ [PDF]


平成20年7月30日「当社株件等の大規模買付行為に対する対応方針(買収防衛策)に関するお知らせ」株式会社ワークスアプリケーションズ [PDF]

M&A国富論―「良い会社買収」とはどういうことか
岩井 克人

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企業価値研究報告書の位置付け

司法判断に抵触する内容 「ガイドライン」不適切 個別事例の蓄積重視せよ

今年6月30日、企業価値研究会(経済産業省産業政策局長の私的研究会)は、「近年の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」と題する報告書(第三次報告書)を公表した。これは2005年5月の第一次報告書及び 2006年3月の第二次報告書に続く、同研究会がまとめた買収防衛策のあり方に関する三番目の報告書である。
(日本経済新聞 2008年7月29日 27面 経済教室 「買収防衛策ー企業価値研究会をめぐって㊤」 太田洋弁護士)

【CFOならこう読む】

6月13日の記事(http://cfonews.exblog.jp/8120482/)で、私は企業価値研究会及び第3次報告書に対する違和感を次のように表現しました。

「ただあえてこのようなものを出さなければいけないというのはどういうことなのか、こんなものがなければ、司法も弁護士もまっとうな判断ができないのか、そうだとするととても情けない話だと私は思います。」

太田弁護士は、企業価値研究報告書の姿勢を「司法の独立性に対する行政の介入」として次のように批判しています。

「最高裁の判断に受け入れ難い部分があるなら、「ガイドライン」に類する形ではなく、立法提言の形や、それに対する(論評としての)「批判」の形で報告書を公表すべきである。建前上は「私的」研究会であるとはいえ、経産省という行政機関の公的権威をバックに、最高裁の判断内容の一部を事実上否定するような内容を、法令との関係や位置付けも不明確な形式で一般的に通用させようとするのは、三権分立の原則からも「ルール違反」といわざるを得ない。これでは企業や株主、投資家の間に無用の混乱を招いてしまう。
あえて批判をおそれずにいえば、わが国は、法的根拠の乏しい、官僚主導のルール形成や裁量行政が幅を利かせる時代を過去のものとしたはずである。実務も「お上」頼みでむやみに行政に「指針」を求めるのは自己責任の放棄である。」

経産省としては、日本の資本主義の健全の発展のために、買収防衛策のあるべき方向性へ誘導することが、自分たちの使命だと考えているようですが、ブルドックソース事件の際の、経産次官の「東京高裁判断は画期的」(http://cfonews.exblog.jp/6090182/)という発言からもわかるように、経産省の描くビジョンも一枚岩ではありません。導きたい方向性があるなら、現政権の政策としてそれを明確にしたうえで、国民に信を問うのが筋だと私は思います。

【リンク】

平成20年6月30日「企業価値研究会報告書-近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方-」経済産業政策局産業組織課
http://www.meti.go.jp/report/data/g80630aj.html

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企業価値研究会の「買収防衛策のあり方」に関する報告書のポイント その2

買収防衛策の発動、保身目的に警鐘 経産省研究会

経済産業省の企業価値研究会(座長・神田秀樹東大大学院教授)は11日、敵対的買収防衛策のあり方に関する報告書をまとめた。買収者と経営者の対話を促すのが防衛策の本来の役割との見解を強調。要件を厳しくし、経営者が自らの立場を守ろうとするような発動に警鐘を鳴らした。すでに防衛策を導入している企業は修正を迫られる可能性がある。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080611AT3S1102911062008.html

【CFOならこう読む】

「買収防衛策のあり方」に関する報告書がまだ入手できていないので、今日も新聞記事から得られる情報に基づいて書いてみます。

修正前の企業価値報告書は、「企業価値を損ねる敵対的買収を排除し、企業価値を向上する敵対的買収には機能しないような防衛策」のルール作りを目指してまとめられました。そうすると「企業価値」を明確に定義し、かつそれが測定可能なものでなければ、ルールになり得ないはずです。ところが、修正前企業価値報告書は、「企業価値」を、「会社の財産、収益力、安定性、効率性、成長力等株主の利益に資する会社の属性又はその程度をいう。換言すると、会社が生み出す将来の収益の合計のことであり、株主に帰属する株主価値とステークホルダーなどに帰属する価値に分配される。」というように、何とも曖昧に説明をしています。この曖昧な定義が現在の買収防衛策を巡る混乱の元凶であると、私は思っています。

企業価値というのは、コーポレートファイナンスという学問で研究されている領域です。ならば「企業価値」という用語を使うのなら、経済学における定義を無視することはできないはずです。

コーポレートファイナンスにおいて、

「企業価値」とは、「将来キャッシュフローの現在価値の総和」

と定義されます。そして、これは市場で日々評価されるという意味で、

「企業価値」=有利子負債の価値+株式価値

と言い換えることができます。

今日の新聞記事によると、新しい報告書は、「企業価値と株主利益は同義で「キャッシュフロー割引現在価値」を指す」としているようなので、この点では大きな改善が見られたと言って良いように思います。

ところがそれで万事解決というわけにはいきません。
日本では「企業価値」をコーポレートファイナンス的に正しく理解している人が極めて少ないのです。

下に載せているのは、北尾さんと佐山さんの対談の抜粋です。
この2人は皆さんもご承知の通り、M&Aの分野における第1人者ですが、2人の「企業価値」談義が私にはどうにも理解できないのです。

具体的に指摘します。

佐山 経営学者は「株式の価値プラス有利子負債の価値の合計」を示す「エンタープライズバリュー」という言葉をよく「企業価値」と訳しますが、その定義では、資本がすべて借り入れの会社と、すべて自己資本の会社の企業価値が同じになってしまう。

経営学者ではなく、経済学者の間違いじゃないかという点はさておき、法人税下のMM理論では、100%負債の会社の「企業価値」は、100%資本の「企業価値」より節税効果の分だけ大きくなると説明されますし、また倒産コストを考慮することによっても両者の価値は異なります。そしてこれらの要素を織り込んだ上で、資本市場は価格付けを行うので、少なくとも理論的には、デットレシオは株価に影響を与えると言えます。

北尾 ROE(自己資本利益率)を上げ、企業価値を増加したいといって、安易に自社株買いをやる。

コーポレートファイナンスでは、自社株買いはROEを上昇させはするが、「企業価値」には無関連であると説明されます(ただし資本構成の変化の影響は受けます。これをリキャップといいます)。

わずかなキャッシュフローをひねり出すために、R&D(企業の研究・開発部門)を切ろうとしたり、設備投資をやめようとする。1990年代の日本企業はこのような手段ばかりを選択しましたが、このやり方はほんとうに正しいのか。

「企業価値」は「将来キャッシュフローの現在価値」です。今、わずなかキャッシュを捻り出すために、将来キャッシュフローを犠牲にすれば、「企業価値」は毀損します。

以上は教科書的な議論です。でも「教科書」を理解していなければ「企業価値」を理解できないのも事実なのです。

「企業価値」はとても難しい。

だから私は全て割り切って「株主価値」で判断することにしたら良いと思うのです(結論としては佐山さんと同じなのかも知れません)。「株主価値」なら「株価」で測れるので、解釈の余地がありません。

提言:「企業価値研究会」改め「株主価値研究会」としよう!!

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M&Aで強くなる日本経済(1)/北尾吉孝(SBIホールデイングスCEO)、佐山展生(一ツ橋大学院国際企業戦略研究科教授、GCAサヴィアングループ取締役)

北尾 「企業価値」の判断基準というのはとても重要な論点ですね。

佐山 経営学者は「株式の価値プラス有利子負債の価値の合計」を示す「エンタープライズバリュー」という言葉をよく「企業価値」と訳しますが、その定義では、資本がすべて借り入れの会社と、すべて自己資本の会社の企業価値が同じになってしまう。

どう考えてもこれは誤訳だから、「それぞれの立場にとっての企業価値があるけれど、M&Aの世界ではいろいろな立場の人にとっての企業価値のかなりの部分を内包している全株式の価値を『企業価値』とするのが分かりやすいと思う」と提案しましたが、皆さんの賛同を得ることはできませんでした。「企業価値研究会」ですら、「企業価値とは」というコンセンサスを得ることができなかったのです。

面白かったのは1年後に新しく研究会に入った方が、「ここでいう企業価値とは何ですか?」と同じ質問をされた。そうしたらある弁護士が、「『企業価値とは』なんて神学論争はやめましょう」といわれた。「企業価値」が「神学論争」扱いにされてしまっているんです。

北尾 私も2005年に『進化し続ける経営』という本を上梓しましたが、そのなかでアメリカのビジネススクールが教える「エンタープライズバリュー」を「企業価値」とする見方に反対しました。この定義は事業経営者から見て間違いだ、と思ったのです。たとえばROE(自己資本利益率)を上げ、企業価値を増加したいといって、安易に自社株買いをやる。わずかなキャッシュフローをひねり出すために、R&D(企業の研究・開発部門)を切ろうとしたり、設備投資をやめようとする。1990年代の日本企業はこのような手段ばかりを選択しましたが、このやり方はほんとうに正しいのか。『進化し続ける経営』では次のような定義を行ないました。「企業」が提供する財・サービスに対して顧客がもたらしてくれる価値。これを「顧客価値」とする。株式の時価総額と負債の時価総額の和、つまり将来受け取りが予想されるフリー・キャッシュフローの現在価値を「株主にとっての価値」とする。さらには企業の差別化や創造を生み出す源泉である人材を「人材価値」とする。この3つの価値の総和を「企業価値」とすべきではないか、と。

顧客価値を高めるためには、よい商品・サービスを提供しなければならない。そうすれば企業の利益が増えて「株主価値」が上がり、待遇も良くなる。

佐山 優秀な人材も集まりますね。

北尾 そう、人材が揃えばまたよい商品が生まれる。好循環が生まれるのです。
(本記事は「SBIマネーワールド」内における対談企画を元に構成しています。)

【リンク】

「M&Aで強くなる日本経済(1)/北尾吉孝(SBIホールデイングスCEO)、佐山展生(一ツ橋大学院国際企業戦略研究科教授、GCAサヴィアングループ取締役)」
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080521-01-1401.html

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