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IFRSベースのEBITDA-JTのケース

日本たばこ産業(JT)が26日発表した2012年3月期連結決算(国際会計基準)は、純利益が前期比32%増の3208億円だった。
(日本経済新聞2012年4月27日14面)

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「2014年3月期までに連結配当性向を40%(前期は30%)、中長期的には50%に引き上げる。為替変動の影響などを除いたEBITDAでは年平均5%以上の成長を目指す」(前掲紙)

JTは2012年3月期からIFRSの任意適用を開始しました。これに伴い、IFRSベースの「調整後EBITDA」を業績評価指標として採用しています。

「・JTグループの持続的な業績を示すため、「調整後EBITDA」を指標の一つとして採用
・「日本基準による営業利益」 ±各種認識及び測定の差異の調整 ±金融損益以外の非経常的な損益(日本基準における営業外損益や特別損益) =「IFRSによる営業利益」
・「調整後EBITDA」=「IFRSによる営業利益」+減価償却費+無形資産の償却費+ のれんの減損-リストラクチャリングに係る収益+リストラクチャリングに係る費用」
「(参考資料)国際会計基準(IFRS)の2012年3月期からの任意適用について」日本たばこ産業株式会社[PDF] 13頁)

IFRSの営業利益には、日本基準における非経常的な損益も含まれるので、調整後EBITDAにもこういった項目が含まれることになります。
EBITDAマルチプルで企業価値の評価を行う場合には、非経常的な損益項目はEBITDAに含めないことが多く、日本基準の方をベースとする方が適切だと言えなくもありません(JTの「調整後EBITDA」の計算上、非経常的かつ金額的な重要性が通常大きいリストラクチャリング損益のみ調整が行われています)。

JTは、2012年3月期の決算説明資料の中で、「日本基準上のEBITDA」と「IFRS移行後の調整後EBITDA」の調整内容を開示しています。

国内たばこ事業 (億円) 海外たばこ事業 (億円)
日本基準上のEBITDA 2,725 日本基準上のEBITDA 3,126
営業外損益・特別損益からの表示組替 -296 営業外損益・特別損益からの表示組替 -50
認識及び測定の差異 59 IFRS上のEBITDA(営業利益+償却費) 3,076
IFRS上のEBITDA(営業利益+償却費) 2,488 リストラクチャリングに係る収益・費用等の調整 72
リストラクチャリングに係る収益・費用等の調整 134 IFRS移行後の調整後EBITDA 3,148
IFRS移行後の調整後EBITDA 2,623

「(参考資料)国際会計基準(IFRS)の2012年3月期からの任意適用について」日本たばこ産業株式会社[PDF] 14頁)

これを見ても、非経常損益の内容を吟味する必要性を感じます。

【リンク】

「2012年3月期実績及び2013年3月期業績予想」日本たばこ産業株式会社[PDF]

「(参考資料)国際会計基準(IFRS)の2012年3月期からの任意適用について」日本たばこ産業株式会社[PDF]

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仏銀のギリシャ国債の公正価値に関する会計処理についてIASBが問題視

ギリシャ国債の損失拡大懸念も高まる。仏銀など欧州銀が2011年1~6月期決算で計上したギリシャ国債の減損損失の会計処理を、IFRSを作るIASBが問題視しているためだ。現在、欧州銀が採用する金融商品の会計処理では、国債はトレード目的の「売買目的」と「満期保有目的」に分類される。IASBが問題視するのは売買目的の会計処理だ。
(日本経済新聞2011年9月15日9面)

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「1~6月期決算では独コメルツや英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドは売買目的のギリシャ国債を市場価格を参考に、それぞれ51%、50%減損した。一方、パリバやソシエテ、アグリコルなどは21%の減損にとどめた。市場での取引量が極端に落ち込んでいるため、市場価格は正当な価値ではないと判断。ギリシャの第2次金融支援に伴う民間負担で、国際金融協会(IIF)が試算に用いた数字を使った。

IASBは市場機能が低下しても、市場取引がある限り無視してはならないと主張。関係者によるとIASBは「会計基準の解釈の問題ではなく明らかな逸脱」と捉えており、欧州規制当局はIASBの通知を受けて対応を検討している」(前掲紙)

IAS39(IFRS13「公正価値測定」が公表されており、2013年1月1日に発効されます)は、公正価値の測定基準として、「活発な市場」が存在する場合は「公表された相場価格」が最も強力な証拠となる、存在しない場合は、取引事例、類似する金融商品価格、割引キャッシュフロー分析、オプション価格算定モデル等の「評価技法」を用いて算定する、としています。

「活発な市場」がある場合とは、相場価格が容易に入手可能で、それが独立第三者間条件にもとづき実際に、かつ、定期的に行われている取引」 が存在する場合と定義されています。

仏銀は、「活発な市場」が存在しないから「評価技法」すわなち国際金融協会の試算を公正価値としたのですが、IASBは、取引量が落ち込んでいるとしても、「活発な市場」は存在するから、これを無視することは許されないと言っているのです。

いずれにしても、民間企業の会計処理の是非についてIASBが直接モノを言うのは異常であると感じます。

そんな権限がIASBにあるのでしょうか?
あるのだとしたら監査人との関係はどのように整理されるのでしょうか?

何だかとんでもなく空恐ろしいものを私たちは導入しようとしているのかも知れません。

【リンク】

なし

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純投資のヘッジに関するIAS39号の会計処理

住友商事は為替変動による純資産の目減りを抑えるため、外貨投資の際のルールを策定した。出資案件ごとに一定の金額をスワップなどでヘッジすることを義務付けるうえ、通貨ごとの未ヘッジ分に上限を定める。新ルールは2011年にも運用を始める。
(日本経済新聞2010年12月21日15面)

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「円高が進むと海外子会社への出資を円換算した金額も減少する。これは会計上「為替換算調整勘定」と呼ばれ、マイナス分が自己資本から差し引かれる。住友商事の新ルールでは、原則、外貨で投資した資本金のうち一定の金額については、先物やスワップ取引などで固定化し、為替変動の影響を軽減する」(前掲紙)

IAS39号は、適格純投資ヘッジについて規定しています。例えば在外営業活動体に対し、40£の出資を行ったとすると、この出資から生じる為替リスクは、連結財務諸表上、為替換算差額としてその他の包括利益に計上されます。これをヘッジするために60ポンド(直物為替レート100円/£)の借入を行ったとすると借入時に

(借方) 現金 6,000円   (貸方)借入金 6,000円

の仕訳が行われます。

「IAS39号で。在外営業活動体に対する純投資のヘッジは、キャッシュ・フロー・ヘッジと同様に会計処理しなければならないとし、具体的には、
(a) ヘッジ手段に係る利得又は損失のうち、有効なヘッジ(IAS39.88参照)と判定される部分は、その他の包括利益に認識しなければならない。
(b) 非有効部分は、純損益に認識しなければならない。と定められている(IAS39.102)。」

(IFRS及びIASの解説 第28回 IAS21「外国為替レートの変動の影響」、IFRIC16「在外営業活動体に対する純投資のヘッジ」 中井雄一郎 会計・監査ジャーナル2011年1月号)

したがってIAS39.88のヘッジ要件が満たされている場合、期末日の直物為替レートが105円/£の場合、

(借方) 為替差損     100円   (貸方) 借入金  300円
その他の包括利益 200円

という会計処理が行われます。

この会計処理により計上されるその他の包括利益と、純投資から生じる為替換算差額との間で、ヘッジ会計が成立することになります。

【リンク】

なし

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IASBヘッジ会計の公開草案を発表

IFRSを作るIASBは、新たなヘッジ会計の公開草案を発表した。ルールが細かすぎて経済実態を反映できないという批判に対応し、金融資産と非金融資産の区別をなくすなど簡素化した。
(日本経済新聞2010年12月11日15面)

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「現行基準では、例えば航空会社がジェット燃料の価格変動をヘッジした場合、ジェット燃料のデリバティブの代わりに原油デリバティブを使ってもヘッジ会計の対象にならず、航空会社の損益が乱高下する原因になっていた。新基準案では、こうした場合にジェット燃料がヘッジ会計の対象になりやすくなり、航空会社の損益の平準化につながるとみられる」(前掲紙)

9日に公表されたヘッジ会計のExposure DraftのSnapshotによると上記以外に以下の変更があるようです。

・従来ネットポジションはヘッジ対象として指定することが認められていなかったが、これが可能となる
・従来オプションの時間的価値部分はヘッジ手段として指定することができなかったが、これが可能となる
・従来ヘッジの有効性の評価及び測定が厳格に行われることが要求されていたが、これが緩やかになる。また、ヘッジ関係を変更してもヘッジの中止とはされない場合を新たに規定した

【リンク】

「December 2010 Exposure Draft December 2010Exposure DraftSnapshot: Hedge Accounting」IFRS [PDF]

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「2010年度当面する企業経営課題」調査

会計基準の変更への対応を課題に据える上場企業の経営者が約6割に達し、前年の調査から急増したことが日本能率協会の調査で分かった。IFRSの
適用を見据え、対応を検討する経営者が増えていることが浮き彫りになった。

(日本経済新聞2010年10月23日13面)

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「財務の課題を答える設問で「会計基準・制度の変更への対応」をあげた経営者は全回答者の42%(前年比15ポイント増)、上場企業のみでは61%(同25ポイント増)に達した。IFRS適用の経営への影響についての質問には上場企業の58%が「影響がある」と答えた」(前掲紙)

日本能率協会が行っているこの調査、今回で32回目だそうです。2010年度の調査結果はまだ公表されていませんが、昨年までのものはウェブで見ることができます。

財務の課題のうち「会計基準・制度の変更への対応」をあげた経営者は、2008年度が17.9%、2009年度が26.6%、上場企業のみでは2008年度が16.9%、2009年度が35.3%でしたからやはり大きく増加していることが分かります。

ちなみに2009年度調査で上場企業が財務の課題として重視している領域は、

1位 製造コスト、仕入原価、管理費用削減
2位 財務・経理業務の効率化・迅速化・正確性向上
3位 内部統制システムの確立、財務関連のコンプライアンスの遵守

と続き、その後が会計基準・制度の変更への対応でした。

資本構成、資金調達構成の最適化が10.9%、経営トップへの財務戦略提案能力の向上が8.8%あたりは財務部門の重要な仕事ですが、意識としては少し低いように思います。

驚くべきは税務対策、税リスクマネジメントの5.0%という数字。

多くの上場企業にとってタックスマネジメントはコンプライアンスの領域に含まれるということなのでしょうが、言うまでもなく税金は利益に対し40%を占める最大のコストだけに、しっかりとした意識を持ってタックスコスト削減に向けて努力すれば税引後利益の姿は大きく変わる可能性があります。

将来の課題として上場企業の経営者が株主価値向上を上位(8位)に挙げていますが、そうであるならタックスマネジメントは尚更重要です。

【リンク】

「日本企業の経営課題2009」社団法人日本能率協会 [PDF]

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三井住友フィナンシャルグループ、国際会計基準に基づく決算書を初めて公表

三井住友フィナンシャルグループ(FG)は21日、国際会計基準に基づく決算書を初めて公表した。11月1日に予定するニューヨーク証券取引所上場の審査資料で、2010年3月期の連結最終損益は6,467億円の黒字。日本の会計基準で計算した公表数字は2,715億円だったので、利益が2.4倍に膨らんだ。
(日本経済新聞2010年10月22日4面)

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日本基準とIFRSの資本及び当期純利益(日本基準の当期純利益には少数株主利益1,077億円を含めて表示しています)の差異要因の内訳は以下の通りです。

差異のうち当期純利益への影響が大きい、デリバティブ金融商品、投資有価証券、貸出金及び債権、繰延税金資産について、調整項目の内容をプレスリリースから抜粋します。

■デリバティブ金融商品
(ヘッジ会計)
・日本基準においてヘッジ会計が認められるものの、IFRSにおいてはヘッジ会計が認められないヘッジ関係については、日本基準に基づくヘッジ会計を取消ししています。
・IFRSにおいても認められるヘッジ関係については、日本基準におけるヘッジ会計の要件がIFRSのヘッジ会計でも求められる要件と異なるため、これらのヘッジ関係についてのヘッジ会計を中止しています。

(デリバティブ金融商品の公正価値測定)
・日本基準、IFRSともに、店頭デリバティブ取引は、公正価値(時価)で測定することが求められています。
原則として、公正価値の定義に重要な差異はありませんが、買気配値と売気配値の価格差の取扱いや信用リスク評価等において、求められる評価手法に差異があります。

投資有価証券
(公正価値(時価))
・IFRSにおいては、原則として全ての売却可能金融資産(及び純損益を通じて公正価値で測定される金融資産)は、公正価値で測定することが求められており、活発な市場での取引価格がない売却可能金融資産の公正価値は、評価手法を用いて算定しています。
・また、日本基準に基づく金融商品の時価は、IFRSにおける公正価値の要件を満たすために調整しているものがあります。例えば、売却可能金融資産(上場株式)の決算時の公正価値(時価)について、日本基準では、継続して
適用することを条件として、期末前1ヶ月の市場価格により公正価値を算定しています。

(減損)
・IFRSにおける売却可能金融資産の減損については、減損の客観的な証拠の有無に基づき、決定しております。
株式等については、公正価値が取得原価を著しく又は長期に亘って下回っていることが、減損の客観的証拠に含まれます。

貸出金及び債権
(減損)
・個別に重要な減損貸出金の貸倒引当金(減損損失)について、日本基準では、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(以下「DCF法」)を適用し、合理的に見積もられた将来キャッシュ・フローを当初の約定利子率で割り引くことによって貸倒引当金を算定します。IFRSにおいてもDCF法を適用しますが、将来キャッシュ・フローについて最善の見積りを行い、当初の実効金利で割り引くことによって貸倒引当金を算定します。また、DCF法が適用される貸出金の範囲は、IFRSの方が日本基準よりも広くなっています。
・DCF法を用いて貸倒引当金の算定を行った貸出金以外の貸出金に対する貸倒引当金は、IFRSでは、過去の損失実績に基づく統計的手法を用い、貨幣の時間的価値の影響を組み込み、類似した特性を有するグループ毎に一括
計算します。加えて、関連する経済的要因に基づく定性分析を行い、報告期末時点での直近の状況を貸倒引当金の見積りに反映させます。なお、当社グループが減損を認識していない貸出金に対しては、日本基準では将来の
予想損失を貸倒引当金として算定しますが、IFRSでは既発生未認識(発生しているが当社グループが認識していない)損失としての貸倒引当金を算定します。
(貸出金実行手数料及び費用)
・IFRSにおいては、貸出金の実行に付随して発生し、貸出金の組成に直接帰属する手数料及び費用は実効金利の算定に含められ、貸出期間に亘って繰り延べられます。

繰延税金資産
・IFRSにおいては、繰延税金資産は、一時差異が実現するまでの期間を限定せずに、一時差異に対して将来の課税所得を利用できる可能性が高い範囲で認識されます。

【リンク】

「【三井住友フィナンシャルグループ】米国証券取引委員会宛登録届出書(Form 20-F)の提出について(5/6)」三井住友銀行

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(リンク)

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日本電波工業、初のIFRS適用決算発表

2010 年 5 月 14 日 コメント 2 件

日本電波工業は13日、日本企業で初めてIFRSを適用した連結決算を発表した。2010年3月期の包括損益は41億円の黒字(前期は297億円の赤字)だった。
(日本経済新聞夕刊2010年5月12日2面)

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IFRSによる実績、これに対応する形で組み替えた日本基準による実績及びIFRSと日本
基準との差異は下表のとおりです。

IFRSの業績項目による実績の比較(単位:百万円)

当期利益の差異は338百万円、項目別に見ると金融収益が508百万円差異が生じている点が目につきます(逆にいうとその他では大きな差異は生じていません)。

税引前当期利益のIFRSと日本基準との主な差異の理由について次のとおり開示されています。

「IFRSでは新株予約権付社債(複合金融商品)を負債と資本に区分し、負債項目の一部を公正価値(時価)で評価するため、社債償還益の増加と社債利息の増加があり、日本基準に比べ449百万円増加いたしました」

新株予約権付社債の会計方針については、連結財務諸表注記に次のように記載されています。

「IFRSでは新株予約権付社債(複合金融商品)を負債と資本に区分し、負債項目の一部を公正価値(時価)で評価するため、社債償還益の増加と社債利息の増加があり、日本基準に比べ449百万円増加いたしました」

【リンク】

平成22年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)[PDF]

会計基準の変更及び業績予想と実績との差異に関するお知らせ[PDF]

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