日本企業の管理職の年収が海外に比べて「割安」になってきた。新興国の賃金が上昇、為替の円安傾向もあって相対的な水準が下がっている。民間調査では部長級の年収は中国より低いとの結果も出た。事業のグローバル化で日本企業の外国人採用は増えるとみられるものの、管理職の賃金水準の低さは優秀な人材確保への障害になりかねない。
(日本経済新聞2014年2月28日3ページ )
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「世界に9000社の顧客を持つ人事コンサル大手の米ヘイコンサルティンググループは各国の役職階級別の年収(基本給、年間一時金、手当)を調査し、日本の課長級を1として指数化した。これによると日本の部長級は1・36なのに対し中国は1・64。本部長・事業部長級では1・68対2・57とさらに差が開くことが分かった。」(前掲紙)
一億総中流と言われた時代は遠い昔のように思えますが、現在でも多くの日本人は格差を好まないように感じます。
日本企業の賃金カープが緩やかな理由はここにあると思います。
もちろん終身雇用であるということがその前提になっています。
しかしこの報酬体系を外国人に適用するのは困難です。
このギャップを埋めるられるのは、エクイティ系の報酬かもしれません。
しかし日本ではストックオプション以外のエクイティ系の報酬のインフラが整っていません。
特に税法が全く追いついていません。
1円ストックオプションなどという奇策ではなく、普通に株式報酬を利用できるようにする必要があります。
【リンク】
なし
「我々に力がなかった」。武田薬品工業の長谷川閑史社長は率直に非を認める。同社は英製薬大手グラクソ・スミスクライン出身のクリストフ・ウェバー氏を初の外国人社長に招くことを決めた。創業200年を超す老舗企業が異例の人事に踏み切った背景にあるのは、M&A(合併・買収)の不調だ。
(日本経済新聞2014年1月10日13ページ )
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「武田は2011年、スイス製薬大手ナイコメッドを約1兆1170億円で買収。同社の欧州や新興国のルートで武田の医薬品を販売してもらうことなどで年300億円の相乗効果を見込んだ。社長候補と目されるエース級人材も投入した。
だが壁は厚かった。販売部門を制御しきれず経費も減らなかった。2800人の人員削減も未達で武田の13年3月期は大幅な営業減益だった。買収効果があれば内部昇格の順当な社長人事だったかもしれない。」(前掲紙)
日本企業のグローバル化の深化に伴い、外国人社長が増えていくのは必然であると思います。良い経営者を招聘するためには、報酬体系も世界の潮流に合わせていかざるを得ません。エクイティ報酬もより一般的なものになるでしょう。
事実武田薬品の場合、3人の取締役に対する株価連動型報酬の費用計上額は1,520百万円に達し、通期業績を下方修正する一因となりました(2013年11月19日「武田薬品の株価連動型役員報酬」)。
しかしこの分野を支える日本の会社法、税法、会計といったインフラは未整備であり、例えば譲渡制限株式を報酬として付与することが出来ず、わざわざ1円ストックオプションを発行するという事例が増えています。
早期の改善が求められます。
【リンク】
なし
上場企業のストックオプション(株式購入権)で、1株1円で買えるタイプが主流になってきた。株価動向によって権利が行使できなくなる通常型と違い、役員や従業員がほぼ確実に利益を得られ、報酬として機能しやすいのが特徴だ。
(日本経済新聞夕刊2013年12月26日1ページ )
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「企業が無償で役員や従業員にストックオプションを割り当てる。役員と従業員は1株当たり最低額の1円を支払って株式を取得し、市場で売却すれば利益が得られる。
直近ではファーストリテイリングが12月、役員を含む従業員30人を対象に割り当てた。」(前掲紙)
役員退職慰労金の代替として1円ストックオプションを発行する事例については当ブログでも何度かエントリーしています。
課税上の取扱いが気になるところですが、2004年11月2日付の伊藤園による事前照会に体する国税庁の文書回答がウェブサイトに公開されています。
伊藤園の新株予約権の内容は、次のようなものでした。
「「権利行使時の権利行使価額を1株当たり1円とし、その権利行使期間は、発行日から30年以内において、役員を退任したときに、退任した日の翌日から10日を経過する日までの間に限り、一括して権利行使しなければならないことになっております。」
(「権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について」国税庁)
これについて、法令、通達に照らし退職所得とすることで問題ない旨回答がされています。
一方、ファーストリテイリングの1円ストックオプションは、権利行使期間を退職後としていません。
新株予約権の行使時点で役員又は従業員でなければ行使はできない旨の制限はありますが、新株予約権の譲渡も取締役会の承認があれば可能です。
税務上は非適格ストックオプションとしての取扱いになるのでしょうが、付与時課税の要否について立法上の検討が必要であると思います。
【リンク】
2013年10月10日「株式報酬型ストックオプション(新株予約権)の発行に関するお知らせ」株式会社ファーストリテイリング [PDF]
「権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について」国税庁
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