ソフトバンクの企業価値はどのくらいなのだろうか。同社は複数の事業を運営しているので、事業価値を積み上げる「サム・オブ・パーツ」方式で試算してみよう。
(日経ヴェリタス2008年6月29日 14面)
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記事では、事業価値と上場保有株の時価総額を合計した企業価値から純有利子負債を引くことで株主価値を求め、これを自己株控除後の発行済株式数で割って理論株価を算定しています。

事業価値はEBITDA倍率により計算されています。
これは乗数アプローチ(マルチプル)と呼ばれる手法の一つで、実務上も多用されています。
評価対象会社の評価指標×類似会社のマルチプルにより株主価値又は企業価値を計算します。
株主価値が計算される評価指標としては、PER(株価/1株当り当期利益)、PBR(株価/1株当り純資産)、企業価値が計算される評価指標としては、EBIT(Earnings Before Interest and Tax: 支払利息、税金差引前利益)、EBITDA(Earnings Before Interest, Tax, Depreciation and Amortization : 支払利息、税金、減価償却費差引前利益)がよく利用されます。
マルチプルで使用される評価指標は、予想数値によるのが一般的ですがソフトバンクは業績予想を公表していません。したがって当然のことなら予想者によって相当のばらつきが生じます。
「例えば、携帯電話の事業価値について、日興シティグループ証券の山科拓氏は予想EBITDAを3504億円(2009年3月期ベース)、倍率を5倍として計算する。UBS証券の乾牧夫氏は3488億円(2010年3月期ベース)、6倍で算出。モルガンスタンレー証券の田中宏典氏は3510億円(2013年3月期ベース)。4.5倍で算定している。」
保有株の価値は27日終値ベースで計算されています。これをアフタータックスで計算すべきであるという考え方もあります。
例えば、ヤフー株の投資簿価は62億円なので含み益が1兆240億円あります。ヤフー株の価値を実現するにはこれを売却するしかないのだとすると、売却益に対する課税分(約4000億円)だけ価値を減じてやる必要があると考えるのです。
記事の評価は概ね現状の株価と一致しているので、少なくとも市場は保有株の価値をアフタータックスで見ていないということができます。
【リンク】
「ソフトバンクグループの国内外持株会社が直接保有する投資有価証券」
2008年06月27日 17:00(日本時間)現在
http://www.softbank.co.jp/irdata/share_data/index.html
社外監査役の大森氏「依然問題残る」
荏原は27日、都内で提示株主総会を開き、2008年3月期の計算書類などが可決された。計算書類は、社外監査役の大森義夫氏が、元副社長の不正支出問題の調査が不十分などとして事業報告を承認しなかったため、総会の決議事項になっていた。
(日本経済新聞 2008年6月28日 16面)
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本件については、当ブログで6月7日にとりあげました。
http://cfonews.exblog.jp/8083580/
決算承認後、大森監査役は日経新聞記者に次のように語ったとのことです。
「総会で可決されても問題が完全に無くなったわけではない」
「(不正支出事件について)荏原の顧問弁護士に事情を聴こうとしたが会社から拒否された」
大森監査役の去就が注目されるところですが、
「私がすぐに辞めると、後に続く人が出にくくなるのでは」として、当面監査役の職にとどまる考えを明かしているそうです。
社外取締役、社外監査役の存在意義が問われている今だからこそ、大森監査役にはとことん頑張って頂きたいと思うのですが…。
荏原のように歴史のある会社が変われば、多くの会社が影響を受けると思うのです。
【リンク】
平成20年6月27日「当社第143期定時株主総会における計算書類の承認に関するお知らせ」株式会社荏原製作所
http://www.ebara.co.jp/ir/2008/pdf/news20080627a.pdf
460社が株主総会 Jパワー、ファンドの増配提案を否決
上場企業約460社が26日、全国で一斉に定時株主総会を開いた。約1300社が開催するピークの27日に次ぐ規模。英投資ファンドが増配などを求めているJパワー(電源開発)や、米投資ファンドが社長再任に反対した日本興亜損害保険など、外国人株主の提案の動向が焦点となっている。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080626NTE2INK0626062008.html
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Jパワーについては、誰もが予想したとおりの結果に終わりました。
それでも、3人以上の社外取締役を導入すべきという議案に4割弱もの賛成票が集まったことには時代の変化を感じます(TCIの保有比率は9.9%)。
国内外の機関投資家に議決権行使の助言をする最大手、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)日本法人のマーク・ゴールドスタイン代表は、現経営陣の役員再任案に賛成する一方、社外取締役の選任義務化には賛成した理由を次のように述べています。
http://markets.nikkei.co.jp/features/03.aspx?site=MARKET&genre=x3&id=MMMAx3000025062008
「TCIは中垣喜彦社長の解任を求めていますが、ISSは取締役の再任案への賛成を助言しました。社外取締役がおらず株式の持ち合いが増えているなどマイナス要因がありますが、赤字ではなく、反対するほどひどいとはいえませんでした。取締役の代替案がTCIから示されなかったのも理由です。ただ、TCIが提案した社外取締役の選任義務化に対し賛成したことで、メッセージは伝えられたかと思います。TCIは現在、委任状争奪戦を行っている米貨物鉄道大手のCSXに対しては代替の取締役を5人推薦しており、株主には選択肢があります。TCIは日本でも取締役候補者を推薦するつもりだったようですが、Jパワーに拒否されました。
Jパワーではあらゆる議案で判断にとても苦労しました。両社の代表と会い、大量の資料を読み、時間をかけて結論に至りました。(ISS競合の)グラス・ルイスと助言内容が分かれたようですが、それほど判断は難しいものでした。」
外資のプレッシャーを受けつつ、日本企業もゆっくりと変わろうとしているのです。
そしてそのはじめの一歩が、社外取締役の選任義務化なのかもしれません。
【リンク】
平成20年6月26日「第56回定期株主総会決議のご通知」電源開発株式会社
http://www.jpower.co.jp/annual_rep/pdf/ketsugi56j.pdf
スルガコーポ、再生法申請 普通社債、7年ぶり不履行に
東証2部上場の不動産会社、スルガコーポレーションは24日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、受理されたと発表した。負債総額は約620億円。同社は7月25日付で上場廃止となる。取得した商業ビルの入居者立ち退き交渉をめぐる弁護士法違反事件で、暴力団に近いとされる不動産仲介会社との関係が表面化。資金調達が困難になったという。同社が発行した公募普通社債はデフォルト(債務不履行)になる。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080625AT1D240AI24062008.html
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スルガコーポレーションの社債(120億円)デフォルトの影響を受け、低格付債利回りの国債に対する上乗せ幅(スプレッド)が一段と拡大する可能性があります。
国内でのデフォルトは二〇〇一年のマイカル以来、約七年ぶりです。昨日は市場全体に警戒感が広がり、この日は流通市場でトリプルB社債(格付投資情報センター=R&I)の平均スプレッドは、一・三四六%と前日比〇・〇〇六ポイント広がっています。
当面、低格付債の発行が難しくなり、資金調達に影響が出る会社もありそうです。
【リンク】
なし
サンリオ 優先株を買い入れ消却 4割相当分、金利上昇分で
サンリオは優先株の一部を買入消却する見通しだ。今後金利が上昇する可能性があるとみて、市場金利に連動して配当が決まる優先株を極力減らす。
(日本経済新聞 2008年6月24日 14面)
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優先株の概要は次の通りです。
(1) 発行額:100億円
(2) 配当金:日本円半年物東京インターバンクレート(TIBOR)に4%加算した利率
(3) 普通株式転換可能期間:平成22年3月23日以降
(4) 当初転換価額:平成22年3月23日に先立つ45取引日目に始まる30取引日の毎日の普通株式終値平均値の90%に相当する金額(以降、年2 回の転換価額の修正があります。)
(5) 強制償還価額:発行価額(1株につき1万円)に107%を乗じた価額
消却するのは2005年3月に発行したB種優先株百億円のうち4割にあたる40億円分。三菱東京UFJ銀行とみずほコーポレート銀行からの買い入れには、計42億8千万円の資金が必要で、これは現預金の取崩と銀行借入で賄う方針です。
平成20年3月31日現在の株主資本は以下の通りです。
(1) 資本金 14,999百万円
(2) 資本剰余金
1 資本準備金 10,003
2 その他資本剰余金 92
(3) 利益剰余金
1 その他利益剰余金
繰越利益剰余金 3,053
(4) 自己株式 △ 954
株主資本合計 27,194百万円
会計上の原資を手当するために、26日の定時株主総会で資本準備金50億円の取崩しが付議されます。
議案の概要は次の通りです。
1. 資本準備金の額の減少の目的
これまで期間利益を償還原資とする計画でありましたB種優先株式の償還原資の一部として充当するために、また、今後の資本政策の柔軟性、機動性の確保を目的として資本準備金を減少し、その全額をその他資本剰余金に振り替えるものであります。
2. 資本準備金の減少額
資本準備金の減少額 5,000百万円
なお、減少後の資本準備金は、5,003百万円
3. 資本準備金の減少の日程(予定)
(1) 取締役会決議日 平成20年5月15日
(2) 株主総会決議日 平成20年6月26日
(3) 効力発生日 平成20年7月31日(債権者異議申述期間後)
【リンク】
平成20年5月15日「資本準備金のその他資本剰余金への振替に関するお知らせ」株式会社サンリオ
http://www.sanrio.co.jp/corporate/ir/disclosure/detail/49_0515.html
平成20年5月29日「優先株式の強制償還に関するお知らせ」株式会社サンリオ
http://www.sanrio.co.jp/corporate/ir/disclosure/detail/49_0529_1.html
協和発酵の株主配分に手詰まり感が漂い始めている。2009年3月期の年間配当は前期の2倍となる20円を予定するが、2010年3月期は減益が予想される配当据え置きが濃厚。足元の株価がキリンホールディングス傘下に入る際のTOB価格を大幅に下回っており、キリンHD株主への配慮などにより自社株買いも封じられている。
(日経ヴェリタス 2008年6月22日 19面)
【CFOならこう読む】
昨年、当ブログで協和発酵株式の希薄化問題を4回にわたりとりあげました。
キリンの協和発酵買収:1株当たり利益(EPS)の希薄化は問題か?
http://cfonews.exblog.jp/6665341/
キリンの協和発酵買収:1株当たり利益(EPS)の希薄化は問題か?-その2
http://cfonews.exblog.jp/6671262/
キリンの協和発酵買収:1株当たり利益(EPS)の希薄化は問題か?-その3
http://cfonews.exblog.jp/6676645/
キリンの協和発酵買収:1株当たり利益(EPS)の希薄化は問題か?-その4
http://cfonews.exblog.jp/6681686/
今日はこの続編です。
記事に次の記述があります。
「配当政策を明確に掲げていなかった同社は今期「連結配当性向30%(のれん償却前利益ベース)」を掲げた。5年ぶりの増配となる今期の20円配はそれに沿ったもの。
配当性向を厳密に守れば来期は減配だ。松田譲社長は「減配は考えていないが、増配も厳しい」と話す。
となると「機動的な自社株買いと自社株消却で株主配分を強化したい」(松田社長)ところ。キリンHDへの新株発行で協和発酵の発行済み株式数が44%増えており、自社株買いで消却するのが自然な流れだからだ。
しかし、両社は今後10年間キリンHDの協和発酵への出資比率を50.1%とする契約を結んでいる。協和発酵が自社株買い、消却をすれば発行済み株式数が減る。キリンHDの出資比率50.1%を維持するために「キリンHDに協和発酵株を売却してもらうようお願いすることになる(協和発酵幹部)というのだ。
キリンHDが買い付けた協和発酵株を売却しようとすると今度は別の問題が発生する。協和発酵株の株価はTOB価格を下回る水準で推移。キリンHDの株主から「1500円で買ったのになぜそれより安い価格で売るのか」と反発が出ることが予想されるのだ。協和発酵はキリンHD株主に「配慮」せざるを得ず、株価が1500円以上にならないと自社株買いできないジレンマに直面する。思うように株主配分できず低迷する株価にカンフル剤を打てない悪循環。経営陣はもどかしさ募らせている。」
そのジレンマは、協和発酵株式の大幅な希薄化を伴うディールに起因しており、自業自得と言えます。資本政策の失敗を後から修正するのは極めて困難なのです。

”覆水盆に返らず”です。
【リンク】
なし
暴走する資本主義
雨宮 寛 今井 章子


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「ザ・ワーク・オブ・ネーションズ」、「勝者の代償」の著者で、クリントン政権で労働長官も務め、また現在はオバマの政策アドバイザーを務めるロバート・B・ライシュの新刊「暴走する資本主義」(Supercapitalism)を読みました。彼の本はいつも、我々に、全く新しい視点を提供してくれるのですが、今回はさらに頭をぶん殴られたようなショックを受けました。
帯から本のさわりを紹介します。
「1970年代以降、資本主義の暴走、つまり超資本主義と呼ばれる状況が生まれたが、この変革の過程で、消費者および投資家としての私たちの力は強くなった。消費者や投資家として、人々はますます多くの選択肢を持ち、ますます「お買い得な」商品や投資対象が得られるようになった。
しかしその一方で、公共の利益を追求するという市民としての私たちの力は格段に弱くなってしまった。労働組合も監督官庁の力も弱くなり、激しくなる一方の競走に明け暮れて企業ステーツマンはいなくなった。民主主義の実行に重要な役割を果たすはずの政治の世界にも、資本主義のルールが入り込んでしまい、政治はもはや人々のほうでなく、献金してくれる企業のほうを向くようになった。
私たちは「消費者」や「投資家」だけでいられるのではない。日々の生活の糧を得るために汗する「労働者」でもあり、そして、よりよき社会を作っていく責務を担う「市民」でもある。現在進行している超資本主義では、市民や労働者がないがしろにされ、民主主義が機能しなくなっていることが問題である。
私たちは、この超資本主義のもたらす社会的な負の面を克服し、民主主義より強いものにしていかなくてはならない。個別の企業をやり玉に上げるような運動で満足するのではなく、現在の資本主義のルールそのものを変えていく必要がある。そして「消費者としての私たち」、「投資家としての私たち」の利益が減ずることになろうとも、それを決断していかなければならない。その方法でしか、真の一歩を踏み出すことはできない。」
ところで、本の中に次のようなくだりがあります。
「1980年代以降、やる気がある優秀な米国の若い男女が、投資銀行や金融サービス会社、ヘッジファンドやプライベート。エクイティ・ファンドに就職するために、あるいは大企業でCFO(最高財務責任者)になるために、有名ビジネススクールへと駆り立てられたのも、彼らの「貪欲さ」が理由ではない。企業財務という不毛な分野に膨大な知的エネルギーをつぎ込ませたのも、気前のよいストックオプションやボーナスによって経営者の給料を株価に連動させたのも、貪欲さではなかった。」
この「企業財務という不毛な分野」という記述は大いに気にいりません。不毛な企業はあったとしても不毛な職能はないはずです。それは不毛な人間がいたとしても不毛な臓器というものがないのと同じことです。
ラ・パルレ相談役 保有株すべてを会社に無償譲渡
エステティックサロンのラ・パルレは19日、創業者の大石洋子相談役が保有する同社株約75,000株(発行済株式数の34.3%)すべてを18日付で同社に無償譲渡したと発表した。同時に創業者一族の大石舞氏も保有株のうち約14,000株(同6.7%)を無償譲渡。これに伴い8.6%を持つモルガンホワイトフライヤーズが筆頭株主に、5%を持つ大石舞氏が第二位株主になった。
(日本経済新聞 2008年6月20日 14面)
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異動の理由を会社は次のように説明しています。
「当社は、平成20年3月24日に東京都より「東京都内17店舗の一部業務停止」の行政処分を受けております。(特定継続的役務提供の一部業務停止3ヶ月、平成20年3月25日より平成20年6月24日まで)また、経営改善への過程で財務基盤が弱体化し、平成20年3月期決算における会社法に基づく監査は意見不表明となっており、財務基盤の改善を図るための第三者割当増資等を複数社と交渉中であります。これを受けて、平成20年6月18日付で当社の創業者であり相談役である大石洋子が、行政処分と会社法に基づく監査の意見不表明に対する責任を取り、保有する当社普通株式の全株を、同時に当社主要株主である大石舞の保有する当社普通株式14,701株について、それぞれ当社へ無償譲渡する旨の申し出がありました。
これにより、譲渡契約を締結し当社普通株式が譲渡され、筆頭株主および主要株主に異動が発生しましたのでお知らせいたします。」
会計及び税制上の取扱いが気になるところです。
会計については、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第14項が、次のように規定しています。
「自己株式を無償で取得した場合、自己株式の数のみの増加として処理する。」
税制については、「資本取引 税務ハンドブック」(税理士法人プライスウォーターハウスクーパース編 中央経済社)356ページに次のように記載されています。
「平成18年度の税制改正により、自己株式の取得の場合は資本金等を直接減額させる扱いとなったために、自己株式の取得は資本等取引であるとして、取得価額の高低にかかわらず課税所得が生じないのではないかとも考えられます。
しかしながら、自己株式の取得は発行法人の資本金等の額を減額させる取引ではあるものの、株主への対価の交付を伴う取引であることから、「複合的取引」であるとする見方が一般的と思われます。すなわち、自己株式の資産としての譲受けの要素が残されている以上、自己株式の譲受けは時価によるべきであり、時価よりも高値あるいは安値で譲り受けた場合にはその差額について寄付金または受贈益課税が生じるものと考えられます(法人税法22②、37⑧)。
自己株式の取得については他の資産の取得と同様に法人と株主との間の利益の移転の問題であり、株主間での利益移転の問題ではないと思われます。」
大石洋子氏が譲渡した75,000株は、昨日(19日)の終値(17,900円)で計算すると13億4600万円に相当します。
【リンク】
平成20年6月19日「主要株主である筆頭株主および主要株主の異動に関するお知らせ」株式会社ラ・パルレ
http://qweb1-1.qhit.net/hercules/pdfdocs/contents/2008/06/19/2008061904037100.PDF
KDDIやドコモなど 端株一掃に向け相次ぎ定款変更
2009年1月の株券電子化(ペーパーレス化)で原則として無効になる一株に満たない端株一掃のため、定時株主総会などで定款を変更する動きが相次いでいる。
(日本経済新聞 2008年6月19日 14面)
【CFOならこう読む】
端株一掃の方法として、
①一定の期日に端株制度を廃止し、端株主から端株を全て買い取る方法
②株式分割と単元株制度の導入を組み合わせ、端株をなくす方法
の2つがあります。①の方法の場合、一定の資金が必要ではありますが、端株主以外に影響を与えずにすみます。一方②の方法の場合、全ての株主に影響が及びますが、端株主側に特段の手続きがいらず、会社側の資金負担もすくないというメリットがあります。
KDDI、NTTドコモ、ヤフーといった会社は①の方法を選択しています。
KDDIの場合、19日に開く株主総会に定款変更案を諮ります。招集通知の中で定款変更の理由が次のように説明されています。
「「株式等の取引に係る決済の合理化を図るための社債等の振替に関する法律等の一部を改正する法律」(平成16年法律第88号)が公布され、上場会社の株券は平成21年1月を目標時期として一斉に電子化される予定であります。株券電子化後の振替制度においては、端株が取り扱いの対象とならないことから、株券電子化に先立ち平成20年10月1日をもって端株制度を廃止するため、所要の変更を行うものであります。なお、平成20年9月30日において当社端株原簿に記載された端株につきましては、平成20年10月1日の東京証券取引所における当社株式の最終価格(終値)により一括して処分し、11月下旬お支払予定の中間配当金と合わせて処分代金をお支払いすることといたします。」
一方、NTT、JR東日本、インプレスホールディングスは②の方法を選択しています。
インプレスホールディングスは、株式の百分割を株券電子化の直前に実施し、それと同時に売買単位を百株とする単元株制度も導入することで、投資単位の実質的な影響がない形にしています。
NTTは単元株制度に移行するために、25日に開催される株主総会で定款の一部変更を諮ります。
【リンク】
平成20年5月28日「第24期定時株主総会招集ご通知」KDDI株式会社
http://www.kddi.com/corporate/ir/shareholder/meeting/20080619/pdf/soukai24_shosyu.pdf
2008年5月20日「株式の分割ならびに単元株制度の採用に関するお知らせ」株式会社インプレスホールディングス
http://www.impressholdings.com/release/2008/029/
HOYAが3月、ペンタックスを吸収合併したことに伴って発生するのれん代が、当初見込みの総額500億円から317億円にとどまり、180億円強少なくて済むことが分かった。経営統合の方式を完全子会社化にとどめず、合併にまで踏み込んだことで、税金に関連した会計処理が変わった。のれん代は10年で均等償却する方針だ。毎年の償却額が減る。
(日本経済新聞 2008年6月18日 17面)
【CFOならこう読む】
記事によると、
「時価純資産が増える「原資」となったのは買収される前のペンタックスが、保有する特許権の転売可能性を踏まえて計上していた税金関連の負債など。買収時の再評価によりこれに180億円の資産価値が生じた」
とのことです。
はっきりと原資を特定できないのですが、繰延税金資産・負債への取得原価の配分額の見直しがあったものと思われます。
「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号)第73項は、繰延税金資産・負債への取得原価の配分額の見直しについて次のように規定しています。
「企業結合日に認識された繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分額の見直しは、以下の場合がある。
(1) 暫定的な会計処理の対象としていた識別可能資産及び負債への取得原価への配分額の見直しに伴うもの
(2) 将来年度の課税所得の見積りの変更等による繰延税金資産の回収見込額の修正によるもの
(1)については第70項に従い会計処理する。
(2)の繰延税金資産の回収見込額の修正のうち、企業結合年度における修正は、第70項に従い、企業結合日におけるのれんの額を修正し、企業結合年度の翌年度における修正は、第70項の定めにかかわらず、原則として、翌年度の損益(法人税等調整額)に計上する。ただし、企業結合年度の翌年度における修正であっても、その修正内容が、明らかに企業結合年度における繰延税金資産の回収見込額の修正と考えられるとき(企業結合日以後1年以内に行われたものに限る。)は、企業結合日におけるのれん(又は負ののれん)の額を修正する(第379項参照)。」
記事の「180億円まとめて利益に計上し、のれん代はそのままとする会計処理も可能だったが、合併で可能になったのれん代の圧縮を選択した。」は、第73項の(2)における企業結合年度の翌年度における修正を参照しているものと思われます。
【リンク】
平成20年5月16日「(訂正)平成20 年3 月期第4 四半期(3 ヶ月間)連結決算概況<ご参考>の訂正について」HOYA株式会社
http://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-605-pdf.pdf
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