「シンガポールに新拠点」サイゼリヤ社長 豪州依存減らす
11月21日にBNPパリバ証券とのデリバティブ契約で140億円の評価損を計上する見通しと発表したサイゼリヤの正垣泰彦社長は28日、日本経済新聞社に2010年の稼動を目標に、シンガポールに新たな食材加工工場を建設する意向を明らかにした。原材料調達で豪州の依存度を減らし、為替リスクを分散させる。
(日本経済新聞2008年11月29日9面)
【CFOならこう読む】
「評価損が見込まれる主なデリバティブ契約は、サイゼリヤがBNPパリバと契約した2本の「FX参照型豪ドルクーポンスワップ」。オーストラリア事業のコスト軽減を図るために行った同取引では、円がオーストラリア・ドルに対して円安に進めば、支払い金額の軽減につながるはずだった。」
(http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003015&sid=aFtKHUUi2G48&refer=jp_europe)
クーポンスワップは、ヘッジ手段としては一般的な金融商品です。サイゼリヤの会計方針のデリバティブの項にもヘッジ手段として、通貨スワップを利用している旨記載があります。損失が発生したクーポンスワップは、ヘッジ会計を適用していなかったものであるわけですが、その理由が開示資料を見る限りよくわかりません。契約期間が長すぎたのか、実需とマッチングしていなかったのか…。
実需とマッチングしていて、そもそも会社はヘッジ目的で行った取引であるが、会計士がヘッジ会計を認めなかったということなら、そんなに大騒ぎするようなことではないと思います。しかし実需とアンマッチな投機的な取引であったなら、責任問題になるでしょう。正垣社長は、「責任の所在についてもはっきりさせる」と言明しています(前掲紙)。
取締役財務管理室長は正垣和彦氏。正垣社長の実兄です。
【リンク】
「第36期 有価証券報告書」株式会社サイゼリヤ[PDF]
エルピーダメモリ、台湾合弁を子会社化 生産調整などで主導権
エルピーダメモリは2009年3月末までに、台湾の合弁生産会社を連結子会社化する方針を固めた。合弁相手の力晶半導体が保有する株式を一部取得し、出資比率を52%程度に引き上げ経営権を握る。半導体市況の急激な悪化に対応、需要動向に応じた生産調整や投資をエルピーダ主導で実施できるようにし、グループの経営安定化につなげる。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1D2700C%2027112008&g=S1&d=20081127
【CFOならこう読む】
子会社化の狙いは、純資産を増やすことにあるのではと今日の新聞に書かれています。
「一方、財務面に視点を移すと、子会社化には別の意味がある。エルピーダは9月末時点で3000億円強の有利子負債があり、このうち800億円に純資産維持に関する「財務制限条項」が付く。10月に融資枠を使って借り入れた1100億円にも同様の条項があり、いずれも期末の純資産額が1年前の75%を下回ると条項に抵触する。「抵触しても銀行が即座に返済を求めることはない」(エルピーダ)が、財務の安定性は低下する。
前期末の純資産は3478億円で、この75%は2608億円。今期の最終赤字額は900億円を超えそうなため、純資産額が大幅に目減りし、条項に抵触する可能性が高まっていた。子会社化で連結純資産が600億円程度増えるため、今期は条項抵触を回避できそうだ。」
(日本経済新聞2008年11月28日11面)
エルピーダの台湾合弁会社レックスチップエレクトロニクスに対する出資比率は48.8%。同社はエルピーダの持分法適用会社です。これを合弁相手から株式の一部譲渡を受けることにより、出資比率を52%まで高めるとのことです。
キャッシュで株式を取得するということは、対象会社の純資産をキャッシュで買うことを意味し、等価交換であるので連結上純資産の増加はないように思えます。
それでは上記記事の「子会社化で連結純資産が600億円程度増える」とは何のことを言っているのでしょうか?持分法適用会社から連結子会社になることで何が変わるかを考えてみればその答えがわかります。
その答えは少数株主持分です。連結子会社になることで合弁相手の純資産に対する持分が、少数株主持分として純資産の部に計上されるのです。
少数株主持分が純資産の部に計上されるようになったのは「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(2005年12月9日公表)施行以降で、それ以前は負債の部と資本の部の中間に独立の項目として表示されていました。これが純資産の部に表示されるようになったことから、連結子会社が増えれば少数株主持分の分だけ純資産が増えることになったのです。
もっとも少数株主持分は親会社に帰属するのではなく、だから株主資本以外の項目として表示されるわけで、財務制限条項で縛るべきは純資産ではなく株主資本とすべきかもしれませんね。
【リンク】
なし
三洋電機の買収を巡り、パナソニックと米ゴールドマン・サックス(GS)グループなど三洋の大株主三社の交渉が難航している。パナソニックが1株120円の買収価格を24日に提示したのに対し、200円台後半を主張するGSは25日に交渉打ち切りを通告した。パナソニックは他の2社が合意すればGS抜きでもTOBを実施する構えで厳しいせめぎ合いが続きそう。
(日本経済新聞2008年11月26日11面)
【CFOならこう読む】
「パナソニックの提示額は現在の株価(25日終値は156円)を下回る120円。GSは三洋の企業価値からかけ離れていると判断。25日に三洋を通じ、交渉の打ち切りをパナソニック側に通告した。」
(前掲紙)
現在の株価が優先株の希薄化を織り込んでいると考えるか、織り込んでいないと考えるかでフェア・バリューは異なります。
この点11月5日の当ブログで、株価は優先株の希薄化効果を一部織り込んでいないと考えられることをお話しました。
http://cfonews.exblog.jp/8900738/
2009年3月13日までは、GS他が議決権ベースで34%の保有義務があることから、この分の希薄化効果は現在の株価に織り込まれていないと考えることができます。
そう考えると、パナソニックの120円という価格も説明がつきそうです。
ただし、GSが了解しないままTOBを実行に移すことは考えづらく、これからの交渉如何では価格の引き上げもあり得るとは思います。いずれにしても三洋のスタンド・アローンバリューをどう見るかという点で、売り手・買い手が合意するまでもう少し時間がかかるかもしれませんね。
【リンク】
なし
昨年度776社 透明性向上狙う
東証一部上場企業のうち社外取締役を導入した企業の割合が2007年度に45%強に上昇し、5割に迫ったことが日本経済新聞社の調べで分かった。株主によるコーポレートガバナンス(企業統治)を機能させる代表的な仕組みが日本でも日常化してきたことを示す。ただ、買収防衛策導入に伴って制度を取り入れる企業もあり、一時的要因で増えた面もある。
(日本経済新聞2008年11月26日19面)
【CFOならこう読む】
一部上場企業1718社のうち776社が導入したということです。これをコーポレートガバナンスに対する意識の向上の結果と見るか、機関投資家の要請や買収防衛策導入のために仕方なく社外取締役の導入に踏み切る会社が増えたということなのか、解釈が難しいところです。
海外の機関投資家の多くが社外取締役の指名を投資対象会社に求めています。また、今年5月にカルパースやハーミーズ等欧米の有力年金基金や機関投資家が日本企業のコーポレートガバナンスの向上を求める提言をし、そこでは社外取締役最低3人指名することが謳われています。
その理由を英ハーミーズ・ファンド・マネジャーズのシニアアド バイザー、マイケル・コナーズ氏は次のように話しています。
「――なぜ社外取締役は最低3人必要なのですか。
米国でも英国でも半数以上を独立取締役にする決まりだ。社外取締役として発言力を確保するには、1人や2人では多勢に無勢だろうと考えた。提言に参加した個々の機関投資家が3人という基準を持っているわけではない。よく適任者がいないと聞くが、いくらでもいる。多くの企業では長年務めた社員のなかから1人だけが社長になり、残り は経営能力があるのにうずもれていく。人材の無駄遣いであり、社外取締役として他企業でどんどん活躍できるようにすればいい」
3名でも多勢に無勢でしょう(笑)。
取締役会が経営者を選任し、監督する責務があることがコーポレートガバナンスの要であることを経営者自身が理解しないと、結局社長のお友達を社外取締役として3人並べてそれでおわり、ということになるでしょう。
HOYAの鈴木社長のように、取締役会が自らをクビに出来ることが経営の規律付けのために重要であると経営者自らが認識し、取締役会の過半数を社外取締役が占めるように機関設計をした会社を、投資家が良い会社であると評価し、株価に反映するようになって始めて、そういう会社が増えてくるのだと思います。
そしてそういう傾向が少しずつ現れてきているというのが今日のニュースであると、私としては思いたいところです。
【リンク】
「日本企業の社外取締役、最低3人必要 英運用会社幹部に聞く(08/5/18)」
http://www.acga-asia.org/public/files/(2008-05-18)Mike%20Connors%20interview%20on%20White%20Paper%20(Nikkei%20Veritas).pdf
【CFOならこう読む】
シイエム・シイの株式上場の概要は次の通りです。

シイエム・シイは、販売促進のための従業員研修やイベント運営、取扱説明書作成などのマーケティング事業と、システム開発事業を展開している昭和37年設立の会社です。名古屋に本社があり、トヨタとの取引が全体の41.4%を占めています。
公募価額は未定ですが、仮条件の下限1900円を仮定すると、2009年9月期見込みEPSが362.17円なのでPER5.2倍という水準での株式公開となります。

シイエム・シイの主な資本政策は (表2)の通りです。

創業者である林幹治氏はすでに社長を降り、代表権のない会長となっています。2006年9月に現社長である龍山真澄氏等を割当先とする第三者割当増資を行っています。また、2006年10月1日付で一部門を新設分割により子会社化し、株式会社CMCSolutions設立しています(同社の2007年9月期売上実績19億2041万円)
(表3)はシイエム・シイの株主構成です。

株主名簿の上位に、ずらりと親族が並ぶ典型的な相続銘柄です。龍山社長の持株比率は潜在ベースで8%にすぎず、創業家の顔色を伺いながらの経営となりそうです。
シイエム・シイは、過去ジャスダックが山のように上場させてきたタイプの会社で、ジャスダックは本当に魅力ある市場に生まれ変わる気があるのか疑問に思います。
従業員のインセンティブは従業員持株会によっており、11.74%とかなり大きな持分を有しています。
【リンク】
株式会社 シイエム・シイ 企業概要
http://www.cmc.co.jp/02/02.html
フジタ信用不安回避へ先手
準大手ゼネコンのフジタへの親会社によるTOBが17日に終了し、東京証券取引所第二部を上場廃止となる。支援企業による上場廃止という異例の事態の背景には、優先株の普通株への転換による一株利益の希薄化や不動産市況悪化を懸念した株安への危機感がある。このまま放置すれば信用不安を招くと判断。株式市場からの退場を自ら選択した。
(日本経済新聞2008年11月22日14面)
【CFOならこう読む】
「フジタは旧フジタの建設部門が分離して2002年10月に設立。2005年9月にフジタHDを引受先に第三者割当増資を実施。普通株と優先株の発行で410億円調達した結果、フジタHDはフジタの発行済み普通株の44.8%と優先株すべてを保有する。フジタが憂慮するのは約889万株にのぼる優先株の存在。すべてを転換すると普通株数は約3億7700万株と現在の約12倍に膨らむ。一株利益の希薄化や需給悪化から「短期的に株価が下落する恐れがある」(上田社長)。
(前掲紙)
もとをたどると2002年10月の分割スキームがまずかったのかもしれません。

優良事業と思われた建設事業を分離するに当たり、分割会社が過半数の株式を保有するスキームを選択したため(みなし配当を回避するためと言われています)、その後の資本戦略に制約が生じるであろうことが、当時から指摘されていました。
その後、2005年9月にGS系投資会社フジタHDから410億円の出資を受ける際に、90%の無償減資、10:1の株式併合といった処理をせざるをないことになってしまいました。
そして今回の上場廃止です。2002年10月のときに中途半端な処理をしたばかりに、無駄に遠回りしてしまったと私には思えます。
【リンク】
http://www.c-direct.ne.jp/public/japanese/uj/pdf/10101806/00034423.pdf
平成20年9月25日「非上場の親会社である有限会社フジタ・ホールディングスによる当社株券等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」株式会社フジタ
http://www.c-direct.ne.jp/public/japanese/uj/pdf/10101806/20080925160442.pdf
平成20年11月18日「非上場の親会社である有限会社フジタ・ホールディングスによる当社株券等に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」株式会社フジタ
http://www.c-direct.ne.jp/public/japanese/uj/pdf/10101806/20081118163583.pdf
平成17年6月8日「「新中期経営計画」の一部修正とスポンサーの決定について」株式会社フジタ
企業の海外利益還流策、政府税調案に明記へ 来年度税制改正
政府税制調査会(首相の諮問機関)の2009年度税制改正答申の原案が20日分かった。日本企業が海外で稼いだ利益を国内に戻しやすくする税制の創設などを盛り込む。消費税については、社会保障の財源として引き上げの必要性を明記した昨年の答申をほぼ踏襲。政府・与党が消費税を含めた税制改革に向けた「中期プログラム」を作成する方針を決めたことを前向きに評価する。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20081121AT3S2002A20112008.html
【CFOならこう読む】
この問題、今日の新聞の17面でもとりあげられています。
「現在は税率20%の国で稼いだ利益を日本に戻すと、日本の税率(約40%)との差の20%を追加で課税される。海外に置いておけば20%で済むので、稼いだ利益を海外の再投資に回すのは自然な流れだ。積み上がった海外利益は2006年度末で17兆円に上る。」
(日本経済新聞2008年11月21日17面)
海外の未分配利益にかかる繰延税金負債の金額が大きい企業は次の通りです。

この繰延税金負債の金額は、有価証券報告書の財務諸表の注記、「繰延税金資産および負債の主な内訳」に記載があります(例えば、トヨタの2007年度有価証券報告書108ページを参照してください)。
具体例で説明しましょう。海外子会社の利益80億円を日本に還流させると、追加的に20億円の課税があるとすると、連結財務諸表上次の通り処理されます。
法人税等調整額(P/L) 20 / 繰延税金負債(B/S) 20
海外配当子会社の配当が非課税になった場合、税金は支払われないので、繰延税金負債を取り崩す必要があります。たまった繰延税金負債が100億円あるなら、これが次のように処理されます。
繰延税金負債(B/S) 100 / 法人税等調整額(P/L) 100
新聞記事に書かれている、「損益計算書の法人税等調整の項目でプラスに作用するだろう」(大手監査法人)とは、このことを言っているのです。
そうなると、その分だけ株主価値が増加するので株価の上昇要因となります。また将来に渡りEPSやROEが押し上げられることになります。この税制改正は、今まで海外展開することを躊躇していた会社の背中を押すことになるかもしれません。
一方、日本の空洞化がもう一段推し進められることによる、国内経済へのマイナスの影響も危惧されるところです。
【リンク】
「2007年度有価証券報告書 第5 【経理の状況】」トヨタ自動車株式会社
http://www.toyota.co.jp/jp/ir/library/negotiable/2008_3/finance.pdf
委員会方式で取り分減る 版権確保模索も
アニメやゲーム、漫画。日本の文化が世界で存在感を高めている。だが追い風のわりに関連する上場企業の業績は伸び悩んでいるのが実情だ。クール・ジャパンの憂鬱ー構造を探ってみた。
(日本経済新聞2008年11月20日 14面 クール・ジャパンの憂鬱)
【CFOならこう読む】
記事はコンテンツ制作会社の業績が伸びないひとつの理由に「製作委員会方式」を挙げ、次のように指摘しています。
「従来、アニメはテレビ局や玩具メーカーの資金で制作され、制作会社も多いときには権利の半分以上を持った。ところが広がる「委員会」方式のもと、現在は広告代理店や出版社などへと出資企業の幅が拡大。制作会社の出資力の制約などもあって、持っている権利は、全体の10%前後に落ちているとみられる。」
クール・ジャパンが世界でどれだけ評価されようと、現場が疲弊するような構造では発展が望めません。メジャースタジオ以外の米国の映画製作の場合、「ネガティブピックアップ」により資金調達をするのが一般的です。
「インディペンデント映画の製作者たちはスタジオから100%資金調達を受けないので、自分達で資金調達します。北米での配給権の「ネガティブピックアップ」とメジャーな地域の「プリセール」の組み合わせで、配給契約を担保に金融機関から借り入れして、完成保証ボンドをつけるのが従来の形です。」
(「コンテンツ・ファイナンス」(松田政行著 日刊工業社)
ネガティブピックアップとは次のようなものです。
「ネガティブピックアップとは、完成保証による完成リスクのヘッジと、MG(MinimumGuarantee)による興行リスクのヘッジを組み合わせてデットファイナンスを行う一種のストラクチャードファイナンスであり、欧米ではスタジオに属さないインディペンデントプロデューサーによる映画製作資金の調達において用いられている。なお、MGとは、配給会社等の販売会社が映画製作者に支払う分配金に最低保証額を設定するものであり、映画製作者の観点からはMGの範囲において興行リスクをヘッジする機能がある。また、配給契約の締結時においてMGに相当する金額が配給会社等から映画製作者に支払われるケースもあるが、ここで想定するのは原則として映画の完成、引渡しを条件として、MGに相当する金額が支払われるケースである。
典型的なネガティブピックアップでは、インディペンデントプロデューサーは映画の完成を前提とした配給契約を配給会社と締結する。契約において配給会社は、完成された映画の引渡時に、プロデューサーに対する映画の配給からの分配金として一定の金額を前払いすることが定められている。この前払い額がMGに相当するが、欧米では映画の完成に必要なコストとして見積られた金額がMGとして設定されることが多い。
そしてプロデューサーはこのような配給契約を担保として、銀行やその他の債権者から資金調達し、映画を製作することが可能となる。プロデューサーに対する債権は配給契約において定められた前払い金によって返済される。」 (「日本型映画完成保証に関する調査研究報告書」 独立行政法人経済産業研究所)
つまりネガティブピックアップの前提として完成保証会社から完成保証を受けることが不可欠なのです。日本では、完成保証の法的位置付けが不明確であること、完成保証会社の役割は、単なる保証を行うだけでなく、予算コントロール、製作の引継ぎ等多岐に渡るため、適当な担い手が見つからない、といった理由から完成保証をつけるという実務が定着していません。
私は、前職が映像ディレクターということもあり、人一倍この分野には関心があるのですが、制作サイドに正当な報酬が落ちるスキームを構築するのに苦慮している、というのが実情です。
【リンク】
図解コンテンツ・ファイナンス―「著作権信託」で資金調達が変わる
松田 政行

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豪コカ・コーラ、キリンの買収提案拒否 条件見直し検討へ
【シドニー=高佐知宏】オーストラリアの飲料大手コカ・コーラ・アマティル(CCA)はキリンホールディングス傘下の豪ビール大手ライオンネイサンからの買収提案を拒否した。買収額の約80億豪ドル(約4985億円)は「当社の価値を反映していない」(CCA)のが理由。キリンHDは「理解を得られるよう交渉を続ける」として今後、買収金額引き上げなど条件見直しの検討に入るとみられる。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1D1807Z%2018112008&g=S1&d=20081118
【CFOならこう読む】
キリンの買収価額が「当社の価値を反映していない」(CCA)という理由で、CCA取締役会は買収交渉打ち切りを決めました。14日終値に対し31%のプレミアムを付した買収価格では安すぎる、ということでしょう。
今回の買収はスキーム・オブ・アレンジメントによることを、キリンHDはプレスリリースの中で公表しています。
スキーム・オブ・アレンジメントとは、
「英国法上の買収手続き。1)買収対象会社の取締役会決議を経たうえで、被買収企業の株主総会で参加株主の過半数かつ議決権で七五%の賛成による承認(2)英国裁判所の審問による承認(3)関連地域の競争法当局による承認――が必要。」
(日本経済新聞2007年3月9日)
日本板硝子の英ピルキントン買収、JTの英ガラハー買収の際にも同手続きが取られました。
つまり取締役会がYESと言わないかぎり、事は進まないということです。
ただし日本のどこかの会社のように濫用的買収者云々ということではなく、価格が問題だということなので、勝負はバリュエーションのコンテストで決します。
【リンク】
なし
キリンHD、豪コカ・コーラに買収提案 4880億円投入
キリンホールディングス(HD)は17日、豪清涼飲料大手コカ・コーラ・アマティル(CCA)に買収提案したと発表した。傘下のオーストラリアのビール大手ライオンネイサンを通じた買収総額は80億豪ドル(約4880億円)で、国内食品会社による海外企業の買収では過去最大。少子高齢化などを背景に国内市場が縮小するのに対応し、海外での営業基盤を一気に拡大する。
【CFOならこう読む】
本件の概要は次の通りです。
・ LN社が提示したCCA社買収金額は、総額約80億豪ドル(約4,880億円)。・ CCA社株主に対する対価の支払いは、現金、LN社株式、現金とLN社株式の組み合わせのいずれか選択可能。
・ LN社は、CCA社株主の受取対価として、約45億豪ドル(約2,745億円)の現金およびLN社株式約346百万株を提示。
・ 買収対価のうち現金部分の調達は以下を予定:
LN社の株主総会における承認に基づく、KH社を引受先とする総額37.6億豪ドル(約2,294億円)の第三者割当増資により、大部分の現金を調達予定。この取引によりKHはLN社の普通株327百万株を取得予定。一部についてはLN社の負債による調達を予定。
・ 本件は、LN社およびCCA社の株主総会における承認、豪州およびニュージーランドの公正取引委員会、ならびに、外国投資審査委員会等の審査を含む規制当局の承認を必要とする。
・ なお、本件はLN社とCCA社間での統合であり、KH社の他事業会社は含まれない。1豪ドル=61円(2008年11月13日現在)
買収対価としてCCA株主は、現金、ライオンネイサン株、もしくは両方の組み合わせのいずれかを選択できるという方式はとても良いと思います。
M&Aでは、必ずしも株主の望む通りの結果にならない可能性があることが、「TOBによる敵対的買収の不可能性」として1980年にサンフォード・グロスマンとオリバー・ハートにより指摘されています。
この理論によると、多くの株主が次のように考えます。
「買収者は被買収企業の将来性について自分たちの知らない良い情報を持っているに違いない。買収者がマジョリティを握ることで株価は買収価格より上がるはず。ならばそのまま持っていよう。」
多くの個人株主がこのように考えるなら、このM&Aは不成立に終わります。
被買収者の株主が対価を株で受け取るか、現金で受け取るか選択できれば、「TOBによる敵対的買収の不可能性」の問題は解消されます。
ただし、国内法ではこのようなスキームが予定されておらず、実行は困難であると思われます。
【リンク】
2008年11月17日「ライオンネイサン社とコカコーラ アマティル社における全株式取得に向けた交渉について」キリンホールディングス
http://www.kirinholdings.co.jp/news/2008/1117_01.html
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