イオン最終赤字の公算
イオンの2008年3-11月期の連結業績は、最終損益が赤字となった公算が大きい。米衣料販売子会社のタルボットが実施した保有資産の減損処理や、会計処理の変更に伴う繰延税金資産の取崩しなどが響く。消費低迷で国内の衣料品販売も伸び悩む。2009年2月期通期の見通しを下方修正する可能性もある。
(日本経済新聞2008年12月30日 11面)
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記事には、
「前期までの子会社株式売却の際に計上した繰延税金資産を取り崩す。」
とあります。これは連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針(会計制度委員会報告第6号)の平成19年3月29日の変更を受けてのものです。
旧委員会報告6号30項では、
「連結グループ内の会社に投資を売却することによる一時差異の解消については、当該売却取引は連結財務諸表上消去されるので、対応する税効果は第三者に投資を売却するまでは、本報告の未実現損益に係る一時差異と同様に処理することになる。」
とされていたのが、新委員会報告6号では、この文章が削除され、新たに30-2項が設けられました。
「30-2 企業集団内の会社が企業集団内の他の会社に投資(子会社株式又は関連会社株式)を売却すると、個別貸借対照表上の投資簿価が購入後の取得原価に置き換わることになり、投資の連結貸借対照表上の簿価との差額、すなわち、連結貸借対照表上の一時差異の全部又は一部が解消することになる。」
イオンは中間財務諸表で次のように会計処理の変更の開示を行っています。
「(連結財務諸表における税効果会計)
当中間連結会計期間より、改正後の「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(日本公認会計士協会 平成10 年5月12 日 最終改正平成19 年3月29 日 会計制度委員会報告第6号)の第30-2項を適用している。
これにより、前連結会計年度まで連結会社間で子会社株式等を売却した際に生じた未実現利益の消去に伴い計上していた繰延税金資産を当中間連結会計期間にて取崩すこととなったため、繰延税金資産取崩しに伴う法人税等調整額156 億40 百万円を計上した結果、従来の方法に比べ中間純損失が151 億1百万円増加している。」
今年はこれで最後です。
新年は1月5日(月)のスタートになります。
来年は激動の年となるような予感がしますが、時代を映す重要なニュースを、わかりやすく、ためになるように読みほぐしてお伝えしていけるよう今年以上に頑張りたいと思っています。
引き続きご愛読のほど、宜しくお願いします。
それでは、良い年をお迎え下さい。
【リンク】
2008年10月8日「2009年2月期 中間決算短信」イオン株式会社
ベスト1位はヤマダ電機が2月に発行を決めた1500億円のCB。調達資金の一部を自社株買いにあてる「リキャップCB」と呼ばれる新戦略を市場は評価した。
(日経ヴェリタス2008年12月28日 2面)
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「CBはあくまでも負債と位置付けている。転換を前提とせず、手元資金で償還する方針だ。」(ヤマダ電機 岡本潤取締役兼執行役員専務 前掲紙)
負債と位置付けたCB発行がエクイティファイナンス部門のベストと評価されること自体、今年のエクイティファイナンスの低調さを象徴しています。
「山田昇・現会長の指示も希薄化を起こさず、金利を限りなくゼロにしろというものだった。」(岡本専務 前掲紙)
リキャップというより、”金利ゼロ&希薄化回避”の条件をクリアするための解がリキャップCBであったということだったのですね。
私のブログでは2008年2月27日にこのディールを取り上げました(http://cfonews.exblog.jp/7371460)。
そこで私は次のような指摘をしています。
「それからもう一つ、何故CBかという点です。資本構成変更が本件の目的なら、エクィティ系のファイナンス手法であるCBを利用するのは矛盾しています。つまりCBによってファイナンスしたい理由があるのです。それは恐らくゼロクーポンのメリットを享受するというところにあるのだと思います(会計上も社債利息を計上しないことができます)。」
リキャップというのは資本コスト引き下げのために行われる、資本構成の変更のことですが、そのためには負債で資金調達し、この資金で自己株取得をする必要があります。
このCBは最適資本構成を指向するものではなく、ゼロコストのためのCB発行+CBの希薄化効果を排除するための自己株取得=(結果として)リキャップCBであったということです。
それにしても山田会長の「希薄化を起こさず、金利を限りなくゼロにしろ」という指示は、単純明快で何とも言えず迫力を感じますね。
【リンク】
2008年2月26日「2013年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債及び2015年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行について」株式会社ヤマダ電機
2008年2月26日「自己株式の取得に関するお知らせ(会社法第165条第2項の規定による定款の定めに基づく自己株式の取得)」株式会社ヤマダ電機
【CFOならこう読む】
リックコーポレーションの株式上場の概要は次の通りです。

リックコーポレーションは、1955年設立岡山地盤に近畿・瀬戸内地方にホームセンター、ペットショップを展開している会社です。
公募価格は330円、2009年2月期見込みEPSが62.58円なのでPER5.2倍という水準での株式公開となりました。初値は公募価格と同じ330円でした。

リックコーポレーションの主な資本政策は (表2)の通りです。

自己株式50万株を全て売り出しに回している点が特徴的です。2008年2月期の自己株式の帳簿価額が78,679千円なので、1株当り@157円と比較的高めの価格で自己株取得を行っています。前オーナーの持株を買い取ったのかも知れません。
(表3)は、リックコーポレーションの株主構成です。

筆頭株主は、社員持株会(持株比率20.9%)となっています。その他ストックオプションを従業員に付与しており、従業員に対するインセンティブは厚いと言えます(ただし25万株相当は行使価格が400円)。
菅原社長の持株比率は8%に過ぎず、役員、従業員持株会、銀行の持株を合わせて50%超となる資本政策となっています。自己資本比率が2008年2月期で9.6%と非常に低いことと相俟って、経営体制は相当に不安定であると言えます。
【リンク】
平成20年11月「新株発行並びに株式売出届出目論見書」株式会社リックコーポレーション
統計過信のツケ 漂流するリスク管理
「まさか相関係数が一に近付くとは」。富国生命保険の桜井祐記取締役は今秋の想定外の金融市場の動きに困惑した。これは日本株、外国株、商品などが同じような値動きをし、リスク抑制の基本手段である分散投資の効果が得られなくなったことを意味する。
金融危機で投資家のリスク管理は根本から揺らいだ。金融機関はバリュー・アット・リスク(VaR)と呼ばれる統計的手法で株、債券などの損失可能性を予測し、資産配分している。1978年ー2007年の30年間の日経平均株価の値動きを前提に計算すれば、1日で5%以上動く可能性は1万分の1以下。これを「無視しうる頻度」と判断して、見合った資金を投じていく手法だ。
(日本経済新聞2008年12月26日 13面 株価 金融技術の限界 下)
【CFOならこう読む】
金融機関に限らずバリュー・アット・リスク(VaR)はもっともポピュラーなリスク計量手法のひとつで、ほとんどのビジネススクールで教えられています。
VaRを言葉で表現すると次のようになります。
「①過去のある一定期間のデータをもとに、
②将来の特定の期間内に、起こりうる収益率の分布を予測し、
③ある一定の確率の範囲内で、
ポートフォリオの現在価値がどの程度損失を被るかを、理論的に算出された値」
(「バリュー・アット・リスクの基礎知識」吉田洋一著 シグマベイスキャピタル)
日銀は、VaRのメリットとデメリットを次のように説明しています。
「メリット
為替・債券・株式等、全く異なる金融資産でも、VaRによって統一的にリスクを計量化し、さらに、相関等を考慮した上で合算することもできる。
デメリット
① 過去の一定期間のデータを使ってリスクを計量化するため、使用したデータに含まれないような大きな価格変動やショックが発生した場合のリスクは、十分に把握できない。
② 従来リスクとして十分認識されていなかった要素や、新商品のようにデータの蓄積のない取引に関しては、そもそもリスクの計量化自体が困難。
③ 予想される損失について一定の確率分布を仮定した上でリスクの計量化を行うため、前提が崩れた場合のリスクは分からない。」
(「統合リスク管理の高度化」日本銀行金融機構局)
「10月16日の日経平均株価の下落率(11.4%)について、発生確率を予測すると、その発生確率は124京年(京は兆の1万倍)に1回という天文学的数字となった。」
(前掲紙)
まさに、今年「使用したデータに含まれないような大きな価格変動やショックが発生した場合のリスクは、十分に把握できない」ような事態が起きたのです。
「定量モデルに依存するだけでなく、定性的な判断を重視する必要性が高まっている」(ボスコン 木島康史氏 前掲紙)という意見はその通りですが、マネジメントにとって依るべき定量モデルが必要であるのもまた事実です。
そういう意味では、リスク評価の第一人者である森平教授の、「リスク管理の抜本的な見直しは、数年以上かかる膨大な作業で、現状は暗中模索の段階だ」(前掲紙)という言葉から、我々は依るべきモデルを失ったという事実を宣告されたような気がして、暗澹とした気持ちになります。
【リンク】
2005年7月「リスク管理高度化と金融機関経営に関するペーパーシリーズ 統合リスク管理の高度化
」日本銀行金融機構局
東京証券取引所は2009年夏をメドニ、特定の投資家に新株を割り当てる第三者割当増資に規制を導入する。増資額が既存株数に比べて異常に大きいなど、既存の株主の価値を損なう増資が新興企業を中心に相次いでおり、締め出すのが狙い。
(日本経済新聞2008年12月25日 7面)
【CFOならこう読む】
「具体的には、既存株主の1株あたり利益の目減りにつながる大規模な増資について公表し、上場企業やその株主に警告する。東証が今年導入した違約金の対象にも加える。
東証は一律で規制する数値基準は導入しない方向だ。ただ、特別の事情がなく発行済み株式が一気に二倍に増えるような規模の増資が対象となると見られる。」
何とも中途半端な規制です。大規模な増資を発表した企業の株価は希薄化するうえ、企業に対し違約金を課すのでは、一般株主にとって弱り目にたたり目です。
ニューヨーク証券取引所のように20%といった数値基準を明確に設けることが必要でしょう。20%以上の増資でも株主総会の決議により実行可能という規制の仕方にするのならまたぞろ多くの企業が株式持合いを進めるでしょうから、これを規制する必要もあります。
私は、原則株主全員に各自の持分に応じ新株を割り当てる、”株主割当”を増資の場合の原則にするのが良いと思っています。
【リンク】
なし
日本電産が買収断念「予想外」 東洋電副社長「深まった溝、やり方強引」
日本電産が仕掛けた東洋電機製造買収劇は、TOB提案の期限切れという形で幕を閉じた。90日間の攻防は東洋電機に何をもたらしたか。最前線で交渉にあたった田中啓資副社長がその裏側を語った。
(日経ヴェリタス2008年12月21日 21面)
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以下上記記事からの抜粋です。
「-鉄道事業に強い関心を示した電産の当初の意気込みからすると、あっけない結末だった。
田中 予想外だった。買収提案の期限だった15日は当然、条件を変えて再提案するか期限延長だろうと思っていた。しかし、電産の発表資料には再提案はしないと書いてある。年末年始、休日返上で臨戦態勢を敷くつもりだったので、安堵したと同時に、正直言って拍子抜けした。
-情報交換の時間は十分あったが理解が深まらなかった。
田中 逆に溝が深まった。5日の面談では両社長は言葉すら交わさなかった。電産の情報提供は不十分。シナジー効果の根拠を何度も問い合わせたのに明確に示さない。労働条件についても同様で、労働強化は確実だと思った。この業界は技術者の引き抜きも多い。労働強化されたら人材も流出する。取引先も大株主も労働組合も反対だった。」
(前掲紙)
要するに、永守流の効率性を追及する経営に、東洋電機の従業員は耐えられず、人材流出が止まらなくなって企業価値を毀損する、と言っているのです。それが真実なら過去電産が買収した会社が業績を劇的に改善している事実を田中福社長はどう説明するのでしょうか?
TOB価格635円に対し、12月22日終値は245円。本来なら電産による買収を進められなかった経営陣の責任が問われてしかるべき、と私は思います。
【リンク】
なし
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paperboy&co.の株式上場の概要は次の通りです。

paperboy&co.は、2003年設立、個人向けにサーバー貸し出しなどのホスティング事業や(EC)電子商取引支援、ブログやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などのコミュニティー事業を展開している会社です。GMOインターネットの子会社です(上場直前時点ほ57.7%保有)。
公募価格は1900円、2008年12月期見込みEPSが179.67円なのでPER10.5倍という水準での株式公開となりました。先日のグリーがPER22.2倍でしたので、それと比べると公開価格は相当に低いと言えます。初値は4000円で、公開価格の倍以上の値がつきましたが、これはIPO市場の回復を示すものではなく、単に公開価格が低かったということなのかも知れません。

paperboy&co.の主な資本政策は (表2)の通りです。

2004年3月の第三者割当増資によりGMOインターネットの連結子会社になりました。
家入社長は、2006年5月に社員持株会に2株及び12月にGMO関連の会社に24株株式移動を行っています。逆算すると、家入社長の持株は、第三者割当増資時点で127株であったことになり、第三者割当増資によりきっちりGMOインターネットが発行済株式255株の過半数の持分を保有するに至ったと推定されます。
(表3)は、paperboy&co.の株主構成です。

上場後もGMOインターネットが過半数の持株を維持する資本政策になっています。
親子上場がコーポレートガバナンスにおける大きな問題となっている中、このIPOに問題はないのでしょうか?
上場時の記者会見で家入氏は次のように答えています。
「―親子上場が批判されているなか、あえて上場した理由は。
家入社長:GMOグループ全体としてホスティングをやっているが、ペーパーボーイは個人向けで完全にすみ分けができている。さらに事業を拡大するために上場した。
―公募増資をした後のGMOの出資比率は。
家入社長:今は、分からない。」
(「ペパボ」上場、初値は大幅上昇 会見はドタバタより抜粋
http://it.nikkei.co.jp/business/news/index.aspx?n=MMITac000019122008&landing=Next)
目論見書を見る限り、関連会社との取引は少なからず存在し、その中には親会社に対する寄託金3億円(現時点において契約解消済)なんていうのもあるところを見ると、親会社と少数株主との間に重大なコンフリクトが生じる可能性があると思います。そもそもGMOに出資比率を即座に答えられない家入社長には、コーポレートガバナンスへの意識が欠如していると言わざるを得ません。
スピンオフが税制上実行不可能な現状において、親子上場は致し方ない場合もありますが、このIPOは正直私には理解できません。
【リンク】
株式会社paperboy&co.
日銀、0.2%利下げ 白川総裁「最大限の貢献行う」
日銀は19日の金融政策決定会合で、政策金利を年0.3%から0.1%に引き下げることを決め、即日実施した。長期国債の買い入れ増額やコマーシャルペーパー(CP)の買い取りなど、資金供給策も拡充する。海外経済の後退や円高の進行で景気がさらに落ち込むリスクが高まり、金融政策面で一段の下支えが必要と判断した。日銀の白川方明総裁は記者会見で「中央銀行としてなし得る最大限の貢献を行う」と企業の資金繰り支援策をさらに検討することも強調、景気の底割れ回避に全力で取り組む決意を表明した。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT2C1902L%2019122008&g=E3&d=20081219
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FRBがゼロ金利を決めた影響で、「相対的に金利が高くなった円が買われ、為替市場では約13年ぶりに1ドル=90円を突破する円高・ドル安が進んだ。頼みの輸出産業が大打撃を受けた日本経済にとって、一層の円高はまさに「弱り目にたたり目」である。
(前掲紙)
円高は悪なのでしょうか?
そもそもすべての輸出産業は円高によって本当に大打撃を受けるのでしょうか?
例えば輸入資源価格の高騰を受け、鋼材輸出企業である新日鉄、JFEホールディングス、神戸製鋼は軒並み決算を上方に修正しています。円高の水準にもよりますが、円高=輸出産業大打撃ということには必ずしもなりません。
輸出産業にとって円高が望ましくないとしても、それが直ちに日本全体にとって望ましくないということにはなりません。この点、昨日に引き続き、野口悠紀雄氏「世界経済危機 日本の罪と罰」(ダイヤモンド社)から引用したいと思います。
「円高こそが、経済成長の利益を日本人が享受するための自然なルートなのである。なぜなら、「円高」とは、日本人の労働価値が高く評価されることだからである。
(中略)
消費者の立場から見て望ましい変化が生じたときに、それを打ち消すような圧力が生産者(とくに輸出産業)から生じるのが、日本の経済政策の基本的バイアスである。こうしたバイアスは、最近時点に始まったものではない。
日本の経済論議や経済政策論議は、高度成長期以来一貫して、消費者無視のバイアスを持っていた。ただし、これまでは、それに一定の合理性があった。多くの人は消費者であると同時に生産者でもあるため、企業が発展すれば賃金が上がり、生活水準が向上するからだ。
しかし、いまや企業が成長すれば自動的に消費者の生活が向上するという保障はない。日本人は、企業人としての立場と消費者としての立場を、秤にかけて勘案すべき段階にきている。」
日銀白川総裁の会見要旨を見る限り、日銀としては、円高=悪との判断はないようで、少しだけほっとしています。
【リンク】
世界経済危機 日本の罪と罰
野口 悠紀雄

ダイヤモンド社 2008-12-12
売り上げランキング : 92
2008年10月31日「2008年度第2四半期決算及び通期業績見通しについて」株式会社神戸製鋼
http://www.kobelco.co.jp/ICSFiles/afieldfile/2008/11/07/ir_siryo.pdf
2008年10月24日「JFEグループ2008年度 上期決算 2008年度 業績見通し」JFE
http://www.jfe-holdings.co.jp/investor/zaimu/g-data/jfe/21/21-setumei081024.pdf
「実績と業績予想 2008年3月期連結業績実績」新日本製鐵株式会社
http://www.nsc.co.jp/ir/individual/finance.html
【CFOならこう読む】
グリーの株式上場の概要は次の通りです。

グリーは、2004年設立、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「GREE」を運営。ユーザーのプロフィル、日記、コミュニティー、フォト、メールなどの情報発信をサポートする機能やユーザー間のコミュニケーションの場を提供している会社です。従来はPC向けが中心でしたが、KDDIとの事業提携により2006年11月からモバイル向けのサービスを展開しています。
公募価格は3300円、2009年6月期見込みEPSが148.80円なのでPER22.2倍という水準での株式公開となりました。上場時の売出しにより、創業社長の田中良和氏は33億円の、創業すぐに投資をしたApax Glovis Japan Fundは38億円のキャピタルゲインをそれぞれ獲得しています。
グリーは昨日上場しましたが、上場初値は公募価格を52%上回る5000円でした。時価総額は昨日終値で1070億円とミクシィの880億円を超え、マザーズ首位となりました。

グリーの主な資本政策は (表2)の通りです。

2005年2月にグリー(株)(三鷹市 存続会社のグリーとは別会社)を吸収合併しています。目論見書によると2006年7月までは楽天が株主でした。田中氏は楽天出身なのでそれ自体はどうということはないのですが、わざわざ別会社を作って三鷹市のグリー(株)を吸収合併したのは、この辺の過去の経緯を抹消する狙いがあったのかも知れません。ちなみに2006年7月に楽天はグリー株式をリクルートに譲渡しています。リクルートはこれによってKDDIと並ぶ第3位の株主になっています(上場後では第2位)。
(表3)は、グリー(株)の株主構成です。

田中社長単独で過半数の株式を確保する資本構成になっています。従業員持株会は設立しておらず、役員・従業員へのインセンティブはストックオプションによっています。そのため潜在株式の比率は9.07%(上場直前時点)と比較的高い水準になっています。
【リンク】
平成20年11月「新株式発行並びに株式売出届出目論見書」グリー株式会社
ホンダ、工場稼働延期 減産、国内12社では220万台強に
世界的な自動車需要の縮小を受け、自動車各社が事業計画の見直しを急いでいる。ホンダは17日、国内の新工場・研究所の稼働延期を柱とする事業計画見直し策を発表。2008年度下半期(08年10月―09年3月)は営業赤字に転じる見通しで、戦略的な投資削減に踏み込むことで急場をしのぐ。日産自動車も減産幅を拡大。日本の自動車メーカー12社が世界で取り組んでいる減産規模は今年度、当初計画比で1割弱に当たる220万台強となる見込み。米国発の金融危機が顕在化して以降、業績悪化が急速に進んでいる。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20081218AT1D170BR17122008.html
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20081219AT2D1802818122008.html
【CFOならこう読む】
2008年11月6日にトヨタは業績の下方修正を発表しました。そこで発表されたのは、営業利益が対前年度で73.6%減少して6000億円になるという驚愕の内容でした。世に言う”トヨタショックです。そしてそれから1ヶ月と少ししか経っていないのに、さらに業績が悪化し、営業利益がマイナスとなる見通しと報道されました。2008年3月期には2兆2703億円であった営業利益が全て吹き飛んだのです。
これは大変なことです。日本における自動車産業の重要性を鑑みると、日本経済全体が危うい状況にあると言ってよいでしょう。しかし何故こんなことになっているのでしょう。今はまず現状を正しく理解することが大切だと私は思います。
野口悠紀雄氏は、最近出版した「世界経済危機 日本の罪と罰」(ダイヤモンド社)の中で、今起きていることは、「アメリカ発の金融危機が日本に飛び火している」のではなく、「問題はマクロ経済の歪みであり、日本はその中心に位置している。今後の景気後退は不可避」と指摘しています。
私は野口氏の見解は極めて本質を突いたものだと思っています。野口氏が言っていることを要約すると次の通りです。
「アメリカ人の過剰消費が90年代末からのアメリカの経常赤字の拡大を生んだ。大きな家に住み、自動車を数台所有するという生活が過剰消費を生んでいる。アメリカが経常赤字を持続するには、資本取引によりファイナンスする必要がある。そのためにはドルが減価しないことが大前提となる。ところがサブプライム以降ドルの信認がゆらぎ、この構造を維持することが不可能になっている。であるなら、もはやアメリカの経常赤字は維持できず、過剰消費も改めざるを得ない。
日本は脱工業化が必要であるにも関らず、本当に必要な構造改革を断行せず、低金利・円安政策により、古い産業構造を温存した。これが円安バブルを生み、見せかけの日本の景気回復に繋がったが、決して日本経済が強くなったわけではない。
円安バブルが、円で資金調達し高金利通貨で運用する「円キャリー取引」を増加させ、これがサブプライムローン関連金融商品に回った。2005年以降の企業収益の増加と株価の上昇はこの円安バブルによるものである。現在この「円キャリー取引」の巻き戻しが起きており、円高をもたらした。円ドルレートの調整はまだ終わったとは言えず、さらなる円高もあり得る。
アメリカの経常赤字縮小は、日本の経常黒字縮小を意味する。日本の貿易黒字縮小は不可避だ。GDPの5%のマイナス成長もあり得る。
中長期的に見てより大きな問題を抱えているのはアメリカよりむしろ日本だ。これからの日本は、制御不可能な事態に直面する可能性がある。必要なのは日本経済の構造大転換。」
そして野口氏はベンチャー企業の起業の重要性を強調しています。
その通りだとは思いますが、今の日本ではグリー程度の会社がもてはやされるに過ぎません。淋しい限りです。
【リンク】
世界経済危機 日本の罪と罰
野口 悠紀雄

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