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2009 年 5 月 のアーカイブ

「上場有価証券の評価損に関するQ&A」- 第一三共のケース

第一三共は28日、2009年3月期連結決算を訂正した。12日に決算発表した時点では最終損益を3,358億円に赤字が縮小した。昨年買収したインド製薬会社の株価下落に伴って決算に計上した株式評価損が、政府の景気対策によって税務上の損金と認められたことが原因。法人税などの負担が約1,200億円減った。
(日本経済新聞2009年5月29日15面)

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「第一三共は前期にインド製薬大手のランバクシー・ラボラトリーズを約4,900億円で買収。その後、同社の株価が製品の対米輸出禁止などに絡んで急落したことを受けて、単独決算で「関係会社株式評価損」として4,026億円を特別損失に計上していた。先の決算発表時点では、この評価損を、税務上の損金には算入しないとして会計処理した。
だが、政府が法人税の負担を軽くするために有価証券の評価損を損金に算入しやすくする方針を表明。4月に入り、国税庁が指針を発表した。第一三共はこれを踏まえ、4月末に株式評価損を損金に算入できるかを税務当局に問い合わせたという。先週「損金算入は妥当」との見解を得たことから、決算の訂正に踏み切った。」
(前掲紙)

第一三共は、決算訂正の理由を次のように説明しています。

「【訂正理由】
当社の個別財務諸表において特別損失に計上しました「関係会社株式評価損」のうち402,420百万円は、当初、税金計算上の損金とすることは困難であると判断し、損金不算入として処理しました。その後、4月3日に国税庁から「上場有価証券の評価損に関するQ&A」が発出され、株価の回復可能性について具体的な判断時期の基準等が明確化されたことなどから、処理の妥当性について再検討を開始しました。その取扱いについては損益に与える影響が多大であるため、外部関係者の見解を確認するなど、慎重に検討して参りました。
検討の結果、当該処理について損金算入することが妥当であるとの判断に至ったことから、「平成21年3月期 決算短信」において記載しました連結財務諸表及び個別財務諸表の数値並びにそれらに関係する各種指標等を訂正するものであります。」

文中、「上場有価証券の評価損に関するQ&A」が発出され、株価の回復可能性について具体的な判断時期の基準等が明確化された」とあります。

上場有価証券の評価損に関するQ&Aの要旨は次の通りです。

  1. 必ずしも株価が過去2年間にわたり帳簿価額の50%程度以上下落した状態 でなければ損金算入が認められないというものではない。
  2. 「近い将来回復が見込まれない」との判断のための画一的な基準を設けることは 困難であるが、法人の側から、過去の市場価格の推移や市場環境の動向、発行法人の業況等 を総合的に勘案した合理的な判断基準が示される限りにおいては、税務上その基準は尊重 される。
  3. 監査法人による監査を受ける法人において、上場株式の事業年度末における株価が帳簿価額の50%相当額を下回る場合の株価の回復可能性の判断の基準として一定の形式基準を策定し、税効果会計等の観点から自社の監査を担当する監査法人から、その合理性についてチェックを受けて、これを継続的に使用するのであれば、税務上その基準に基づく損 金算入の判断は合理的なものと認められる。
  4. 翌事業年度以降に株価の上昇などの状況の変化があったとしても、そのような事後的な 事情は、当事業年度末の株価の回復可能性の判断に影響を及ぼすものではなく、当事業年 度に評価損として損金算入した処理を遡って是正する必要はない。

上記2又は3の点で損金算入が認められることの確認を税務当局に行い、税務当局から「損金算入は妥当」との見解を得たものと
思われます。

【リンク】

2009年5月19日「新興市場のあり方を考える委員会報告書」日本証券業協会 新興市場のあり方を考える委員会 [PDF]

2009年5月28日「(訂正・数値データ訂正あり)「平成21年3月期 決算短信」の一部訂正について」第一三共株式会社

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アデランス委任状争奪戦、スティール勝利

アデランスホールディングスは28日午前、東京都内で定時株主総会を開き、会社が資本業務提携を予定していた国内投資ファンド、ユニゾン・キャピタルからの役員受け入れを反対多数で否決した。一方、対立する筆頭株主の米スティール・パートナーズが推す役員候補は全員承認された。これを受けてユニゾン主導の経営再建計画は白紙となる見通しだ。
NIKKEI NET2009年5月29日

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「米投資ファンドのスティール・パートナーズはアデランスの株主総会で自ら提案した取締役が選任されたことで、アデランスの経営改革を急ぐ考えだ。スティールにとって投資先企業の経営に深く関与する初の事例でその成否は未知数。今後は他の株主や社員などに対しても一定の責任を負うことになる。」(前掲紙)

スティールの現時点における持株比率は26.7%です。
当面この持株比率を維持したまま、経営改革に取り組むのか、安定多数を確保した上で経営に当たるのかが注目されます。

新経営陣の事業目標は次の通りです。

  • 収益性の回復とアデランスの中核事業である男性用毛髪事業の運営改革
  • アデランスの経営資源を重要な女性向け事業セグメントへ向けるため、女性関連事業を統合
  • 効率性と収益性を最大化するため、現在複数ある北米子会社を完全統合
  • ターゲット顧客分析、各広告宣伝や販路チャネルの費用対効果の検証を含めた、マーケティングと広告宣伝実務の刷新・改善
  • アデランスの長期的安定と業績改善に資する、健全で効率的なバランスを創るための、コスト構造と運転資金需要の見直し
  • 非事業性資産の処分を加速
  • アデランスの資本の使途を改善するため、資源配分とキャッシュマネージメントシステムを再構築
  • 固定費の見直しと改善
  • 株主を持分希釈化から守るため、アデランスの自己株式保有を見直し、その消却を検討

ユニゾンの価格を大幅に上回る価格でTOBを行い、50%超の持株比率を確保した上で、本腰を入れて経営改革に当たるべきであると私は思います。

いずれにしても、濫用的買収者だ、グリーンメーラーだ、はげたかファンドといった、謂れのない誹りを受け続けて来たスティールにとって、自分たちが何物であるか、さらに「経営者を教育しにきた」というリヒテンシュタインの発言に嘘がないことを、世の中に知らしめる千載一遇のチャンスです。

ぜひともキチンとした成果を出してもらいたいものです。

スティールは昨日発表したプレスリリースで、”日本のコーポレートガバナンスに新たな進展”と自画自賛していますが、成果が出せなければ、日本のコーポレートガバナンスは大きく後退する可能性があることを肝に銘じて、事に当たってもらいたいと切にお願いする次第です。

【リンク】

2009年5月28日「スティール・パートナーズ推挙の全候補者、株式会社アデランスホールディングスの取締役に選任される」スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)、エル・ピー[PDF]

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ルネサステクノロジ・NECエレクトロニクス、統合比率1対1

2009 年 5 月 28 日 コメント 1 件

ルネサステクノロジの赤尾泰社長は27日、日本経済新聞記者と会い、来年4月をめどに合意しているNECエレクトロニクスとの経営統合について「(企業価値ベースで統合比率は)1対1を基本としている」と述べた。仮に資産査定の結果、企業価値がNECエレを下回った場合は、日立製作所など主要株主からの増資も「可能性はある」とした。
(日本経済新聞2009年5月28日11面)

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今どきこんなことを言う人がいるんですね。

統合比率1対1に拘る企業再編が昔はたくさんあって、その度に、いかに統合比率を1対1にするかでアドバイザーが知恵を絞らなければいけませんでした。

それにしても赤尾社長は、増資をすれば株主価値をあげることができるとお考えのようですが、それは間違いです。

公正価値で増資を行う限り、1株当たり株主価値に影響を与えません。
もっとも日立製作所など主要株主が公正価値を上回る価格で増資を引き受けるというなら話は別ですが・・・

企業価値ベースでというのは、株主価値総額でという意味かも知れません。もしそうなら、統合比率1対1というのはミスリードですね。

【リンク】

なし

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経済産業省の企業統治向上案

2009 年 5 月 27 日 コメント 1 件

経済産業省は26日、コーポレートガバナンス(企業統治)を向上させる制度案をまとめた。上場企業の経営監視体制を強化するため、社外取締役を置くか独自の対策をとるかを選ぶ制度を設ける方針を示した。政府内の調整を急ぎ、証券取引所の上場規則などに具体策を盛り込むよう求める。日本の株式市場の活性化に向けて、少数株主が安心して投資できる環境を整える。
NIKKEI NET2009年5月27日

【CFOならこう読む】

新聞記事によると、新制度案は次の通りです。

日本経済新聞 2009年5月27日 5面より

日本経済新聞 2009年5月27日 5面より

「社外取締役を置くか独自の対策をとるかを選ぶ制度を設ける方針を示した」とのことですが、会社法の改正は予定されていないとのこと。

それで本当に実効性があると思っているのでしょうか?

シャルレのケースを見てもわかる通り、社外取締役は会社法に従い訴えられることもあるのに対し、経営諮問委員会のような独自制度を採用した場合は、責任を問われない、というのでは衡平性を欠きます。

また社外役員の資格要件を厳格に定めることも見送られたことも不満です。今の日本のコーポレートガバナンスの最大の問題は、経営者の自己保身を防ぐ手立てがないところにあります。

経営者が自己の監視役を選択できるのでは何の意味もありません。

こんなものを作るために時間と労力をかける研究会とはいったい何物でしょう?
しかも議事要旨を見たくても、3月25日開催分すらいまだ開示されていません。

いいかげんにしろ、と私は言いたい。

カテゴリー: コーポレートガバナンス タグ:

帝人の実質的ディフィーザンス

帝人は25日、社債の実質的な期限前償還に伴う資金運用で、2010年3月期に72億円の特別損失を計上すると発表した。社債の利息を確保するために証券化商品を購入したが、昨年秋以降の金融危機の影響で価格が急落し損失が発生。高リスク商品を使った資金運用が裏目に出た格好だ。
(日本経済新聞2009年5月26日14面)

【CFOならこう読む】

社債の実質期限前償還(実質的ディフィーザンス)は負債をオフバランス化することにより、バランスシートをスリム化することを目的に行われます。具体的には、企業が社債の元利金を信託銀行に払い込み、信託銀行は国債など安全資産でこの資金を運用し、社債投資家への元利金払いに充当される仕組みになっています。

20090526

日本経済新聞 2009年5月26日 14面より

オフバランスの為の要件を、金融商品会計に関する実務指針46項は、「取消不能で、かつ社債の元利金の支払に充てることを目的とした他益信託等を設定し、当該元利金が保全される高い信用格付けの金融資産(例えば、償還日がおおむね同一の国債又は優良格付けの公社債)を拠出することである」としています。本件では格付けがトリプルAの債務担保証券(CDO)などで運用してとのことですが、金融商品会計に関するQ&Aは、「わが国において、元利金が保全される高い信用格付けの金融資産とは、国債や政府機関債のほかに、例えば、拠出時に複数の格付け機関よりダブルA格相当以上を得ている社債が含まれると考えられます」としており、この要件は充足していたものと思われます。

しかし、実際に大きな損失が生じた以上、会社に何の責任もないということはないはずです。少なくとも説明責任はあるはずです。

ところが会社のプレスリリースは、こんなもんです。

「金銭の信託により保有する有価証券の処分に伴う損失について

当社は社債の債務履行引受契約(平成17年11月29日締結)に係る偶発債務について、平成20年3月期有価証券報告書で開示(注)しておりましたが、本件に関連して信託した金銭により投資・保有していた有価証券について、現状の金融市場環境では短期間における市場価値の回復が困難であるとの判断から、この金融取引の解約を行ない、その損失額約72億円について追加拠出することを決定いたしましたのでお知らせします。従って、当該社債(当社第4回無担保普通社債:発行額150億円)は予定通り償還されます。

また、当社は平成21年3月期決算短信に記載の通り、平成22年3月期の業績予想については、現時点で将来の変化を合理的な根拠に基づいて予測することが困難な状況にあるために開示しておりませんが、上記損失の影響も含めて、遅くとも第2四半期決算の公表時期までに、早ければ第1四半期決算の公表時に開示する予定です。

(注)平成20年3月期有価証券報告書 P71(注記事項 連結貸借対照表関係)及びP98
(注記事項 連結附属明細表の社債明細表)

以上」

平成20年3月期の有価証券報告書 P71(注記事項 連結貸借対照表関係)及びP98
(注記事項 連結附属明細表の社債明細表) はこんな感じでした。

「6 社債の債務履行引受契約に係る偶発債務  第4回無担保普通社債       15,000百万円 」

「第4回無担保普通社債については、平成17年11月29日に債務履行引受契約を終結し、社債の償還債務が消滅 したものとして処理しています。 」

どうでしょうか?

この開示では、読者が、オフバラした会社の判断は妥当であったのか、このスキームで利用された金融商品は適切であったのか、経営判断に問題はなかったのか等について判断するための何の情報も得ることはできません。

「前期決算の発表から約1ヶ月経過しているが、「その時点では損失のリスクを認識していなかった」(同社)という」(前掲紙)のも全く理解できません。

この会社、ディスクロージャーの姿勢そのものに大きな問題があるように思います。

【リンク】

平成21年5月25日「金銭の信託により保有する有価証券の処分に伴う損失について」帝人株式会社

カテゴリー: 資金調達 タグ: ,

長期金利、日米欧で上昇

日米欧で長期金利が上昇している。3月以降、世界経済の底入れ期待を背景に金利上昇が目立つようになり、最近は各国の財政赤字拡大や国債の格下げへの懸念が金利水準を一段と押し上げている。金融市場で長期金利が上がると預金金利の上昇などにつながる半面、銀行の企業向け貸出金利や住宅ローン金利の押し上げ要因になり、景気回復の足かせにもなりかねない。
(日本経済新聞2009年5月25日1面)

【CFOならこう読む】

「米国の長期金利の指標である10年物国債利回りは先週末、3.45%と約半年ぶりの高水準になった。昨年12月下旬には2%割れ寸前と歴史的な低水準に下がっていた。
ドイツ国債10年物利回りも3.46%と、昨年末に比べて0.5%強上昇した。日本の10年物国債利回りも1.43%と0.26%上がっている。英国でも長期金利は上昇基調にある。」
(前掲紙)

ブログ右側にあるサイドバーのマーケットデータのグラフを見ればわかるように、日本株、米国株、長期金利が同じような軌跡をたどって上昇しています。緊急避難的に国債に流入した資金の一部が株式市場等のリスク資産に戻りつつあるのでしょう。

「長期金利の上昇は企業や個人の借入金利の引き上げにつながる。『景気回復力が弱い段階で金利が上がる”悪い金利上昇”が生じていないか(日銀関係者)と金融当局も市場の動向を注意深く見守る構えだ』
(前掲紙)

いずれにしても無リスク金利の上昇は資本コストの上昇に直結します。

来年のいま頃、いまを振り返って、あのときが長期資金調達の絶好機であったということになる可能性が高いと私は思います。

【リンク】

なし

カテゴリー: 資金調達 タグ:

シャルレ株主24人が損害賠償提訴

女性下着販売「シャルレ」(神戸市)の個人株主ら24人が22日、創業家一族の前社長を中心とした旧経営陣による自社買収(MBO)の失敗で株価が下落し損害を被ったなどとして、同社と前社長ら5人に計約3億3000万円の賠償を求め東京地裁に提訴した。
毎日.jp 2009年5月23日

【CFOならこう読む】

「シャルレのMBO失敗は異例の展開だった。開示文書によると、創業者側が2008年9月、MBOを目指し1株800円でシャルレ株のTOBを表明。社外取締役を中心とする取締役会もTOBに賛同表明した。
しかし10月、創業者側がTOB価格を低く抑えるよう不適切な圧力を会社に加えたことなどが内部通報で発覚。同社が開示したTOB意見表明報告書に詳しい経緯は載っていなかった。
不祥事の発覚で同社取締役会は12月、TOBへの賛同を撤回。買付価格近くまで上昇していた株価は急落し、現在は300円程度で低迷している。800円近くで株を買った原告側は「創業者側と社外取締役の不適切な行為がなければ株価は下落しなかった」と主張。会社法の規定などに基づき、取得価格と売却価格などとの差額を請求する」
(日本経済新聞2009年5月23日14面)

本件では、価格決定に関し創業者側から圧力があったにも関わらず、これらの経緯を「賛同意見表明書」に開示せず、一旦賛同意見を表明した後、不祥事の発覚後、取締役会が賛同を撤回するに至ったというそのプロセスが問題とされており、このプロセスそのものに取締役の重過失が認められるかどうかが争点になるものと思われます。

どのような経緯で賛同意見を撤回するに至ったかについては、平成20年12月3日「公開買付者らからの「公開買付期間の延長及び公開買付開始公告等の記載内容の訂正に関するお知らせ」について 」株式会社シャルレ[PDF]に詳細に記載されています。

これを読む限り、社外取締役にも責任があることは間違いないと思います。

【リンク】

平成20年12月3日「公開買付者らからの「公開買付期間の延長及び公開買付開始公告等の記載内容の訂正に関するお知らせ」について 」株式会社シャルレ[PDF]

ライブドア虚偽記載による損害賠償問題−地裁判決

ライブドア事件で、株価が下落して、損害を受けたとして、個人と法人株主約3300人がライブドアホールディングス(旧ライブドア)や堀江貴文元社長(36)ら旧経営陣に対し、約230億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が21日、東京地裁であった。難波孝一裁判長は有価証券報告書の虚偽記載による損害を認め、計約76億2000万円の賠償を命じた。
NIKKEI NET2009年5月22日

【CFOならこう読む】

金商法21条の2第2項は損害の額を次のように計算すると定めています。すなわち、有価証券報告書等の虚偽記載等の事実が公表されたときは、その公表日前1年以内に当該有価証券を取得し、その公表日において引き続きその有価証券を所有する者は、その公表日前1ヶ月間のその有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額)の平均額から公表日後1ヶ月間のその有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、虚偽記載等により生じた損害額とすることができる、としています。

今回の地裁判決の損害額の推定方法はこの規定にしたがって算定されたものです。本件では、公表日がいつであるのかが問題になりましたが、「検察官が広く報道機関に事実を伝達することは『公表』にあたる」として、東京地検特捜部の強制捜査の2日後の2006年1月18日、ライブドアの虚偽記載容疑が一斉に報じられたため、検察官が同日に報道機関に事実を伝達したと推認できるとしたものです。この点については昨年6月の地裁判決も同様の判断をしています。

なお、本件では株価下落には虚偽記載以外の要因(1.ライブドアの強制捜査、2.堀江元社長の逮捕、3.上場廃止の恐れ)もあったとして、公表前後1ヶ月間の株価の差額から66%を減額して損害額を算定しています。昨年6月の地裁判決における減額は約3割でしたから、それと比べて縮減額が大幅に拡大されたことになります。

今後の裁判では、妥当な縮減額がいかほどのものか、という点が主な争点になりそうです。

【リンク】

なし

M&Aにおける米国証券取引法による開示規制

日本の証券取引所だけに上場している日本の会社どうしが合併するとする。存続会社をA社、消滅会社をB社とすれば、合併の結果、B社の株主にはA社の株式が交付されることになる。
合弁当時会社には、会社法、金融商品取引法、取引所規則などによって、企業内容や合併条件についての情報開示が義務付けられている。また、合併に反対する株主には、「公正な価格」で保有株式を会社に買い取らせる権利も与えられる。
A社とB社は、事業も資金調達も日本国内だけで行っているとしよう。この合併に米国証券取引法が適用になり、膨大な開示書類を英文で作成して米証券取引委員会に登録しなければならないと言われ、納得できる経営者がいるだろうか。まず、いないだろう。
(日本経済新聞2009年5月21日17面)

【CFOならこう読む】

「ところが、合併当時会社の米国株主の保有割合が10%を超える場合には、そのような米国法上の義務が生じることがよくあるのだ。株式移転や株式交換などでも同じである。日本企業どうしの企業再編であるにもかかわらず、米国証券取引法が適用される結果、スケジュールが長期化し、コストが著しく増大する例が少なくない。」(前掲紙)

この場合、Form F-4 登録届出書(以下「Form F-4」)を米国証券取引委員会(以下「SEC」)へ届け出ることになります。

ここで開示される当時会社の財務諸表は、監査済みのUS-GAAPで作成されたものか、JP-GAAPで作成した財務諸表にUS-GAAPへの調整項目を付記したものでなければなりません。

例えば、昨年12月に公表された新日本石油と新日鉱ホールディングスとの経営統合では、この影響で統合スケジュールが、半年程度後ろにずれることになってしまいました。

「しかし、このような米国株主は、ほとんどがプロの投資家であるうえに、自らの意思で日本市場にアクセスし、日本基準による開示と投資家保護を前提にして日本株に投資しているのだ。
こうした株主の存在以外に米国資本市場との接点がない日本企業に、米国基準での開示を要求することの合理性は極めて疑問だ。」(前掲紙)

まさに正論です。正論ですが、経済のボーダレス化は、インフラとも言うべき、会計、税法、会社法、金商法といった規制のコンバージェンスを必須のものとしている点を見逃してはいけないとも思います。
会計のコンバージェンスに比し、法制面のコンバージェンスの議論は立ち後れているという感じが否めないのも事実です。

【リンク】

2009年2月27日「経営統合に向けてのスケジュール変更のお知らせ」新日本石油株式会社、新日鉱ホールディングス株式会社

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日本証券業協会「新興市場のあり方を考える委員会」の提言

日本証券業協会の「新興市場のあり方を考える委員会」(主査 野村総合研究所の大崎貞和主席研究員)は19日、新興市場の改善策を発表した。新興企業の内部統制に関する規制を緩和し、コスト負担を軽減すべきだと提言した。
(日本経済新聞2009年5月20日 4面)

【CFOならこう読む】

当該報告書は、新興市場のあるべき姿としての考え方を整理した。その 考え方を前提として、各セクター(証券取引所、証券会社、発行会社、証券業協会)に対して、具体的な提言を取りまとめた形で公表されたものです。

提言の中で重要なものを抜粋すると次の通りです。

1.証券取引所に対する提言

・市場の位置づけを明確化する
・市場統合に向けた取引所間の再編のための検討を関係者間で行うことも必要
・上場機会の拡充、上場廃止の厳格化

2.証券会社に対する提言

・引受証券会社は、主幹事となった上場会社について、IRや適時開示、経営アドバイス等に関して上場後のサポートを一定期間行う必要がある

3、上場会社(経営者)に対する提言

・上場後も証券市場及び投資家からの信頼を確保できるよう、内部管理態勢の維持向上に努めるとともに、上場を境として会社及び経営者を取り巻く環境が変化しても、安易に経営方針や経営哲学を変更したり、社会規範にもとる行為を行うことのないよう、経営者としての資質の向上に努める

4.証券業協会に対する提言

・新興市場に上場する会社への内部統制等の適用に関する規制の緩和について検討を要請する。例えば、米国では新規に上場する企業については、上場初年度の内部統制報告書の提出及び内部統制監査が免除され、いずれも上場翌年度からの適用となっており、コスト面での負担が軽減されている。
・新興企業及び新興市場の発展に向けて、証券税制に関する税制改正要望の取りまとめにあたり、実現に向けた協力を要請する。

新興市場再編についてイニシアティブを取るといった意欲はあまり見られず、この点については、「市場統合を直ちに推奨するものではないが、各取引所において市場コンセプトの明確化を図ることができない場合には、経営の規模の経済性の観点も踏まえ、市場統合に向けた取引所間の再編のための検討を関係者間で行うことも必要である」といった消極的な提言にとどめています。

結局のところ、「新興企業の内部統制に関する規制緩和し、コスト負担を軽減すべき」という提言だけが目立つ報告書になっています。

しかしこれについても、上場準備の段階では内部統制も含め、会社は管理体制を一所懸命作るのに、一旦上場してしまうとそれらはないがしろにされてしまうというのが、現在の最大の問題点であるのに、上場準備の段階で内部統制の整備・運用は不要であるとの誤解を招きかねないと、私は思います。

【リンク】

2009年5月19日「新興市場のあり方を考える委員会報告書」日本証券業協会[PDF]

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