政府は30日、半導体大手のエルピーダメモリに対し、公的支援を使って一般企業に資本注入する改正産業活力再生法(産業再生法)の適用を認定する。同法に基づく第1号案件となる。日本政策投資銀行が優先株の形で約300億円を出資し、政府がその8割の回収を実質的に担保する。国の支援で財務基盤を強化し、エルピーダの国際競争力を高める。
(日本経済新聞2009年6月30日7面)
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どうにも僕にはよくわかりません。政府は何のために民間の事業会社に資本注入する必要があるのでしょうか?結局のところ不況対策のために何かやっているということを示したいだけなのかも知れません。
森平爽一郎先生に勧められて「ブラックスワン」(ナシーム・二コラム・タレブ著 ダイヤモンド社)を読んでいますが、その中の”見えるものと見えないもの”という章にこんなことが書かれています。
「2005年にニューオリンズを襲い、壊滅的な被害を与えたハリケーン・カトリーナのせいで、政治家が山ほどテレビに出てきて政治を繰り広げた。議員の連中は、被害の映像やホームレスになって怒っている被害者たちの画像を見て動き出し、必ず「再建」すると約束した。世知辛い世の中、何か人道的なことをするなんて、まことに気高い次第である。
で、そんな彼らは自分の懐で何かすると約束したのだろうか? 違う。 公金を使うのだ。そういうお金がどこかほかのところから出ているのを思い出そう。古いことわざに言うように、「ペテロから奪ってパウロに渡す」だけなのだ。この「どこかほかのところ」はあまり報道されない。ガンの研究に回されていた民間のお金かもしれないし、糖尿病を減らすために使われていたお金かもしれない、
(中略)
これを拡張すると、可能性が膨大にある中で私たちが判断を下すときの問題にいたる。私たちは、わかりやすくて見える結末ばかり見て、わかりにくい結末や見えにくい結末は見ない。でも、そんな見えない結末のほうが重要なのかもしれない。いや、だいたいは重要なのだ。
(中略)
政府が何かすれば、それは私たちに見える。だから政府も何かをすれば自画自賛する。一方、私たちには政府が何もしなかった場合という別のあり方は見えない。でも、別なあり方はちゃんと存在する。ただ、わかりにくくて見えにくいだけだ。」
一方、エルピーダはこのありがたい公的資金によって見事再建を果たした後、いち民間企業に戻ることができるのでしょうか?
例えば、とことんタックスコストを削減するという取り組みはできるのでしょうか?株主価値創造と相反するような要請を政府から受けたときに、断ることができるのでしょうか?
【リンク】
2009年6月27日「本日の一部報道について」エルピーダメモリ株式会社
今日は大したニュースもないので、ひとつ宣伝をさせてください。
今秋9月18日に、大手町サンケイプラザにて、僕の企画でCFOの皆様を対象にしたカンファレンスを開催します。

サブプライムがあろうがなかろうが、CFOが株主価値創造の重要な担い手であることに変わりはありません。しかし、サププライム後明らかに変わったこともあります。その一つが「リスク管理」です。
世界的な金融危機で、市場は混乱し、従来の「リスク管理手法」が通用しない事態に陥ったのです。世界中で「リスク管理手法」の抜本的な見直しが行われています。そんな中にあっても、CFOは市場リスク・信用リスクから逃げるわけにはいきません。多くの疑問を持ちながら各社各様の方針でリスクに立ち向かっているはずです。
「リスク管理手法」の抜本的見直しの動向を踏まえた上で、指針と具体的なソリューションを、多くのCFOの皆様と共に考えたい。
そこで、今回のカンファレンスのテーマは、
”いま、CFOは市場リスク・信用リスクにどう立ち向かうか”
としました。
基調講演は、信用リスク研究の第一人者である、早稲田大学大学院ファイナンス研究科の森平爽一郎教授にお願いすることが決定しています。その他プログラムの詳細はいままさに詰めているところですが、決まり次第このブログでもお知らせします。
いずれにしても、他には類のない骨太なカンファレンスにしようと思っています。乞う、ご期待!!
「社内カンパニー制の弊害が出てしまった」と三菱ガス化学の酒井和夫社長は反省する。事業部ごとの権限委譲を進めた結果、研究開発で「各カンパニーが目先の収益につながるものばかりを追い、大型の開発案件が出てこなくなった」という。事業部の枠にとらわれず案件をリストアップして全社的に議論をする方針に切り替えた。
(日本経済新聞2009年6月27日9面)
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社内カンパニー制の場合、各カンパニーはプロフィットセンターであるだけでなく、インベストメントセンターとなります。したがって各カンパニーの業績評価指標は、投下資本利益率(ROI)またはEVAがマッチします。
研究開発を縮小すると、短期的にはROIもEVAも上昇するので、カンパニー制の導入により、行われるべき研究開発投資が行われなくなるリスクはあるのでしょう。
しかし言うまでもなく、経営において重視すべき各指標は独立して存在している訳でなく、それぞれが複雑に絡み合っています。研究開発投資を削減すれば、中長期的に税引後利益が低下するのです。そうすればROIもEVAも低下します。だから、これらを業績評価の指標としても、マネージャーは単純に研究開発投資を削減するとは限らないのです。
問われるべきは、カンパニー制やEVAの善し悪しではなく、マネジメントの善し悪しです。各カンパニー長に、5年後どうやって食っていくのかを厳しく問えば、行うべき投資が行われているかどうかはわかるはずです。
僕には「全員で議論する」というのが解決策であるとは思えません。
【リンク】
なし
3月期決算企業の株主総会が26日にピークを迎える。国内外の機関投資家に議決権行使の助言をする米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)日本法人の石田猛行日本リサーチ代表は、新日本製鉄の会長と社長の再任反対を推奨する姿勢を明らかにした。
(NIKKEI NET2009年6月29日)
【CFOならこう読む】
本日26日は、株主総会集中日です。
機関投資家による役員選任議案反対の動きが目立つようになってきています。
ISSが役員選任議案への反対を検討するのは、次の場合だそうです。
(1)株価の騰落率が市場平均を大幅に下回る
(2)株価純資産倍率(PBR)が明らかに低い
(3)3期連続赤字
(4)社外取締役がおらずガバナンスが働かない
(2)と(4)にひっかかる会社はたくさんありますねぇ。
機関投資家がこういう方向へ向かうのは当然だし、そうあるべきだとも思いますが、会社はますます株式持ち合いに走るでしょう。
株式持合いに対する規制の強化が何にもまして必要であるとつくづく思います。
【リンク】
なし
東京の住宅リフォーム会社「ペイントハウス」(現ティエムシー)の2005年5月の第三者割当増資を巡って同社に虚偽の発表をさせたとして、東京地検特捜部は24日、投資コンサルタント会社「ソブリンアセットマネジメントジャパン」(東京・千代田)社長、阪中彰夫容疑者(58)を証券取引法(現金融商品取引法)違反(偽計取引)容疑で逮捕した。
(NIKKEI NET 2009年6月25日)
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金商法は、風説の流布や偽計といった悪質行為を禁止しており、違反者を10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処することとしています(金商法197条1項5号)。
風説とは合理的な根拠もない噂、偽計とは他人を錯誤に陥れるような手段、誘惑、隠見な手段を用いる詐欺的行為のことを言います。
ペイントハウスの場合、第三者割当増資を巡って同社に虚偽の発表をさせたとして、投資コンサル会社の社長が逮捕されました。

日本経済新聞2009年6月25日 43面より
逮捕されたのは、ペイントハウスの役員等ではなく、コンサル会社の社長である点に留意する必要があります。
風説の流布・偽計等の取引の禁止の対象者には制限がなく、誰でもこれらの行為をしてはならないとされており、ペイントハウスのケースでは、資本増強がないにも関わらず、増資があったと虚偽の事実を公表させたとして、投資コンサル社長が逮捕されています。
なお、風説の流布・偽計等については、上記罰則の他課徴金制度が導入されていて、これによって得た財産は没収されます。
具体的には、有価証券等の相場を騰貴させ、その相場で有価証券等の売付け等を行った場合で、その違反行為の終了後1ヶ月以内に行われた売付け等の価額から、違反行為直前の価額を控除した額が課徴金とされます。
【リンク】
なし
ファブレス型の半導体開発会社のザインエレクトロニクスは23日、税法上の同族会社に該当しなくなったと発表した。利益が予想通りならば、税負担が軽くなり2009年12月期の純利益を押し上げる効果がある。現行の税法ではオーナー企業に対して税負担が重くなっているが、同社は飯塚哲哉社長が一部株式を贈与したため、課税対象にならなくなった。
(日本経済新聞2009年6月24日17面)
【CFOならこう読む】
会社のプレスリリースの概要は次の通りです。
「当社主要株主である代表取締役社長飯塚哲哉は個人で保有する株式のうち 1,220 株を当社取締役他に贈与することにより、持株比率を19.6%(変更前は 20.6%)としました。同氏は当社の筆頭株主である有限会社豊人(持株比率は 29.1%)の取締役を兼務し、これらを合計した議決権比率が 50%を超えていましたが、今回の贈与により議決権比率が 50%未満となり、留保金課税の潜在的対象企業ではなくなりましたのでお知らせいたします。 」
留保金課税とは、同族会社の留保金課税制度は、特定同族会社利益を一定以上留保した場合に通常の法人税とは別に特別税率(10%〜20%)を課すものです。
留保金課税の対象となる特定同族会社とは、筆頭株主(特殊関係者を含む)が保有する株式割合が50%を超える会社を言います。
ザインは、従来、飯塚氏の議決権比率が50%を超えていたので特定同族会社に該当していましたが、今般の株式贈与により特定同族会社ではなくなったということです。
資本政策上、オーナー経営者が50%超の議決権比率を確保するケースが多いと思いますが、その場合留保金課税を覚悟しなければなりません。
留保金課税の計算上、一定の控除が認められているので、思ったほど実効税率への影響が無い場合も多いのですが、それでも数%実効税率が押し上げられることになり、出来れば回避したいところです。
【リンク】
2009年6月23日「主要株主の持ち株比率の変更に関するお知らせ」ザインエレクトロニクス株式会社[PDF]
企業が新たに株式公開するIPOが急減している。2009年1月ー6月は9社と前年同期より15社減った。バブル崩壊の影響を受けた1992年上期の3社に次ぐ低水準。昨年秋以降の急速な景気悪化で株式公開を見送る企業が相次いでいる。証券取引所の上場審査が厳しくなっていることや、上場に伴い負担が増える割に資金調達面などのメリットが乏しいことも一因だ。
(日本経済新聞2009年6月23日17面)
【CFOならこう読む】
景気悪化の影響もさることながら、昨今新興市場に上場するベンチャー企業に不祥事が相次ぎ、証券取引所の上場審査が厳格化していることもIPO急減の大きな原因と考えられます。
5月15日の経済教室で、大阪市立大学の翟教授が、は2001年-2006年に新規公開した企業について分析を行い、
1.新興市場上場会社の業績は公開の1年前を頂点に逆V字型の推移を示している
2.上場後の公開企業の相対的投資パフォーマンスは、新興市場上場会社は際立って悪い。
との分析結果を示しています。
翟教授は新興市場の上場企業の質が低い原因を次のように説明しています。
「公開企業の質が低い原因には3つある。
第1が、高い公開価格での新規公開を実現させようと、費用の繰り延べや収益の繰り上げ計上で公開前の経営業績をかさ上げするという「公開前のお化粧」である。
第2が、新規公開で調達した資金を寝かせたり、不必要な負債返済や無謀な事業拡大に使ったりする非効率的な資金使途である。
第3は、新規公開後、創業者利益を手に入れ、持株比率が小さくなった経営者が経営努力を怠る放漫経営である。」
さらにもう一つ付け加えるなら、もともとベンチャー企業の事業には大きなリスクがあり、成功確率が低いけれど、うまくいけば大きな成長が期待できるので、ハイリスク・ハイリターンを望む投資家がそれなりに覚悟して資金を投ずるべき対象であるということが言えます。
つまり、成長性については誰にもわからない(だからこそ一攫千金の夢を追える)のがベンチャー企業で、市場がいくら厳格な審査をしたところで解決すべきものではありません。
新興市場で問題企業が続出するのは、駄目になる企業が多いからで、それ自体は必然と言えます。
証券取引所や証券会社は、「業績が安定的に成長するかどうか」に審査の重点をおくより、ハイリスクであることを言明した上で、IPOする企業には十分な情報を提供させ、その情報の質を高めることに注力すべきであると考えます。
あとは投資家は自己責任で投資を行えば良いのです。駄目な会社は、悪さをする前に、とっとと上場廃止にする、という点も重要ですね。
【リンク】
なし
買収防衛策の廃止をきめたアデランスホールディングス。経営陣の交代など一連の流れを方向づけたのは5月の株主総会だった。投資ファンド(米スティール・パートナーズ)と会社側(ユニゾン・キャピタル)の対決がクローズアップされた総会だが、取締役候補者に対する賛否の結果を開示したほか、株主が取締役候補一人ひとりを吟味して投票するという新たな動きも見え始めた。
(日経ヴェリタス2009年6月21日15面)
【CFOならこう読む】
「「長田志織氏37.45%、木曽健一氏37.50%••••」。11日にアデランスが発表した「定時株主総会の最終決議結果について」と題した資料が上場企業の総会担当者の間で話題になった。取締役候補者ごとの株主の賛成比率を明らかにすること自体がまず異例だからだ。議決権行使結果の開示は、英国などでは義務化されており欧州連合(EU)でも法制化の動きがある。「海外では否決に至らなくても、反対票が多かった役員は、総会後に辞任するケースがある」(ガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパンの小口俊朗社長)という。日本で開示しているのはソニーなど一部。金融庁や東京証券取引所が制度化に動き出したばかりだ。」(前掲紙)
各議案の賛成比率は次の通りです。

日経ヴェリタス2009年6月21日15面より
議決権行使結果の開示は義務化すべきでしょう。単に賛成か反対かだけでない株主の意思を会社に伝えることができるからです。
アデランスの場合は、会社側提案が全て否定されたわけでなく、ユニゾンが送り込もうとした候補者の賛成比率が非常に低く、ユニゾンとの提携が否認されたことがわかります。
こういう情報は思っている以上にガバナンス効果を生む可能性があります。
たとえばCFOである貴方だけ、他の取締役候補と比べ賛成比率が低かったら、それは”財務戦略に問題あり”という株主のメッセージとして受け取るべきかも知れません。
いずれにしても、日本的なシャンシャン総会はだんだんと通用しなくなってくるのでしょう。
【リンク】
2009年6月11日「当社第40回定期株主総会の最終決議結果について」株式会社アデランスホールディングス
経済関連の重要法が19日、相次いで成立した。税制改正では個人が住宅を買ったときなどに贈与税を減税するほか、企業の研究開発の税負担を軽くする。国民年金法の改正では、基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げる。地方の中堅・中小企業の再生を支援する機構を発足させるための企業再生支援機構法は、技術力がありながら多額の負債を抱える企業を支援する。法改正で個人の暮らしや企業経営を下支えし、景気を後押しする。
(NIKKEI NET2009年6月20日)
昨日成立した税制改正の概要は次の通りです。

法人向け減税の目玉は、研究開発減税 日本経済新聞2009年6月20日 5面より
【CFOならこう読む】
現行税制(試験研究費の総額に係る税額控除制度)は次のようになっています。
1.制度の概要
「試験研究費の総額に係る税額控除制度」は、その事業年度において損金の額に算入される試験研究費の額がある場合に、その試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除することを認めるものです。
2.試験研究費の額
この制度の対象となる試験研究費の額とは、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する原材料費、人件費及び経費のほか、他の者に試験研究を委託するために支払う費用などの額をいいます。ただし、試験研究に充てるために他の者から支払を受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額が試験研究費の額となります。
3.税額控除限度額
この制度による税額控除限度額は、その事業年度の損金の額に算入される試験研究費の額に、次の(1)の税額控除割合を乗じて計算した金額です。
なお、平成18年4月1日から平成20年3月31日までの間に開始する各事業年度(設立事業年度を除きます。以下「適用年度」といいます。)において、その法人の損金の額に算入される試験研究費の額が、次の(2)の比較試験研究費の額を超え、かつ、次の(3)の基準試験研究費の額を超える場合には、試験研究費の額に税額控除割合を乗じた金額と、試験研究費の額から比較試験研究費の額を控除した残額に5%を乗じた金額との合計額が税額控除限度額となります。
ただし、税額控除限度額がその事業年度の法人税額の20%相当額を超える場合は、その20%相当額を限度とします。
(1)税額控除割合
税額控除割合は、10%です。ただし、試験研究費割合が10%未満である場合は次の算式によって計算した割合です。
(算式)
(試験研究費割合×0.2)+8%
(注)
1 税額控除割合に小数点以下3位未満の端数(%表示にあっては、小数点以下1位未満の端数)があるときは、これを切り捨てます。
2 試験研究費割合は、次の算式によって計算した割合です。
(算式)
試験研究費割合
=その事業年度の損金の額に算入される試験研究費の額
÷その事業年度及びその事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の平均売上金額
(2)比較試験研究費の額
比較試験研究費の額とは、適用年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度において損金の額に算入される試験研究費の額を平均した額をいいます。
(3)基準試験研究費の額
基準試験研究費の額とは、適用年度開始の日前2年以内に開始した各事業年度において損金の額に算入される試験研究費の額のうち最も多い額をいいます。
4.繰越税額控除限度超過額の繰越税額控除
この制度による税額控除の適用を受ける場合において、税額控除限度額が法人税額の20%相当額を超えるため税額控除限度額の全部を控除しきれなかったときには、その控除しきれなかった金額については、一定の要件の下に1年間の繰越しが認められます。
(国税庁 タックスアンサー)
昨日成立した税制改正により、3の税額控除限度額を平成21年度及び平成22年度について時限的に20%から30%に引き上げることと、4の繰越税額控除を平成21・22年度発生分については、平成24年度までの法人税額から控除が可能となることが決定しています。

「経済危機対策」における税制上の措置 より
後者については、新聞では「繰越期間を最長3年に延長」と書かれていて、平成22年度発生分について平成25年度まで控除可能であるように読めますが、平成24年度までですので、ご留意下さい。
【リンク】
「経済危機対策」における税制上の措置[PDF]
鉄鋼業界の収益環境に不透明感が漂っている。自動車や電機など顧客の減産がいつまで続くのか見通せず、鋼材需要予測を立てるのも困難な情勢だ。大手各社が2010年3月期の業績予想見通しを「暫定値」と断って開示するなか、唯一非開示としたのがJFEホールディングス。数土文夫社長にその背景と見通しを聞いた。
(日本経済新聞 2009年6月19日 15面 トップに聞く企業戦略)
【CFOならこう読む】
「-昨年に続き2年連続で業績見通しを開示しませんでした。
本当は出したい。しかしマクロ経済や世界の鉄鋼需要の動向が全く読めない。原材料価格や鋼材価格も以前よりはるかに大きく揺れ動くうえ、期初時点ではこれらの価格も決まっていなかった。
こうした状況で収益予想などできるはずがない。合理的な予想ができないのにあえて数字を出してもミスリードするだけだし、マーケットを変に利益誘導しかねない
収益力に自信がないから出さないのではない。合理的に説明できないなら軽々に出さない方が誠実で正直だ。欧米の主要企業でも非開示は多い。米国では上場企業の40%が、欧州上場企業でも時価総額トップ10企業の多くが予想を出していない。海外の経営トップと話すと私の考え方が正常と言われる。
合理的に説明できないのに予想を出す日本の経営者の方が奇異な感じがする」(前掲紙)
日本では業績予想を発表し、これを達成するのが上場会社の責務であると言われます。しかし、業績予想を発表することの弊害はあまり議論されていないように思います。
合理的な予想でないにも関わらず、一旦公表するとこれに縛られ相当乱暴なことをしてでもこれを達成しなければならないといった業績予想を達成したら後の利益は翌期に繰り延べるという誘因が経営者に働いてしまうとか、業績予想の修正との兼ね合いで自己株取得等の株主還元策が適時に行えないとか、業績予想を発表する弊害は様々に存在します。
「-株式市場からは批判もあります。
海外の機関投資家を訪問して批判を受けたことはない。逆に無理して予想を出して後に何回も業績修正する方が経営責任の放棄だ。最新の正確な情報をできるだけ早く市場に知らせるのが経営者の義務。だからむしろ決算発表の早期化が重要で、今期は前期より1週間前倒しできないか検討したい。」(前掲紙)
まさに正論です。そもそも予想屋じゃあるまいし、予想を出すのが経営者の仕事とは思えません。決算数値は過去の実績であるだけでなく、将来の利益やキャッシュフローを予測する礎えになります。これを早く正しく知らせるのが経営者の義務であるとはまさにおっしゃる通りだと思います。
ただし、持ち合い株式の評価損の計上額が読めないから業績予想は公表できないということなら、そんな理屈は通らないことをゆめゆめお忘れなく!
【リンク】
「不適正開示 QA集」東京証券取引所
Q1-2.関係会社株式評価損として特別損失を計上する予定ですが、業績が好調であるためことによる増益と合算すると、当期純利益は当初の業績予想から30%以内の減少にとどまるものと見込まれます。当該評価損について、開示する必要がありますか。
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