アーカイブ

2009 年 7 月 のアーカイブ

日本的雇用慣行の形成原理 – 神林龍一橋大学准教授

・「厳しい規制で解雇が困難」の見方は疑問
・整理解雇法理を前提に企業は雇用を調整
・「日本的規範」の形成原理、さらに解明を

(日本経済新聞 2009年 7月31日 27面経済教室)

【CFOならこう読む】

神林氏は、世界的な経済危機下で、正社員の解雇規制のコストが若年層や非正社員にしわよせされているとの見方を否定し、整理解雇法理が「事実上整理解雇できない」ほど禁止的に高い解雇費用を使用者に課しているとはいえないかもしれない、と述べています。

その上で、現在の状況を「日本的雇用制度」が使い古されてはいるが、本質的に大きく揺らいではいない証左であると説明しています。

一方「日本的雇用制度」の形成原理については、さらなる解明が必要であると述べるにとどめています。

私はこのブログで、日本的経営の最大の特質は、従業員(=経営者)がガバナンスの中心にいることにあり、それが時に国富の創造を妨げる要因になっている、ということを書いてきました。

「日本的雇用制度」が揺らいでいないのは、彼らが既得権益者として自分たちの雇用を第1に考えているからで、そのしわよせが若年層や非正社員に行っているのだと僕は思っています。

日本的雇用は高度経済成長下においては経済合理性を持つものでしたが、来年の需要すら読めない現在の環境下では、リソースを固定費として調達することには大きなリスクが伴い、可能な限り変動費として調達したいと考えるのはしごく当然です。

しかし中高年正社員が整理解雇裁判を盾に既得権益者として居座る限り、変動費化は非正社員と新規雇用のところで行うしかありません。

これは日本経済全体にとって決して望ましいことではありません。
既得権益者を守るために、弱者にチャンスが与えられない社会に希望があるはずがありません。

ではどうするか?

日本企業が株主価値を中心としたコーポレートガバナンスを構築することを法規、市場ルールで強制するのが一番の早道であると僕は思います。

会社は国富のために存在するのであって、既得権益者を守るために存在するのではないということが常識になれば、「日本的雇用制度」は変質せざるを得ないでしょう。

そしてそのとき、失業保険や職業訓練の部分で国家の役割はますます重要になると思います。

【リンク】

なし

住友信託資本増強 何故優先株?

住友信託資本増強 何故優先株?
[東京 29日 ロイター] 住友信託銀行(8403.T: 株価, ニュース, レポート)は米シティグループ(C.N: 株価, 企業情報, レポート)傘下の日興アセットマネジメントを買収することで、シティと大筋合意した。複数の関係筋が29日までに明らかにした。
住友信託銀が日興アセット買収で大筋合意 – ロイター 2009年7月30日
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-10272020090729
【CFOならこう読む】
「住友信託は日興アセットの株式のほぼ100%を取得する見込み。買収に合わせて資本増強に乗り出す公算が大きく、普通株ではなく、優先株による資本調達を軸に検討する見通しだ。」(日本経済新聞2009年7月29日夕刊1面)
優先株による資本調達は、ダイリューションのリスクを嫌ってのものと思われますが、これは正しい財務戦略なのでしょうか?
コーポレートファイナンスという学問は、投資の意思決定とその投資資金の原資を切り放して考えるべきであると教えます。前者は新規投資のリスクとリターンとの関係で決まり、資金調達は最適資本構成によって決まるというわけです。
ブリーリー/マイヤーズの「コーポレートファイナンス」(日経BP)には次の記載があります。
「プロジェクトは原則として、それぞれに応じた資本の機会費用によって評価されるべきである。
あるプロジェクトから、そのプロジェクトのベータに見合う以上の収益率が見込まれるならば、そういったプロジェクトは採用すべきである。
ほとんどのプロジェクトは平均的なリスクを有するものとして取り扱うことができる。すなわち、その会社のその他の資産のリスクの平均に比べ、より安全でもなく、よりリスクが高くもないものとして取り扱うことができる。このようなプロジェクトについては、会社の(加重平均)資本コストは適切な割引率である。」
住友信託の日興アセット株式への投資がリスク以上のリターンを生むのであれば、既存株主の顔色を見ることなく、堂々とやれば良いのです。
1000億円の資本調達は最適資本構成との関連で決定すべきで、その上で、種類株でやるという判断をするなら何も言うことはないのですが、株価への影響を懸念するということだけで、種類株によって資本調達をするということなら、それはちょっと違うのではないかと思います。
市場に対し十分に説明することは大切です。理解を求めることも重要です。
ですが、それをろくにせずに、株主を腫れ物のように扱い、まあ種類株なら文句ないだろうというのであればそれは間違っています。
会社は国富創造(株主価値創造)のために存在するのであって、株主のために存在するのではありません。
株主を既得権益者のように扱うことは、株主価値創造と真逆の方向を向くことだと僕は思います。
【リンク】
[東京 29日 ロイター] 住友信託銀行(8403.T: 株価, ニュース, レポート)は米シティグループ(C.N: 株価, 企業情報, レポート)傘下の日興アセットマネジメントを買収することで、シティと大筋合意した。複数の関係筋が29日までに明らかにした。
住友信託銀が日興アセット買収で大筋合意 – ロイター 2009年7月30日

【CFOならこう読む】

「住友信託は日興アセットの株式のほぼ100%を取得する見込み。買収に合わせて資本増強に乗り出す公算が大きく、普通株ではなく、優先株による資本調達を軸に検討する見通しだ。」(日本経済新聞2009年7月29日夕刊1面)
優先株による資本調達は、ダイリューションのリスクを嫌ってのものと思われますが、これは正しい財務戦略なのでしょうか?
コーポレートファイナンスという学問は、投資の意思決定とその投資資金の原資を切り放して考えるべきであると教えます。前者は新規投資のリスクとリターンとの関係で決まり、資金調達は最適資本構成によって決まるというわけです。
ブリーリー/マイヤーズの「コーポレートファイナンス」(日経BP)には次の記載があります。
「プロジェクトは原則として、それぞれに応じた資本の機会費用によって評価されるべきである。

あるプロジェクトから、そのプロジェクトのベータに見合う以上の収益率が見込まれるならば、そういったプロジェクトは採用すべきである。

ほとんどのプロジェクトは平均的なリスクを有するものとして取り扱うことができる。すなわち、その会社のその他の資産のリスクの平均に比べ、より安全でもなく、よりリスクが高くもないものとして取り扱うことができる。このようなプロジェクトについては、会社の(加重平均)資本コストは適切な割引率である。」
住友信託の日興アセット株式への投資がリスク以上のリターンを生むのであれば、既存株主の顔色を見ることなく、堂々とやれば良いのです。
1000億円の資本調達は最適資本構成との関連で決定すべきで、その上で、種類株でやるという判断をするなら何も言うことはないのですが、株価への影響を懸念するということだけで、種類株によって資本調達をするということなら、それはちょっと違うのではないかと思います。
市場に対し十分に説明することは大切です。理解を求めることも重要です。
ですが、それをろくにせずに、株主を腫れ物のように扱い、まあ種類株なら文句ないだろうというのであればそれは間違っています。
会社は国富創造(株主価値創造)のために存在するのであって、株主のために存在するのではありません。
株主を既得権益者のように扱うことは、株主価値創造と真逆の方向を向くことだと僕は思います。

【リンク】

コーポレート ファイナンス(第8版) 上
コーポレート ファイナンス(第8版) 上 藤井 眞理子

日経BP社 2007-03-15
売り上げランキング : 32922

おすすめ平均 star
star丁寧かつ大部な内容。まずは絞っても良い。
star教科書
star美しい装丁、読みやすい紙面、ユーモラスな語り口で飽きさせません

コーポレート ファイナンス(第8版) 下
コーポレート ファイナンス(第8版) 下 藤井 眞理子

日経BP社 2007-03-15
売り上げランキング : 59642

おすすめ平均 star
star最高です

カテゴリー: 資金調達 タグ:

国際会計基準、有価証券時価評価ルールの改定案

2009 年 7 月 29 日 コメント 1 件

日本が導入を目指している国際会計基準で、株式や国債など有価証券の時価評価法が変わる。国際会計基準審議会(IASB)が14日、2012年1月1日以降の年度を対象にしたルール改定案を公表した。多額の株式や国債を保有する日本の銀行や生命保険会社の運用にどんな影響が出るか、市場関係者の関心も高い。
(日本経済新聞 2009年7月29日 7面)

【CFOならこう読む】

「日本の現行ルールでは企業が保有する有価証券を3つに区分している。時価評価しなくてすむ代わりに事実上売買できない「満期保有」、満期まで持たない代わりに一定の含み損が発生したとき損失計上する「売却可能(その他)」、いつでも時価する「売買目的(トレーディング)だ。国際会計基準の改定案は2区分に簡素化。
日本が導入すると「売却可能(その他)」を廃止する必要が出てくる。」(前掲紙)

日本経済新聞 2009年7月29日 7面

日本経済新聞 2009年7月29日 7面

「売却可能(その他)」の区分がなくなる代わりに、時価評価を選択するかしないかを選択できるようになります。これは例えば政策投資株式(持ち合い株式)は、事業上のメリットがあって保有するので、そのメリットは営業損益に落ちてくると考えられるのに対し、売買目的で保有する有価証券は、時価が上がれば儲けが出るし、下がれば損失が出るだけのものです。したがって前者はそもそも時価評価になじまないので、時価評価を選択すべきではないと考えられるのです。

この点については、次のように国内の大手生保等から反対の声が出ています。

草案は、企業が保有株式の純損益上の扱いについて、(1)株価の値動きをすべて反映させる(反映型)(2)全く反映させない(非反映型)――のいずれかを選択することを求めている。影響がとくに大きいのは国内の大手生保だ。
国内生保は外資に比べて株式運用の比率が高い。日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命の国内大手4社でみると、08年3月期から09年3月期にかけ、国内株式含み益は約5兆6千億円減った。この全額が、純損益に反映したとすると、各社とも純利益は吹き飛び、大幅な赤字になる。

草案では、時価を反映しない方式の採用も可能だ。ただ、その場合は生保の主な収入源のひとつである株式配当や、株の売却益を利益に計上できなくなる。国際会計基準を日本が受け入れるかどうかは12年に判断することになるが、大手生保幹部は「採用されれば株式運用が事実上できなくなってしまう。再考を強く求めたい」と話す。」(朝日新聞2009年7月17日)

主たる目的が運用にあるのなら、当然時価評価を選択することになると思います。

償却原価の区分は、まさにプレインな債券をここに分類するために設けられたものと思われます。ただし、契約上確定したキャッシュフローを獲得することが保有の目的ではなく、債券の時価に賭けることが保有の目的であるなら、”今いくらで売れるか”という基準、すなわち時価で評価すべきであるということになるのです。

償却原価を採用するための2つの要件、「貸付金の性格をもつ」と「金利収入を目的とする」はこの点を判定するために設けられたものと思われます。

【リンク】

なし

カテゴリー: 会計 タグ:

会社法786条4項- 株式買取価格決定に関する金利

2009 年 7 月 28 日 コメント 1 件

TBSは27日、楽天が保有するTBS株の買い取り価格決定に関する調停手続きを東京地裁で進めているのに伴い、楽天に400億円を仮払いすると発表した。支払い予定日は7月31日。両社が主張する価格の開きが大きく決着に時間がかかりそう。楽天に前払いし、楽天に支払う金利負担を抑える。
(日本経済新聞2009年7月28日11面)

【CFOならこう読む】

「会社法は、株主から買い取り請求を受けた会社は買い取り代金に加え、年6%の利息を株主に支払うと定めている。最高裁まで持ち込まれた場合、決着までに数年かかるとの見方もあり、金利負担がTBSに重しになる可能性があった。TBSは銀行からの借入金を支払いに充てる。」(前掲紙)

会社法786条4項は次のように規定しています。

”消滅株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。”

法人株主は、会社に買い取らせることで、税務上、キャピタルゲインをみなし配当に変換することができ、この部分だけキャピタルゲインを減らす(譲渡損失を増やす)ことができます。

さらに、裁判所の価格決定までの年6%もの利息を受け取れるとなれば、法人株主が株式買い取りを請求するのは当然とも言えます。

(この点、昨年12月17日のエントリーで詳述しましたので、興味がある方はご覧になってください)

TBSが買取代金の仮払いを行うことで、仮払金相当部分に対する利息は、発生しないことになります。

【リンク】

2009年7月27日「当社吸収分割に係る反対株主の株式買取請求に関する株式買取代金の仮払いについて」株式会社 東京放送ホールディングス[PDF]

カテゴリー: M&A タグ:

日立がマクセルなど上場5社を完全子会社化

2009 年 7 月 27 日 コメント 2 件

日立製作所は日立マクセルなど東証に上場しているグループ5社を完全子会社化する。8月下旬にTOBを開始し、最大3000億円を投じ、それぞれ約5〜7割の出資比率を全額出資へ引き上げる。日立は2009年3月期に国内製造業では最大となる7873億円の連結最終赤字に陥った。グループ戦略を転換し、上場子会社16社のうち社会インフラなど成長を見込める分野の5社を一斉に取り込み、経営再建を急ぐ。
(日本経済新聞2009年7月27日1面及び9面)

【CFOならこう読む】

完全子会社にするのは日立マクセル、日立プラントテクノロジー、日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスの5社です。

日本経済新聞 2009年7月27日 1面より

日本経済新聞 2009年7月27日 1面より

ベネット・スチュワートは、著書The Quest for Valueの中で子会社公開のデメリットを次のように列挙しています。

・公開を維持するためのコストが重複
・親子会社間の取引の公平性の確保が難しい
・子会社独自の取締役会が必要になり少数株主の権利の尊重が必要になる
・親会社が直接ファイナンスする場合よりもコスト高になる場合が多い
・親会社の出資比率が80%を切ると連結納税グループから外れる(日本では100%)

・子会社に関する機密情報の開示が必要になる

「今回完全子会社化する5社を含む16社の上場子会社を持ち「親子上場」の代名詞だった日立製作所の路線転換は、日本企業の連結経営が曲がり角を迎えたことを示す。
資金調達面などの利点はあるが、「少数株主軽視」という批判の高まりや、上場維持にかかるコストなどのマイナス面も無視できなくなったいる。」(前掲紙)

特に子会社が獲得したキャッシュを、連結グループの他事業に投下するようなことがある場合には、重大な利益相反が生じることになるので、少数株主にとっては看過できない問題になるのです。

20090727_01

日本経済新聞 2009年7月27日 9面より

100%子会社化することにより連結納税グループに取り込むことも、今回完全子会社化に踏み切ることになった理由のひとつであると思われます。

いずれにしても、比較的株価が安いこの時期は完全子会社化を始めとしてグループ内再編の好機と言えます。

【リンク】

なし

GM、米政府が「経営のプロ」に監督託す

新生ゼネラル・モーターズ(GM)の取締役13人の顔ぶれが23日出そろった。
米政府主導で進んだ人選は著名大企業のOB経営者やファンド創業者など多彩な布陣で、自動車産業の経験者はほぼゼロ。「仲良しクラブ」と批判された旧GM取締役会のなれ合いを排し、経営の規律回復と早期の経営再建を目指す。

(日本経済新聞2009年7月25日9面)

【CFOならこう読む】

「13人のうち10人を指名した米政府は声明で「新取締役の指導のもと、GMは数年後に大きな成功を得られる」と強調。各界の経験豊富な経営のプロに、ヘンダーソン社長兼CEOらGM経営陣に対する厳しい監督や新しい視点での助言を期待する」(前掲紙)

日本でも公的資金を投入するならここまで政府が責任を持ってやるべきでしょう。

再建計画を従来の経営陣に作らせ、その進捗状況を役所が監督するというやり方では抜本的な経営改善は期待できないし、そもそも役所にはそんな能力はありません。

「旧GMでは、取締役会が本来果たすべき経営の監督機能を失い、労組への過度な譲歩や大型車依存など経営危機の芽を見逃した。実業家のロス・ペロー氏はかつて、GM取締役会を「(もの言わず動かない)岩をペットとして飼うようなもの」と切り捨てた」(前掲紙)

取締役会が経営の監督機能を本来果たすべきであるという認識があるだけでも、日米にはいまだ大きな差があると、僕は思います。

日本では「おうむ」を社外取締役や独立の第三者委員会という名目で飼うことになるのでしょう。

今週末は晴れ間が見れそうですが、波は相当高いので、海に行かれる方は気をつけてくださいね。

それでは良い週末を。

【リンク】

なし

日本石油、原油ヘッジ取引に関する東京国税局の更正処分の取消を求め提訴

2009 年 7 月 24 日 コメント 1 件

[東京 23日 ロイター]新日本石油(5001.T: 株価, ニュース, レポート)は23日、原油のヘッジ取引に関して東京国税局が行った更正処分の取り消しを求め、東京地裁に訴訟を提起したと発表した。
新日石は原油価格の変動リスクを低下させキャッシュフローを固定化することを目的に、原油先物スワップ取引を行っているが、2006年10月に東京国税局から03年度分と04年度分の同取引に関する法人税の更正処分を受けた。同年12月に国税不服審判所長に対し処分の取り消しを求める審査請求を行ったが、今年1月に同審判所長は棄却した。

ロイター 2009年7月24日

【CFOならこう読む】

今日の新聞記事によると、

「更正処分を受けたヘッジ取引は、10年程度の長期契約で固定した原油価格の変動リスクを避けるため、原油先物を使って金融機関とスワップ取引を結ぶ内容」

とのことです。

会社はプレスリリースで次のように説明しています。

「当社は、需要家等にTES(Total Energy System:A重油や灯油による電熱エネルギー供給システム)により発電した電力、または発電に必要なA重油等を長期間固定した価格で販売する事業を行っております。当該事業に際しては、原燃料となるA重油等の製造原価を構成する原油価格の変動リスクを低下させ、キャッシュフローを固定化することを目的として、「原油先物スワップ取引」(以下「本件ヘッジ取引」という。)を行っております。
2006年10月、当社は、東京国税局から、2003年度および2004年度分の本件ヘッジ取引に関し、法人税の更正処分を受けました。同年12月、当社は、国税不服審判所長に対し、同処分の取消しを求める審査請求を行いましたが、本年1月に、同審判所長は、当社の審査請求を棄却する旨の裁決を行いました。
当社といたしましては、東京国税局の行った更正処分は、本件ヘッジ取引に関する法人税の解釈・適用を誤った違法なものであって、ヘッジ取引の存在意義を失わせるものであり、これを受諾することはできないことから、同更正処分の取消しを求め、東京地方裁判所に対し訴訟を提起することといたしました。
当社は、今後、訴訟手続におきまして、本件ヘッジ取引につき当社が行った税務上の処理は、法人税法および関係法令の諸規定に照らして適法なものであったことを、鋭意主張してまいる所存です。」

説明が不足しており、このプレスリリースを見るだけではよくわからない部分があります。
そこで更正処分取消を求めた際のニュースを探してみると次の記事が見つかりました。

「新日本石油は、東京国税局の税務調査により2006年10月31日付で更正処分を受けたヘッジ取引について、国税通則法の規定に基づいて、国税不服審判所長に更正処分の取り消しを求める審査請求を行ったと発表した。

同社は、発電した電力や発電に必要なA重油などを長期間固定した価格で販売する事業を行っているが、固定価格のため、製造原価である原油価格の変動リスクを同社が負担するため、原油価格変動リスクをヘッジし、キャッシュフローを固定化することを目的としたスワップ取引を行っている。

東京国税局はこのスワップ取引が原油価格変動による損失を減少させるのに有効ではないと判断し、取引を期末時点ですべて決済したものとみなして算出した利益に課税、所得金額を更正し、2005年度のみなし利益284億円とし、追徴税額と法人税などを含めて合計125億円を課税した。

同社では東京国税局の更正処分には合理性が無いと判断、更正処分の取り消しを求めることにした。」
新日本石油、東京国税局処分を不服として審査請求へ

法人税法上、繰延ヘッジ処理に対する制限として、その年度の期末時または決済時における有効性割合が有効性幅に入っていない場合、有効性幅に入らない期間に生じた利益額または損失額のみを、その期間の益金または損金に算入しなければなりません。
(法人税施行令121条の3第4項)

この有効性の判定について、会社と税務当局との間に見解の相違があったものと思われます。

そもそも論として、原油価格が製品価格に転嫁される事業を営む会社において繰延ヘッジ処理を認めること自体おかしいのではないでしょうか?

【リンク】

2009年7月23日「ヘッジ取引に係る更正処分の取消訴訟の提起について」新日本石油株式会社

カテゴリー: 税制 タグ:

東証の罰則制度改正へ

東京証券取引所は8月をめどに、東証の規則に違反した上場企業への罰則の種類を増やす方針だ。同じ違反行為に対して複数の罰則を用意し、悪質さに応じて使い分けるようにする。上場企業に法令順守や情報開示への姿勢を強化するよう促し、投資しやすい環境整備に役立てる。
NIKKEI NET 2009年7月23日

【CFOならこう読む】

今回の改正で、

1.大幅な株式分割で市場が混乱した場合
2.MSCBの発行で株主の権利を損なった場合
3.第三者割当増資で株主の権利を損なった場合
4.大規模な株式併合で株主の利益を侵害した場合

企業名の公表、違約金の徴収、改善報告書の提出、特設注意市場銘柄に指定、のいずれも可能になります。

「発行済株式数の25%以上3倍未満の第三者割当増資では、外部の有識者に客観的な意見を求めることなどを義務づけた。違反すると従来は公表措置どまりだったが、今後は違約金の支払いなど複数の罰則を受ける可能性がある。3倍以上の第三者割当増資をした企業は、上場廃止の審査対象とすると新たに規定した」(前掲紙)

何故20%ではなく、25%なのかについて納得できる説明して頂きたい。
もともと25%という水準には、株式相互保有の規制の必要性から、これ以上の株式を有する場合、保有された会社が有する保有した会社の議決権を行使できないという会社法の規定があり(会社法308条1項括弧書き、325条)、一定の抑止力が働いています。

北越・王子のケースで、北越の三菱商事に対する第三者割当増資は24%(25%ではなく)でした。

こういう買収防衛策を市場ルールで規制しようというのが、もともとの議論の発端であったと記憶していますが、東証はこの点どのように考えているのでしょうか?

【リンク】

なし

「創造的破壊」の先兵たれ – 伊藤邦雄

・未曽有の危機下こそ、ベンチャーの出番
・一部の起業家の挫折のみで全否定するな
・公開偏重のVCの出口戦略、多様化急げ

(日本経済新聞2009年7月22日27面 経済教室)

【CFOならこう読む】

今後は、こうした大企業の無形資産経営と起業家とを結びつける道を考えるべきだろう。
その一つが「カーブアウト経営」だ。大企業に眠る技術や知的財産を社外に「カーブアウト」(切り出し)し、その事業化を起業家に委ねる。従来、大企業の特許取得は、自社の製品と技術を守るための受け身的なものだった。今後は特許の積極利用を経営戦略に位置付ける必要がある。当初は自社の知的財産の外への切り出しに大企業経営者は抵抗感があるかもしれない。
だが、現状の不本意な企業価値を見れば、その余裕はない。巨木だけでは森は枯渇するが、若木も滋養を与えないと大木に育たない。巨木と若木の「共生」が必要なのだ。(前掲紙)

伊藤先生のおっしゃるとおりだと思います。ただし現実的には相当に難しい面があるのも事実です。

大企業の保有する知的財産を社外の起業家とマッチングするためには、大量の経営者のストックが必要です。しかし、日本社会はいまだに終身雇用を是としており、経営者が圧倒的に希少な資源となっています。この辺は教育に委ねるほかなく、伊藤先生の責任も重大であると言えます。

もうひとつ決定的に重要な点が税制です。

「カーブアウト」の時点では、適格分割でいける余地があるものの、IPO時には、親子上場の問題もあり、大企業が保有する株式は株主に分配する(スピンオフする)のが望ましいのですが、これを無税で行うことができません。

この点、組織再編税制制定当時から問題点として指摘されていたものの、立法担当者は、「ニーズがない」の一言で、いまだ手当がなされていません。

ニーズはありますよねぇ、伊藤先生。

【リンク】

なし

カテゴリー: IPO タグ: ,

本日休載

新聞休刊日のため、本日は休載します。

カテゴリー: お知らせ タグ: