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2009 年 8 月 のアーカイブ

改めて問われる日本航空(JAL)の増資

2009 年 8 月 31 日 コメント 1 件

株主総会直後の2006年6月30日に発表した日本航空(JAL)の公募増資が改めて問題になっている。香港の投資ファンドが空売りで意図的に株価を押し下げ、安値で買った公募株を貸株の返済に回したことが、不正取引に当たるのだという。具体的にどの点が相場操縦に当たるのかは不明だが、無理な増資はこの種の取引を招きがちだ。少数株主保護の仕組みが欠かせない。
(日経ヴェリタス2009年8月30日65面)

CFOならこう読む】

「発表直後の7月3日に株価は14円安の273円と急落した後、数日は一進一退をたどっていた。それが再び下落に向かう「事件」が起きた。7月10日になって日興シティグループ証券が引受シンジケート団から離脱したのだ。「目論見書に書き込んである収益計画に、引受審査部門が異を唱えたため」と当時、日興は説明していた。

(中略)11日以降、株価はどんどん下がり、結局19日に決まった公募価格は211円と、公募増資発表日の287円を26.5%も下回った。ある個人投資家は7月19日に公募増資の差し止め処分申請を東京地裁に申し立てた。しかし東京地裁は26日に「既存株主が受ける不利益は会社法が予定している範囲内だ」という理由で却下してしまう。

株価は申込期間があけた7月25日にまた急落し、一時197円と200円を割った。払込日は27日。引受証券会社の取り分を除くJALの調達額は目標の4分の3の1386億円にとどまった。」(前掲紙)

この記事を書いた前田編集委員の問題意識は、「事前に特定の投資家に新株の割当数を伝えていた」ところにありますが、問題の本質は、ダイリューションが起こるエクィティ・ファイナンスが平然と行われ、それでも経営者は何の責任も問われないことにあります。

本来、エクィティ・ファイナンスは株主価値には中立であるはずです。しかし、エクィティ・ファイナンスにより調達した資金が資本コストを下回る投資に向けられる場合にはダイリューションが起こります。そのようなファイナンスは行われるべきではないし、結果的にダイリューションが起きた場合には、当然経営者はその責任を問われなければなりません。

ところがそうならないのが日本という国の特質です。そこをヘッジファンドに狙われたのです。

先週私は、「トレーダー、デリバティブ、そして金」(サティアジット・ダス著 エナジクス)を読みました。この本には、裁定機会は市場の歪みがあるところには常に存在し、デリバティブ・トレーダーの儲けの源泉はそこにあることが書かれています。特に日本は、「不思議の国のアリスの世界」(165頁)で、裁定機会がごろごろころがっているということです。

「GMの一時国有化を巡って5月末、米財務長官ティモシー・ガイトナーは「日々の会社運営には干渉しない。保有株も極力早く売却する」と表明。産業支援に踏み込みつつ、米国は出口も探っている。8月24日には7月に導入した新車買い替え補助を打ち切った。翻って日本では、次の支援企業の名がささやかれている。その代表は日本航空。7月初め、国土交通省の仲立ちで、日航は政投銀と民間銀行から計1000億円を一部政府保証付きで借り入れる契約を結んだ。だが、資金の大半は支払にあてられ、1000億円以上の資金が必要になる次の夏を乗り切れる保証はない。「日航はつぶせない」と国交省幹部。だが、対症療法に終われば、危機はむしろ深まる」
(日本経済新聞2009年8月30日4面)

このアービトラージで懐から金貨をひったくられるのは少数株主と納税者(つまり日本国民)です。

【リンク】

トレーダー、デリバティブ、そして金 – デリバティブ業界裏事情 – サティアジット・ダスのデリバティブ回顧録
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財務制限条項(コベナンツ)の開示例

2009年3月期の有価証券報告書で、銀行融資などに財務制限条項が付いていると開示した上場企業は203社(金融を除く)と前の期比50%増えたことが分かった。景気低迷で業績が悪化し、条項に抵触した企業も増えている。財務諸表をチェックする監査法人側も、投資家の不安解消のため、抵触しなくても企業に開示を求めている。
(日本経済新聞2009年8月29日14面)

【CFOならこう読む】

財務制限条項(コベナンツ)とは、

「金融機関が企業に協調融資などをする場合、一定の財務健全性維持を求める契約条項」
(前掲紙)

のことを言います。

「元利払いの確実な回収が目的で、条項に抵触すると返済期限前でも金融機関は資金返済を要求できる。例えば純資産が一定額を下回ったり、2期連続最終赤字になったりした場合などを条件として設定する」(前掲紙)

財務制限条項に関する有価証券報告書における開示の仕方としては、事業の状況の中の「事業等のリスク」の中で開示するか、それに加え「連結貸借対照表注記」を行うか、「事業等のリスク」では開示せず「連結貸借対照表注記」のみ行うかのいずれかになります。

今日の記事の中で、具体的に会社名が記載されている、三井金属、クラリオン、パイオニア、インボイスの平成21年3月期の有価証券報告書について、どのような開示がなされているか調べてみました。

■三井金属

(事業等のリスク)

(16)財務制限条項
米国金融不安に端を発する世界的な景気後退による大幅な需要減少に伴い、当社の連結当期純損失は672億円(前期は78億円の当期純利益)、連結純資産は1,046億円(前期比47.6%減)となりました。
当社は複数の金融機関との間でシンジケートローンおよびコミットメント・ライン契約を締結しておりますが、本契約には一定の財務制限条項が付されており、当連結会計年度末の財政状態は当該条項に抵触しております。しかしながら、有価証券報告書提出日現在においては、当該金融機関との間で当該条項の修正について合意に達しており、当該条項が当社グループの業績および財政状態に与える影響は軽微であると考えております。
当社は、緊急対策の実施や、事業の選択と集中の推進により収益の回復を図るとともに、引き続き金融機関との交渉を通じて、今後の財務制限条項への抵触、およびそれに伴う期限の利益の喪失を回避するため最大限の努力を重ねてまいりますが、万一2009年度以降の連結財政状態が修正後の当該条項に抵触する場合、期限の利益を喪失し、一括返済を求められる等、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(連結貸借対照表注記)

なし

■クラリオン

(事業等のリスク)

(16) 財務制限条項について
当社グループの主要な借入金に係る金融機関との契約には、財務制限条項が付されています。これらに抵触した場合には期限の利益を喪失する等、当社グループの財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
なお、当連結会計年度末において、財務制限条項の一部に抵触致しましたが、事前に各金融機関の合意を得られ、平成21年3月25日付で期限の利益喪失請求権を放棄する旨の報告書を受領しております。また、平成21年4月20日付で各金融機関の合意を得て財務制限条項の内容を変更しておりますので、本報告書提出日時点において、財務制限条項に抵触している事実はございません。

(連結貸借対照表注記)

なし

■パイオニア

(事業等のリスク)

(16) 財務制限条項
当社が複数の取引銀行と締結している借入契約に定められている財務制限条項に当連結会計年度において抵触致しますが、取引銀行からは上記状況を認識いただいた上で、既存借入金の融資継続に応じていただいています。また、主力銀行を中心に追加的な融資を実行いただいており、引き続き支援していただくご意向も受けています。当社グループは、構造改革の実施により業績改善を図るとともに、引き続き取引銀行の理解と支援を得られるよう、最大限の努力を行っていく所存ですが、万一、当社グループが上記借入れについて期限の利益を喪失する場合、当社グループの事業運営に重大な影響を生じる可能性があります。

(連結貸借対照表注記)

当社は運転資金の効率的な調達を行なうため、取引銀行5行とコミットメントライン契約を設定しています。これらの契約に基づく当連結会計年度末の借入未実行残高は次のとおりです。なお、コミットメントライン契約につきましては、純資産の一定水準の維持および連結営業利益の確保の財務制限条項が付されています。当連結会計年度においては、これらの財務制限条項に抵触致しますが、取引銀行からは上記状況を認識いただいた上で、既存借入金の融資継続に応じていただいています。また、主力銀行を中心に追加的な融資を実行いただいており、引き続き支援していただくご意向も受けています。
貸出コミットメントの総額 70,000百万円
借入実行額        57,700百万円
差引額          12,300百万円

なお、当コミットメントライン契約は平成21年5月19日をもって契約を満了していますが、当該契約に基づき上記借入実行額は7月21日~27日を満期日とする借入残高となっています。現在、新規コミットライン契約を締結すべく、取引銀行との交渉を行なっています。

■インボイス

(事業等のリスク)

財務制限条項についての直接的な記載はないが、財政状態について有利子負債への依存についての項目で次の記載があります。

当社グループは、現在、グループ運営に必要な資金を主に銀行からの長期借入により調達しています。
景気が悪化した場合、金利が上昇した場合、担保資産の価値が下落した場合、又は当社グループの信用力若しくは財務状況が低下した場合、当社グループが必要な資金を得られなくなることや借入れに伴う当社グループの負担が増すことにより、当社グループの事業、業績及び財務状況に影響が及ぶ可能性があります。

(連結貸借対照表注記)

※5.財務制限条項
当社グループの借入金のうち、財務制限条項が付されているものは以下のとおりです。
(1)当社
①借入実行残高  871,000千円
ア.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、中間期および決算期末日において、連結及び単体の損益計算書の経常利益を指定の金額以上を維持すること。
イ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、連結及び単体の貸借対照表の純資産の部の金額を、平成21年3月期の純資産の部の金額の70%の金額以上に維持すること。
ウ.弁済期間中、連結の貸借対照表上の現預金残高が40億円を超えた場合には、その超過額について早期弁済を行なうこと。

②借入実行残高  1,702,000千円
ア.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、中間期および決算期末日において、当社及び㈱インボイスJr.の損益計算書の経常利益を指定の金額以上を維持すること。
イ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、連結及び単体の貸借対照表の純資産の部の金額を、平成21年3月期の純資産の部の金額の70%の金額以上に維持すること。
ウ.弁済期間中、連結の貸借対照表上の現預金残高が30億円を超えた場合には、その超過額について早期弁済を行なうこと。
エ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、中間期および決算期における、当社及び㈱インボイスJr.の決算報告書等を直ちに提出すること。
オ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、毎年3月末日を基準日とし同年5月末日までに担保不動産の評価の見直しを行い、評価額が現在の評価額または前年の評価額から減少した場合、当該減少額を5年間均等の割合で同年6月より四半期毎に追加返済し、弁済期限において残額を完済すること。
③借入実行残高  5,777,874千円
ア.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、中間期および決算期末日において、連結及び単体及び㈱インボイスJr.の損益計算書の経常利益を指定の金額以上を維持すること。
イ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、連結及び単体の貸借対照表の純資産の部の金額を、平成21年3月期の純資産の部の金額の70%の金額以上に維持すること。
ウ.弁済期間中、連結の貸借対照表上の現預金残高が30億円を超えた場合には、その超過額について早期弁済を行なうこと。
エ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、中間期および決算期における、当社及び㈱インボイスJr.の決算報告書等を直ちに提出すること。

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なし

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海外子会社からの配当非課税化に伴う繰延税金負債の取り崩し

2009 年 8 月 28 日 コメント 1 件

三井物産は海外グループからの配当収入を増やすのに伴い、2010年3月期に200億円超の純利益押し上げ効果が発生する見通しだ。海外からの配当の受け取りが実質非課税にとなったのを受け、将来の税金支払いに備え引き当てていた繰延税金負債を取り崩し、その分が会計上の利益を押し上げる。同様の仕組みで2011年3月期以降も100億円規模で純利益が押し上げられる可能性がある。
(日本経済新聞2009年8月28日17面)

【CFOならこう読む】

繰延税金負債が取り崩される理由については、4月2日のエントリーで説明しています。

「2009年度の税制改正で4月から海外子会社などから受け取る配当金について95%分が非課税となった。これを受け、三井物産では国内に資金を還流させる利点が高まったと判断。海外からの配当還流を2009年3月期の1100億円強から今期は1500億円程度に増やす考え。
今回、焦点となるのは持分法対象の関連会社がからの配当。通常、持分法対象会社将来の株式売却を前提としており三井物産を関連会社が稼いだ利益のうち約40%を将来の課税に備え、繰延税金負債に計上してきた。連結子会社は同様の繰延税金負債は立てない。」
(前掲紙)

この表現は正確ではありません。

「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」35項が次のように規定しています。

「投資後、子会社が利益を計上した場合、留保利益のうち、将来の配当により親会社において追加納付が発生すると見込まれる税金額を各連結会計期末において親会社の繰延税金負債として計上する。ただし、配当に係る課税関係が生じない可能性が高い場合を除く、例えば、親会社が当該子会社の利益を配当しない方針をとっている場合又は子会社の利益を配当しないという他の株主等との間に合意がある場合である。」

したがって株式売却を前提としているか否かに関わらず、配当がないと見込まれる場合を除き、繰延税金負債を計上しなければならないのです。

これは子会社であっても関連会社であっても同様です。

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なし

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税制改正で海外の利益、日本に還流

海外子会社からの配当を非課税とする税制改正を受け、海外で稼いだ利益を国内に還流する動きが相次いでいる。三井物産は2010年3月期に還流額を前期比200億円超増やすほか、第一三共は海外子会社からの配当を始める。世界で稼いだ
利益を日本に集約すれば効率的な投資や機動的な株主配分が可能。税制改正が資金の効率的な管理を後押しする契機になりそうだ。
(日本経済新聞2009年8月27日1面)

【CFOならこう読む】

2009年度の税制改正で海外子会社から受け取る配当金について95%分が非課税になりました。この件は、当ブログでも今年の4月2日にとりあげました

今日の新聞記事によると、主要企業が以下のように続々資金環流方針を変更しているということです。

三井物産 今期の配当総額を前期比200億円〜300億円増の1500億円に
セイコーエプソン 今期から海外全子会社を対象に。配当総額は前期比220億円増の約350億円に
HOYA 4〜6月期にオランダ子会社から1240億円を還流。CP償還などに充当
横河電機 今期から海外子会社の配当性向を従前の平均20%から100%に引き上げ
第一三共 今期から国内還流を開始。株主配当などに充当
商船三井 国内への還流額が従来より増える見通し
三菱電機 国内への還流額が従来より増える見通し

(前掲紙)

送金のタイミングは為替動向をみながら決定していくものと思われますが、第2四半期末である9月に送金が増え、円高要因になるとの見方もあるようです。

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なし

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持ち合い株、信託で解消

2009 年 8 月 26 日 コメント 1 件

株式の持ち合い解消を促す取り組みが官民で広がってきた。住友信託銀行は企業が持ち合い株を手放しやすいように工夫した新商品を開発。持ち合い先の議決権を実質的に持ち続けながら、株式を売却できる信託商品で、30社強が活用を検討している。政府も今年に入って持ち合い株の買い取り再開に乗り出した。経済効果見えにくく、株価下落に伴う評価損の計上リスクなどもある持ち合いの是正を後押しする。
(日本経済新聞2009年8月26日7面)

【CFOならこう読む】

「住友信託の商品は保有株を同行が管理する信託勘定に譲渡するものの、信託期間中(1年~5年を想定)は企業が議決権の行使を同行に指図できるようにして、議決権を事実上残す仕組み。同行の提携先であるドイツ証券が企業に株式の譲渡代金を支払い、信託期間の終了とともに同証券がこれらの株式を取得する。信託期間中に株式が市場で流通することはない。」(前掲紙)

株式の持ち合いは、会社の経営者支配につながるからよろしくないのです。しかしそれもひとつの村の存続を願うもので、価値創造の担い手は経営者(及び従業員)で株主なんぞにあれこれ言われたら会社はおかしくなる、といった確信に裏打ちされたものです。

もちろん、このブログで繰り返しお話ししている通りその確信は間違っているのですが、それでも多くの日本の経営者は、米国の経営者と違って私腹を肥やすためにその地位に固執しているわけではなく、村を守るための行為であるわけです。

ところがこの信託はどうでしょう。言うなら、”自ら(現在の経営者)の在任期間中だけ村は安泰であれば良くて、その後はどうなっても構わない”という商品です。こんなものに手を出そうという経営者はろくなもんじゃありません。こんなものを公器であるはずの新聞紙面で無批判に掲載する編集者も明らかにずれています。

【リンク】

なし

三越伊勢丹、傘下の三越7店舗他を分社化

三越伊勢丹、傘下の三越7店舗他を分社化三越伊勢丹ホールディングスは24日、傘下の三越の地方7店舗を分社化すると正式に発表した。受け皿となる新会社を10月に設立したうえで、2010年4月に札幌店(札幌市)や松山店(松山市)など対象店舗の運営を新会社へと引き継ぐ。地域の実情に合わせた営業体制を作り、経営コストの圧縮につなげる。
NIKKEI NET2009年8月24日

【CFOならこう読む】

地域ごとに店舗経営の独立性を高め、収益の状況に合わせて賃金の水準を変更したり、地域の消費事情に合わせた販売戦略を立てられるようにすることを目的とした再編です。具体的には以下の手順で行なわれます。

1.平成21年10月1日を期して、 伊勢丹から静岡伊勢丹及び新潟伊勢丹に係る経営管理及び営業支援業務の一部を承継して、両社を直接子会社とする。この再編は無対価の吸収分割により行われます。

2.平成22年4月(予定)に、株式会社三越(以下「三越」という。)から札幌・仙台・名古屋・広島・高松・松山・福岡の各地域の百貨店運営事業を承継すべく、地域事業準備会社として弊社直接出資の新会社7社を設立する。

これにより、平成20年10月に三越伊勢丹HDと直接の資本関係となった株式会社ジェイアール西日本伊勢丹(以下「WJRI」という。)、平成21年7月末に株式会社丸井今井から持株会社が事業を譲り受けた株式会社札幌丸井今井(以下「札幌丸井今井」という。)及び株式会社函館丸井今井(以下「函館丸井今井」という。)、並びに株式会社岩田屋(以下「岩田屋」という。)の臨時株主総会における承認を経た上で完全子会社化を予定している岩田屋とあわせ、持株会社の直下に三越、伊勢丹及び地域事業会社等の百貨店事業会社が並列する組織体制が構築される。

「三越伊勢丹グループの百貨店事業に係る  組織再編(吸収分割及び新会社設立)のお知らせ」3ページより
「三越伊勢丹グループの百貨店事業に係る 組織再編(吸収分割及び新会社設立)のお知らせ」3ページより

3.新潟エリアをモデルエリアと位置づけ、先行して両店舗の一体運営化を進め、平成22年4月(予定)には三越新潟店と本吸収分割によって持株会社の直接子会社となる新潟伊勢丹を統合する予定。そのノウハウを活用して札幌と福岡においても一体運営を進める。

「三越伊勢丹グループの百貨店事業に係る  組織再編(吸収分割及び新会社設立)のお知らせ」3ページより
「三越伊勢丹グループの百貨店事業に係る 組織再編(吸収分割及び新会社設立)のお知らせ」3ページより

4.さらに、平成23年4月(予定)には、営業基盤の整備に向けた組織再編の最終形として、全国百貨店で店舗売上高1 位、2 位の三越日本橋本店、伊勢丹本店と、世界有数の商業集積地・銀座の三越銀座店の旗艦3店を中核とした首都圏の各店舗を擁する、三越及び伊勢丹の両社を統合する。

「三越伊勢丹グループの百貨店事業に係る  組織再編(吸収分割及び新会社設立)のお知らせ」4ページより
「三越伊勢丹グループの百貨店事業に係る 組織再編(吸収分割及び新会社設立)のお知らせ」4ページより

「店舗が併存するエリアについては、営業施策で連携をとりつつ、両店舗のブランドの明確化を行ない、それぞれ特色ある店舗としてお客さまのご期待にお応えすることで、両店が提供できる品揃えの質・幅を広げ、地域のお客さまの満足を高めていきます。あわせて、後方部門の統合による物流費・賃借料の削減、共同取組による経費の有効活用など、単店舗では成し得なかった効率的なエリア運営体制を構築していきます。」(プレスリリース)

とのことですが、1+1=2以上の効果を生むことができるのか疑問です。必要なのは事業の統合ではなく、店舗の統合だと僕は思うのですが・・・。

【リンク】

2009年8月24日「三越伊勢丹グループの百貨店事業に係る 組織再編(吸収分割及び新会社設立)のお知らせ 」株式会社三越伊勢丹ホールディングス[PDF]

カテゴリー: グループ内再編 タグ:

マザーズ株価9割下落で上場廃止

東京証券取引所は新興企業向け市場「マザーズ」の改革案を固めた。上場時に株式を公募した価格に比べて株価が9割以上下落し、一定期間回復しなければ上場廃止の対象とする。一方、上場誘致の対象も広げ、企業のすそ野の拡大も目指す。株価を意識した経営を求めるとともに、上場企業の新陳代謝を促し、市場の活性化を目指す。
NIKKEI NET 2009年8月24日

【CFOならこう読む】

「公募増資価格に比べ株価が9割以上下がったうえで、9ヶ月程度の猶予期間中に株価が回復しなければ、市場の信認を失ったと判断し、上場廃止にする。」(前掲紙)

理論株価=株主価値/発行済株式数

であり、株数が増加すれば当然株価が下がるわけですが、それ自体問題なわけではありません。

問題とすべきは、既存株主からの富の移転を伴うようなエクィティ・ファイナンスですが、希薄化を伴うファイナンスが直ちにそのような問題とすべきファイナンスであるとは限りません。同じ希薄化の場合でも、株式分割や株主割当の場合は基準となる公募価格も調整されるべきでしょう。

「廃止基準を厳格化する一方、上場の間口を広げて行く方針だ。現在、東証はマザーズの上場審査をするに当たり、将来の成長性に重点を置いているが、過去に高い利益の伸びが確認できれば上場しやすくする。」(前掲紙)

間口を広げるという方向性は賛成です。

ですが、過去新興市場に上場した多くの会社が、右上がりの高い利益の伸びを粉飾により達成し、実力とかけ離れた株価で上場したことを考えると、過去の成長性に上場審査の重点を置くことが、この傾向に拍車をかけることにならないか心配です。

TOKYO-AIMにおける指定アドバイザーのような制度がマザーズにあれば、この辺の状況はだいぶ違ってくるのではないかと僕は思います。

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キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)

バンダイナムコホールディングスは9月、グループ資金を一元的に管理するキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)を導入する。玩具製造のバンダイなど傘下の主要4社から始める。余剰資金を一括管理することで、M&A(合併・買収)など資金需要が高まった際に迅速に対応できる体制にする狙い。
(日本経済新聞2009年8月22日12面)

【CFOならこう読む】

CMSを導入することにより、グループ企業の資金管理を一元化することが可能になります。

例えば、子会社の余剰資金を別の子会社の借入金返済に充てることで連結ベースの有利子負債を削減し、グループ全体の資金調達・運用の効率を高めることが可能になります。

例えば、グループ各社の資金をホールディングカンパニーや金融子会社に集中させ、グループ各社の口座残高を常にゼロに保つという手法があります。このケースでは、グループ会社の口座に売上代金等の入金があると、その資金は翌日までにホールディングカンパニー等の口座に吸い上げられます。

逆にグループ会社が資金を引き出すと、口座が一時的にはマイナス残高になりますが、翌日までにホールディングカンパニー等からマイナス分の資金が補充されるのです。 一時の資金不足は、銀行の当座貸越枠で対応します。

「CMS導入により金融機関への金利や手数料など年間約1億円のコストを削減。また、金融機関からの借入条件を精査し、6月末時点で約200億円の有利子負債を今期末までに半減する」(前掲紙)

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手元資金、平時の水準に

JFEホールディングスは積み増していた手元(現預金)を大幅に圧縮する。リーマン・ショック以降の金融危機に対応して、2009年3月末に2179億円まで膨らんだ現預金を、今期末には5分の1以下の400億円程度まで減らす。「今期は金融情勢が平時に戻る」(若林公平副社長)と判断、貸借対照表のスリム化を図る。
(日本経済新聞2009年8月21日13面)

【CFOならこう読む】

「昨年9月の米リーマン・ブラザーズ破綻以降、大企業ですら資金繰りに窮するような事態が発生した。JFEは資金繰り不安を払拭するために社債発行や銀行借入を増やし、従来400億円規模に抑えてきた手元の現預金を期末時点で2000億円まで積みました。

ただ必要以上の資金を持つことは資産効率の悪化を招くうえ金利負担もかさむ。金融不安は過ぎ去ったと判断し、現預金を平時の水準に下げる。」(前掲紙)

JFEだけでなく、手元資金を平時の水準に戻す企業が散見されるようになってきました。

必要以上のキャッシュを持つことは資産効率の悪化を招く、というのはその通りですが、資産効率を云々するなら、4,480億円も保有している投資有価証券を何とかしないといけないですよね、數土社長。

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国際会計基準、有価証券時価評価ルールの改定案 その3

「(持ち合い株の)売却益が認められないと純利益の指標性が失われてしまう」
「配当金が純利益に計上されないのは大問題だ」
日本の会計基準作りを担う企業会計基準委員会(ASBJ)が4日に開いた定例委員会。普段は淡々と進むが、この日は一転重苦しいムードに支配された。批判の矛先は、国際会計基準審議会(IASB)が先月公表した金融商品会計基準に関する改定案だ。産業界や金融機関出身の委員から、「日本の事情が考慮されていない」と異論が噴出した。

(日本経済新聞2009年8月20日17面)

【CFOならこう読む】

「7月下旬のロンドン。米国の基準作りを手がける財務会計基準委員会(FASB)とIASBの合同会議で、互いの出方を探り合う場面が目立った。米側はこの会合で、持ち合い株など「その他有価証券」の時価変動はすべて純利益に計上させるべきだとの独自案を説明した。」(前掲紙)

「IASBが包括利益に計上する選択肢を入れたのは、日本に配慮した結果だ」(山田辰己IASB理事)

日本に配慮した結果、持ち合い株の投資損益についてはリサイクルしない、という奇異な会計処理が誕生することになるというのなら、そんな配慮は無用です。

日本は独特だからアドプションは出来ないと言えば良いのです。

そもそもこれだけ市場を忌み嫌う国が、徹底的に時価会計を押し進めることを是とする国際会計基準を受け入れることなんぞ出来るわけがありません。

かといって日本の持ち合い株式は、市場に対する防御壁として存在するという日本的経営の特異性を世界にアピールしても、到底理解を得られるとは思えません。かえって孤立するだけでしょう。

結局、この問題はどうしたって会計の領域に止まらない、日本企業の経営そのものに関わる問題なのです。

国際会計基準をアドプションすることは、市場や株主をないがしろにする日本的経営を否定することに
他なりません。

日本の多くの経営者はそのことを理解していません。理解しているのは金融庁のお役人だけでしょう。

いやむしろ、国際会計基準という外圧を利用して日本経済を変革しようと、お役人は考えているのかも知れない、とこれを書きながら思います。

【リンク】

なし

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