オーナーシェフとして30年近くやってきた平松宏之社長。巨匠ポール・ボキューズ氏も「ムッシュ・ヒラマツのリーダーシップは評価できる」と話すほど、その求心力は高い。特色ある個店主義、企業統治のあり方について聞いた。
(日経ヴェリタス2009年11月29日13面)
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ひらまつの連結業績の推移は次の通りです。

業績は堅調ですが、市場はさらなる成長を求めるようです。
-規模拡大へM&Aは考えないのか
「前期はM&Aをやろうと考えて、資金を厚めに持とうと借入もしたが、うまくいかなかった。うちが(高級レストランという)特殊な業態だからかもしれないが、企業文化などが合わなかった」
ひらまつのような会社が単なる規模拡大のためのM&Aを行う必要などないでしょう。もし行うとしたら海外の有力ブランドを安価で買える場合に限られるように思います。
-上場前から大株主だった投資会社APが株式を売却した。今後の株主構成などの考え方は。
「時価総額が小さくて、業績も好調なので(M&Aの対象として)狙われやすい状況になっている。発行株式数の51%以上は安定株主で固めておきたい」
オーナー経営者が経営する上場企業は、パブリックカンパニーであると位置付けるより、オーナーが持分の一部を市場に部分売却した会社と捉えるべきです。少数株主とオーナーとの間に利益相反がなければ、それはそれで問題ないのです。
この記事のインタビューアーのように、無用なM&Aを迫る人が大株主にでもなられたら、誰のためにもなりません。いつの日かパブリックカンパニーになるときまで安定株主が51%を確保するという考え方は決して間違っていないと僕は思います。
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なし
年内に成立見通しの中小企業金融円滑法案をにらみ、首都圏の地域金融機関が対策に動き始めた。組織の新設や週末の相談業務窓口開設などが中心で、年末の資金需要期は例年以上に慌ただしくなりそうだ。だが、中小企業の間では「返済猶予を申し出れば新規の借入ができなくなるのではないか」と不安を訴える声も目立つ。
(日本経済新聞2009年11月28日33面)
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中小企業金融円滑化法案の詳細がいまだわからず、この制度がどの程度利用されるのか現状ではよくわかりません。中小企業の経営者からは、次のような声が多く聞かれます。
「借手の中小企業が懸念するのは新規借入への影響だ。大田区内のある工具メーカーの社長は「一時的にしのげてもさらに資金繰りが苦しくなったとき、銀行が追加融資してくれないのが目に見えている」と指摘。「結局は使えない法律」と言い切る」(前掲紙)
しかし金融機関には努力義務が課され、条件変更に応じた実績を開示する必要があることからも、従来よりも条件変更に応じるケースが増えるものと思われます。ですが上のような経営者はこの制度を利用しないでしょうから、もっぱら将来見通しが立たない会社により一時しのぎ的に利用されるだけということになりかねません。
あとには山のような不良債権が残るだけ、そんな結果になるような気がします。
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なし
26日の株式市場で旭硝子の株価が急落した。前日、最大1000億円の新株予約権付社債(CB)を発行すると発表し、1株利益の希薄化を警戒した売りが膨らんだ。資金は開発・投資などに充てるとしているが、使途の具体的な情報が少ないことも失望を誘ったとみられる。朝方から売り気配で推移。前日比7.5%安の742円で寄り付いた後も下げ幅を広げ、734円(8.5%安)と1ヶ月半ぶりの安値を付けた。
(日本経済新聞2009年11月27日17面)
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旭硝子のCBは希薄化を避けるため、次のような配慮がなされる予定です。
1.時価を30%程度上回る水準に転換価額を設定
2.償還期限を二つに分け、2014年満期CBに120%転換制 限条項を設けることにより、株式への転換可能性を抑制する設計とした。
それにも関わらず株価が急落したのは、投資家が納得出来るようなエクイティ・ストーリーが示されていないためであると今日の記事には書かれています。
プレスリリースには資金使途が次のように記載されています。
「本資金調達による発行手取金(グリーンシュー・オプション分を含む。)につきましては、更なる成長が期待できる既存事業の強化・拡充を目的とした設備投資等及び将来の成長案件の開発・投資等に70,000百万円を充当し、残額については、成長基盤構築のための諸施策に必要な資金需要に対応すべく、有利子負債の返済資金に充当する予定です。」
確かに具体性に欠けています。ただそれ以上にこの会社のエクイティ・ファイナンスに対する姿勢に甘さがないか。プレスリリースの中の次の記載を読んで僕はそんな風に感じました。
「本新株予約権付社債の発行により、ゼロ・クーポンで最大1,000億円の資金調達が実現し、更なる成長が期待できる分野への投資資金を低コストで確保することが可能となります。 」
ゼロ・クーポン=低コスト?
CBをそんな風に評価してはいけません。そんな前時代的な説明に市場が納得するわけがありません。CBのオプション部分を勘案すると、ゼロコストのはずはないのです。ゼロコストだから将来の投資に備えて資金調達をしておくか、そんな姿勢が市場から見透かされ、株価が急落した、そんな風に僕には感じられます。
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なし
旭硝子は25日、CBを最大で1000億円発行すると発表した。調達資金のうち
700億円は、太陽電池向けガラスなどの設備投資や新技術の開発に投じ、300億円
は有利子負債の返済に充てる方針。
(日本経済新聞2009年11月26日17面)
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「CBは円建てで、海外市場で発行する。2012年満期(3年債)と2014年満期(5年債)の2本建て。1株当たり利益が一気に希薄化する事態を避けるため、5年債のCBは2013年2月まで転換制限条項を設ける。転換価格は未定だが、25日の株価終値(802円)の1.3倍になりそう。」(前掲紙)
ソフト・マンダトリー条項とは、取得条項によりCBが発行会社により取得される際に、株価が行使価額を下回っている場合には、株式と金銭が交付されるものです。これにより、満期償還日において現金により償還する場合に比して、支払金額を大幅に抑えることができます。この部分について、旭硝子は、
「ソフト・マ ンダトリー条項とは、償還日前の一定期間において、株価水準に関わらず、当社の選択により一定の 株主資本増強を可能とするスキームです。」
と説明しています。
旭硝子のソフトマンダトリー条項の内容は次の通りです。
「本新株予約権付社債(2012年及び2014年満期)には、下記の財産の交付と引き換えに本新株予約権付社債を取得する権利が当社に付与されます。当社が今回採用したソフト・マンダトリー条項では、当社は、自己の裁量により、2012年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債については2012年8月1日以降に2014年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債については2014年8月1日以降、一定期間の事前通知を行ったうえで、各本新株予約権付社債につき(ⅰ)取得通知をした日の翌日から起算して5取引日目の日に始まる20連続取引日の最終日において本新株予約権を行使した場合に交付されたであろう数の当社普通株式及び(ⅱ)本社債の額面金額相当額から(ⅰ)の株式数に1株当たり平均VWAPを乗じて得られる額を差し引いた額(正の数値である場合に限り、1円未満の端数は切り捨てる。)に相当する現金を交付財産として、残存する本新株予約権付社債の全部を取得することができます。
注: 1株当たり平均VWAP:当社が取得通知をした日の翌日から起算して5取引日目の日に始まる20連続取引日に含まれる各取引日において株式会社東京証券取引所が発表する当社普通株式の売買高加重平均価格の平均値」

2012年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債及び2014年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ」 3ページ
要するに株価が転換価格を下回ったら、その下回った部分については現金で決済するものです。
【リンク】
2009年11月25日「2012年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債及び2014年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ」旭硝子株式会社【PDF】
大手商社が、株安による業績への悪影響を避ける目的で保有上場株の圧縮を加速する。三井物産は9月末の時価で5000億円近い保有株(関連会社分を除く)の削減に動くほか、新規の政策保有も原則廃止する。三菱商事も上場株を管理する仕組みを導入、1兆円超に上る保有株を減らす方針。保有株削減は株式市場にも影響を与えそうだ。
(日本経済新聞2009年11月25日16面)
【CFOならこう読む】
「三菱商事が9月末に保有する上場株は連結対象先が時価で約3700億円、取引先など一般上場株が約1兆1000億円。三井物産は連結対象先が2200億円、一般上場株が約4600億円。今回はこうした営業政策上の理由で抱える一般上場株が圧縮対象だ。」
(前掲紙)
こうした方向性は商社に限られません。商社以外の事業会社においても政策投資の意思決定(新規投資、継続保有、売却)を客観的な数値に基づき行うことが求められるようになると思います。”兄弟の契り”的なウェットで説明不能な株式の政策保有を継続することは不可能になると考えるべきです。特にIFRS強制適用後には含み益に頼った経営は出来なくなるのでなおさらです。
「三菱商事は配当と取引上の利益の合計が資本コストを下回る場合などに売却を促す「上場株管理制度」を導入。今月から各営業部門と協議を始めており、その結果を待ち売却候補を選定する。「今後3年ほどかけて新制度を徹底したい」(上田良一常務)。明確な数値基準を示し、安易な新規取得にも歯止めをかける。」(前掲紙)
定量的な評価だけで判断出来ない部分はあるにしても、三菱商事のような定量的な基準を持つことは今後必須になっていくものとCFOは考える必要があるでしょう。
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なし
金融庁は投資家保護の一環として、第三者割当増資に踏み切る企業の情報開示規制を強化する。特定のファンドなどに新株を発行する第三者割当増資の透明性を高めるため、資金の出してや調達資金の使途などの詳細な開示を義務付ける。あいまいさの残る新株発行で、既存の株主が不利益を被らないようにすべきだと判断した。来年2月からの導入を目指す。
(日本経済新聞社2009年11月22日1面)
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具体的には、有価証券届出書の中で以下の点について記載内容の拡充が求められるようになります。
1.SPC等投資ビークルの先にある実質的な投資家の情報開示を行う
2.割当先が反社会勢力に関係していないかどうかについて事前調査を義務づけ、どのように確認したかを届出書に記入する
3.割当先が海外の場合には、日本国内の事務所の責任者や代理人となる弁護士の連絡先などを記載する
4.調達資金の使途を開示する
どれもこれも表面上取り繕うことは出来るもので、これで投資家保護に足りるとは思えません。複数のSPCや会社をからませ実質的な投資家がわからないようなストラクチャーの場合にはどうするのでしょうか?
実質的な投資家の定義を明確にした上、記載が不十分な場合には不受理とする位の姿勢で望まなければ実効性はないでしょう。
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なし
いつも当ブログをご購読いただきありがとうございます。
吉永先生が長期出張のためしばらく更新をお休みいたします。
連休明け24日(火)再開予定です。
担当:香月(株式会社デジカル)
17日の外国為替市場で円相場は一時、1ドル=88円73銭まで上昇し、およそ1ヶ月半ぶりの高値をつけた。低金利のドルを元手に高金利通過などに投資する「ドルキャリー」取引が活発になっているほか、一部の短期金利ではドルが円を下回り、ドルを売って円を買う動きにつながっている。急速なドル安は世界経済の新たな不安定要因になりかねないと、各国の当局者が警戒を強めている。
(日本経済新聞2009年11月18日7面)
【CFOならこう読む】
「ドル安の背景にあるのがドルキャリー取引だ。日銀が量的緩和政策を採用していた2000年代半ばには、円を売って高金利通貨に投資する「円キャリー取引」が盛んだったが、現在は政策金利が実質ゼロのドルを元手にした取引が市場を席巻している。」(前掲紙)
円高というより、ドル安ということです。適度なドル安は望ましいとの米国の本音も見え、円高ドル安が緩やかに進む可能性があるというのが今日のニュースです。
リスクの値段とも言うべき通貨オプションのボラティリティは、
円・ドル
1ヶ月 |
11.6%(前日11.6%) |
3ヶ月 |
12.5%(前日12.6%) |
と11月上旬と比べ低下しています。
今はヘッジをするには良いタイミングかも知れません。
【リンク】
なし
財務省は16日、2010年度税制改正要望に盛り込まれた租税特別措置などについて査定原案をまとめ、各省庁に提示した。要望を認めた項目はわずか13と全体(約200項目)の1割以下で、認めない項目は60に上った。抜本的な見直しがなければ認められないとした項目も33あった。政府税制調査会はこの原案を基に17日以降に本格討議に入るか、関連する業界からの抵抗も予想され、実現は容易ではない。
(日本経済新聞2009年11月17日1面)
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原則認めない項目
・研究開発減税の一部延長
・情報技術投資促進税制の拡充・延長
・中小企業の投資促進税制延長
・事業用建物の耐震改修促進税制の延長
認める項目
・中小企業の交際費の損金算入
・確定拠出年金にかかる拠出制限の緩和
・小規模企業共済制度の加入対象者拡大
認める項目に中小企業の交際費の損金算入に係る項目が含まれました。
中小企業の交際費課税の現在の取扱いは次の通りです。
資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(中小法人)に係る交際費課税について、定額控除限度額600万円に達するまでの交際費金額の90%を損金算入できます。引き上げることとされました(措法61の4、68の66)
定額控除限度額は、平成21年4月1日以後に終了する事業年度から、400万円から600万円に引き上げられています。
ただし、「資本に関係する取引等に係る税制についての勉強会 」[PDF]によると、大法人のグループ子法人については、損金算入を認めないという議論が行われているので、この点注意が必要です。
【リンク】
2009年6月26日「租税特別措置法の一部を改正する法律が公布・施行されました」国税庁
「為替予約の損失は本業には影響がない」と言うのは青山商事の青山理社長。中国などから紳士服を仕入れる際の為替変動リスクを回避するために長期l為替予約を結んでおり、円高になれば輸入コストが減るはずだった。しかし、想定以上に円高が進んだことでデリバティブ評価損36億円を計上。4〜9月期は19億円の最終赤字になった。
(日経ヴェリタス2009年11月15日14面)
【CFOならこう読む】
青山商事の為替予約の概要は次の通りです。
「当社の仕入については、その大半が海外からの仕入れとなっているため、常に為替変動リスクに晒されており、そのリスクをヘッジする目的で平成14 年および平成19 年に、6つの金融機関との間で、期間10 年から12 年の包括的長期為替予約契約(クーポンスワップ契約)を締結し、現在実行中であります。なお、平成21 年9 月末時点において、残りの契約期間は、長いもので8 年6 ヶ月、短いもので2 年6 ヶ月となっております。
また、平均契約為替レートは102 円程度であり、予約金額は、年間平均約1 億ドルと、当社の海外からの年間仕入総額の2 割程度であります。」
(2009年11月4日 デリバティブ評価損計上及び業績予想の修正に関するお知らせ)
クーポンスワップは一般的に行われている長期の為替予約の手法です。日米の金利差分だけ有利なレートでヘッジすることができるので、何か得をしたような気にさせられますが、実態は高い手数料を払ってドル建て債券に投資しているのと変わりません。
会社はこの為替予約について時価会計で会計処理されているため、ポジションから生じる未実現損益すべてをPLに計上しなくてはなりません。しかし仕入はまとめて行うわけではないので、損益に歪みが生じています。
契約金額が年間仕入の2割程度であるならその実行はほぼ確実であり、時価会計でなくヘッジ会計を採用する方が会社の業績は正しく示されるように思うのですが・・・。
【リンク】
2009年11月4日「デリバティブ評価損計上及び業績予想の修正に関するお知らせ」青山商事
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