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2010 年 6 月 のアーカイブ

日本証券業協会、上場前の個人出資禁止案

日本証券業協会が6月中旬に公開した協会規則の改正案が波紋を呼んでいる。企業が上場を目指す場合、上場前に個人から出資を募るのを禁じる条項が含まれているためだ。日証協は個人のベンチャー投資を縛る考えはないとしているが、そのまま規則が成立すれば、創業資金を個人からの出資で賄ったベンチャーは上場しにくくなるとの懸念が広がっている。
(日本経済新聞2010年6月30日16面)

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「有価証券の引受け等に関する規則」の改正案の内容は次の通りです。

1.「有価証券の引受け等に関する規則」の一部改正について未上場会社が上場前に自己の株券等について個人投資家に対し募集等を行っていた場合には、原則として、当該未上場会社の新規上場時の株券の募集又は売出しの引受けを禁止する。
(第3条の2)

2.「『有価証券の引受け等に関する規則』に関する細則」の一部改正について適正な資本政策目的で行われたと考えられる株券等の募集等について、引受け禁止の適用除外として規定する。

この改正は、「未上場会社が上場前に個人投資家を対象に勧誘行為を行っていた場合には上場できないことを明らかにするため」(「有価証券の引受け等に関する規則」等の一部改正について(案))に行なうとしています。

原則禁止、例外として適正な資本政策目的で行なわれたと考えられる場合には引受け禁止の適用除外とするということですが、私のブログの資本政策詳解を見てもらえばわかる通り、適正な資本政策であるかどうかの判断は非常に難しく、この判断を引受証券会社に求めるということなら、実質的に個人からの出資を募っていた会社の上場の途は閉ざされることになりかねない、と私は思います。

そもそもこの規則が成立したとしても、未公開株式の投資勧誘による詐欺を行なおうとする輩は、例外規定の適用があることを装えば良いだけなので、詐欺事件を防止する効果はほとんどないでしょう。

ベンチャー企業はエンジェル投資により資金を調達する必要がある場合が少なくなく、これが塞がれると、今まで以上に成長資金の調達が難しくなると思います。

明らかに行き過ぎた規制です。

【リンク】

2010年6月10日「新規公開前に行われる不適切な自己募集を規制するための「有価証券の引受け等に関する規則」等の一部改正について(案)」エクイティ委員会

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本日休載します

出張のため、本日休載します。

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ソニー退任の大根田CFOのインタビュー

最高益から一転、14年ぶり営業赤字に転落。ヒット不在でライバルとの差は拡大。かつてないほど大きな浮き沈みを経験したソニーのこの5年間は財務面でも厳しい時期だった。副社長兼CFOとしてストリンガー体制を支えてきた大根田伸行氏が、最優先で取り組んだのがキャッシュフロー改革。ソニー復活の土台はできた―。18日の株主総会後に退任した大根田氏が最後に語った。
(日経ヴェリタス2010年6月27日21面)

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-「守りの財務」に終始した5年間という印象もありますが

CFOの仕事は格好良く言うと、いかにしてソニーの企業価値を財務面から上げるのか、ということです。そして会社が厳しい時は価値が下がるのを食い止める。そのための手を打つ。業績が厳しいときは社内外で批判の矢面に立たされ、一方で調子が良ければトップなり事業部なりが注目され、CFOにはあまり日が当たることはありません。後は、成長戦略を着実に遂行し、新たなビジネスでどういう結果を出せるのか。ハワード体制についても、そこで初めて評価できるんじゃないでしょうか」(前掲紙)

しかしこの5年ソニーは目立った成果を出していません。

「ソニーが財務再建に追われていた間、海外のライバル勢は次から次へと攻め手を繰り出した。米アップルはiPadなど画期的な製品を投入し世界中の消費者を魅了。李健熙氏が会長に復帰した韓国サムスン電子も巨額投資で攻勢に出る」(前掲紙)

そして大根田氏の後任(?)である加藤氏は取締役でも代表執行役でもありません。

ソニーに限らず、最近CFOがボードメンバーから外れる会社が増えているようで、この点は少し気になるところです。

これは昨今の市場軽視の日本の状況を反映しているのかも知れませんが、しかし日本企業は漸く直接金融に舵を切り始めたところで、CFOの重要性は増えることはあっても減ることはない、と私は思います。

【リンク】

なし

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パナ、ソニー、シャープ、ユーロ安対策進む

外国為替相場のユーロ安を受け、欧州で薄型テレビなどを展開する電機大手がユーロの為替予約を進めている。パナソニックは2010年4〜9月期(上期)分を1ユーロ=125~128円程度で予約。ソニーやシャープも実勢より円安の120円台半ばで予約を済ませ、ユーロ安が上期の企業業績に与える悪影響は軽微となる。ただ今後も大幅な円高・ユーロ安が続けば、現地での製品値上げなどの対応を迫られかねない。
(日本経済新聞2010年6月26日15面)

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今日は備忘記録です。

2011年3月期の電機大手各社のユーロ安対応

シャープ パナソニック ソニー
対ユーロの想定レート 120円 125円 123円
4~9月分の為替予約状況 125〜128円程度 124円 123円程度
営業利益 2,500億円 1,600億円 1,200億円
(会社の今期予想) 対ユーロでの1円円高が営業利益に与える影響(同) ▲11億円 ▲70億円 ▲12億円
欧州地域の売上高比率(同) 10.3% 22.8% 13.2%

(前掲紙)

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なし

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CFOの役員報酬

上場企業は2010年3月期の有価証券報告書から、年に1億円以上の報酬を支払っている役員について個別に情報を開示することが義務付けられた。株主総会でも、株主から役員報酬についての質問が相次いでいる。開示の変更点などについてポイントをまとめる。
(日本経済新聞2010年6月25日17面)

【CFOならこう読む】

「ソニーのハワード・ストリンガー会長兼社長への現金支給は基本報酬と賞与の合計約4億1千万円。さらに前期分として付与された50万株分のストックオプションを理論値で計算した評価額が4億円。合計で約8億1000万円が役員報酬して開示される」
(前掲紙)

CFOの役員報酬の水準はどんなものでしょうか?

ソニー 大根田伸行氏(但し、2010年6月18日をもって任期満了により退任)
基本報酬 5,000万円 賞与 4,000万円 株式退職金 5,000万円
ストックオプション 3万株(会計上の価値@813円を用いて計算すると約2,400万円)
(株式会社ソニー 第93回定期株主総会)

HOYA 江間賢二氏
固定報酬 4,800万円(内執行役報酬4,000万円)業績報酬による報酬4,400万円
ストックオプション 800万円(公正価値により計算された会計上の費用計上額)
HOYA株式会社 「第72期 有価証券報告書」[PDF]

退職金を除くと約1億円というところです。

【リンク】

株式会社ソニー 第93回定期株主総会

HOYA株式会社 「第72期 有価証券報告書」[PDF]

経産省、社外役員の基準緩和提示

経済産業省は23日、法制審議会(法相の諮問機関)会社法制部会に、会社法の見直し案を提示した。社外役員や独立役員の選定基準を緩和するのが柱で、社外・独立役員が過半数を占める企業には株主総会の手続きの簡素化などの特典を付与するよう記した。株式を対価とするTOB(株式公開買付)の促進策や、完全子会社化の際に少数株主から株式を買い取りやすくする手続きも規定するよう求めた。企業の成長を促す企業組織再編法制の実現を見直す。
(日本経済新聞2010年6月24日4面)

【CFOならこう読む】

「社外役員や独立役員について、企業が選ぶ際の要件の見直しを提案。現行法ではその企業の経験者や取引先にいた場合は、原則就任できない。だが企業からは要件が厳しすぎて、社外・独立役員が確保できないとの不満の声があがっていた。経産省はこの現状を改め、役員経験者などでも退任から数年間たてば、就任できるようにする必要があると判断した」(前掲紙)

現行の社外・独立要件は甘いという声もある中、逆にこれを緩和しようという見直し案です。

今年から役員選任を含む全議案を対象に議決権行使結果の開示が義務付けられていますが、次のように独立性に抵触すると思われる役員の議決権行使結果は厳しいものとなって
います。

「バンダイナムコHDは同日提出した臨時報告書で、21日に開いた総会の投票結果を公表した。反対票が多かったのは社外監査役候補の弁護士。子会社のバンダイから法的業務にかかわる報酬を受け取っており、米議決権行使助言会社が「社外といえるか疑問」などと事前に意見表明をしていた。

(中略)

KDDIでは京セラの川村誠会長とトヨタ自動車の佐々木真一副社長を社外取締役に選ぶ議案への賛成票も約65%にとどまった。京セラとトヨタがKDDI の大株主であることが影響したとみられる」(日本経済新聞2010年6月24日9面)

経産省にはこの6月の株主総会の結果を詳細に分析して頂きたいものです。

【リンク】

なし

税調専門委が中間整理、法人税減税は課税ベース拡大とセット

政府税制調査会の専門家委員会(委員長:神野直彦東大名誉教授)が22日公表した税制抜本改革に向けた「中間的な議論の整理」は、増税色の濃い内容となった。消費税の増収の必要性に言及したのに加え、所得税も収入の多い人から税をより多く得る増税の方向性を打ち出した。財政破綻を避け「安心と活力ある社会」を実現するため、「純増税」へとカジを切った形だ。
(日本経済新聞2010年6月23日5面)

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法人税については、次の議論が行なわれています。

「○ 我が国の法人所得課税の税率の水準は、国税と地方税を合わせた実効税率で見ると、国際的に高い水準にある。とりわけ、近年経済発展の著しい近隣の東アジア諸国と比較すると高い。
○ 経済のグローバル化が進展する中で、企業立地を確保し、雇用の創出・維持を図るためには、法人実効税率の引下げを検討する必要。
○ 法人税率の引下げは、株主のみに利益をもたらすものではなく、雇用並びに成長の基盤である企業活動が国内にとどまることや対内直接投資の拡大などにより、国民に成長の恩恵が行き渡ることに繋がることに留意する必要。この他、法人税制のあり方を考える際に雇用の観点を重視すべきとの意見があった。
○ 他方、企業の公的負担は法人所得課税に止まるものではなく、社会保険料の事業主負担も含めた企業負担全体の水準で見れば、我が国の企業の公的負担は、欧米の先進諸外国と比較して高いとは言えないとの意見があった。
○ 企業の立地は、必ずしも税負担の多寡のみで決まるものではなく、市場全体の成長性や市場へのアクセス、インフラの整備、人件費や各種公共料金の価格といった要素によっても左右されるこ とに留意する必要。
○ 法人税率の引下げを行う場合であっても、現下の我が国の厳しい財政状況に鑑みれば、これに要する財源の確保と併せて行うことが前提であり、租税特別措置の見直しなどの課税ベースの拡大と併せて実施すべき。
○ その際、ドイツの例も参考にしつつ、課税ベースの拡大と併せ、所得税や消費税など他税目の改革と組み合わせて実施すべきとの意見や、金融所得課税とセットで議論すべき、との意見があった。 」(2010年6月22日 「「議論の中間的な整理」 )

租税特別措置の見直しは必要だと思いますが、そのことと課税ベース拡大を同一の次元で議論するのはいかがなものかと思います。国際競争力強化のためには、法人税率の引き下げが必要なのではなく、法人税減税が必要なのです。

課税ベースを拡大することで法人税負担は従前と変わらないのであれば、何の意味もありません。

【リンク】

2010年6月22日「議論の中間的な整理」専門家委員会委員長 神野 直彦[PDF]

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富士通の議決権行使結果

富士通が21日に横浜市内で開いた株主総会は、野副州旦元社長の辞任問題に株主の質疑が集中した。「企業イメージが下がった」「同じ問題を起こさないでほしい」などと厳しい声が相次いだ。今回の騒動で同社は辞任理由を半年後に訂正するなど情報開示で不備もあり、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化が課題となりそうだ。
(日本経済新聞2010年6月22日9面)

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「取締役選任議案では、株主から間塚会長ら3人の除外を求める緊急動議が提案されたが否決され、原案通り承認された」(前掲紙)

株主総会議決権行使結果(賛成の割合)は以下の通りでした。

第1号議案 取締役10 名選任の件

間塚道義 86.57%
大浦溥  85.36%
伊藤晴夫 89.34%
山本正已 98.68%
石田一雄 98.73%
藤田正美 98.41%
加藤和彦 98.73%
肥塚雅博 98.46%
石倉洋子 99.01%
国分良成 99.25%

第2号議案 役員賞与支給の件 72.47%

(2010年6月21日プレスリリースより)

1号議案では、間塚氏、大浦氏、伊藤氏の賛成の割合が90%を割っています。しかしそれ以上に、2号議案(役員賞与支給の件)の賛成の割合が低いことが目を惹きます。

【リンク】

2010年6月21日「第110 回定時株主総会議決権行使結果について」富士通株式会社[PDF]

KKR、インテリジェンス買収へ

米大手買収ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)は18日、総合人材サービスを展開するインテリジェンスを、親会社のUSENから買収することで合意した。2006年に日本拠点を開設して以来、KKRにとって第1号の日本企業の買収となる。ただ、買収規模が、325億円と小ぶりなうえ、人材サービス業は一般的にファンド向きの投資対象とはいえない。「動かざる巨人」が長い沈黙を破って本格始動した理由を探ると、米老舗ファンドの投資哲学が見えてくる。
(日経ヴェリタス2010年6月17日17面)

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「人材サービス業は一般的にファンド向きの投資対象とはいえない」というより、高レバレッジの投資には向かないというべきでしょう。

私も最初にこのニュースを聞いたときに、何故インテリジェンスなんだろうか、と思いました。

この点、KKR日本代表の簑田氏は「景気変動の影響はあるが、日本の旧来の終身雇用制度の転換を迫られる中、人材サービス業は社会インフラとして絶対伸びていく」(前掲紙)と投資の理由を語っています。

KKRというと、80年代のハイレバレッジでタックスメリットをとことん追求するファンドというイメージが強いので、簑田氏の発言は意外な感じがしましたが、真っ当な投資をしようとしているんだなあと妙に感心してしまいました。

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なし

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【資本政策詳解】パピレス

2010 年 6 月 19 日 コメント 1 件

パピレスの株式上場の概要は次の通りです。

パピレスは、創業者である天谷幹夫社長が、富士通株式会社の社外ベンチャー制度を利用し、1995年に設立した、国内出版社約500社から電子書籍をアグリゲーション(収集)し、主に携帯電話、PC等の情報端末利用者(ユーザー)に対し、ディストリビューション(配信)することにより電子書籍の販売を行っている企業です。

公募価格は2,700円、、予想PER13.0という水準での株式公開となりました。

パピレスの主な資本政策は (表2)の通りです。

2005年に資本準備金取り崩しによる欠損金の補填を行なっており、必ずしも順風満帆で来たわけではないことがわかります。

この他2009年6月27日に従業員に対しストックオプションを発行しています。発行数は株式分割希薄化後で普通株式5,000株(内500株失効)、発行価格は2,200円。

株式の発行価額及び行使に際して払込をなすべき金額は、類似会社比準方式により算定した価格を総合的に勘案して決定された、直近(2009年3月)における第三者間の相対取引での価格です。

上場後時点で天谷社長単独で1/3%超の持分を確保する資本政策となっています。従業員に対するインセンティブはストックオプションによっています。

iPadにより、電子書籍の可能性が多くの人により再認識されていることが追い風パピレスのIPOにとって追い風になると思われますが、今後の競争激化が予想され、それがパピレスの業績にどのような影響を与えるのかという点について、有価証券届出書を読んでもよくわかりません。

パピレスの上場は、2009年3月期を直前決算期としているため、届出書の情報は少し古いのです。
パピレスのような技術革新の進み具合が早い業種の属する企業が1年以上も前の決算期を直前期として上場するのはいかがなものでしょう。もう少し待って2010年3月期を直前期としないのは誰の都合なのか、上場のタイミングが良過ぎるだけにうがった見方をしたくなります。

【リンク】

電子書店パピレス

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