東京電力は29日、公募増資で最大5549億円を調達すると発表した。国内の事業会社としては今年の最大規模。同社が公募増資するのは29年ぶり。東電は今後10年間で原子力発電所など二酸化炭素の発生を抑える設備投資に2.5兆円、海外を中心とした成長事業に最大1兆円を投じる計画を掲げている。増資資金を充てることで、投資のスピードを自己資本の増強を両立させる考え。
(日本経済新聞2010年9月29日9面)
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「東電は13日に発表した中期計画で、低炭素化事業と海外事業への投資拡大を明確に打ち出した。今回の調達資金も東通原発1号機(青森県)の建設費や、豪州の液化天然ガス開発事業の権益取得などに振り向ける」(前掲紙)
今回の調達資金のうち2,700億円については低炭素化に向けた新規設備として、発電時にCO2を排出しない原子力発電と熱効率の高い最新鋭火力発電への投資に充当される予定です。
具体的には、今東通原発1号機(青森県)の建設費等に2,200億円、川崎火力発電所2号系列第1軸の建設費等に500億円に充当される予定です。
また残額については、米国サウステキサスプロジェクト原子力発電所3・4号機建設プロジェクトへの参画資金及び現在鉱区開発権益取得等の契約締結に向けて協議中の豪州ウィートストーンLNGプロジェクトへの参画資金等、主に海外事業における投資等に充当される予定です。
現在の発行済株式総数1,352,867,531株に対し公募増資による増加株式数は227,630,000株なので、この増資により、15%程度の希薄化が生じます。
29日の株式市場では東電株は一時8%強下落しました。
【リンク】
2010年9月29日「新株式発行及び株式売出しに関するおしらせ」東京電力 [PDF]
東急不動産は28日、ゴルフ場事業の再構築に伴い、2010年4〜9月期に289億円の減損損失が発生すると発表した。同社が全額出資するSPCが保有物件を9月末に売却し、237億円の配当収入が発生するため、連結純利益予想を変更しなかった。
(日本経済新聞2010年9月29日17面)
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プレスリリース及び新聞記事によると一連の取引は次の通りです。
1.東急不動産が保有する以下のゴルフコースを新たに設立するTLCゴルフリゾートに吸収分割する(新設分割ではない)
大分東急ゴルフクラブ
阿蘇東急ゴルフクラブ
勝浦東急ゴルフコース
筑波東急ゴルフクラブ
蓼科東急ゴルフコース
望月東急ゴルフクラブ
小見川東急ゴルフクラブ
季美の森ゴルフ倶楽部
有田東急ゴルフクラブ
那須国際カントリークラブ
2.上記分割をするに当たり減損損失を計上する
簿価 564億円 減損損失額 289億円(連結)284億円(単体)
3.連結対象外SPCが新たに新設するSPC3社(連結対象とする)に「日本橋東急ビル」「市ヶ谷東急ビル」など5物件を売却する。これにより連結対象外SPCから237億円の配当収入が発生する
これにより当期純利益については業績予想は据え置くこととしています
連結対象外SPCの有する含み益を実現することで減損損失と相殺するスキームです。そもそもこのSPC連結対象としなくて良かったのか、という疑問は残ります。
仮に連結対象であったなら、この取引は連結グループ内の取引ということになり、含み益の実現はできない、ということになります。
【リンク】
2010年9月28日「業績予想の修正に関するお知らせ」東急不動産株式会社 [PDF]
2010年9月28日「会社分割に関するお知らせ」東急不動産株式会社 [PDF]
2010年9月28日「特別損失の発生に関するお知らせ」東急不動産株式会社 [PDF]
日本の会計基準づくりを担う企業会計基準委員会の上部組織、財務会計基準機構と日本経団連は有力企業のCFOを集めた検討会議を新設する。日本基準とIFRSとの共通化に際し、会社法などとの調整が必要とされる「単体」の財務諸表について、経済界から幅広く意見を聞き取るのが狙い。
(日本経済新聞2010年9月28日15面)
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「検討会議は10月上旬にも初回の会合を開く。メンバーはトップが経団連の会長、副会長を務める有力企業のCFOが中心、住友化学や東京電力、東芝、新日本製鉄、日立製作所、三井物産などが参加する。議長は萩原敏孝・財務会計基準機構理事長が務める」(前掲紙)
現場の声を聞くことは重要ですが、経団連=民間という図式はもはや通用しないでしょう。もっと次世代を担う若い企業の声を聞くべきです。経団連が税法や会計基準の策定に深くコミットするのはそろそろ止めるべきだと私は思います。
【リンク】
なし
2010年に行われたTOBのプレミアム水準を一覧表にしました。
一覧表は公表情報に基づき作成していますが、その正確性について保証するものではありません。したがってこの表に記載された情報を利用することで、何らかの損害が生じても一切の責任は負いませんのでご留意ください。

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鉄鋼大手が財務改善を急いでいる。有力指標である「負債資本倍率(DEレシオ)」は
2011年3月期末、JFEホールディングスが3年ぶりに1倍以下になるなど、大手4社で軒並み改善する見通しだ。アジアの鉄鋼メーカーや資源権益などへの大型出資が増えるなか、強固な財務をもとに高い格付けを取得・維持して、今後の投資資金を調達しやすくするのが狙いだ。
(日本経済新聞2010年9月25日13面)
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DEレシオとは負債が株主資本の何倍であるかを示す指標です。
「各社が財務強化を急ぐのは海外投資案件に備えるためだ。国内鋼材需要の急回復が見込みにくいなか、JFEスチールに900億円出資するなど、アジアの鉄鋼・鋼材加工会社を囲い込んで輸出先を確保する動きが加速している。資源高対策として各社が力を入れる鉄鉱石などの権益取得にも、数百億円から数千億円という多額の資金が必要だ」(前掲紙)
資金調達すればDEレシオはそこでまた上昇するわけで、CFOとして重要なことは、
単純にDEレシオを引き下げることではなく、中長期的な資金需要に基づき最適資本構成を見定め、一定の格付けを維持しつつ、WACC(加重平均資本コスト)をコントロールすることです。
DEレシオが低下すればWACCは上昇するので、価値創造という観点からいうとDEレシオを引き下げ高格付けを維持することが必ずしも最適解とはならないところにCFOの仕事の難しさと面白さがあるのです。
【リンク】
なし
経済産業省は企業のM&Aや事業再編を促すため、2011年度をメドに自社株を活用するTOBの条件を特例的に緩和する。産業活力再生法(産活法)で国の認定を受けた企業が対象で、完全子会社化のための少数株主からの株式買い取りなども容易にする。これらの緩和は会社法見直しで議論されるが、法改正は13年度になる見通し。円高進行やアジア企業の攻勢をふまえ、企業再編を通じた国際競争力の強化が急務と判断した。
(日本経済新聞2010年9月24日1面)
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「自社株を使うTOBは現在も可能だが、裁判所が選ぶ検査役の調査などが必要。
TOBでは相手の企業の株価を高めに評価するケースが多く、利益を損ねる恐れのある自社の既存株主の理解を得るための総会での特別決議なども求められる。
これらの手続きTOBの障害になっているため、経産省は対象企業には検査役による株式価格の評価や特別決議を免除する方向で検討を進める」(前掲紙)
会社法上の論点については、金融庁のコーポレート・ガバナンス連絡会議でも議論されています。
「日本企業が、自社の株式を対価として、他の日本企業又は海外企業の株式を公開買付けにより取得することは、会社法上の規制(現物出資規制)との関係で実務的には行われていない。会社法上、現物出資については、原則として検査役調査及び発行企業の取締役等の填補責任規制の対象となること、現物出資が有利発行に該当すれば発行企業の株主総会決議が必要となること等が論点として挙げられている。
これらの論点については、日本企業による企業買収の多様化・グローバル化のニーズを見極めつつ、株主・投資者保護を図りながら株式を対価とする公開買付けの実効性を高める観点から、現物出資を用いた他の取引類型における実態や、事前規制及び事後措置のあり方なども踏まえ、必要な検討をお願いしたい。 」
(法制審議会会社法制部会(平成22年6月23日(水)開催)提出資料 [PDF])
これについては私のブログでも2008年2月4日にポスティングしていますのでご参照下さい(「エクスチェンジテンダーオファー(自社株対価のTOB)が日本で出来ない理由」)。
しかし会社法上(又は産活法上)手当てがなされても、税法上手当てがなされないとTOBに応じた株主は株式譲渡益について課税されてしまう現状のままでは企業はエクスチェンジ・テンダー・オファーを実行する
ことはできません。
2011年の産活法の改正に合わせ、公開買付けに応募した対象会社の株主に係る譲渡益課税の繰延措置を講ずる必要があります。
【リンク】
2010年6月23日「金融・資本市場の観点から重要と考えられる論点」金融庁総務企画局企業開示課長 三井 秀範 [PDF]
フーマイスターの株式上場の概要は次の通りです。

フーマイスターは、1988年設立、日立グループ及びルネサス エレクトロニクス株式会社等をはじめとした国内メーカーから仕入れた電子部品・電子材料を、韓国のLGグループをはじめとした海外メーカーへ販売を行っている企業です。
公募価格は1,000円、予想PER6.3倍という水準での株式公開となりました。初値は公募価格を3%下回る970円でした。

フーマイスターの主な資本政策は (表2)の通りです。

2007年6月と9月に第三者割当増資を行っていますが、発行価格それぞれ320,00円と600,000円と大きく乖離しているのが特徴的です。

上場後も社長一族(資産管理会社を含む)で2/3超の持分を確保する資本政策になっています。従業員のインセンティブは従業員持株会によっており、その持分は上場直前で1.33%でした。
営業キャッシュフローが2008年9月期が△54億円、2009年9月期が+20億円とバラツキが大きいのが目に付きます。
「同社は2010年9月期の純利益を前期比の5倍の3億4000万円と見込むが、本業の現金収支を示す営業キャッシュフロー(CF)は赤字の見通し。2008年9月期も純利益を計上しながら営業CFは54億円の赤字だった。
会見で、藤田和弘管理本部長は「売掛金と買掛金のサイトに差があるため、売上高が伸びると営業CFは赤字になると説明した」」(日経ヴェリタス2010年9月19日24面)
つまり資金面から見ると成長余力はあまりない会社です。
フーマイスターは、JASDAQらしいいわゆる相続銘柄で、そもそも成長志向に乏しいのかも知れません。0.39倍という異常に低いBPSは、相続対策という点から見ると大成功?!と言えます。
【リンク】
株式会社フーマイスターエレクトロニクス
後発医薬品大手の沢井製薬が中堅製薬のキョーリン製薬ホールディングスの株式5%弱を取得したことが17日までにわかった。沢井は出資を通じてキョーリンと関係を深め、新薬メーカーの開発ノウハウを得たい考えで、さらにTOBによる買収にも意欲を見せている。ただキョーリン側は難色を示しており、実現は不透明だ。
(日本経済新聞2010年9月18日11面)
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「沢井は夏場までに株式市場を通じてキョーリン株を約60億円で取得したもよう。一方、TOBを通じた完全子会社化を目指してキョーリン側に買収提案書を送付、9月中の回答を求めている」(前掲紙)
沢井は時価総額1,207億円、実績PER24.23倍、実績PBR2.73倍に対し、キョーリンは時価総額904億円、実績PER10.20倍、実績PBR0.86倍です。
キョーリンはPBR1倍割れであることに加え、現金及び現金同等物の期末残高は平成20年3月末95億円、平成21年3月末123億円、平成22年3月末215億円と着実に積み上がってきており、M&Aのターゲットになりやすい状況にあると言えます。
「キョーリン側は沢井の買収提案に難色を示している。4割超の株式を持つ創業家一族も株式譲渡には否定的で、友好的なTOBは難しいとの見方が現時点では多い」(前掲紙)
キョーリンはライツプランを導入しておらず、沢井は敵対的TOBを仕掛けることも可能です。
創業家が一枚岩でないならTOBが成功する可能性もあるかも知れません。
【リンク】
なし
日本の会計基準を議論する企業会計基準委員会(ASBJ)は16日、一部の会計基準について国際会計基準(IFRS)との共通化計画を見直すことを決めた。のれん代の償却など企業結合や、無形資産の基準について「来年6月まで」に期限を先送りする。金融商品の基準も欧米当局の協議に合わせ公開草案の公表を数ヶ月延期する。
(日本経済新聞2010年9月17日15面)
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「ASBJはこれまで年内の共通化を目指していたが、のれん代の償却方法を変更した場合、単独の財務諸表で税法などとの整合性に問題が出てくるといった指摘が出て、企業や政府の議論が続いている。こうした議論の動向を踏まえ、延期を決めた」
(前掲紙)
現状、会計上、のれんは20年以内の期間で規則的に償却することとされていますが、税法上ののれんである資産調整勘定は5年間の月割償却しか認められていないので、会計処理と税務処理が異なり別表調整が必要となる場合があります。税法上の資産調整勘定は損金経理要件がなく、強制償却が要求されています。
したがってすでにのれんの処理について単独の財務諸表と税法の整合性に問題が生じているとも言えるわけですが、IFRSとのコンバージェンスの結果、永久差異になってしまうことがよろしくないということで、調整が行なわれているのでしょう。
しかし実務サイドとしては税務上資産調整勘定の償却が認められなくなるのはよろしくないわけで、のれんの会計処理について無理にコンバージェンスしてもらわなくても構わないという風にも思います。
【リンク】
なし
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