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2010 年 11 月 のアーカイブ

日本はアジアの研究開発拠点

日本ミシュランタイヤのベルナール・デルマス社長は29日、「研究開発拠点としての日本の重みは不変だ」と強調した。
(日本経済新聞2010年11月30日9面)

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「同社は仏ミシュランの子会社で、7月に太田工場を閉鎖し、日本でのタイヤ生産から撤退した。今後は海外からの供給に切り替えるが、研究開発センターは残している」(前掲紙)

これから日本経済にとって、日本に知的財産(IP)をしっかり残すことがとても重要になると思います。IPがあれば工場が日本から撤退しても、ロイヤリティーという形で収益を獲得することができるからです。

2010年のノーベル化学賞を受賞する根岸英一さんは、日経新聞のインタビューの中で、「日本は化学研究の一流国であることは間違いない」とおっしゃっておられました。
(日本経済新聞2010年11月28日1面)

で、また税制改正の話ですが、法人税率減税の財源として研究開発促進税制の廃止が挙げられています。
産経ニュース2010.11.3 01:30

しかし日本をアジア(世界)の研究開発拠点とするには、研究開発減税はむしろ拡大することが必要であると私は考えます。

税制調査会の議論は、法人税率引き下げとその数字合わせのための財源手当に終始していますが、重要なのは日本の将来ビジョンを明確に示し、それを税制が後押しすることです。

引いて足すだけの議論なら小学生でもできます。

【リンク】

なし

カテゴリー: 税制 タグ:

株主不明株、信託で売却

住友信託銀行は、所在が分からない株主の株式を企業が処分しやすくする信託の取扱いを始める。第三者が資産管理する信託の仕組みを使って、インサイダー取引規制などに抵触せずに円滑に株式を売却できるようにする。第1弾として旭化成と契約し、近く株式の市場売却を始める。
(日本経済新聞2010年11月29日5面)

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今日は備忘記録です。

「株式は信託を通じて売却されるため、インサイダー取引規制には抵触せず、短期間で大量売却を迫られる恐れもなくなる」(前掲紙)

旭化成の場合、これにより株式管理費用が2000万円節約されるということです。

【リンク】

なし

カテゴリー: 自社株取得 タグ:

棚卸資産回転率ーソニー改善

ソニーやパナソニックの在庫効率が改善している。ソニーの2010年7~9月期の棚卸資産回転率は7.18回と金融危機前(2008年7~9月期)を上回った。パナソニックも改善しており、販売動向を素早く生産に反映させる取り組み奏功している。需要が不透明なクリスマス商戦を控え、在庫管理を一段と徹底していることも背景にある。
(日本経済新聞2010年11月27日13面)

【CFOならこう読む】

棚卸資産回転率(回)=年間売上高/棚卸資産(期首・期末平均)で計算される指標で、1年間で在庫が何回転しているかを見る指標です。より少ない在庫で多くの売上をあげることができれば、それだけ効率が良いといえます。

今日の新聞では、棚卸資産回転率を、「棚卸資産の期中平均を売上高で割って算出する」とありますが、これは「売上高を棚卸資産の期中平均で割って算出する」の誤りです。

ソニーの棚卸資産回転率を計算してみましょう。

2010年6月30日 2010年9月30日
棚卸資産(百万円 748,586 917,284
2010年第2四半期
純売上高(百万円) 1,494,434

四半期売上高を4倍すると年間売上高に相当します。すなわち

1,494,434×4=5,977,736百万円

第2四半期の期首・期末平均棚卸資産は、

(748,586+917,284)÷2=832,935百万円

となるので、

棚卸資産回転率は、

5,977,736÷832,935=7.176回

となります。

その他の日韓家電各社の2010年7~9月期の棚卸資産回転率は以下の通りです。

サムソン電子 10.99回
パナソニック 8.89
LG電子 8.01
ソニー 7.18
シャープ 6.19

(前掲紙)

【リンク】

2010年7月29日「2010年度第1四半期 連結業績のお知らせ」ソニー株式会社 [PDF]

2010年10月29日「2010年度第2四半期 連結業績のお知らせ」ソニー株式会社 [PDF]

カテゴリー: 業績評価 タグ:

FCレジデンシャル投資法人、投資主の解散総会請求で投資口価格が急伸

25日REIT市場で、FCレジデンシャル投資法人の投資口価格が前日比15.4%高と急伸した。24日にFCレジデンシャルが「投資主のエスジェイ・セキュリティーズ・エルエルシーが、投資法人の解散についての投資主総会の招集を請求した」と発表したことが材料だ。
(日本経済新聞2010年11月15日15面)

【CFOならこう読む】

「FCレジのPBRは0.57倍と、理論上の解散価値である1倍を下回っている。仮にFCレジがこの水準で解散し保有資産を売却すれば、投資主は利益を得られる計算になる。これが解散目的の投資主総会を請求した理由とみられる」(前掲紙)

PBRとは株価/簿価純資産のことです。簿価純資産は会計上把握されるものなので、含み損益が反映されたものではありません。時価純資産に近い評価指標としてREITの場合NAV(Net Asset Value)が用いられます。NAVとは、J-REITが保有する物件等の時価評価から負債を差し引いたものであり、解散価値としては簿価純資産よりNAVで見る方が適切であると言えます(もちろん物件の時価評価が適切に行われていることが前提です)。

投資口価格を1口当たりのNAVで割ったものを「NAV倍率」と言います。

少し古いデータですが、↓のサイトでJ-REITのNAV倍率を一覧できます。この指標で見てもFCレジデンシャルは1倍を大きく下回っていることがわかります。
J-REITTレポート Vol.4 「注目の投資尺度『NAV倍率』」みずほ投信投資顧問株式会社 [PDF]

【リンク】

2010年11月24日「投資主による投資主総会の招集の請求に関するお知らせ」FCレジデンシャル投資法人 [PDF]

アイルランド法人増税は見送り

EUとIMFに金融支援を要請したアイルランドのカイエン首相は24日、2014年まで4カ年の財政再建計画を発表した。歳出削減や付加価値税率引き上げなど歳入増加策で財政赤字を14年に150億ユーロ(約1兆6500億円)削減する。焦点だった法人税率の引き上げは見送った。これによりEU・IMFからの金融支援実現に向け前進。次の焦点は銀行再建策を巡る協議に移る。
(日本経済新聞2010年11月25日7面)

【CFOならこう読む】

「法人税率は据え置く。欧州主要国で最低水準の12.5 %にとどまっているため欧州各国は引き上げを求めていたが、低い法人税で外資を誘致するアイルランドのモデルは成長戦略上欠かせないと判断した。

これまでアイルランドは英語やユーロが使えることと併せ、欧州最低水準の法人税率を売り物に日米欧の企業を呼び込んできた。ダブリン郊外には複数の企業団地があり、日本企業も武田薬品工業やアステラス製薬が拠点を構える。信用不安で弱含む足元の経済は堅調な輸出が支えている」
(前掲紙)

企業誘致したいEU各国としては、この機に乗じてアイルランドに税率引き上げを迫りたいというのが本音でしょう。

しかし、先日のグーグルのポスト「2010年11月11日 グーグル、海外での実効税率2-4」でもお話ししたように、アイルランドはダブルアイリッシュといったスキームにより、多くのグローバル企業の世界戦略の中で重要な位置を占めるに至っており、国家の都合だけで動かすことはもはや不可能です。

結局財政再建計画の中心は、社会保障費の削減、付加価値税率の引き上げや所得税の見直し、資産課税強化といった個人負担増に偏る形になっています。

そしてそれは、日本でも将来同じことが起こるかも知れないという意味で、とても人ごととは思えません。

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なし

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ベンチャーキャピタル(VC)の出口

ベンチャー企業が株式上場を軸にした成長戦略を見直している。上場しても十分な成長資金を調達できず、上場維持にも多額の費用がかかるためだ。VCなど上場を迫る株主から買い取って経営の自由度を高め、大企業との連携強化などで成長を目指す。ベンチャーの非上場志向が強まれば、VCの経営にも影響しそうだ。
(日本経済新聞2010年11月24日11面)

【CFOならこう読む】

「成長資金の供給源だったVCからの「上場」要請は強まるばかり。VCは投資家から集めた資金を10年程度かけて運用する場合が多いが、2000年前後のベンチャーブーム時に設立されたファンドが相次ぎ償還期を迎え、資金回収を急いでいる。

上場はできず、償還期限を迎えたVCの保有株が知らない企業に渡るのも避けたい。一方、VCは「上場してくれ」と圧力をかけてくる。板挟みになったベンチャーがVCの保有株を別の企業に買ってもらうか、自社で買い取り、経営の自由度を高めるのは自然な流れといえる」(前掲紙)

上場を見送るのなら、方向性としては自社株買いか他社に買い取ってもらうかのいずれかになります。

今日の記事の中でいうと、九州大学発のバイオベンチャー、アキュメンバイオファーマは前者、株式をヤフーに売却した携帯電話向け広告のシリウステクノロジー、ジンガ傘下に入ったゲーム開発のウノウ(現ジンガジャパン)は後者を選択したということです。

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なし

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【資本政策詳解】イー・ガーディアン

イー・ガーディアンの株式上場の概要は次の通りです。

イー・ガーディアンは、1998年設立、インターネットメディアを運営するクライアントに対し、当該インターネットメディアに投稿されるコメント等への監視サービスを提供する掲示板投稿監視事業を行っている企業です。

公募価格は1,300円、予想PER8.5倍という水準での株式公開となります。

掲示板投稿監視事業特化して間がなく、現在第2創業期にあるといえます。
掲示板投稿監視事業の過去3期の売上高は次の通りです。

2007年9月期 342,426千円
2008年9月期 461,106千円
2009年9月期 858,602千円

イー・ガーディアンの主な資本政策は (表2)の通りです。

創業者が経営からすでに退いており、社長の高谷氏の持分は上場直前時点で12.43%にすぎません。筆頭株主はVCであるドリームインキュベータと高谷氏は新株予約権により持分を確保しています。

2010年7月9日の新株予約権行使は高谷社長、7月16日はドリームインキュベータによるものです。

イー・ガーディアンはVC型であり、上場後は経営権を確保する株主がおらず、また流動株の比率も約25%と比較的高いことから、経営体制は安定しているとは言えません。そういう意味では、掲示板投稿監視事業の主力販売先であるグリー(2010年9月期第3四半期累計期間は38.3%)との関係が今後も重要であると思われます。

【リンク】

イー・ガーディアン株式会社

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【TOB開示資料抜粋】TPG傘下ファンド・エイボン

プライベート・エクイティ投資会社、TPG傘下のファンド「Devon Holdings」は8日、エイボン・プロダクツ<4915.OS>の株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表した。エイボン・プロダクツは同公開買い付けへの賛同を表明している。TOB価格は1株74円。TPGはTOBにより同社の完全子会社化を目指
す。

asahi.com 2010年11月8日19時15分

【リンク】

エイボン・プロダクツ株式会社

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【TOB開示資料抜粋】日本製粉・オーケー食品

日本製粉は株式の約33.3%を保有するオーケー食品工業に対し、TOBを行う。持株比率51%を上限に連結子会社化を目指す。
買付価格は普通株式1株につき123円。期間は8日から12月20日まで。オーケー食品の上場は維持する方針。同社は業務用味付けあげ最大手で、日本製粉の子会社となることで品質管理や研究開発強化のほか、共同購買・物流でコスト削減を図る。

(日刊工業新聞2010年11月8日)

【リンク】

2010年11月5日「オーケー食品工業株式会社株式に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」日本製粉株式会社 [PDF]

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政府税調。「雇用促進税制検討」へ

政府税制調査会は2011年度からの創設を目指す「雇用促進税制」について、雇用を増やした企業に対する法人税の税額控除を導入する検討に入る。成長企業の雇用増加を後押しする狙い。併せて、雇用を増やしたと偽って減税を受ける不正を防ぐため「雇用保険」制度を活用する方向だ。
(日本経済新聞2010年11月18日1面)

【CFOならこう読む】

「ザ・ワーク・オブ・ネーションズ」、「勝者の代償」の著者で、クリントン政権で労働長官も務め、また現在はオバマ政権の政策アドバイザーを務めるロバート・B・ライシュの「暴走する資本主義」(Supercapitalism)は現代資本主義の特質を次のように説明しています。

「1970年代以降、資本主義の暴走、つまり超資本主義と呼ばれる状況が生まれたが、この変革の過程で、消費者および投資家としての私たちの力は強くなった。消費者や投資家として、人々はますます多くの選択肢を持ち、ますます「お買い得な」商品や投資対象が得られるようになった。
しかしその一方で、公共の利益を追求するという市民としての私たちの力は格段に弱くなってしまった。労働組合も監督官庁の力も弱くなり、激しくなる一方の競走に明け暮れて企業ステーツマンはいなくなった。民主主義の実行に重要な役割を果たすはずの政治の世界にも、資本主義のルールが入り込んでしまい、政治はもはや人々のほうでなく、献金してくれる企業のほうを向くようになった。
私たちは「消費者」や「投資家」だけでいられるのではない。日々の生活の糧を得るために汗する「労働者」でもあり、そして、よりよき社会を作っていく責務を担う「市民」でもある。現在進行している超資本主義では、市民や労働者がないがしろにされ、民主主義が機能しなくなっていることが問題である。
私たちは、この超資本主義のもたらす社会的な負の面を克服し、民主主義より強いものにしていかなくてはならない。個別の企業をやり玉に上げるような運動で満足するのではなく、現在の資本主義のルールそのものを変えていく必要がある。そして「消費者としての私たち」、「投資家としての私たち」の利益が減ずることになろうとも、それを決断していかなければならない。その方法でしか、真の一歩を踏み出すことはできない。」

相対的に弱くなっている「労働者」の立場を護るために「雇用促進税制」を導入することは一定の意義があるとは思います。

昨日の税調の配布資料を見ると、「雇用促進税制」の基本的な位置づけが次のように説明されています。

「◯雇用の受け皿となる成長企業を支援し、雇用が拡大することにより、消費需要が刺激され、成長に繋がる好循環を実現するというマクロ経済的な効果を発現させるため、本税制措置を成長企業の雇用拡大を支援するものと位置づける
◯既存の助成金は就職困難者等の支援や厳しい状況下での雇用維持が中心となっており、上記のように成長企業の雇用拡大支援と位置づけることにより、助成金との役割分担を明確化。」
「雇用促進税等PT経過報告」内閣府税制調査会 [PDF]

いまの日本にとって雇用が最重要課題であることは間違いありません。

ですから「雇用促進税制」を導入するのも良いとは思います。

しかしより重要なのは、日本で活動する企業(当然外国の企業が含まれます)を増やすことです。
特に外国の企業を日本に誘致する政策を戦略的に講ずるべきです。

そのためには規制緩和、インフラ整備そのほかやるべきことは山ほどあります。

また労働者自身(特に若い人)は、そういう時代がやってくることを見据えて、自らを鍛える必要があると思います。

【リンク】

「雇用促進税等PT経過報告」内閣府税制調査会 [PDF]