海外企業の対日M&Aでは中国勢の伸びが目立つ。中国(香港を含む)の企業や投資ファンドの出資を含むM&Aは27日時点で前年より11件多い37件。米国勢によるM&Aは35件と1件増にとどまり、データを比較できる1985年以降で初めて中国勢が首位となった。
(日本経済新聞2010年12月28日 11面)
【CFOならこう読む】
「金額ベースでは米国の1938億円(前年比47%減)に対し、中国は288億円(同1%増)だが、日本企業の生産技術やブランドなどに着目した中国勢の「日本買い」が増えている」(前掲紙)
中国だアメリカだと言っても所詮30~40件の話で、ないにも等しいレベルです。雇用の維持が重大な政策課題である今の日本にとって、日本人という極めて優れた稀少な資源を有効利用してもらえるのであれば、外資であってもどんどん受け入れるべきだし、受け入れるためのインフラを整える努力をすべきです。
そしてそのことにより、日本企業のグローバル化が深化するように思うのです。
楽天やユニクロが英語を社内の公用語としたことの是非があれこれと議論されいます。(例えば 文藝春秋2011年1月号 「英語より論語を」藤原正彦/宮城谷昌光)
しかしより重要なのは異質なものを受け入れる”気構え”です。英語を社内の公用語とするのもその”気構え”を示すものと理解すれば、大いに評価すべきと私は考えます。
年内の更新は今日でおしまい。
年初は1月5日からスタートします。
それでは皆様よいお年を!!
中堅出版社の幻冬舎の経営陣と投資ファンドのイザベル・リミテッド(ケイマン諸島)との攻防が大詰めを迎えている。幻冬舎が10月29日にMBOによる非公開化を発表したところ、イザベルが市場で幻冬舎株を買い集め、12月24日までに議決権ベースの保有比率は36%に達した。
(日経ヴェリタス2010年12月26日22面)
【CFOならこう読む】
「今回のMBOに必要な買い付け総額は約60億円。幻冬舎の経営陣は保有する現預金を充当すれば、残り10億円で会社が買える計算だ。MBOではなるべく安く買いたいと考える買収者側に経営陣が立つため、過去にもTOB価格を巡って株主が異議を申し立てる事例があった」(前掲紙)
本件については、今まで価格面に関して検討していませんでした。
上記記事の数値の意味はこういうことです。
発行済株式数 |
36,000株 |
自己株式 |
8,587 |
差引 |
27,413株(2010年9月30日現在) |
MBO価格 |
220,000円 |
MBO価格による時価総額 |
220,000円×27,413=6,030百万円 |
2010年9月30日現在の現金及び現金同等物の四半期末残高 5,042百万円
したがって事業価値は、
6,030百万円-5,042百万円=988百万円
と計算されます。
営業利益の推移は以下の通りです。
2009年3月期 |
1,375百万円 |
2010年3月期 |
1,676百万円 |
2011年3月期予想 |
1,600百万円 |
EBITDA倍率をうんぬんするまでもなく、988百万円という事業価値評価額は割安と言えます。
【リンク】
「有価証券報告書 2011年3月期第2四半期」株式会社幻冬舎 [PDF]
2008年秋に経営破綻した米証券大手リーマン・ブラザーズを巡る責任追及が、会計事務所にも及んできた。米ニューヨーク州のクオモ司法長官は21日、リーマンによる不正な会計操作に関与したとして、会計事務所アーンスト・ヤング(E&Y)を提訴。
(日本経済新聞2010年12月24日7面)
【CFOならこう読む]】
「焦点となっているのはリーマンが2001年から活用していた「レポ105」と呼ぶ短期取引。他の金融機関に担保として渡した債券を会計上売却したとみなして処理し、借り入れた資金で負債を返済する。こうした不正な会計処理で一時的に500億ドルをバランスシートから外し負債を過少に見せかけた疑いがもたれている」(前掲紙)
レポ取引は資金調達の手段または利回りを高める機能として利用されています。
レポ取引は、法的所有権が移転する買戻契約と法的所有権が移転しないキャリー(典型的に、伝統的なレポと呼ばれることもある短期のレポ)に区別されることもあります(監査法人トーマツ監訳「国際財務報告基準詳説 金融商品編 第1編」 LexisNexis)。
IAS第39号AG40項は、買戻価格が固定価格または売却価格に貸手のリターンを加算した価格である場合の買戻条件付売却を認識の中止(つまり売却)としては認められないと規定しています(前掲書)。
この点についてUS-GAAPも大きく相違しないと思われるので、リーマンのケースではレポ105は買戻条件付売却ではないとの理論構成をしたものと思われます(連邦裁判所の調査報告書を読んでいないのであくまで推測です)。
【リンク】
なし
投資ファンドのイザベル・リミテッド(ケイマン諸島)による幻冬舎株の持株比率が26.10%に上昇したことが21日提出の大量保有報告書で明らかになった。議決権ベースでは34.23%に相当する。
(日本経済新聞2010年12月22日15面)
【CFOならこう読む】
11月16日「【TOB開示資料抜粋】tkホールディングス・幻冬舎」、12月8日「TOB中の幻冬舎株、投資ファンドが30-6%取得」及び12月14日「幻冬舎、tob価格引き上げ」のポストの続報です。
今日の記事によると、ファンドの持分が議決権ベースで1/3を超えたということで、TOBによらずに1/3超の株式を取得することができるのかと疑問に思った方もいらっしゃると思いますが、市場内取引のみによる取得であるならTOBは不要です。
ただし、金商法27条の2第1項5号は、他者の公開買付期間中に、株券等所有割合(議決権ベース)が3分の1を超える者が5%超の買付けを行うときは公開買付けによらなければならないとしています。
しかし、
「この規制の適用を受けるのは当初の公開買付届出書に記載された公開買付期間だけであり、当該公開付期間が延長された場合、延長後の公開買付期間は規制の対象とはされていない」
(「公開買付けの理論と実務」長島・大野・常松法律事務所編)
との除外規定が存在するとのことです。
幻冬舎の場合、当初の公開買付期間は平成22年11月1日(月曜日)から平成22年12月14日(火曜日)まででしたが、12月28日(火曜日)まで延長されています。
この辺りの立法趣旨はよくわかりませんが、TOBにはTOBで対抗させるというのがあるべき姿であると私は思います。
【リンク】
なし
住友商事は為替変動による純資産の目減りを抑えるため、外貨投資の際のルールを策定した。出資案件ごとに一定の金額をスワップなどでヘッジすることを義務付けるうえ、通貨ごとの未ヘッジ分に上限を定める。新ルールは2011年にも運用を始める。
(日本経済新聞2010年12月21日15面)
【CFOならこう読む】
「円高が進むと海外子会社への出資を円換算した金額も減少する。これは会計上「為替換算調整勘定」と呼ばれ、マイナス分が自己資本から差し引かれる。住友商事の新ルールでは、原則、外貨で投資した資本金のうち一定の金額については、先物やスワップ取引などで固定化し、為替変動の影響を軽減する」(前掲紙)
IAS39号は、適格純投資ヘッジについて規定しています。例えば在外営業活動体に対し、40£の出資を行ったとすると、この出資から生じる為替リスクは、連結財務諸表上、為替換算差額としてその他の包括利益に計上されます。これをヘッジするために60ポンド(直物為替レート100円/£)の借入を行ったとすると借入時に
(借方) 現金 6,000円 (貸方)借入金 6,000円
の仕訳が行われます。
「IAS39号で。在外営業活動体に対する純投資のヘッジは、キャッシュ・フロー・ヘッジと同様に会計処理しなければならないとし、具体的には、
(a) ヘッジ手段に係る利得又は損失のうち、有効なヘッジ(IAS39.88参照)と判定される部分は、その他の包括利益に認識しなければならない。
(b) 非有効部分は、純損益に認識しなければならない。と定められている(IAS39.102)。」
(IFRS及びIASの解説 第28回 IAS21「外国為替レートの変動の影響」、IFRIC16「在外営業活動体に対する純投資のヘッジ」 中井雄一郎 会計・監査ジャーナル2011年1月号)
したがってIAS39.88のヘッジ要件が満たされている場合、期末日の直物為替レートが105円/£の場合、
(借方) 為替差損 100円 (貸方) 借入金 300円
その他の包括利益 200円
という会計処理が行われます。
この会計処理により計上されるその他の包括利益と、純投資から生じる為替換算差額との間で、ヘッジ会計が成立することになります。
【リンク】
なし
テラプローブの株式上場の概要は次の通りです。

テラプローブは、2005年設立、半導体のウエハテスト、ファイナルテストに関する受託事業を行っている企業です。上場前時点ではエルピーダメモリが61%保有する連結子会社で売上高の約7割はエルピーダ向けとなっています。
公募価格は3,000円、予想PER6.1倍という水準での株式公開となりました。

テラプローブの主な資本政策は (表2)の通りです。

創業からさほど時間が経過していないこともあり、設立から上場に至る全ての資本政策が開示されています。
A種優先株式によるエクイティファイナンスに特徴があります。

テラプローブはIPOによりエルピーダメモリの連結子会社からはずれることになりますが、上場後も引き続き40%の持分を保有することになります。
役員・従業員は現物株を保有せず、インセンティブはストックオプションによっています。
【リンク】
「新株式発行並びに株式売出届出目論見書 平成22年11月」株式会社テラプローブ [PDF]
コナカやニッセンホールディングスなど輸入商材を国内販売する小売企業で、長期の為替予約を取りやめる動きが相次いでいる。収益押し上げを狙った
デリバティブ取引が想定外の円高で多額の損失を出したためだ。経済環境の激変で為替相場は大きく振れやすく、今後は自らの販売戦略も見据えた為替リスクの管理体制が必要になりそうだ。
(日本経済新聞2010年12月17日1面)
【CFOならこう読む】
「損失を広げたのは「クーポンスワップ」と呼ぶデリバティブ取引だ。企業と金融機関がそれぞれ扱う通貨を交換する通貨スワップの一種で、元本ではなく利息部分(クーポン)を交換する。企業は毎年、固定レートで円とドルを交換できる。通常の予約より契約直後の為替レートが有利になる性質があり、短期的な損益押し上げ効果が大きい。一方、金融機関は長期にわたって手数料を受け取れる。双方の思惑が一致し、将来の円安進行が予定された2003年~2007年ごろに販売が増えた」(前掲紙)
為替レートが120円程度のときに、5年から7年程度の長期のクーポンスワップ契約を取り組むことにより、100円を下回るレートでその期間に予定される輸入取引の為替レートを固定化することができたので、ヘッジ目的で多くの企業が利用していました。
記事に書かれている多額の損失とは、固定化した為替レートよりも円高に進んだことにより生じたもので、その意味ではどのようなヘッジからも生じ得るもので、特に小売企業が投機的な取引に手を染めたから発生したわけではありません。
しかしクーポンスワップのような長期のヘッジ手段は、現代のように短期間で経営環境が大きく変化する時代には好ましくないということは今日の記事の教訓として肝に銘じるべきでしょう。
【リンク】
なし
政府は16日の臨時閣議で、2011年度税制改正大綱を決めた。経済活性化や雇用拡大を狙って法人税率を12年ぶりに引き下げ、地方税を含めた実効税率を先進国で最高水準の40%から5%下げる。個人向け税制は、所得税の控除縮小など高所得者や富裕層に多くの負担を求める内容となった。消費税増税を含む抜本改革は先送りした。
(日本経済新聞2010年12月17日1面)
【CFOならこう読む】
税制改正の法人税に関する概要は、すでに12月15日のポスト「法人税率5%引き下げの財源案まとまる」でお知らせしています。法人税以外の分野でもお話ししたい改正点はいくつかあるのですが、今日は個人の寄付控除について簡単に触れておきたいと思います。
「国が認定する非営利組織(NPO)などへの個人による寄附を促すため、所得税額などから寄付額の半分を差し引く税額控除を新設する。来年1月以降の寄附に対し適用する。税額控除の対象となるのは一定の基準を満たして、国から「認定NPO」として指定されたNPOへの寄附。同様の基準を満たせば、公益法人、学校法人、社会福祉法人への寄附も税額控除の対象とする。寄付金額から2000円を引いた額の40%分を所得税額から、同10%分を住民税額から控除する」
(日本経済新聞2010年12月17日5面)
ただし所得税額控除は所得税の25%が限度となります。
2010年2月5日のポスト「寄付金税制のあり方」で、個人の寄付金が今後重要になることと、税制上所得控除ではなく税額控除に変更すべきことをお話ししました。税額控除というのは、所得の再配分を国家に委ねるのではなく、個人の意思に委ねるということに他なりません。そしてその方向性は基本的には正しいと思います。
今回の改正では所得税の25%までという制限がつきましたが、こんな制限は近い将来なくしてしまうことが望ましいと思います。それには寄附という形で多くの支持を集められるNPOが数多く必要となります。NPO自身の努力も今まで以上に重要になると思います。
【リンク】
2010年12月16日「平成23年度税制改正大綱」 [PDF]
東京証券取引所は来春にも、新興市場「マザーズ」の上場規則を変更し、新規上場の審査を緩和する一方で、上場後に成長の止まった企業には早期の上場廃止を求める。上場企業の「新陳代謝」を促して投資家をひきつけ、東京市場の活性化につなげたい考えだ。
(日本経済新聞2010年12月16日1面)
【CFOならこう読む】
「東証は21日に開く取締役会でマザーズの改革案を決議する方針」(前掲紙)
上場基準の変更点として、記事にあげられているのは、以下の通りです。
・上場廃止基準の厳格化
上場後一定期間経過した企業は東証1部・2部と同じルールを適用
・新規上場企業の審査基準緩和
直近の業績が減益であっても上場を承認できるようガイドラインを見直す
上場規則を変更するのも良いですが、今の新興市場の低迷は、かつてのソニーやホンダのようにグローバルに活躍できる可能性を感じられる企業がほとんど上場されていないことに起因します。
これは取引所だけの責任ではないのですが、取引所はもっとビジョンを語り証券会社や監査法人といった主たるプレイヤーに伝えていく努力をすべきであるとは思います。と同時に税制その他の面で企業家を支えることを国に対し声高に求めることも必要です。
そうすれば、ソーシャルやら環境やらという流行りものを猫もしゃくしも追いかけて、単に時代とともに消えるあだ花を咲かせるだけの現在の状況は少し変わって行くように思うのです。
【リンク】
なし
政府税制調査会が2011年度税制改正大綱に盛り込む企業向け減税から増税を差し引くと企業にとっては6000億円の負担減になることが14日わかった。
上場株式などの配当や譲渡益にかかる税率(所得税と住民税の合計)を10%に軽減している「証券優遇税制」を2年間延長することも決まった。2011年末に廃止し20%に戻る予定だったが、2013年末まで延ばす。
(日本経済新聞2010年12月15日1面)
【CFOならこう読む】
「法人実効税率の5%下げは国・地方合わせて1兆5000億円規模の減税だが、このうち8000億円は企業の負担増で財源を確保する。差額の7000億円は法人実効税率下げによる企業の負担減分となる」(前掲紙)
昨日の税調会議資料から法人税に関する主要事項とりまとめ案を以下に抜粋します。
「1.法人税の基本税率を現行の30%から25.5%に引き下げる。
2.基本税率の引下げに伴い、次の措置を講ずる。
(1) 次の特別償却制度を廃止又は縮減する
・エネルギー需給構造改革推進投資促進税制(廃止)
・集積区域における集積産業用資産の特別償却制度(縮減)
・事業革新設備等の特別償却制度(廃止)
(2) 特別修繕準備金制度の対象範囲を見直す(縮減)
(3) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除の特例(控除限度額の割増)は延長しない
(4) 減価償却制度について、定率法の償却率を定額法の償却率の2.5倍から2.0倍に縮小する
(5) 貸倒引当金の適用法人を銀行、保険会社その他これらに類する法人及び中小法人等に
限定する
(6) 欠損金の繰越控除制度について、中小法人等の場合を除き、控除限度額をその事業年度
の繰越控除前の所得金額の100分の80相当額に制限する。これに伴い、欠損金の繰越期間
を9年(現行7年)に延長する
(7) 一般の寄付金の損金算入限度額を現行の2分の1の水準に引き下げる
(8) 外国税額控除制度の適正化を行う」
(「主要事項とりまとめ案(国税) 法人課税など」)
繰越欠損金の控除制限については当初所得金額の半分に制限するとされていたわけですが、すったもんだの末80%になりました。ようするに所得の20%分については税金を払わなければならないということです。ただし資本金1億円以下の企業については、従来通り100%控除できます。
繰越期間の7年から9年への延長については、平成20年4月1日以後に終了した事業年度において生じた欠損金について適用されます(今年期限をむかえる欠損金の期限が2年延長されるわけではありません)
【リンク】
「主要事項とりまとめ案(国税) 法人課税など」 [PDF]
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