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2011 年 1 月 のアーカイブ

幻冬舎MBO、信用取引で株取得 議決権行使可能?

中堅出版社の幻冬舎が実施中のMBOが揺れている。見城徹社長が出資するSPCによる幻冬舎買収に対して、対抗的買収者として聞き慣れない投資ファンドが登場。MBOに欠かせない株主総会での特別決議が否決できる3分の1超の幻冬舎株を取得した。MBO成立は暗礁に乗り上げた形だが、ファンドは信用取引で大半の株式を取得しており、議決権行使について法的な論点が浮上している。
(日本経済新聞2011年1月31日16面)

【CFOならこう読む】

11月16日「【TOB開示資料抜粋】tkホールディングス・幻冬舎」、12月8日「TOB中の幻冬舎株、投資ファンドが30-6%取得」及び12月14日「幻冬舎、tob価格引き上げ」、12月22日「ファンド、幻冬舎株を買い増し 議決権ベースで34.23%に」、12月27日「幻冬舎のmbo価格」のポストの続報です。

「イザベルは、株式の大半を「制度信用取引」で取得しており、1月26日時点で現物株を引き取っていないもよう。この場合、臨時株主総会では信用取引の買い手である立花証券が議決権を持つが、権利行使に当たって制約を受けないかが論点となる」(前掲紙)

論点1:立花証券は顧客であるイザベルの意向に沿って議決権行使できるか?
論点2:立花証券が独自に判断すれば議決権行使をできるのか?

今日の記事はいずれも法的には明らかではないとしています。

もっとも、大証では制度信用取引で株式を買い付けている者が議決権行使はできないと規定しており、論点1及び2がその潜脱とみなされるのであれば、いずれも”できない”ということになるように思います。

臨時株主総会は、2011年2月15日に予定されています。

【リンク】

なし

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本日休載

出張のため本日は休載します。

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役員退職慰労金の代替としての行使価額1円ストックオプションの利用

2011年の税制改正大綱に盛り込まれた退職金への課税強化を受け、民間企業で役員への退職慰労金を廃止する動きが広がりそうだ。在職5年以下の役員が大幅増税になり、在職6年以上の役員とのあいだで不公平感が強まるためだ。株主が慰労金制度を批判していることも影響している。慰労金の代替措置としてストックオプションの活用も進みそうだ
(日本経済新聞2011年1月28日7面)

【CFOならこう読む】

「退職金は勤続年数に応じた金額を控除し、残りのさらに半分に課税する「2分の1課税」が適用される。」(前掲紙)

退職所得の金額は、次のように計算されます。

(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額

式中の退職所得控除額は、次のように計算されます。

勤続年数(=A)     退職所得控除額
20年以下       40万円×A

(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超        800万円+70万円×(A-20年)

「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)国税庁」

退職金というのは、長年の勤務に対する報酬を一時に受け取るものだから、課税上も軽減措置を設けようということです。

「税制改正大綱は12年1日以降、在職5年以下の役員が受け取る退職金について2分の1課税の廃止を盛り込んだ」(前掲紙)

平成23年度税制改正大綱の記載は次の通りです。

「役員退職手当等に係る退職所得の課税方法の見直し
その年中の退職手当等のうち、退職手当等の支払者の役員等(役員等としての勤続年数が5年以下の者に限ります。)が当該退職手当等の支払者から役員等の勤続年数に対応するものとして支払を受けるもの(以下「役員退職手当等」
といいます。)に係る退職所得の課税方法について、退職所得控除額を控除した残額の2分の1とする措置を廃止します。」
「平成23年度税制改正大綱」[PDF]

役員の退職慰労金については、機関投資家などからの批判が強く、退職慰労金に代えてストックオプションを利用する会社が増えています。

「米タワーズワトソンなどの調査では、2009年7月~2010年6月にストックオプションを付与した日本企業は383社と前年同期より2社増えた。とくに行使価格が1円の「株式報酬型」を付与した企業は21社多い171社と過去最高。昨年は三越伊勢丹ホールディングス、三井住友フィナンシャルなどが新たに導入した。
通常のストックオプションよりも有利なので、退職金の代替措置として活用されている」(前掲紙)

通常のストックオプションより有利なのは、一定の条件を満たせば受領側が退職所得となるからです。これについては、2004年11月2日付の伊藤園による事前照会に体する国税局の文書回答がウェブサイトに公開されています。(「権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について」国税庁

伊藤園の新株予約権の内容は、次のようなものでした。

「権利行使時の権利行使価額を1株当たり1円とし、その権利行使期間は、発行日から30年以内において、役員を退任したときに、退任した日の翌日から10日を経過する日までの間に限り、一括して権利行使しなければならないことになっております。」
「権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について」国税庁

これについて、以下の法令、通達に照らし退職所得とすることで問題ない旨回答がされています。

「退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下「退職手当等」という。)に係る所得をいう」(所法30)退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいうもの(所基通30-1)」

具体的な制度設計の概要は以下の通りです。

◯NKSJホールディングスのケース

2010年7月22日「新株予約権(株式報酬型ストックオプション)の発行に関するお知らせ」NKSJホールディングス株式会社 [PDF]から抜粋)

取締役会決議日 2010年7月30日
行使期間 2010年8月17日から平成2035年8月16日まで
新株予約権の払込金額 ブラック・ショールズ・モデルにより算出したオプション価額
払込金額の総額に相当する金銭報酬を支給することとし、当該金銭報酬支払債務と新株予約権の払込金額の払込債務とが相殺される
行使価格 1円
行使条件
(1)新株予約権者である取締役および執行役員は、取締役および執行役員のいずれの地位をも喪失した日の翌日から10日を経過する日までの期間に限り、新株予約権を行使することができる。
(2)新株予約権者は、取締役または執行役員それぞれの地位に基づき割当を受けた新株予約権(株式報酬型ストックオプション)については、保有するすべての新株予約権の全個数を一括して行使するものとし、その一部のみを行使することができない。

◯三越伊勢丹ホールディングスのケース

2010年1月29日「取締役および執行役員に対する株式報酬型ストックオプション(新株予約権)発行に関するお知らせ」株式会社三越伊勢丹ホールディングス [PDF]から抜粋)

取締役会決議日 平成2010年1月29日
行使期間 平成2011年4 月1 日から平成2026年2 月26 日まで
新株予約権の払込金額 ブラック・ショールズ・モデルにより算出したオプション価額
新株予約権の払込金額の総額に相当する報酬を支給することとし、払込金額については、会社法第246 条第2 項の規定に基づき、金銭の払込に代えて、対象者が当社に対して有する報酬債権と相殺する
行使価格 1円
行使条件
(1)新株予約権1 個当たりの一部行使はできないものとする。
(2)新株予約権者は、権利行使時において、取締役、監査役、執行役員、相談役、理事および顧問のいずれかの地位にあることを要する。ただし、任期満了による退任その他正当な理由に基づき取締役、執行役員、監査役、相談役、理事および顧問のいずれの地位をも喪失した場合(かかる地位の喪失を以下「退任」という。)、退任の日から5 年以内に限って権利行使ができるものとする。
なおこの場合、行使期間については、上記に定める行使期間を超えることはできない。
(3)新株予約権を行使することができる期間の満了前に新株予約権者が死亡した場合は、相続人のうち1 名に限り、下記(4)の新株予約権割当契約書の定めるところに従い新株予約権を承継することができる(当該相続により新株予約権を相続した者を「権利承継者」という。)。権利承継者が死亡した場合、権利承継者の相続人は新株予約権を承継することができないものとする。権利承継者による新株予約権の行使の条件は、下記(4)の新株予約権割当契約書に定めるところによる。
(4)その他の条件については、当社取締役会の決議に基づき、当社と新株予約権者との間で締結される新株予約権割当契約書に定めるところによる。

◯三井住友フィナンシャルグループのケース

2010年7月28日「株式報酬型ストックオプション(新株予約権)の発行について」株式会社三井住友フィナンシャルグループ [PDF]から抜粋)

取締役会決議日 平成2010年7月28日
行使期間 平成2010年8月13 日から平成2040年8月12 日までまで
新株予約権の払込金額 ブラック・ショールズ・モデルにより算出したオプション価額
なお、前記により算出される金額は新株予約権の公正価格であり、有利発行には該当しない。また、割当てを受ける者が当社に対して有する報酬請求権と新株予約権の払込金額の払込債務が相殺される。
行使価格 1円
行使条件
①新株予約権者は、前記の行使期間内において、取締役、監査役及び執行役員のいずれの地位をも喪失した時点(以下、「権利行使開始日」という)以降、新株予約権を行使できる。ただし、この場合、新株予約権者は、権利行使開始日から20 年を経過する日までの間に限り、新株予約権を行使することができる。
②前記①に関わらず、新株予約権者は、前記の行使期間内において、以下のア.またはイ.に定める場合には、それぞれに定める期間内に限り新株予約権を行使できる。
ア.新株予約権者が平成2039 年8月12 日に至るまでに権利行使開始日を迎えなかった場合
平成2039年8月13 日から平成2040年8月12 日
イ.当社が消滅会社となる合併契約承認の議案または当社が完全子会社となる株式交換契約若しくは株式移転計画承認の議案につき株主総会で承認された場合(株主総会決議が不要な場合は、取締役会決議がなされた場合)当該承認日の翌日から15 日間

【リンク】

「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)国税庁」

「平成23年度税制改正大綱」[PDF]

「権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について」国税庁

「権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について」国税庁

2010年7月22日「新株予約権(株式報酬型ストックオプション)の発行に関するお知らせ」NKSJホールディングス株式会社 [PDF]

2010年1月29日「取締役および執行役員に対する株式報酬型ストックオプション(新株予約権)発行に関するお知らせ」株式会社三越伊勢丹ホールディングス [PDF]

2010年7月28日「株式報酬型ストックオプション(新株予約権)の発行について」株式会社三井住友フィナンシャルグループ [PDF]

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米、法人税引き下げ

オバマ米大統領は25日夜から米議会で一般教書演説に臨み、今後1年間の主要な政策運営方針を打ち出した。技術革新による競争力強化やインフラ整備に取り組み、雇用創出を促進するのが柱。25年ぶりの法人税率引き下げを表明し、歳出増の5年間凍結など財政再建策も示した。下院で過半数を握る共和党との間でどこまで協調できるかが焦点となる。外交では北朝鮮に核兵器の廃絶を求めた。
(日本経済新聞2011年1月26日1面)

【CFOならこう読む】

オバマ米大統領は、法人税率引き下げについて具体的には次のように言及しています。

「何年もの間、ロビイストたちは特定の企業や産業の利益のために税法を不正に操作してきた。それは、税を払わないということだったが、残りの企業は世界で最も高い法人税の打撃を受けてきた。これは道理に合わない。私は民主、共和両党にシステムの簡素化を呼びかけたい。抜け穴の一掃、公平な競争、赤字を増やさず25年ぶりに法人税を引き下げる。」
毎日新聞 2011年1月27日 東京朝刊

システムを簡素化し、ループホールを塞ぐ必要があるのは日本も全く同じですね。70%以上の会社が税金を支払っていない、日本の方が深刻な問題を抱えているとも言えます。

日本の場合、システムを簡素化しすべての法人から広く薄く税を徴収する仕組みに変えて行く必要があると同時に、中小企業については法人の利益に課税するのはなく、その利益を構成員の所得として課税する、いわゆるパススルー課税を現在より広範に適用することも併せて検討すべきでしょう。

米国では、連邦税に関し、法人税を課す企業体を明示した上で、それ以外の事業体については、事業体課税かパススルー課税かを選択できる仕組みを有しています(チェック・ザ・ボックス規則と言います)

2008年のデータですが、米国の事業体数の内訳は以下の通りです。

1) Partnerships – 3.307 million
2) S corporations – 4.440 million
3) C (or other) corporations – 2.538 million
(William P. Streng “Reconsidering Entity Selection in Uncertain Times”)

このうち、上の2つの多くがパススルーを選択しているものと思われます。つまり圧倒的にパススルー事業体の方が多いということです。

米国では外国孫会社までチェック・ザ・ボックス規則を適用することが認められているため、これを利用した租税回避が横行しています。こういった弊害は他山の石としたうえで、我が国への導入を検討することが望まれます。

【リンク】

なし

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HOYA、2011年3月期よりよりIFRSで開示へ

HOYAは2011年3月期の有価証券報告書をIFRSで開示する方針だ。海外投資家の持株比率が高い同社は、社内で会計処理などの体制整備を進めていた。金融庁は日本の上場企業にIFRSを義務付けるかどうかを決めていないが、任意適用は認めている。
(日本経済新聞2011年1月26日15面)

【CFOならこう読む】

「同社はこのほど、2010年3月期の連結財務諸表をIFRSで作成し、ウェブサイトに掲載した。前期の純利益は日本基準で378億円だが、IFRSを適用した場合の包括利益は海外子会社の資産換算の影響で約475億円になった」(前掲紙)

クリックすると拡大表示します。

差異の内訳のうち、相対的に影響が大きい減価償却費と法人所得税の調整の内容を以下に転載します。

「K. 減価償却費及び償却費、その他の費用
・表示科目:日本基準において区分掲記しておりました固定資産売却損、固定資産除却損、環境対策費、独禁法関連損失、その他の営業外費用、為替差損、外国源泉税、その他の特別損失をその他の費用として表示しております。また、日本基準における売上原価の一部47,678百万円、販売費及び一般管理費の一部31,500百万円をその他の費用として表示しております。
・認識・測定:リース料415百万円(リース取引開始日が2008年3月31日以前)を減価償却費及び償却費等として表示しております。日本基準におけるのれんの償却費を戻したことに伴い、その他の費用が477百万円減少しております。また、固定資産の帳簿価額の調整を行ったことに伴い、その他の費用(固定資産除却損等)が872百万円減少しております。また、海外子会社の一部の売却・清算に伴う累積換算差額の調整及びのれん・在外支店の財務諸表項目の換算により発生した累積換算差額の調整により、その他の費用が1,200百万円減少しております。さらに、日本基準においては、カスタマー・ロイヤルティ・プログラムにより、翌期以降にそのポイントを充当することによる物品の販売による原価を販売費及び一般管理費として計上しておりますが、IFRSにおいては、当該カスタマー・ロイヤルティ・プログラムについて、個別に認識可能な収益の構成要素として認識するため、その他の費用が420百万円増加しております。なお、日本基準においては2011年3月期に認識するその他の無形資産の除却損1,997百万円を、IFRSでは修正後発事象として2010年3月期のその他の費用に計上しております。

M. 法人所得税
・表示科目:日本基準において販売費及び一般管理費に含めておりました事業税の一部251百万円を、法人所得税として表示しております。
・認識・測定:未実現利益消去に伴う税効果調整額について、日本基準において用いられる税率で計算された金額とIFRSにおいて用いられる税率で計算された金額が異なることにより、法人所得税が164百万円減少し、また、繰延税金資産の回収可能性の見直し額の増減により1,037百万円法人所得税が減少しております。さらに、日本基準においては2011年3月期に法人所得税の減額として認識する599百万円を、IFRSにおいては修正後発事象として2010年3月期に計上しております。」

【リンク】

「国際財務報告基準(IFRS)に基づく 連結財務諸表及び独立監査人の監査報告書」HOYA株式会社 [PDF]

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リソー教育の日本版ESOP

リソー教育は24日、信託の仕組みを使った日本版ESOPの概要を発表した。専用に設定した信託を通じ、自社株約7万株を株式市場で取得する予定だ。取得総額はおよそ4億円。持株会は毎月の従業員の拠出金に応じて、信託から株式を取得する。持株制度の導入は11日に発表済み。
(日本経済新聞2011年1月25日17面)

【CFOならこう読む】

リソー教育の日本版ESOPは、特に他と変わった点は見られませんが、プレスリリースの説明がわかりやすいので、以下に記載します。

「従業員持株ESOP信託」の導入に関するお知らせ」より

「①当社は、受益者要件を充足する従業員を受益者とするESOP信託を設定します。
②ESOP信託は、銀行から当社株式の取得に必要な資金を借入れます。当該借入にあたっては、当社がESOP信託の借入について保証を行います。
③ESOP信託は、上記②の借入金をもって、信託期間内に当社持株会が取得すると見込まれる数の当社株式を、株式市場から予め定める取得期間中に取得します。
④ESOP信託は、信託期間を通じ、毎月一定日までに当社持株会に拠出された金銭をもって譲渡可能な数の当社株式を、時価で当社持株会に譲渡します。
⑤ESOP信託は、当社の株主として、分配された配当金を受領します。
⑥ESOP信託は、当社持株会への当社株式の売却による売却代金及び保有株式に対する配当金を原資として、銀行からの借入金の元本・利息を返済します。
⑦信託期間を通じ、信託管理人が議決権行使等の株主としての権利の行使に対する指図を行い、ESOP信託は、これに従って株主としての権利を行使します。
⑧信託終了時に、株価の上昇により信託内に残余の当社株式がある場合には、換価処分の上、受益者に対し信託期間内の拠出割合に応じて信託収益が金銭により分配されます。
⑨信託終了時に、株価の下落により信託内に借入金が残る場合には、上記②の保証に基づき、当社が銀行に対して一括して弁済します。」
(「従業員持株ESOP信託」の導入に関するお知らせ)

いわゆる日本版ESOPの会計処理については、個別財務諸表上で信託で保有される導入企業の株式は「自己株式」とされるか(個別オン)、されないか(個別オフ)、ビークルである信託が、導入企業の子会社とされるか(連結オン)、されないか(連結オフ)の組み合わせにより、以下の4つが考えられます。

1.個別オフ 連結オフ
2.個別オン 連結オフ
3.個別オフ 連結オン
4.個別オン 連結オン

このうち1の方法では、自社の株式と債務保証を付した借入金を抱える信託が、連結財務諸表上取り込まれないため問題があります。

また3及び4の方法では、子会社の親会社株式取得が違法なものになると考えられます。したがって消極的な理由から2の方法が採用されるケースが実務上増えているようです。

特に、2009年2月に「連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点の整理」が公表され、論点2の注10において、次のような考え方が示されてから2の方法が多くなっているようです。

「委託者以外の第三者が当初受益者となるもの(いわゆる他益信託)のうち、受益者が信託行為に定められた要件を満たすまで受益権を有しない場合は、受益者の定めのない信託(いわゆる目的信託)と類似している。目的信託については、「委託者がいつでも信託を終了できるなど、通常の信託とは異なるため、原則として、委託者の財産として処理することが適当であると考えられる。ただし、信託契約の内容等からみて、委託者に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであると認められる場合には、もはや委託者の財産ではないものとして処理する(実務対応報告23 号Q6 のA)。」とされている。これらを踏まえれば、他の会計基準等において定められている場合を除き、委託者が信託の変更をする権限を有しており、委託者である当該企業に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであるとは認められない場合には、会計上、委託者である当該企業の財産として処理することが適当であると考えられる。また、この場合には、いわゆる総額法による処理と同様となり、自益信託と同様に、改めて子会社や関連会社に該当するか否かについて判定する必要はないものと考えられる。」

上の説明は、秋葉賢一早稲田大学大学院教授の「従業員持株会を活用するスキーム(いわゆる日本版ESOP)に関する会計処理の検討」(企業会計2010年4月号 中央経済社)を参考にさせて頂きました。

なお、この論文では2の方法にも、2つの会計処理が考えられるとして数値例を用いて説明されています。この点についてもまた別の機会に紹介したいと思います。

【リンク】

2011年1月11日「「従業員持株ESOP信託」の導入に関するお知らせ」株式会社リソー教育 [PDF]

2011年1月24日「「従業員持株ESOP信託」の導入(詳細決定)に関するお知らせ」株式会社リソー教育 [PDF]

2009年2月6日「連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点の整理 」企業会計基準委員会  [PDF]

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伊藤園の優先株、実態以上の割安水準?

伊藤園が、議決権がない代わりに配当額が多い優先株を発行して3年あまり。普通株より高い配当利回りに着目した個人を中心に株主の裾野が広がるなど成果は出ている。だが認知度は上がらず売買の流動性も高くない。
(日経ヴェリタス2011年1月24日14面)

【CFOならこう読む】

昨年12月27日に、伊藤園は優先株の自社株買いと消却を行うことをリリースしました。その内容は次の通りです。

◯取得に関する条項

取得に関する株式の種類 当社第1種優先株式
取得し得る株式の総数 300,000株(上限)
取得価額の総額 350百万円(上限)
取得する期間 平成22年12月28日から平成23年2月22日まで

◯自己株式の消却について

消却する株式の種類 当社第1種優先株式
消却する株式の総数 900,000株(予定)
消却後の発行済株式総数 34,346,962株(予定)
消却予定日 平成23年3月31日

「自社株買いや金庫株消却は株価の買い材料になるはずだが、翌28日の優先株は992円で前日比12円高どまり。最初に優先株自社株買いを発表した2009年12月のときに翌日の優先株の株価が8.2%も上昇したのと比べると反応は鈍い」(前掲紙)

記事では実態以上に優先株が割安になっている可能性があると、次のような分析を行っています。

「普通株の株価は1400円で優先株は1014円(21日終値)。普通株の1株利益は約53円でPERは26.6倍。配当が10円多い優先株の1株利益は約63円になり、PERが普通株と同じと考えれば優先株の理論株価は1675円になる。つまり実際の株価との差(661円)が議決権に相当する部分と考えられる。議決権部分が普通株に占める割合は47%。上場直後はこの比率が12%だったので、結果的に優先株の経済価値部分が大きく目減りしたことになる」」(前掲紙)

日本企業の議決権の価値は外国企業に比べ相対的に高いという分析も存在しますが(2008年7月19日「無議決権株の価格」)、後に続く会社が出てこない現状では、議決権の客観的な価値評価を行うことは出来ません。

したがって、伊藤園の優先株の価格形成の妥当性は良くわからない、というのが今日の記事の結論です。

【リンク】

2010年12月27日「伊藤園の優先株、実態以上の割安水準?」株式会社伊藤園 [PDF]

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フェイスブックの資本政策

【CFOならこう読む】

1月15日に公開された映画フェイスブックを見てきました。この映画は、「セブン」や「ファイト・クラブ」「ベンジャミン・バトン・数奇な人生」で知られるデヴィッド・フィンチャーが監督の作品ですが、期待に違わぬ素晴らしい映画でした。

映画評については他の方に譲ることにして、映画の中で触れられていたフェイスブックの資本政策について簡単にお話しします。

概要は以下の通りです。

”フェイスブックは、2004年2月にサービスを開始し、それから2ヶ月後の2004年4月半ばにフロリダ州にLLCとして設立。持分は、創立者のマーク・ザッカーバーグが70%、CFOのエドゥアルド・サベリンが30%。

2004年夏にナップスターの創立者、ショーン・パーカーが参画し、弁護士と共に新会社をデラウェア州に設立し、フェイスブック事業を引き継ぐ。
持分は、ザッカーバーグが51%、サベリンが34.4%、共同創立者であるダスティン・モスコヴィッツが6.81%、パーカー6.47%、残りが設立事務を処理した法律事務所に付与。

この時にサベリンがサインした契約書には、すでに社員ではないサベリンの持分は今後希釈化することが書かれたいたが、サベリンはそのことに気付かずサインしてしまう。

その後VCから投資を受け入れた時点で、サベリンの持分は1%以下まで大きく希釈化。サベリンはザッカーバーグを訴えた。”

このくだりを見ていて、サベリンがサインした契約書はどのような内容であったのか、ということがとても気になり、映画を見終わったその足で「フェイスブック 若き天才の野望」という本を購入し、この辺りのことが書かれていないかページをめくったところ次の記述がありました。

「サベリンの株式持分は新会社に引き継がれるものの、増資が実行されたり社員に対する報酬の一環としてストックオプションが発行されたりすれば、社員ではないサベリンの持分は必然的に希薄化の対象となる。一方で、引き続いて社員であるザッカーバーグとモスコヴィッツに対しては、会社に対する貢献に見合った新株が発行される」

この「会社に対する貢献に見合った新株」の付与は、ストックオプションによるものかパーフォマンス・シェア・プランにより現物株が付与されたのかのいずれかであると思われます。

現在の米国企業のインセンティブプランは、ストックオプションよりもパーフォマンス・シェアの重要性が増してきていると言われていますが、日本では制度設計の困難さ、及び会計・税務の取扱いが明確になっていないことから、ほとんど利用されていません。

映画の中で資本政策について触れられているのはこれだけですが、本の中では他にも興味深いエピソードが紹介されています。その辺についてはまた別の機会にお話しします。

余談ですが、映画「フェイスブック」の音楽はナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーが担当していて、これがなかなかに格好いい!

【リンク】

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた) デビッド・カークパトリック 小林弘人 解説

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海外の投資家が大株主、相次ぐ

海外機関投資家や外資系運用会社が日本企業の大株主に登場するケースが相次いでいる。純投資目的の購入とみられ、20日には英系運用会社ベイリー・ギフォード・アンド・カンパニーがヤマダ電機株の発行済株式の5.09%を保有していることが分かった。「もの言う株主」は退潮傾向だが、純投資目的の海外投資家は市場での存在感を逆に高めている。
(日本経済新聞2011年1月21日15面)

【CFOならこう読む】

今日は備忘記録です。

海外投資家などによる5%超の保有が判明した主な企業

開示日 企業名 保有比率
(1月) 保有者
20日 ヤマダ電機 5.06%
ベイリー・ギフォード・アンド・カンパニー
20日 住友ゴム工業 5.09%
アライアンス・バーン・スタイン
18日 三井海洋開発 5.01%
シュローダー証券投信投資顧問
7日 デジタルガレージ 5.24%
ベイリー・ギフォード・アンド・カンパニー
6日 住生活グループ 5.03%
マラソン・アセット・マネジメント

(前掲紙)

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ライツイシュー案の規制緩和案発表

金融庁は19日、既存株主の保護を重視したライツ・イシューの使い勝手を高めるための規制緩和案を正式に発表した。障害になっていた増資の際の事務負担を軽減することが柱。
(日本経済新聞2011年1月19日4面)

【CFOならこう読む】

「金融庁が今回公表した規制緩和は、新型増資の導入を妨げていた実務上のハードルを大きく下げるものだ。増資の際の導入を妨げていた実務上のハードルを大きく下げるものだ。
増資の際の有価証券目論見書の作成・送付義務を株主割当増資については撤廃し、「実務上の最大の障害がなくなる」(米大手証券の引受担当者)。
行使されなかった予約権を証券会社が取得する際の規制もなくし、活用促進に向けて前進することになる」(前掲紙)

この「証券会社が取得する際の規制」とは、大量保有報告書の提出やTOBの義務のことで、この規制を緩和することについて、金融庁・開示制度ワーキング・グループ報告~ 新株予約権無償割当てによる増資(いわゆる「ライツ・オファリング」)に係る制度整備について~は次のように記載しています。

「現行制度上、証券会社が引受け業務により所有・保有する株券等については、払込期日の翌日まで株券等所有割合・株券等保有割合の対象から除外する特例が定められている。
コミットメント型ライツ・オファリングにおいて証券会社がコミットメントを行う行為を「有価証券の引受け」と位置付けて上記の特例を適用する場合には、証券会社が新株予約権を行使して株式を取得するために要する期間等を考慮し、より長い猶予期間を設けることが必要であるとの指摘がなされている。」

要するに、

「証券会社による一時的な取得には、大量保有報告書の提出や公開買い付けの義務をなくす」(前掲紙)

ということです。

【リンク】

2011年1月19日「金融庁・開示制度ワーキング・グループ報告 ~ 新株予約権無償割当てによる増資(いわゆる「ライツ・オファリング」)に係る制度整備について~」[PDF]

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