駅探の株式上場の概要は次の通りです。

駅探は、2003年設立、モバイルサイト「駅探 乗換案内」およびASP(ソフトの期間貸し)サービスにおける乗り換え案内情報の提供などを行っている企業です。
公募価格は2,780円、予想PER11.9倍という水準での株式公開となります。

この会社がMBOした2007年10月に、このブログでも取り上げました(2007年10月10日エントリー「東芝系の「駅探」、経営陣が買収し独立・ファンドと組む」)。その際買収金額は20億円と報道されていましたので、MBO時の時価総額は25億円~30億円と推定されます。今回IPO時の時価総額が45億円程度ですから、ロックアップ解除後速やかに全株売却したとしても、ファンドの利回りとしては可もなく不可もなくというところでしょう。
駅探の主な資本政策は (表2)の通りです。

目論見書を見ると、ストックオプションを平成17年8月、及び平成19年6月に発行して
いると記載されていますが、現時点で残はありません。おそらくMBOの際に処理さ
れたのでしょう。
前期の株主総会で総額81,565千円(1株当たり5,000円)の配当を行っている点が特筆されます。

上場後もファンドが50%の超の持分を有する資本政策になっています。今後ファンドがExitをどのように行っていくか注目されます。
従業員の株式によるインセンティブは付与されていません。
【リンク】
株式会社 駅探
株式市場で高度経済成長期以来の増資に踏み切る企業が相次いでいる。東洋紡で43年ぶり、東武鉄道も40年ぶりに増資が復活した。長い停滞を抜け出し、反転攻勢が始まるといえるか否か。市場はまだ疑心暗鬼だ。
(日本経済新聞2011年2月25日17面)
【CFOならこう読む】
昨日東武の40年ぶりのエクイティ・ファイナンスをとりあげましたが、今日はその続報です。
「東武の場合は、調達資金の大半を新株予約権付社債の買い入れ消却に使い、成長期待に結びつくとは言い難い。金融危機以降、安易な大型増資が繰り返されたことが、世界の投資家の日本株離れを引き起こしてきた。
増資発表を受けた東武株は前日比12%安、東洋紡株は9%安と急落。やはりまた「増資イコール株売り」の洗礼を浴びた」(前掲紙)
今回買い入れ消却されるCBの転換価格は787円、東武株の23日の終値は455円でしたから、現時点では転換される可能性は薄く、そういう意味ではこのCBはほとんどデットと見て良いでしょう。
とすると、今回の増資は、資本構成をデットからエクイティにシフトするだけの意味しかなく、成長期待云々というより、最適資本構成はどこにあるかがポイントになります。
2010年12月末現在の東武の自己資本比率は13.3%にすぎず、自己資本を厚くする必要性はあるとは思いますが、株価が400円そこそこの今やるべきであったかについては疑問が残ります。
【リンク】
なし
東武鉄道は23日、3月に公募増資などで最大932億円を調達すると発表した。公募増資は1970年12月以来およそ40年ぶり。調達資金で2008年に発行したCBを買入消却し、財務を強化する。
(日本経済新聞2011年2月24日15面)
【CFOならこう読む】
今回の増資の主たる目的は、2008年10月に発行された2014年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債(劣後特約付)及び東武の海外特別目的子会社であるTR Preferred Capital Limitedが発行したユーロ円建交換権付優先出資証券を、普通株式による調達に切り替えることにあります。
2008年10月に発行されたCBの概要は当ブログでも2008年9月26日のエントリー「東武のハイブリッド証券」で取り上げています。
CBと優先出資証券の買い入れの概要は以下の通りです(プレスリリースから転載します)。

※クリックすると拡大表示します。
なお、本優先出資証券の買入れに関して、本優先出資証券の全保有者から本日時点において、新株式発行による資金調達の完了を前提に買入れに応じる旨の内諾を得ております。
また、本優先出資証券は、ハイブリッド証券(※)と称されるもの(以下「本ハイブリッド証券」という。)であり、本ハイブリッド証券と同等以上の資本性を持つ手段での調達資金を原資とする借替条項(リプレイスメント)の規定に基づいて、買入れを実施するものであります。
※ハイブリッド証券は、資本と負債の中間的な性質を有する証券であり、負債性調達手段の特性を有すると同時に、主要格付機関から一定の資本性が認定され、格付目的上の実質的な財務構成比率を改善し、財務の安定性を高める資本性調達手段としての特性を兼ね備えている証券であります。 当社グループが2008年10月に発行した本ハイブリッド証券は、主要格付機関(株式会社格付投資情報センター及び株式会社日本格付研究所)より70%以上の資本性認定がなされております。
なお、本ハイブリッド証券及び当該証券に係る借替条項等の詳細については、平成20年9月25日に公表いたしました「第三者割当による2014年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債(劣後特約付)の発行及び当社海外特別目的子会社によるユーロ円建交換権付優先出資証券の発行に関するお知らせ」をご参照ください。
(2011年2月23日「2014 年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債(劣後特約付)及び ユーロ円建交換権付優先出資証券の買入れ、 子会社の解散並びに特定子会社の異動に関するお知らせ」東武鉄道株式会社 [PDF])
参考までにCBに付されていたリプレイスメント条項を記載しておきます。
借替証券
当社は、本社債の払込期日以降転換された当社の2016年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権社債の額面総額相当額を除き、当社又は資金調達子会社のいずれかが本社債の償還日、取得日又は買入日以前6ヶ月間に、償還、取得又は買入れされる本社債の額面金額の総額(及びその未払残高)以上の額面総額又は払込金額総額で借替証券を発行又は販売することにより資金を調達していない限り、本社債につき、上記(ア)から(オ)記載の償還若しくは買入れ又は下記5.(12)記載の現金及び株式を対価とする取得をしないことを意図している。
「借替証券」とは、下記(i)から(iv)までの証券又は債務をいい、下記(ii)から(iv)まで証券又は債務の場合には、本社債の借替証券である旨公表されており、かつ、本優先出資証券の発行日における本優先出資証券と同等以上の資本性をすべての格付機関から得ているものをいう。
(i) 本株式
(ii) 同順位証券
(iii) 同順位劣後債務
(iv) 当社のその他一切の証券及び債務
(2008年9月25日「第三者割当による 2014 年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債(劣後特約付)の発行及び当社海外特別目的子会社によるユーロ円建交換権付優先出資証券の発行に関するお知らせ」東武鉄道株式会社 [PDF])
【リンク】
2011年2月23日「新株式発行及び株式売出しに関するお知らせ」東武鉄道株式会社 [PDF]
2011年2月23日「2014 年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債(劣後特約付)及び ユーロ円建交換権付優先出資証券の買入れ、 子会社の解散並びに特定子会社の異動に関するお知らせ」東武鉄道株式会社 [PDF]
2008年9月25日「第三者割当による 2014 年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債(劣後特約付)の発行及び当社海外特別目的子会社によるユーロ円建交換権付優先出資証券の発行に関するお知らせ」東武鉄道株式会社 [PDF]
エディオンは22日、信託の仕組みを使った従業員持株制度(日本版ESOP)で2回目の信託を設定すると発表した。昨年2月に設定した1回目が終了したため。エディオンは自己株式約104万株を1株747円で信託に割り当てる。
(日本経済新聞2011年2月23日15面)
【CFOならこう読む】
「信託期間は3月中旬から約1年間。信託はエディオンから取得した同社株を毎月従業員持株会に売却する。株価上昇で売却益が出れば、信託期間終了後に従業員に分配する仕組み」(前掲紙)
エディオンの日本版ESOPの概要は以下の通りです(プレスリリースから転載します)。

※クリックすると拡大表示します。
①当社は受益者要件を充足する従業員を受益者とするESOP信託を設定いたします。
②ESOP信託は銀行から当社株式の取得に必要な資金を借入れます。当該借入にあたっては、当社がESOP信託の借入について保証を行います。
③ESOP信託は上記②の借入金をもって、信託期間内に当社持株会が取得すると見込まれる数の当社株式を、当社から一括して取得いたします。
④ESOP信託は信託期間を通じ、毎月一定日までに当社持株会に拠出された金銭をもって譲渡可能な数の当社株式を、時価で当社持株会に譲渡いたします。
⑤ESOP信託は当社の株主として、分配された配当金を受領いたします。
⑥ESOP信託は当社持株会への当社株式の売却による売却代金及び保有株式に対する配当金を原資として、銀行からの借入金の元本・利息を返済いたします。
⑦信託期間を通じ、信託管理人が議決権行使等の株主としての権利の行使に対する指図を行い、ESOP信託はこれに従って株主としての権利を行使いたします。
⑧信託終了時に、株価の上昇により信託内に残余の当社株式がある場合には、換価処分の上、受益者に対し信託期間内の拠出割合に応じて信託収益が金銭により分配されます。
⑨信託終了時に、株価の下落により信託内に借入金が残る場合には、上記②の保証に基づき、当社が銀行に対して一括して弁済いたします。
(2011年2月22日「第2回「従業員持株ESOP信託」の導入に関するお知らせ」株式会社エディオン [PDF])
日本版ESOPの一般的な会計処理の考え方について、リソー教育の日本版ESOP(2011年1月25日エントリー「リソー教育の日本版esop」)をとりあげた時に次のように説明しました。
「いわゆる日本版ESOPの会計処理については、個別財務諸表上で信託で保有される導入企業の株式は「自己株式」とされるか(個別オン)、されないか(個別オフ)、ビークルである信託が、導入企業の子会社とされるか(連結オン)、されないか(連結オフ)の組み合わせにより、以下の4つが考えられます。
1.個別オフ 連結オフ
2.個別オン 連結オフ
3.個別オフ 連結オン
4.個別オン 連結オン
このうち1の方法では、自社の株式と債務保証を付した借入金を抱える信託が、連結財務諸表上取り込まれないため問題があります。
また3及び4の方法では、子会社の親会社株式取得が違法なものになると考えられます。したがって消極的な理由から2の方法が採用されるケースが実務上増えているようです。」
エディオンの2010年3月期の有価証券報告書を見ると、単体財務諸表に次のような注記が行われています。
「【追加情報】
(信託型従業員インセンティブ・プランにおける会計処理について)
当社は、従業員の労働意欲や経営参画意識の向上を促すとともに、株式価値の向上を目指した経営を一層推進することにより中長期的な企業価値を高めることを目的として、従業員インセンティブ・プラン「従業員持株ESOP信託」を導入しております。本プランでは、「エディオングループ社員持株会」(以下「持株会」といいます。)に加入する従業員のうち一定の要件を充足する者を受益者とする信託を設定し、当該信託は今後1年間にわたり持株会が取得すると見込まれる数の当社株式を一括して取得し、その後毎月一定日に持株会へ売却いたします。
当該株式の取得・処分については、当社が三菱UFJ信託銀行㈱(従業員持株ESOP信託口)(以下「信託口」といいます。)の債務を保証しており、経済的実態を重視した保守的な観点から、当社と信託口は一体であるとする会計処理を行っております。従って、信託口が所有する当社株式や信託口の資産及び負債並びに費用及び収益についても貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書に含めて計上しております。なお、当事業年度末に従業員持
株ESOP信託が所有する当該株式数は740,200株であります。」
したがって上述した2の方法により会計処理がなされているものと思われます。
【リンク】
2011年2月22日「第2回「従業員持株ESOP信託」の導入に関するお知らせ」株式会社エディオン [PDF]
環太平洋経済連携協定(TPP)への参加は、日米間の完全な貿易自由化に等しい。安価な米国産品の流入で国産品が淘汰され、農業関連分野で雇用が失われる。失業者が増えれば、労働市場全体が供給過剰になり実質賃金が下落する。
農業の生産性向上の議論もあるが、デフレ化ではまず雇用確保を優先すべきだ。
(日経ヴェリタス2011年2月20日51面 異見達見 中野剛志京都大学助教授)
【CFOならこう読む】
日曜日にこの記事を読んでから、何となく頭の中にこの論稿のことが引っかかっています。
中野さんは、TPPに参加すべきでないと主張しているのですが、引っかかるのはその結論ではなく議論の中身です。中野さんがTPPに参加すべきでないとする理由は次の通りです。
1.貿易自由化で安い食料が輸入されれば消費者は恩恵を受ける。だが、輸入品が安くなると競合する国産品が淘汰され、雇用が失われる。失業者が増えれば、実質賃金が下がり、デフレが悪化する。
2.干ばつや洪水、さらに金融緩和の影響により、食料価格が上昇している。これにより食料輸入国から食料輸出国への富の移転が起きる。日米で言えば、貿易自由化と食料価格の上昇で、日本の富みが米国に吸い上げられる。日本は食料を米国の言い値で買わされ、日本の富は米国に移転し続ける。この損失を上回る利益がTPPの参加にあるはずがない。
一読するともっともな意見に思えます。しかし私にはまともな議論には思えません。議論の前提に市場経済への信頼が全く見られず、まるで共産主義者のもの言いに聞こえるのです。
「デフレとは需要不足が続くことだから、これを止めるには需要を追加するか、供給を削減する必要がある。例えば公共投資で内需を拡大し、時短やワークシェアリングを促進して供給力を削減するのだ。だが貿易自由化により、国産品が輸入品に代替されると、国産品関連の雇用が奪われ、内需が縮小する。他方貿易自由化による競争の激化で生産性が上昇し供給が増加する。こうして貿易自由化は、需要不足と供給過剰を深刻化し、デフレを悪化させる」
(前掲紙)
日本企業はすでに長い間国境を越えて激しい競争に耐えて来ています。より良いモノをより安く提供するために血が滲むような努力を続けているのです。そういう努力に対し、そんなことをするとデフレを加速するから止めろと言っているように私には聞こえます。そんなことを言われたら、多くの企業は日本から出ていくしかないでしょう。その結果日本に残るのは、生産性の低い(供給力の乏しい)業種だけになってしまいます。そうなったら雇用を誰が支えるのでしょうか。
中野さんは昨年まで経済産業省にいたそうです。これが役所のメンタリティーだとしたら大問題だと私は思います。
【リンク】
なし
石炭価格の上昇が、セメントや製紙会社の2012年3月期の収益を圧迫する。足元の価格は1トンあたり120ドル超で、各社の今期の平均購入価格を2割ほど上回る。これを前提に考えると2012年3月期に太平洋セメントは30億円、住友大阪セメントは20億円程度の営業減益要因が生じる計算になる。王子製紙と日本製紙グループもマイナスの作用は避けられないが影響額では差が出そうだ。
(日経ヴェリタス2011年2月20日14面)
【CFOならこう読む】
セメント会社や製紙会社は、焼成や乾燥の工程で大量に石炭を使用します。石炭価格は昨年8月時点で90ドル前後であったのが、120ドル超まで上昇しています。
ところで今日の記事では、製紙2社の影響度に差があると分析しています。
「製紙2社は、同じく石炭価格20ドルの上昇で日本製紙が40億円程度の減益要因になるのに対し、王子製紙はそれほど大きくならないとみている。1トン1ドルの利益感応度は日本製紙が2億円程度、王子製紙は7000万円。日本製紙が熱量あたりのコストの低さに注目して石炭の使用を進めてきたのに対し、王子は廃棄物燃料の使用を増やしてきたためだ。
また、日本製紙は年間使用量のほとんどを期初に長期契約で調達するため「来期の調達コストは、足元の急ピッチの価格上昇を反映しやすい」(国内証券)。王子製紙は使用量の半分を長期契約、半分をスポットで買い付けるため、石炭価格の下落局面では比較的有利な価格で購入できる可能性がある」(前掲紙)
王子製紙の購入方針は、市況品を原材料として使用する企業にとって参考になると思います。
【リンク】
なし
ロイヤルホールディングスは8日、2010年12月期の連結最終黒字が従来予想を8億円上回る9億円になったようだと発表した。前の期は4億6800万円の赤字。主力のファミリーレストランで売上が底入れし、想定していた減損処理額が
減った。連結納税制度の導入で税負担が減ったことも寄与した。
(日本経済新聞2011年2月9日15面)
【CFOならこう読む】
取締役人事を巡り、内紛が起きていると報道されているロイヤルHDですが、昨日大幅な前期最終損益の上方修正を発表しました。
「連結納税制度では、今まで事業会社ごとに計算していた課税所得をグループ全体で通算できる。ロイヤルHDでは既に納めた税金で将来に還付される額が増える見通しとなったため、会計上の税負担が減った」(前掲紙)
将来に還付されると言うのは正確な表現ではありません。
会社のリリースでは修正の理由が次のように説明されています。
「翌年度から連結納税制度を適用することに伴い、繰延税金資産の回収可能性が増加し、法人税等の負担が減少した」
2009年12月期の有報を見てみると、単体ベースの繰延税金資産の内訳として繰越欠損金1,564百万円を含め、9,129百万円の繰延税金資産に対し、評価性引当額が8,718百万円も計上されています。
要するにほとんど回収不能と判断しているということです(繰延税金負債が472百万円計上されているので、B/Sには純額で60百万円の繰延税金負債が計上されています)。
子会社に利益が出ている会社もあり、連結納税制度適用に伴い繰延税金資産の回収可能性が増したということです。ただし経常利益(連結)で見ると、2009年12月期1,916百万円に対し、2010年12月期2,130百万円(修正後)なので、事業そのもので大きく業績が改善されたわけではありません。
【リンク】
2011年2月8日「通期業績予想の修正に関するお知らせ」ロイヤルホールディングス株式会社 [PDF]
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