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2011 年 5 月 のアーカイブ

消費税は「逆進的」でない?

政府は30日の集中検討会議で社会保障改革の大詰め論議に入った。子育て支援など給付拡充に偏った議論を修正し、高齢化で膨らむ給付の抑制策を盛り込めるかどうかが焦点。ただ菅直人首相は同日に表明予定だった効率化に関する具体策の指示を見送った。給付のスリム化を徹底せずに増税で財源を手当てするなら、年金、医療などを支える現役世代の負担は一段と重くなりかねない。
(日本経済新聞2011年5月31日5面)

【CFOならこう読む】

「同日の会議に内閣府と財務省は消費増税を巡る報告を提出。低所得者ほど負担が重くなる逆進性の問題について「生涯所得でみると、逆進性は小さい」、経済に与える影響について「増税は必ずしも景気後退は招かない」と指摘した」(前掲紙)

生涯所得でみると、逆進性は小さいとはどういう意味でしょう?

消費税の逆進性とは、貧しい人ほど所得に占める消費の割合が高いので、金持ちの人に比べ貧しい人の方が所得に占める消費税の割合が大きくなることを言います。

税金は累進的である方が望ましいとされているので、消費税の逆進性は、これを主たる税源にすることを阻む大きな障害となります。

ところが生涯所得で見ると、逆進性は小さいという見解があります。これを、大阪大学の大竹教授と小原助教授の、「消費税は本当に逆進的か」という論文がわかりやすく説明していますので、以下に抜粋してみます。
「消費税は本当に逆進的か」大阪大学社会経済研究所教授 大竹文雄 大阪大学国際公共政策研究科助教授 小原美紀 [PDF]

「税金が累進的であるとか逆進的であるという議論をする場合には、一時点の所得を念頭 にしていることが多い。しかし、少子化時代における税負担の公平性を考える際には、特 に生涯所得に対する負担の公平性に気を配る必要がある。人口構成が若い時代には、全員 が勤労世代であるとみなして、税負担の公平性を考えてもそれほど問題は生じなかった。 しかし、少子高齢化時代では、引退後の生活をしている人の比率が高まっている。勤労世代と老齢世代の税負担の公平性を考えるには、引退して勤労所得がなくなっている人の担 税能力をどう評価するかが鍵になる。勤労所得がないからといって、貧しいとは限らない。 勤労期に蓄えた豊かなストックをもっている高齢者も多い。

その意味で、消費税の逆進性を一時点の所得水準に対する消費税負担率で計測するこ とには問題がある。この問題は少子高齢化が進めば進むほど深刻になってくる。

例をあげて説明してみよう。世の中に、全く同じ所得水準の人しかいなかったとする。 20歳から60歳まで、年収が500万円、60歳以降は年金所得が200万円で80 歳まで生きるとしよう。人々は、生涯同じレベルの消費水準を達成できるように貯蓄し、 それを取り崩すとする。ここで、簡単化のために、金利をゼロとすると、人々 は毎年400万円ずつ消費すれば、60歳まで毎年100万円ずつ貯蓄し、60歳以降 は毎年貯蓄を200万円ずつ取り崩すと、80歳でちょうど貯蓄を使いはたすことにな る。これが、経済学でライフサイクル仮説と呼ばれる消費行動を説明する理論のもっと も簡単なケースである。

このとき、消費税率が5%だとすれば、50歳の人の消費税の負担額も70歳の消費 税負担額も、約19万円になる。所得に対する負担率を計算すると、50歳で所得50 0万円で、所得に対する消費税負担率は約 3.8%、70歳で年金所得200万円の人の 消費税負担率は約 9.5%である。この指標では、所得の少ない高齢者が、所得の多い勤 労者に比べて、高い消費税負担比率となっているため、逆進的な状況を示している。

しかし、この両者は年齢が違うだけで生涯所得は同じであるから、生涯所得に対する生 涯消費税負担で考えると、どちらも、約 4.8%の消費税負担率ということになる。このよう に、狭い意味のライフサイクル仮説が成り立つと生涯所得=生涯消費であるため、消費税 が比例税である限り、生涯所得に対して消費税には逆進性はなく、あくまで比例税にすぎ ない。

(中略)

消費階級データから生涯所得と生涯消費税負担率を計算した結果を図3に示した。まず、生涯所得に対する消費税負担率について検討しよう。驚くべきことに、消費階層別 に生涯所得階級を定義すると、消費税負担は「累進的」である。1999 年において、消 費階級第1分位の消費税負担率は 1.59%、第10分位の負担率は 4.05%である。非耐久 財でも同様の傾向がある。必需品だと考えられる食費の負担率は、消費階級別データで みると生涯消費額階級に関わらず、所得の一定割合である。その意味で、食費は他の費目に比べると所得に対してほぼ比例的であるといえる。しかし、食費にかかる消費税も 決して逆進的であるとは言えない。

9ページの図3より 【クリックすると拡大表示します】

消費税も所得税も累進的であるなら、これをどのようにミックスするか(消費税率を何%にするか)は、どの程度の累進性を選択するかの問題です。

【リンク】

「消費税は本当に逆進的か」大阪大学社会経済研究所教授 大竹文雄 大阪大学国際公共政策研究科助教授 小原美紀 [PDF]

カテゴリー: 税制 タグ:

オバマ大統領、資産の大半は米国債

米国のブログ界で、オバマ大統領の個人資産の「運用」について手厳しい発言が相次いだ。発端は大統領夫妻の資産公開。米ホワイトハウス運営のブログに16日掲載された。
(日経ヴェリタス2011年5月29日65面)

【CFOならこう読む】

「2010年の保有資産は合計で280万ドル~1180万ドル(2億3000万円~9億6000万円)。報告書は個別銘柄の保有額を「50万ドル~100万ドルの間」といった幅のある選択肢に印をつける形式なので、全資産の合計額には幅がある」(前掲紙)

米ホワイトハウスのブログには、PDF形式でオバマ大統領の保有資産の内訳が公開されています。

“Excutive Branch Personnel PUBLIC FINANCIAL DISCLOSURE REPORT” [PDF]

運用資産の大半は米国債で、株式は1割前後。これに対し、ハーバード大学のグレゴリー・マンキュー教授は、「自分は資産の6割が株式と明かした上で、オバマ氏の株保有の少なさは「金融知識をあまりお持ちでないのか、『米経済の未来は暗い』と信じるに足る理由をお持ちなのか、忙しすぎて考える時間がないのか」と痛烈に批判しています。
GREG MANKIW’S BLOG

ところで、株式はゼロ、金融資産のほとんどが定期預金であるわが国の首相をマンキュー教授はどのように評価されるでしょうか?

【リンク】

The White House Blog

GREG MANKIW’S BLOG

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DeNAの資本政策

5月26日のポスティングで、昔ダイヤモンド経営者倶楽部の会報誌に書いたDeNAの資本政策の原稿をアップするとお約束しました。今読み返すと、一部に表現として妥当でない部分もありますが、当時はそのように理解していた、ということでご容赦ください。

ポイントは第三者割当増資のところです。

今回の資本政策事例研究は、2005年2月にマザーズに上場した㈱ディー・エヌ・エーをとりあげます(前回に予告したストックオプションの税務、会計のお話しは別の機会にします。ご了承下さい)。

ディー・エヌ・エーは、携帯電話競売サイト「モバオク」やSNSやゲームを無料で使える携帯電話サイト「モバゲータウン」を運営する会社で、マッキンゼー出身の南場智子女史が社長を務めている会社としても有名です。

一般的に女性社長というとどこかクセノある方が多いように思います。私も幾人かの女性社長と仕事上の付き合いがありますが、正直言って仕事を離れても付き合いたいと思うような人はまれで、どちらかと言うと苦手なタイプの方が多いように思います。

しかし南場女史は、マスコミ等にしゃしゃり出ることもなく、バリバリの上場会社の社長でありながらインタビュー記事などでかいま見られる素顔は何とも普通で、その普通さがとてもチャーミングで好感が持てます。もちろん私自身は全く面識がありませんので、本当のところは全く違うのかも知れませんが…。

さてディー・エヌ・エーの資本政策のポイントとして次のような点があげられます。

【クリックすると拡大表示します】

① (表1)に示した様に第5期までに23億円もの欠損を抱えていたが、これを上場直前期に資本金及び資本準備金を取り崩すことにより一掃した。

② これも(表1)を見て頂ければわかりますが、業績が上がっていないアーリーステージの段階で、非常に高い株価により第三者割当増資を実施し上場までに必要となる資金のほとんどを調達している。

③ 従業員のインセンティブはストックオプションによっているが、少数のコアメンバーと思われる者だけに付与し、1株価の希薄化を回避している。

それでは順番に説明していきます。

まず①についてです。南場社長は、上場時の記者会見で、「楽天やヤフーのように順調にきたわけでなく、七転八倒してきた」と語っていましたが、(表1)の財務状態の推移からもそのことがうかがえます。

ディー・エヌ・エーは、当初パソコン向けのオークションサイト「ビッダーズ」を主力事業としていたが、これがなかなか採算ベースに乗らず、第5期末まで連続して赤字となり累積損失23億円を計上するに至りました。

その後「ビッダーズ」が採算ベースに乗ったとともに、携帯向けオークションサイト(非公認サイト)が順調に会員を増やし、事業は一気に好転して行ったのですが、そこにいたるまでは資金的にも非常に苦しい時期があったものと思います。

さて、ディー・エヌ・エーは、上場直前期である第6期に累損一掃のため資本金及び資本準備金を合わせて23億円取り崩すことでこれに充てたのですが、これは一体何のために行われたのでしょうか。財務上の健全性のためでしょうか?いいえ累損を消そうが消すまいが財政状態に何の影響もありません。

次の表を見てください。

第6期 純資産の部

資本金 696,519千円
資本準備金 -
剰余金 207,568
904,087千円

仮に累損処理を行わなかったとしたらこうなります。

資本金 1,625,808千円
資本準備金 1,464,062
欠損金 2,185,783
904,087千円

累損を消さないと多額の欠損金を抱えたまま上場することになります。

現在の上場基準では欠損金がある会社であっても上場できます。マザーズでは債務超過(純資産がマイナスの状態)であっても上場できます。しかし欠損を抱えた会社は一般投資家から見ると魅力に乏しい会社と映ることは確かでしょう。

何故なら欠損がある状態では配当が出来ないからです。配当は剰余金を原資として行われます。多額の欠損を抱えた会社は当分配当出来ない会社と見られるので、新規上場の時点ではこれを解消しておくことが望ましいとされるのです。

次に②です。

①で述べたように、ディー・エヌ・エーは創業から5期までは相当に苦しい経営を強いられたものと思います。しかしおそらく創業時点で上場までの道筋をしっかりと描いた資本政策を立案し、その骨子となる部分は安易に変更しなかった。

その結果、株価の希薄化(ダイリューション)を防ぎ、わずか10%程度のシェア相当分の株式を上場させることで30億円の事業資金を手にすることが出来たと同時に、③で説明するように従業員にとっても大きなインセンティブを付与することが出来たのです。ポイントは”株式を安売りしなかった”、それにつきます。

(表2)を見てください。1株25万円で会社を設立したその1年後、「ビッダーズ」のサービス開始を待って1株400万円で第三者割当増資をかけています。これだけの強気の値付けはなかなか出来るものではありません。

【クリックすると拡大表示します】

また第3期、第4期の非常に苦しい時期の資金繰りも安易な借入に走らず(というかディー・エヌ・エーは上場まで借入による資金調達は行っていません)、あくまで強気の1株240万円(分割調整後)で第三者割当増資を行った。これがディー・エヌ・エーの資本政策の最大の特徴と行っていいと思います。

はっきり言ってオークションサイトなんていう新奇性のまるでないビジネスで、しかも全く利益の出る見込みが出ていない段階で1株400万円で人様から資金を集めるなんていうのは普通出来ることじゃありません。

大多数の会社は利益が出るまでは創立時と同じ25万円でどうでしょう、とそれでもおそるおそる切り出して相手の反応を見るといったところではないでしょうか。でもその瞬間株価は1/16に希薄化するのです(=25÷400)。

そして上場時に必要とする資金を手にしようと思ったらオーナーシェアを大きく減らさざる得ない、ということになるのです。ディー・エヌ・エーは借入を避けたというところも重要です。借入はベンチャービジネスの資金調達手段としては不向きです。

何故ならディー・エヌ・エーが借入を中心に資金調達を行っていたらどうなっていたかを考えてみたらわかります。債務超過の後上場は頓挫し、倒産していたかもしれません。

次に③です。

ディー・エヌ・エーは従業員のインセンティブをストックオプションを付与することにより行っていますが、これも多くの従業員に薄く広く付与するという形をとらず、コアメンバーに厚く付与するという形をとっています。

これによっても無意味な株価の希薄化を防ぐことが出来たと同時に、ストックオプションの価値も大きなものとなりました。一番少ない従業員でも上場時点で63株のストックオプションを付与されていますが、この価値は現時点で7千万円程度になります。

最後に創業者利得の話をしたいと思います。

南場女史は、上場時に自己の保有する株式の売出を行っていません。しかし上場後1年経過した2006年3月末に4千900株(持株比率は17%から15%に低下)を約15億5千万円で売却したとの報道がありました。

一般に経営者はインサイダー取引の問題があるため上場時以外に持株を売却することは困難であると言われますが、南場女史のように決算発表直後のタイミングでなら売却することは可能であるという一つの証左となると思います。ただしその後大きく株価が下がるというようなことがあれば非難は免れないところだと思います。

ディー・エヌ・エーの場合は、幸い株価は堅調に推移しています。

今回は私の南場女史贔屓が幸いして甘口のコラムとなってしまいました。厳しく問うべき点もなくはないのですが、今回は止めておきます。悪しからず。

次回も役に立つ事例をとりあげわかりやすく解説したいと思っています。乞うご期待!

カテゴリー: 資本政策詳解 タグ:

東京電力の「継続企業の前提に関する注記」

東京電力は25日、2011年3月期の連結決算について、監査法人が適正意見を表明したと発表した。この結果、6月28日に開く株主総会に向けた手続きが進展することになる。
(日本経済新聞2011年5月27日)

【CFOならこう読む】

経営者は、継続企業の前提に関する評価の結果、期末において、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であっても、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、継続企業の前提に関する事項を財務諸表に注記することが必要となります(監査・保証実務委員会報告74号3項)。

監査人は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在すると判断し、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策を講じてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合において、継続企業を前提として財務諸表を作成することが適切であり、かつ、継続企業の前提に関する事項の注記が適切であると判断したときは、無限定適正意見を表明し、監査報告書に追記情報として次の事項を記載する。

(1) 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する旨及びその内容
(2)当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
(3)継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる旨及びその理由
(4)財務諸表は継続企業を前提として作成されており、当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映していない旨

(監査基準委員会報告書第22号)

新聞記事には、「監査報告書には追記情報が盛り込まれており、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在している」との指摘がある」旨書かれていますが、監査法人が独自にこのような判断を行ったわけではなく、あくまでその評価は経営者が行う点に留意が必要です。

追記情報は、注意喚起のために行われるもので、監査意見の表明とは区別されるものです。

ところで、経営者が行う注記から経営者の意思や意図が透けて見えることがあります。特に「継続企業の前提に関する注記」のような重要な注記はそのような場合が少なからずあります。

東京電力は次のような注記を行っています。

東京電力株式会社 平成23年3月決算短信 22ページより 【クリックすると拡大表示されます】

私はこの注記にどうしてもひっかかるところがあります。

それは、「原子力損害の原因者であることを真摯に受けとめ」というところです。通常、”責任”という言葉を使うべきところをあえて”原因”と言っています。何度も推敲を重ね、熟慮の上このような言い回しを選択しているのです。

東京電力の経営者は、本音では、自社に責任があるとは考えていないのかも知れませんね。

【リンク】

「東京電力株式会社 平成23年3月決算短信」 [PDF]

カテゴリー: 会計 タグ:

DeNA、南場社長退任

交流サイト(SNS)大手のディー・エヌ・エー(DeNA)は25日、南場智子社長が記者会見し、夫の看病を優先するために退任し、守安功取締役が6月25日付で昇格する人事を内定したと発表した。創業者の南場社長は「社業を百パーセント最優先できなくなった」と説明した。南場社長は非常勤の取締役に就く。
(日本経済新聞2011年5月26日13面)

【CFOならこう読む】

南場さんとは一面識もありませんが、上場までの資本政策から、類まれな強さとしたたかさとしなやかさを感じ、シンパシーを抱いていました。社長退任は残念ですが、引き際も潔くまた好し。旦那さんの完治を心よりお祈りしています。

ディー・エヌ・エーの資本政策については、昔、ダイヤモンド経営者倶楽部の会報に書いたことがありますが、このブログには掲載していなかったので、時間を見つけて近日中にアップします。

【リンク】

2011年5月25日「代表取締役及びその他の人事異動に関するお知らせ」株式会社ディー・エヌ・エー [PDF]

カテゴリー: 資本政策 タグ:

為替換算調整勘定と税効果

2011年3月期連結決算から、上場企業による「包括利益」の開示が始まった。これは純利益に保有資産などの価値の増減をプラスまたはマイナスした指標で、為替や株価変動の影響を色濃く映す。日本経済新聞社の集計によると、2011年3月期の包括利益は前の期より41%減った。東日本大震災後の株安や1ドル=80円台の円高が響き、純利益(前の期比61%増)を大きく下回った。
(日本経済新聞2011年5月25日15面)

【CFOならこう読む】

「包括利益を押し下げた最大の要因は、ユーロやドルなどに対して円高が進行したことだ。自動車、電機などのグローバル企業を中心に、海外子会社の純資産を円換算
した際の計算上の価値が減った。価値の目減り分が反映された前期の「為替換算調整勘定」は対象企業の合計で3兆9794億円のマイナスとなり、9660億円のプラスだった2010年3月期から大きく落ち込んだ」(前傾紙)

為替換算調整勘定とは、在外子会社等の連結財務諸表への取り込みに際し生じる、決算時為替相場で換算される資産および負債項目の円貨額と取得時または発生時の為替
相場で換算される資本項目の円貨額との差額のことを言い、円高局面ではマイナスに振れます。

為替換算調整勘定は、マイナスに振れても円転しない限り実現しないので、企業の業績とは切り離して見るべきでしょう。ただし、近い将来在外子会社株式を売却する場合には、円貨での手取りキャッシュに影響してきます。そういう意味で留意が必要なのは為替換算調整勘定に係る税効果の取扱いです。「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」38-2項は、「子会社等の株式の売却の意思が明確な場合に税効果を認識し、それ以外の場合には認識しないものとする」としています。

例えばNTTの場合、平成23年3月期において包括利益に計上される外貨換算調整額は、44,116百万円のマイナスでした。一方、繰延税金資産の内訳項目として注記されている為替換算調整勘定の金額は、平成22年3月期が8,993百万円に対し、平成23年3月期が21,809百万円と12,816百万円増加しています。この辺りをIR上どう説明するか(あるいは説明しないか)興味があるところです。

【リンク】

なし

カテゴリー: 会計 タグ:

コスモスイニシア、優先株10株を1株に併合へ

コスモイニシアは23日、金融機関などが保有する優先株を10株に1株に併合する議案を6月29日の定時株主総会で提案すると発表した。
(日本経済新聞2011年5月24日15面)

【CFOならこう読む】

株式併合の理由は次の通りです。

「平成21 年11 月6日、当社普通株式10 株を1株に併合したことにより、当社が発行している議決権制限株式(第1種優先株式及び劣後株式)の数が発行済株式の総数の二分の一を超えた状態となっております。
このため、会社法第115 条に基づき、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の二分の一以下にするために必要な措置として、第1種優先株式の併合を行うものとし、第1種優先株式について株式併合を禁止する定めを削除するものであります。(変更案1 第11 条の2 第11 項)」
2011年5月23日「定款一部変更、第1種優先株式の併合及び 第1種優先株式の配当予想の修正に関するお知らせ」株式会社コスモスイニシア [PDF]

株式併合に伴い、配当総額の変更はありません。普通株式を対価とする請求権の実質的な内容にも変更はありません。
また、株式併合に伴い1株に満たない端数も生じない予定であるとのことです。

【リンク】

2011年5月23日「定款一部変更、第1種優先株式の併合及び 第1種優先株式の配当予想の修正に関するお知らせ」株式会社コスモスイニシア [PDF]

カテゴリー: 種類株式 タグ:

近畿日本鉄道、普通社債発行

近畿日本鉄道は20日、総額350億円の普通社債を発行すると発表した。格付けはトリプルB(格付投資情報センター=R&I)で、東日本大震災後に発行する社債としては最も低い格付けとみられる。原発事故で東京電力債の利回りが上昇してから発行を見送る企業が相次いでおり、社債市場の機能回復を映した動きといえそうだ。
「日本経済新聞」2011/05/20/23:26

【CFOならこう読む】

今日は備忘記録です。

発行額 表面利率 償還期限 年限 引受主幹事 格付け スプレッド
150億円 0.6% 13/5/27 2年 野村 BBB(R&I)、BBB+(JCR) スワップ比0.18%
200億円 1.02% 16/5/27 5年 三菱 BBB(R&I)、BBB+(JCR) スワップ比0.4%

(日経ヴェリタス2011年5月22日24面)

カテゴリー: 資金調達 タグ:

住友軽金属工業、公募増資発表後株価急落

20日の東京株式市場で住友軽金属工業株が急落し、前日比13%安の84円で引けた。この日の東京証券取引所第1部で下落率首位になった。前日に公募増資を発表。増資後の発行済み株式数が最大で約35%増える見通しで、1株利益の希薄化を嫌った投資家の売りが集中した。
(日本経済新聞2011年5月21日15面)

【CFOならこう読む】

以下プレスリリースより、増資の概要を抜粋します。

「1.今回の増資による発行済株式総数の推移
現在の発行済株式総数       432,038,867株 (平成23年5月18日現在)
公募増資による増加株式数     130,000,000 株
公募増資後の発行済株式総数    562,038,867 株
第三者割当増資による増加株式数   19,500,000株
第三者割当増資後の発行済株式総数 581,538,867株

2.増資の理由(増資調達資金の使途)
今回の公募増資及び第三者割当による手取概算額合計上限(平成 23 年 5 月 12 日(木)現在の株式会 社東京証券取引所における当社普通株式の終値を基準として算出した見込額)12,767 百万円について、 12,420 百万円を米国アルミニウム板圧延製造販売会社(ARCO)の株式を 100%取得するために設立した、 共同持株会社ARROW Aluminum Holding Inc.(注)への当社出資分に充当する予定です。また、支出予定 時期は平成 23 年 7 月から 9 月までを予定しております。残額が生じた場合には、平成 24 年 3 月までに 金融機関からの長期借入金の約定弁済の一部に充当する予定です。
これにより、当社は財務基盤の確立を図るとともに、北米・中南米市場におけるプレゼンスを獲得し、 グローバルマーケットにおける供給体制の構築を加速してまいります。ただし、各国競争当局の審査状 況等の事情又は外部環境の変化を含む諸事情によって払込時期が変更又は株式の取得ができなくなった 場合は、全額を平成 24 年 3 月までに金融機関からの長期借入金の約定弁済の一部に充当する予定です。
なお、今回の資金調達に関して、借入金等様々な方法を検討致しましたが、上記資金使途及び冒頭の 「本資金調達の目的」に記載のとおり、今回の資金使途が成長戦略投資であり、また、当社グループの 財務基盤の確立に寄与することから、公募増資による調達を行うことといたしました。これにより、当 社グループの今後の企業価値及び株主価値向上に資するものと考えております。 (注)共同持株会社は、当社(40%)、古河スカイ株式会社(35%)、住友商事株式会社(20%)、伊藤忠
商事株式会社(2%)及び伊藤忠メタルズ株式会社(3%)との共同出資(括弧内は出資比率)に より設立しました。」
「新株式発行及び株式売出し並びに主要株主の異動に関するお知らせ」住友軽金属工業株式会社 [PDF]

この買収により、これまで販売実績のない北米や中南米市場に進出するとのことですが、

「買収による収益押し上げ効果が見えにくい」(前掲紙)

との指摘も出ています。

【リンク】

平成23年5月19日「新株式発行及び株式売出し並びに主要株主の異動に関するお知らせ」住友軽金属工業株式会社 [PDF]

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武田薬品、スイス社1.1兆円で買収発表

武田薬品工業は19日、スイスの製薬大手ナイコメッド(チューリヒ)を買収すると正式発表した。96億ユーロ(約1兆1100億円)で完全子会社化し、東欧などの市場へ本格進出する。武田の新興国での売上高は約8倍に拡大し、将来は日米欧と新興国で売上高をほぼ4等分する体制を目指す。成長へ向け、先進国偏重から大きく舵を切った。
(日本経済新聞2011年5月20日9面)

【CFOならこう読む】

「ナイコメッドは1874年に創業した非上場の製薬会社。呼吸器などの医療用医薬品や一般用医薬品などを製造販売している。武田の既存事業と重複する米国の皮膚科事業を切り離したうえで、武田の完全子会社となる。同事業を除いた2010年12月期売上高は28億ユーロ(約3200億円)、社員数は約1万2000人。東欧や旧ソ連圏、中南米などの新興国で売上高の約4割を得ている。

武田はナイコメッドの親会社である複数の投資ファンドから、発行済み株式すべてを9月末までに取得する。武田は3月末時点で8700億円の手元資金を保有。買収費用のうち6000億円〜7000億円は金融機関から借り入れ、残りを手元資金で賄う計画だ。円高が進み数年前より買収費用は少なくて済む計算だが、財務体質の悪化は避けられない」
(前掲紙)

以下プレスリリースよりディールの概要を抜粋します。

「■ Nycomed社株式取得の方法および日程
• 1)株式取得の実施者:武田薬品工業株式会社
• 2)株式取得の対象者:Nycomed社の株式保有者(投資会社※、従業員および経営者)
• ※Nordic Capital Funds、DLJ Merchant Banking Partners、Coller International Partners、Avista Capital Partnersなど
• 3)発行済株式総数:13,778,110株(2010年12月31日)
• 4)株式の取得方法:現金(6,000~7,000億円程度の借入を実施)
• 5)買収価額:負債を含め9,600百万ユーロ(ドイツ証券と野村證券からフェアネス・オピニオンを取得)
• 6)取得完了予定日:2011年9月末
• 注)米国皮膚科事業を運営するNycomed US Inc.の株式は本株式譲渡契約の対象外である。

■ Nycomed社の概要
• 1)名称:Nycomed A/S
• 2)本社所在地:スイス チューリッヒ
• 3)代表者の役職・氏名:CEO Håkan Björklund(ハーカン・ビョークランド)
• 4)設立年:2005年(創業年1874年)
• 5)資本金:98,836ユーロ
• 6)株式の種類:非上場の普通株式
• 7)決算期:12月
• 8)従業員数:約12,500人(Nycomed US Inc.の従業員数を含む)
• 9)当社との関係:Nycomed社との間には、資本・人的・取引関係において記載すべき事項はない。
• 10)最近の事業年度におけるNycomed社グループの業績の動向(金額単位:百万ユーロ)

2010年12月期 2009年12月期
売上高 3,170.6 3,228.0
粗利益 2,181.7 2,332.7
営業利益 三角44.2 288.0
当期純利益 三角229.1 232.7
調整後EBITDA 850.5 1,074.6
総資産 7,477 7,886
純資産 1,491 1,539

企業結合会計上の在庫価値差異などを調整した後のEBITDA

(2011年05月19日「Nycomed社の買収(子会社化)について-グローバルでのさらなる成長に向けて-」武田薬品工業株式会社)

買収価額9,600百万ユーロは、2010年12月期のEBITDA倍率で11.3倍となります。

【リンク】

2011年5月19日「新たなタケダへの変革 Nycomed社の買収」武田薬品工業株式会社 代表取締役社長 長谷川 閑史 [PDF]

2011年05月19日「Nycomed社の買収(子会社化)について-グローバルでのさらなる成長に向けて-」武田薬品工業株式会社

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