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2011 年 11 月 のアーカイブ

証券優遇税制、2013年終了

野田佳彦首相は29日の参院財政金融委員会で、2013年12月末に期限が切れる証券優遇税制は「さらに延長することはない」の述べ、優遇措置を延長しない方針を明らかにした。優遇税制は株式譲渡益や配当にかかる税率を20%から10%に引き下げている。
(日本経済新聞2011年11月30日5面)

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「首相は、「公平性や金融商品の中立性の観点から本則税率に戻すべきだ。経済金融情勢が急変しない限り確実に実施する」と語った」(前掲紙)

証券優遇税制は、金持ち優遇であると評されることが多いのですが、国富創造の担い手は企業であり、そのリターンを証券投資を通じすべての国民が享受すべきものです。しかも企業が稼得した利益にはすでに税金がかかっており、株主が手にした証券投資のリターンに税金をかけるのは二重課税に他なりません。

そう考えると、復興増税が行われる2015年までは株式譲渡益及び配当にかかる税率引き上げは見送るのが適当と考えます。

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なし

カテゴリー: 税制 タグ:

ワタミ、有利子負債今期末3割減

ワタミの2012年3月期末の連結有利子負債残高は132億円程度と前期末と比べて3割程度減る見通しだ。高齢者向け介護、弁当宅配などの事業が好調で、改善したキャッシュフローを借入金の返済に充てる。2013年3月期中には有利子負債から手元預金を差し引いた金額をゼロとし、実質無借金とする計画を立てている。
(日本経済新聞2011年11月29日15面)

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「ワタミは期初時点で、東日本大震災で先行き不安感が増したとして手元資金を潤沢にする方針を掲げた。だが、介護と弁当宅配事業が想定を上回って好調なため、有利子負債の削減を優先することとした」(前掲紙)

期初時点の不確実性は減じたため、当初計画通り有利子負債の返済を進めることにした、ということです。欧州の金融不安が深まる中、新規の資金調達は実行し難いところですが、一方で復興需要もあり頭を悩ませているCFOも多いことと思います。しかし銀行を頼りにできない現状では、自社のキャッシュフローを超えない範囲で経営を行なうワタミのような方向性を基本とすべきかも知れません。

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バフェット氏、日本買い宣言

初来日の前週に突然、米IBM株に100億ドルを投じたことを公表したウォーレン・バフェット氏。氏が率いるバークシャー・ハザウェイは今や、IBMの発行済株式の5.5%を保有する大株主だという。欧州危機や米景気の先行き懸念で米株式相場も下落するなか、逆張りで株式投資を続けていたことが明らかになった。IBM株への投資を決めた舞台裏、日本での投資の可能性・・・。投資の神様は日経ヴェリタスに大いに語った。
(日経ヴェリタス2011年11月27日2面)

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11月22日の当ブログのエントリー(2011年11月28日エントリー「バフェット氏、『日本投資魅力薄れず』」)で示した疑問のいくつかに、インタビュー記事の中でバフェット氏は答えています。

−自分が事業内容を理解できないハイテク株には投資しない方針をいつも口にしていました。いまなぜ突然、その投資哲学を変えてIBM株に投資したのですか。
「これから5年、10年後のIBMの収益力を見通せるくらいに、IBMのことを理解できたと感じたのです。もっと早く分かればよかったのですが、投資するのが遅かったとはいえ、全くしないよりはいいでしょう。

IBMは賢明な財務戦略をとっており、顧客基盤もしっかりしている点にも注目しました。そして、われわれがIBM株をたくさん買っている時の株価はお買い得な水準だったので、大量の資金をつぎ込んだのです」(前掲紙)

IBMの賢明な財務戦略とは何でしょう?
2010年度のアニュアルレポートを見てみると、Total liabilities and equity $113,452milのうち

Short-term debt $6,778mil
Long-term debt $21,846mil

と有利子負債比率が比較的低いこと、及び自己株式が$96,161milと大きな水準になっていること、さらに一方、Cash and cash equivalentsは$10,661と無駄にキャッシュを積み上げてはいないこと、に気付きます。

「ただ、われわれが本当にやりたいのは、日本で大きな会社を買収することです。(敵対的な買収をするつもりはないので)会社を買って欲しいという話がくるのを待っているのですが、まだ現実のものになっていません。しかし、もし日本の大企業からあす電話をもらって、バークシャーに買収して欲しいという申し入れがあれば、飛行機に乗ってすぐ駆けつけますよ」(前掲紙)

賢明な財務戦略をとり、しっかりとした顧客基盤を持ち、5年後10年後の収益力を見通せる日本の大会社さんで、大口の安定株主が欲しいところがありましたら、バフェット氏に至急ご連絡ください。すぐに自家用飛行機で駆けつけてくれるそうです。

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「Annual Preport 2010」 IBM [PDF]

ドイツ国債「札割れ」・利回り上昇

財政悪化国の国債相場が軒並み大きく下げているユーロ圏で、ドイツ国債への投資意欲の低下が目立ち始めた。23日には入札で募集額に投資家の需要が届かない「札割れ」が発生。24日には独国債利回りが一時、2年半ぶりに英国債の利回りを上回った。財政が相対的に健全で安全資産とされてきたユーロ圏「最後の砦」の独国債の変調で、ユーロ圏に対する市場の不安心理が一段と強まっている。
(日本経済新聞2011年11月25日3面)

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「最上級の格付けを持つドイツ国債の入札が不調だったことを受けて、24日の国内債券市場では売りが優勢となった。日本国債の格下げ観測も浮上し、財政不安による「悪い金利上昇」に警戒が広がった。金融危機に備えて手元の流動性を確保するため、債券市場で益出しの売りが出始めているとの見方もある」(日本経済新聞2011年11月25日17面)

独国債下落が続くと、日本国債に資金が向かうとの観測もあり、予断を許しません。
来週の日本での10年債の入札が注目されます。

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社外役員の質高めよ – 砂川伸幸 神戸大学教授

・企業経営を規律づける様々な方策が不可欠
・組織ぐるみの不祥事は社内では抑制できず
・独立役員の導入では人数よりも構成が重要
(日本経済新聞2011年11月24日3面)

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「コーポレートガバナンスは、経営の暴走を止めることである。そのためには経営者にモノを言える人の存在が必要になる。
(中略)
内部にいなければ、外部に人を求めるしかない。ここに独立役員の意義がある」(前掲紙)

経営者が絶対的な権限を有する点に日本株式会社の特質のひとつになっており、時に株主構成を自己の都合で変えることもできるほどの権限を有している、という事実認識に基づき議論しないと、またもや実効性のない仕組みを形だけ採用するだけのことになってしまいます。

日本株式会社の成長なくして日本の再生はない、という共通理解のもと、会社は企業のモノでも従業員のモノでも株主のモノでもなく、企業は価値創造(国富創造)のためのdeviceであると定義し直すことが必要です。

そして、価値創造に失敗したらM&A等により経営権の交替があること、税制その他のインフラが経営を阻害しないこと、ヒト・モノ・カネといったリソースに自由にアクセスできること、リスクに立ち向かうことが称賛される社会であること、再就職が容易であること等の条件を整えることができれば、企業はほっておいても自らが価値創造のために最適と考える統治構造を採用するようになります。

そのためには政治のリーダーシップが絶対に必要です。

ビジョンを明確に示し国民から賛同を得た上で、規制を緩和し、必要な立法化を押し進めるという形でしか日本再生はないと私は思います。

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バフェット氏、「日本投資魅力薄れず」

初来日した米著名投資家のウォーレン・バフェット氏は21日、投資先企業がある福島県いわき市で記者会見した。日経平均株価はこの日、年初来安値をつけたが、同氏は日本には長期的な競争力を持つ企業が多く、「投資魅力は失われていない」との見方を示した。
(日本経済新聞2011年11月22日3面)

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「30年後、50年後も成長を続けているような企業を探している」(前掲紙)というバフェット氏の投資スタイルはよく知られているところです。

しかし日本企業への目立った投資はなく(福島県に工場を持つ超硬工具メーカー、タンガロイはイスラエルの会社)、それなら「投資魅力は失われていない」などとおべっかを言うのではなく、せっかく日本に来たのだから、何故日本企業への投資がないのか、日本企業はIBMと比べて何が劣るのか、どう変われば投資するか、などについて突っ込んだコメントが欲しかったですね。

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ウシオ電機のM&A

ウシオ電機の収益構造が大きくかわりつつある。コピー機や映画プロジェクターや半導体やプリント基板の回路焼き付けに使う産業用特殊ランプのメーカーとして知られてきたが、近年はシネマプロジェクターや半導体露光機そのものなど、装置事業の比率を高めてきた。光という身近なものの性質を徹底的に見極め、波長ごとに様々な用途の製品を開発。半導体や電子部品、映像から金属加工、医療まで収益の幅を広げている。
(日経ヴェリタス2011年11月20日16面)

【CFOならこう読む】

「ウシオはまた、自社にない光技術をうまく取り込むM&Aでも巧者ぶりを見せる。1980年以降、30件近い提携や買収を実施し、「失敗は非常に少ない」(大島誠司CFO)と胸を張る。投資銀行などが持ち込んでくる案件には目もくれず、取引先からの情報提供、紹介をベースにみずから相手を発掘し、時間をかけて買収・提案にもっていくのがウシオ流だ」(前掲紙)

投資銀行が持ち込む案件に、ろくに検討もせず飛びつく会社が少なくない中、ウシオ流は本来あるべき姿であるかも知れません。記事ではデジタルシネマプロジェクターで世界シェア45%の米クリスティ・デジタル・シネマズ(カリフォルニア州)のM&Aのケースが紹介されています。

フィルムプロジェクターをてがけていたクリスティの販路とウシオが買収した別の会社のデジタル技術を組み合わせることで大きなシナジーを実現しとということですが、こういう案件は自ら発掘するしかありません。

ただしこういう成功事例も、「光のワンストップショッピングセンターを目指す」(前掲紙)というビジョンが明確になっているからでしょう。

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カテゴリー: M&A タグ:

企業統治を聞く – 委員会設置会社の利点

経営の透明性を高めるうえで、委員会設置会社の導入が有効との意見を持つ識者は多い。東京経済大学教授でNPO日本コーポレート・ガバナンス研究所代表理事の若杉敬明氏と、企業統治に詳しい大和総研主任研究員の藤島祐三氏に理由を聞いた。
(日本経済新聞2011年11月18日13面)

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委員会設置会社の利点について、若杉氏と藤島氏はそれぞれ次のように述べています。

若杉氏「ガバナンスの機能を果たすには欧米で定着した委員会設置会社が望ましい。統治には優秀な経営者を選ぶ『指名』、動機づけにつながる『報酬』、不正を防ぐ『監査』の3要素があるが、委員会設置会社はそれぞれに対応した機能を持つ」(前掲紙)


藤島氏「日本での導入率が低いが、委員会設置会社の方が利点が多い。社外取締役の設置を義務付け、執行役に権限を大幅に移譲するからだ。外部の人間に権限を与える点をプレッシャーに感じる経営者もいるだろうが、優れた企業統治は不祥事の抑制に役立つだけでなく、業績
向上にも寄与する」(前掲紙)

そもそも、何故日本ではそれほど利点の多い委員会設置会社が少ないのでしょうか?

それは、経営者が自らを頂点としたガバナンスシステムを変える理由がないからです。漸く手にした社長の椅子を、末席に置き直すようなご立派な人はそうはいません。

日本企業のガバナンスの仕組みは、戦後の日本が選択した社会システム(終身雇用制、年功序列、政官財癒着の構造等)の中で出来上がってきたものです。私企業に、はいはい委員会設置会社が望ましいからそちらに変えましょうね、と誰かが言っても無視されるか、衣だけ着せ替えて変わったふりをするだけの話です。

資本市場の規律に期待する向きもありますが、大前研一氏が言うようにプルドックソース事件の後ホームレスマネーはぱったりと日本に入って来なくなってしまい、それとともに物言う株主の陰もすっかり薄くなっています。

何だかとても八方ふさがりですが、ここは政治のリーダーシップに期待するしかないように思います。対処療法や利害調整ではなく、日本の行く道を照らすビジョンと、それを実現する具体的な方策を示すことを今こそ政治家に期待したいと心から思います。

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正しい円高対応策

政府・日銀による大規模な市場介入にもかかわらず1ドル=70円台後半の円高が続いているため、企業収益や生産活動への悪影響を懸念する声が強まっている。
(日本経済新聞2011年11月17日19面大機小機)

【CFOならこう読む】

「内外のインフレ率格差を前提とすると、やや長い目でみれば、今後も円高圧力は持続する可能性が高い。これに対し、対症療法的に市場介入や追加金融緩和を繰り返しても、円高抑止効果はごく一時的なものにとどまるだろう。
むしろ企業の海外展開を積極的に支援する一方、国内では産業構造の変革を促すことで新しい雇用機会創出に努めること、これこそが日本経済の長期的発展につながる正しい円高対策である」(前掲稿)

介護、医療、保育などの分野では、規制改革を徹底し、潜在需要を顕在化できれば、大きな雇用増加が期待できると論じており、大機小機にしては珍しく(失礼!)正論です。

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企業統治を聞く- 米タイヨウ・パシフィック・パートナーズ、ブライアン・ ヘイウッドCEO

オリンパスによる証券投資の損失隠しなど、企業の不透明な経営による問題が相次ぎ表面化している。日本の株式市場に対する海外投資家の不安を取り除くためにも、企業統治(コーポレートガバナンス)の強化は待ったなしだ。何が問題でどんな処方箋が考えられるのかなどを識者に聞く。
(日本経済新聞2011年11月16日11面)

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タイヨウ・パシフィックは日本株の積極運用で知られる米投資ファンドです。

−日本市場の信認回復には何が必要か。

「外圧が日本を変えるのではない。カギを握るのは内なる変革だ。日本の年金財政は厳しく、足元の運用利回りを上げなければ立ちゆかなくなっている。この実現には、国内の年金基金が投資先に株主を重視した経営への転換を求める必要がある」(前掲紙)

企業は価値創造のために存在します。経営者は信任を受け、その実現に向けて邁進しなければなりません。すなわち、経営者の仕事は国富を創造することにあるのです。株主を重視した経営とはこういうことであって、従業員や他のステークホルダーの犠牲の上に成立するものでは決してありません。

先日、オリンパスの元社長が今般の事件を受け、「従業員がかわいそう」、とのたまわれたようですが、そのような内向きの経営が、結果的に従業員をも不幸にしてしまったことを知るべきだし、そのようなガバナンス体制を作り上げたという点で、自らにもその責任の一端があることを認識すべきです(これは飛ばしに関与したか否かとは別次元の話です)。

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