4月から法人課税の実効税率が下がるのに伴い、大手生命保険4社が2012年3月期決算で450億円~1,800億円の損失を計上する見通しとなった。将来の税負担軽減効果を見込み積んでいる「繰延税金資産」を税率引き下げ分だけ取崩す必要があるため。
(日本経済新聞2012年1月31日7面)
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「法人実効税率が下がると、その分だけ計上できる資産が目減りし、損失を処理しなければならない。政府は昨年12月に法人実効税率の引き下げを盛り込んだ税制改正法を公布。今は40.69%の税率を4月以降の事業年度から38.01%に、15年度には35.64%に下げる」(前掲紙)
税率引き下げに伴い、四半期決算において繰延税金資産の計算はどのように行うべきかについて、企業会計基準委員会が2012年1月20日付けで公表した、「実務対応報告第 28 号 改正法人税法及び復興財源確保法に伴う税率変更等に 係る四半期財務諸表における税金費用の実務上の取扱い」の中で明らかにされています。
「Q1 四半期財務諸表の作成において年度決算と同様の方法で税金費用を計算している場 合、改正法人税法等に伴う繰延税金資産及び繰延税金負債の計算はどのように行うか?
A 改正法人税法等の公布に伴い四半期累計期間中に税率の変更等が行われた場合で、年 度決算と同様の方法で税金費用を計算している場合には、次のとおり取り扱われる。
(1) 繰延税金資産及び繰延税金負債の計算について 四半期財務諸表における税金費用については、原則として年度決算と同様の方法により計算する(四半期会計基準第 14 項本文)。この場合、財務諸表利用者の判断 を誤らせない限り、納付税額の算出等において、簡便的な方法(例えば、納付税額 の算出にあたり加味する加減算項目や税額控除項目を、重要なものに限定する方 法)によることができる(四半期適用指針第 15 項)。また、繰延税金資産及び繰延 税金負債については、回収可能性等を検討した上で、四半期貸借対照表に計上する。
四半期累計期間中に税率の変更が行われた場合で、年度決算と同様の方法で税金 費用を計算している場合には、繰延税金資産及び繰延税金負債は、原則的な考え方 により、支払又は回収が行われると見込まれる期に対応した改正後の税率により計 算する。平成 24 年 4 月 1 日から平成 27 年 3 月 31 日までの間に開始する事業年度に おいては基準法人税額に 10%の税率を乗じた復興特別法人税額が上乗せされること とされているが、この期間に支払又は回収が行われると見込まれる繰延税金資産及 び繰延税金負債については、復興特別法人税額を含む法定実効税率で計算すること になる。
(2) スケジューリングが不能な一時差異に係る計算について スケジューリングが不能な一時差異については、一律に復興特別法人税額を含まない法定実効税率で繰延税金資産及び繰延税金負債を計算する。
(3) 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産について 改正法人税法等においては欠損金の繰越控除制度が改正され、平成 20 年 4 月 1 日以後に終了した事業年度において生じた欠損金の繰越期間が 7 年から 9 年に延長さ れるとともに、控除限度額が繰越控除前の所得金額の 80%に制限される。したがっ て、四半期貸借対照表に計上する税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の金額に、 改正法人税法等が影響を及ぼす可能性があるため留意する必要がある。」
税率引き下げにより損益にマイナスの影響があるのはあくまで一時的で、将来的には税負担が減るので税引後利益はその分増えることになります。
【リンク】
平成24年1月20日「実務対応報告第 28 号 改正法人税法及び復興財源確保法に伴う税率変更等に係る四半期財務諸表における税金費用の実務上の取扱い」企業会計基準委員会 [PDF]
2011年に新規株式公開した36社の株価をみたところ、3分の2の銘柄で27日終値が上場初値を下回っていることが分かった。
(日経ヴェリタス2012年1月29日26面)
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「最も下落率が大きいのはラクオリア創薬(マイナス)で、上昇率が大きいのは日本管理センター(2.6倍)。買われているのは、業績が安定した一部の銘柄にとどまっている」
(前掲紙)
2011年に新規上場した銘柄のうち初値からの騰落率、上昇率上位5銘柄及び下落率上位5銘柄は次の通りです。

3分の2が初値を上回るようでないと、なかなかIPO数は増えないと思います。
【リンク】
なし
経済産業省が26日公表した2011年の企業活動基本調査速報によると、海外子会社を持つ製造業の企業数の比率が24.9%と調査を開始した1992年以来最高になった。自己資本比率も46.5%と最高を記録。海外展開を積極化する一方、財務の守りを固める姿も浮き彫りになった。
(日本経済新聞夕刊2012年1月23日1面)
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平成23年3月31日現在で実施した企業活動基本調査の企業数(総合計)は2万9506社、うち、企業活動基本調査の対象業種に格付けされた企業数(合計)は2万8273社。
対象業種は(「経済産業省企業活動基本調査 調査の対象」[PDF])に記載があります。
調査は、売上高と利益の状況、費用の状況、付加価値額の状況、資産の状況、従業者の状況、子会社・関連会社の状況等について行われました。
このうち、子会社・関連会社の状況の調査結果の概要を以下に抜粋します(「経済産業省企業活動基本調査 最新の調査結果の概要」[PDF])。
・子会社(注)を保有する企業は 12,332 社。子会社保有企業比率は 43.6%(前年度差 0.4%ポイ ント上昇)。
・国内に保有する企業数は 10,655 社で国内子会社数は 51,254 社。1企業当たり保有数は 4.8 社(前年度差▲0.3 社減)。海外に保有する企業数は 4,969 社で海外子会社数は 34,023 社。 1企業当たり保有数は 6.8 社(同 0.0 社)。
・製造企業の子会社保有比率をみると、国内 37.1%、海外 24.9%となり、海外は調査開始以来 最高値を更新。
・製造企業の 1 企業当たり保有数は、国内 5.3 社(前年度差▲0.2 社減)、海外 7.2 社(同 0.0 社)と横ばい。
・製造企業の海外子会社を地域別構成比で比較すると、アジア(除く中国)が 29.7%(前年度差 0.0%ポイント)、中国が 26.6%(同 0.1%ポイント拡大)、ヨーロッパが 19.2%(同▲0.2%ポイント 縮小)、北米が 17.6%(同▲0.3%ポイント縮小)。
・製造企業のモノの輸出額に占める関係会社の取引率は、49.1%(前年度差▲0.3%ポイント低 下)。地域別でみると、中国、ヨーロッパ、北米が低下し、アジア(除く中国)、中東、その他の地 域が上昇。モノ以外の輸出額に占める関係会社の取引率は、73.4%(同▲4.7%ポイント低 下)。
・製造企業のモノの輸入額に占める関係会社の取引率は、32.4%(前年度差 0.7%ポイント上 昇)。地域別でみると、アジア(除く中国)のみが上昇し、他地域は低下。モノ以外の輸入額に 占める関係会社の取引率は、56.6%(同 16.8%ポイント上昇)。
(注)ここでいう子会社は、関連会社も含む。
上には記載されていませんが、従業者数を見ると小売業は2,755,277人は、製造業の5,234,678人に次いで多くなっています。
ところが海外子会社を持つ小売業の企業数の比率は4.3%しかありません。この数値は卸売業の17.9%と比較しても大きく下回ります。これからますます内需が細って行くなかで、小売業やサービス業も海外に出ていかざるを得ないように思います。
【リンク】
経済産業省企業活動基本調査
「経済産業省企業活動基本調査 調査の対象」[PDF]
「経済産業省企業活動基本調査 最新の調査結果の概要」[PDF]
財務省が25日発表した2011年の貿易統計(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆4927億円の赤字となった。赤字は第2次石油危機による原油価格高騰で輸入額がかさんだ1980年以来、31年ぶり。
(日本経済新聞夕刊2012年1月23日1面)
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「財務省は「円高の影響で海外への生産移転が進み、輸出に影響が出た可能性がある」と指摘した」(前掲紙)
解説記事では、海外からの配当収入も含めた経常収支が赤字に転落する可能性を示唆しています。日本企業も含めて日本に企業を誘致する必要性がありますが、そのためには、もう一段の税率引き下げが必須であると考えます。
なお、貿易赤字の報道を受け、円相場は大幅に反落し、昨日の終値は1ドル=77円92銭でした。
【リンク】
なし
今月から認められた企業型確定拠出年金の「従業員の上乗せ拠出」について、60社超の企業が導入することが明らかになった。野村證券やベルギー系製薬会社ユーシービージャパンなどは4月開始に向け準備を進めている。
(日本経済新聞2012年1月25日7面)
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「これまで掛け金を拠出するのは企業に限られていたが、今月から従業員が最大月2万5500万円(他に企業年金がない場合)まで上乗せできるようになった。掛け金は所得控除の対象となり、運用益も非課税。老後に受け取る時も年金所得控除などを受けられ、個人で金融商品に投資するより有利になる」(前掲紙)
確定拠出年金の最大のメリットは、その税制にあります。

これは単に拠出金額が所得控除されるというだけでなく、実質的にキャピタルゲインに対する税金が免除されることを意味します。
この点マイロン・ショールズ他の「タックス・アンド・ビジネス・ストラテジー」(邦題「MBA税務工学入門」中央経済社)は、次のように説明しています。
「年金基金に拠出された$1は、n年後には$(1+R)nとなるが、年金支払時に、この投資収益累計額の全額に対して税率tで課税されるとした場合、税引後の手取り額は$(1+R)n (1-t)となる。年金基金に対する当初の投資額は($1)は、税効果(税引)後で考えた場合、(拠出時に投資支出額が全額損金算入されているために)$(1-t)で済むことから、税引後投資支出額に対する税引後投資収益率は、次のように計算される。
{1/(1 -t )}(1 +R ) n (1 -t ) = (1 +R ) n
但し、
R=税引前運用利回り
n =期間
t =通常税率 」
つまり掛け金が全額所得控除されるだけで無税の恩恵が受けられる上に、年金所得控除も受けられるということは、国家から補助金を受けて運用できるということを意味します。
この点をもっとアピールすれば、確定拠出年金の普及に更にはずみがつくと思います。
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なし
金融市場で買収ファンドの存在感が増している。欧州債務危機などで金融全般が苦戦を強いられるなか、ファンド勢は年金資金の流入増で運用資産が拡大。2011年のM&A総額のうちファンドによるものは前年より32%増え、全体の伸び(7%増)を大きく上回った。
(日本経済新聞夕刊2012年1月23日1面)
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「世界の金融機関が欧州資産の圧縮に追われるのを横目に、果敢な投資に踏み込むブラックストーン。長期投資を前提にするファンドにとって、株価や資産価値が大きく下がった局面は絶好の投資機会となる」(前掲紙)
大前研一氏が『お金の流れが変わった』で指摘しているように、ブルドックソース事件以降、ファンドマネーは日本市場に背を向けた状況が続いています。
「「日本にはホームレス・マネーが来ない、と述べた。その契機となったのが、ブルドックソースのポイズンピルを認めたあの最高裁判決だといっていいだろう。事実あれ以来、外資は日本の市場に背を向け、世界のマネーはぱったり日本に入ってこなくなった。」(139頁)
しかしPBR1倍割れの企業がごろごろしている日本市場は買収ファンドにとって魅力的に映るはずで、オリンパス事件等を契機に日本企業のガバナンスが改善することが期待されるなか、外資に限らず買収ファンドが日本市場で再び勢いを盛り返す可能性は十分にあると思います。
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なし
個人向けは社債の発行が急増している。2011年の発行総額は前年より約7割増加。今年に入ってから募集されている個人向け社債は予定分も含めて7銘柄にのぼる。発行企業は金融機関や電鉄、商社など多様な業種に広がる。
(日経ヴェリタス2012年1月22日58面)
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最近発行された社債は以下の通りです(予定分も含む)。

劣後特約を付けて金利を高めに設定しているものが散見されます。
「りそな銀行が2月22日に発行予定の個人向け社債は、デフォルト(債務不履行)したときの返済順位が通常の社債よりも劣る「劣後特約」付き。金利は1.2~1.8%の範囲で決める予定。信用リスクが相対的に高い分、金利を高めにする。常陽銀行も個人向け劣後社債の発行を予定している」(前掲紙)
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なし
国内で唯一上場する伊藤園の優先株が、普通株との価格差を縮小している。2009年には普通株より4割安かったが、足元では約2割と3年3ヶ月ぶりの水準まで差を縮めた。
(日本経済新聞2012年1月21日13面)
【CFOならこう読む】
「同社の優先株は議決権がない代わりに配当は普通株の25%増し。今期は普通株の年38円に対し48円で、配当利回りは普通株より1.6%高い」(前掲紙)
伊藤園の優先株の価格が普通株の価格を大きく下回る理由として、以前次のように説明されているのを紹介したことがあります(2008年7月19日「無議決権株の価格」)。
①無議決権優先株が東証株価指数に採用されていないため流動性が低い
②普通株にあって優先株にない議決権の価値が大きいから、価格差が拡大している
さらにイタリアや韓国の会社が伊藤園と同様に優先株の価格が普通株の価格を大きく下回る理由として次のような分析がされていることを紹介しました。
「国の法制度や市場のルールが未整備で、企業経営に対する規律付けが弱いと、株主は自ら議決権を握り、株主の利害に背かないよう経営を監視する必要性が増す。その場合、議決権の価値は増大し、結果として無議決権株と普通株の価格差が広がる。」
((日本経済新聞 2008年7月19日 14面 無議決権株を追う㊦))
だとすると、伊藤園の優先株の価格の上昇は、オリンパスや大王製紙の事件を受けて日本企業のガバナンスが今後改善するという期待を反映したものなのかもしれません。
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洋風居酒屋KICHIRIを運営するきちりは、店舗を借りる際に差し入れる保証金の流動化に乗り出した。金融機関が代わりに現金を不動産業者に差し入れる「保証金代預託契約」を導入し、保証金を7割圧縮する。捻出した資金は出店や運転資金に充てる。
(日本経済新聞2012年1月20日12面)
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外食産業の場合、差入保証金という形で多額の資金を寝かさなければならないため、どうしても資金効率が悪くなります。そのため、ROAやROEといった資本効率を示す財務指標も他業種と比較して低い水準になりがちです。
そのため差入保証金を資金化したいというニーズは昔からあります。それを可能にするスキームの一つが保証金代預託契約です。

「代預託契約を活用すれば、借入金の金利を上回る水準の手数料を金融機関に支払う代わりに保証金を長期間固定しなくても済む」(前掲紙)
ひらまつがこのスキームを利用して店舗保証金を流動化している旨、貸借対称表注記に記載しています。注記によるとひらまつの場合、約4億円の保証金について金融機関と代預託契約を締結しています。契約期間は10年から15年となっています。
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米国が金融規制や税法などで独自のルールを打ち出し、国際的な影響が広がる可能性が出てきた。日本でも金融機関の資金運用や個人情報の保護などで対応を迫られそうだ。
(日本経済新聞2012年1月19日6面)
【CFOならこう読む】
「米国内から米以外の外国銀に送金される利子や配当などの支払いに、原則30%の源泉徴収課税を目指す構想も波紋を広げる。米富裕層による国外への所得移転などを把握し、新たな税収を確保するのが狙いで、2010年成立の外国口座税務に関する法令順守法(FATCA法)に基づく」(前掲紙)
FATCA法の趣旨について、伊藤剛志弁護士がわかりやすく説明しているので、引用します。
「米国連邦法は、米国市民・居住者外国人及び米国法人について、その全世界所得に課税を行うものとしており、これらの者は、米国外で得た所得についても米国で適切に申告・納税しなければならない。米国課税当局が米国外の所得に対して課税を行うためには、米国納税者の米国外の所得に係る正確な情報を得ることが必須である。米国課税当局が米国外の所得に係る情報を入手できないのであれば、米国外の所得を意図的に申告せずに税負担を免れようとする米国納税者が出現するであろう。近時、租税条約に基づく情報交換を通じて、課税当局が海外の所得に係る課税情報を入手できるようになってきているが、かかる情報交換にも限界がある。そのため、米国FATCA法は、米国外金融機関(Foreign Financial Institution: FFI)が米国納税者の口座情報を米国課税当局に直接に提供する仕組みを確保することを通じて、米国課税当局が米国納税者の米国外所得に係る正確な情報を入手できる制度を構築しようとしているのである。
もっとも、米国外金融機関は米国の領土・主権の及ぶ範囲の外に存在するのであり、米国が米国外金融機関に対して米国納税者の口座情報の提供を直接に強制することができるわけではない。そのため、米国FATCA法では、米国企業が米国外金融機関に対して行う一定の支払に対して源泉徴収を行うという不利益を組み合わせることにより、米国外金融機関が米国課税当局に当該口座情報の提供を行うように動機付けている。」(伊藤剛志弁護士「日本の金融機関に重大な影響を与える米国FATCA法」)
FATCA法は、日本の金融機関を含めた米国外金融機関に大きなコスト負担を要求すること等の理由から、日欧などから見直し要求が殺到しており、「米側は近く修正案を示す方向」(前掲紙)
とのことです。
唯我独尊!!
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