工場など固定資産の減価償却の会計処理を、定率法から定額法に変更する企業が相次いでいる。2013年3月期からホンダや三井化学、アステラス製薬などが変更する方針だ。
海外展開を加速する中で、海外で一般的な会計処理に統一する狙いがある。定率法から定額法への変更では利益の押し上げ要因も発生する。
(日本経済新聞2012年5月31日15面)
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「海外では定額法が一般的で、海外子会社などと会計処理を統一することで経営に役立てる狙いもある。『海外での事業展開の重要性が高まっているほか、生産設備が安定的に稼働するなか、定額法の方が期間利益をより正しく表せる(アステラス)』」(前掲紙)
2013年3月期から定額法に変更する主な企業と、変更による営業利益押し上げ額は次の通りです。
ホンダ |
400億円 |
三井化学 |
100億円 |
アステラス |
90億円 |
三菱ガス化学 |
62億円 |
セガサミー |
40億円 |
セントラル硝子 |
35億円 |
長瀬産業 |
22億円 |
(出所:前掲紙)
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なし
ものの見方や考え方を整理する時に大切にしていることがある。「本質的」「中長期的」「多面的」の3つの視点を持つことだ。いかなる事案も本質的なところから掘り返し、中長期的な視点に立って結論を導く必要がある。より多面的な視点から検討を加えることも重要だ。
(日本経済新聞2012年5月30日17面 大機小機)
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「上場企業の決算発表の中で気になったのが、のれん代や設備などの「減損処理」という言葉だ。新聞記事で目にする機会が増えたと実感する人も多いと思うが、企業側はこの言葉をどちらかと言うと前向きなイメージで使っていると思われるケースが多い。だが実際には、減損処理は損切りを意味しており、むしろ後ろ向きな言葉として認識すべきである」(前掲紙)
いやいやそれは違います。減損を前向きに捉えている経営者などいません。出来れば回避したいとみんな思っています。
それでも減損処理せざるを得なくなった場合に、それをどう表現するかは会社や経営者によって異なります。
それは我々が日常生活の中で失敗したときに、自己の非を認めわびる姿勢を前面に出すか、明日の糧にするという前向きな姿勢を前面に出すか、言い訳に終始するか人によって違うのと同じです。
しかし本人がどう言おうと失敗は失敗です。
経営者がいくら前向きなイメージで語ったからと言って、その言葉をそのまま額面通り受け取るのは、あまりに「本質」を見誤っています。
例えば経営者が、「保守的な会計処理を行った」と言った場合には、ああ言い訳してるな、と思えば良いのです。
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なし
家電量販大手のコジマは28日、創業者の長男で筆頭株主の小島章利会長が取締役を外れ、相談役に退く人事を発表した。小島会長は同社が11日発表したビックカメラ傘下入りに反対しており、事実上の解任とみられる。
(日本経済新聞2012年5月29日12面)
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5月14日の記事「コジマ、ビックカメラ傘下入り」の続報です。
「小島氏はビックの連結子会社となることに「今は規模拡大によるメリットは見込めない。自社が責任をもって業務改善に集中すべきだ」などと取締役会でただ一人反対を表明していた」(前掲紙)
本件は、ビックが株式の50%超を第三者割当増資を引き受ける形で実行されます。大きな希釈化を伴うストラクチャーをあえて選択する意味がよくわかりませんでしたが、今日のニュースを聞いて、現在12%の持分を保有する小島氏の持分比率を下げることも目的の一つであったのだと、妙に納得してしまいました。
しかしTOBであれば、それなりのプレミアムが享受できたであろう一般株主の機会損失は、今後のシナジーの実現による株価上昇という形で償われる日がいつか来るのでしょうか?
欧州では、支配権が移転するような一定の議決権割合(英独は30%以上、仏は3分の1超)に達する株式を取得した場合その取得自体は、TOB規制の対象とはなりませんが、その代わり、取得後に他のすべての株式を対象にしたTOBを行わなければなりません。取得には市場内外・新株発行すべてが含まれます。
(三井秀範金融庁総務課長「欧州型の公開買付制度」商事法務No.1910(2010))
本件の第三者割当増資が有利発行でも不公正発行でもないなら、法的問題はないのかも知れませんが、一般株主の立場からは釈然としない思いが残ります。
やはり日本でも欧州型のTOB規制の採用を検討すべきではないでしょうか。
ちなみに欧州の全部勧誘・全部買付のTOB価格は、過去一定期間(英仏は1年間、独は6ヵ月間)における最高取引価格以上でなければならないとの規制が課されています(同上)
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なし
消費者物価指数や国内企業物価指数は、わずかながらも上昇している。どうやら、顕著な物価下落が「深刻なデフレ感覚の原因」ではないようだ。働いても稼ぎが大きく減ってしまった時にも、深刻なデフレを感じる。日本のデフレ感の原因は、交易条件の悪化による所得の海外漏出にある。
(日経ヴェリタス 2012年5月27日51面 異見達見)
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斎藤誠氏は、日本を代表する優れたマクロ経済学者です。
その斉藤氏が、日銀の金融政策を批判するのは的外れである、と本稿で述べていることは注目に値します。
GDPデフレーター(日本経済が1単位の財・サービスを生産することで、どれだけ名目所得を獲得できるのかを示す指標)が21世紀に入って低下し続けている。
「GDPデフレーターの低下傾向は「一所懸命に生産活動をしているのに稼ぎや儲けがやけに
減っている」と嘆く労働者や企業経営者のデフレ感覚と見事に合致している(前掲紙)
その原因を斉藤氏は交易条件の悪化にある、と述べています。
「リーマン・ショック後に円高基調になっても日本経済の恩恵を完全に打ち消す勢いで資源価格が高騰して、円建て輸入価格は上昇した。一方、輸出は円高分の半分程度しか現地価格に転嫁できなかった結果、円建て輸出価格は低下した」(前掲紙)
つまり目先の雇用を優先し単純に生産量を増やしても、それによって大きな所得減を招くだけということになってしまうと言うのです。
それではどうすべきか。
「長期的には、地道な方法しか残されていない。第1に、国内生産で採算がとれない部門は、海外に移転する。第2に、生産性の高い部門に資本と労働を集中する。第3に、円高のメリットを生かす。海外でM&Aを展開するのにも、輸入資源代金を節約するのにも、円高は日本経済にとって逆風どころか、神風なのである」(前掲紙)
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なし
レーガン政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務め、米保守派の「ご意見番」ともいえるフェルドシュタイン・ハーバード大教授に米大統領の展望も併せて聞いた。
(日本経済新聞2012年5月25日7面)
【CFOならこう読む】
フェルドシュタイン氏は、バーナンキ氏とFRB議長の指名を争った米経済界の重鎮です。
−富裕層増税に抵抗するのは世論を少し見誤っているのではないか。
『私は富裕層の中小事業者や企業経営者、投資家らに(ブッシュ減税を失効させ)実質増税するのは間違いだと考える』
−共和党の主張通り大型減税の一方で大幅な歳出削減をすれば経済効果が相殺されるのでは。
『年金など(連邦歳出面)の改革は長期間かけ段階的に行うもので急激な引き締めは起きない。税率引き下げと租税特別措置の見直しなどによる課税ベースの拡大と組み合わせ、社会保障改革に取り組むように求めたい』
(前掲紙)
この議論、日本に持ってきてもそのまま通用するように思います。経済効果を考えると、富裕層増税は誤りだし、法人税、所得税はさらに減税が必要です。
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楽天の三木谷浩史社長が新しい経済団体「新経済連盟(新経連)」を旗揚げする。楽天やサイバーエージェント、グーグル日本法人などインターネット系の有力企業などで構成する業界団体を6月1日に衣替えする。
(日本経済新聞2012年5月24日15面)
【CFOならこう読む】
「楽天は昨年、電力会社の発送電分離に慎重な姿勢を示した経団連から脱退していた。新団体ではネット企業以外にも門戸を開き、薬事法の規制緩和やネット選挙の解禁などに注力する」(前掲紙)
経団連が、一部のエスタブリッシュ・カンパニーの利益団体に成り下がっている以上、三木谷氏の方向性は必然だと思います。新経連には小さな権益に固執するのではなく、新しい時代に向けた提言を行って頂きたいと思います。
経団連は、会計・税制に関して民間を代表して立法に関わる、という役割を担ってきましたが、新経連にはぜひともこの分野で存在感を示して頂きたいものです。
例えば、ネットワークを介してジョブやプロジェクトごとに仕事をし、その仕事が終わったらそれぞれ別の仕事に移っていくという現代の仕事のやり方に、今の税制は対応できていません。そもそも自由な報酬配分をすることに税制が大きな縛りを設けています。これを解消するためには、日本にも米国のパートナーシップ税制が必要です。
新経連は、会計士や弁護士や税理士といったプロフェッショナルをうまく活用してこのような提言を、しかもきちんと立法につながる形で行って頂きたいと思います。
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上場企業は2013年月期に全体で2割を超す経常増益となる見通しだ。東日本大震災やタイ洪水の影響がなくなることが大きいが、独自の取り組みで苦境を脱した企業も目立つ。「復活企業」の道のりをたどる。
(日本経済新聞2012年5月23日13面)
【CFOならこう読む】
「倉庫にある在庫の山を直視してほしい。管理を徹底しないと我々は生き残れない」。2008年4月、CFOだったアンリツの橋本裕一専務(現社長)は会議で訴えた(前掲紙)
メーカーの場合、製造と販売のどちらかの発言力が相対的に強い企業が少なからず見受けられます。アンリツの場合は製造が強い会社であったようです。そうすると売れないのは販売部門の責任、ということで在庫が増えていくことになります。
「現場の説得に橋本氏が使ったのが棚卸し資産回転率(売上÷期末棚卸資産)という財務指標だった。回転率が高いと業績が拡大し、低下すると不採算在庫の処分損が発生して赤字転落ー。橋本氏はそんな実態を示し、在庫の効率化を訴えた。
あわせてマーケティング部門と研究開発・生産部門を一本化。需要動向を開発や生産に直接反映できるようにした。
効果は程なく現れる。各部門の連携で生産計画が需要に即したものとなり、在庫の削減に成功。リードタイムも短くなった。2008年3月期に4.9回だった棚卸資産回転率は2012年3月期には6.3回へと上昇した。」(前掲紙)
重要なことは、いかにキャッシュを創造するか、です。
いくら在庫を減らしても、商機を失って売上を大きく減らしたら元も子もありません。従って資産回転率を数値目標として設定するだけでなく、資産回転率を上げるための方策を具体的に示すことがCFOの仕事です。そして目標値と実績を睨みながら各部門と改善策を徹底的に話し合う、といった努力を日常的に続けて行く必要があります。
財務数値を決算取締役会で1年に1回結果だけ並べる会社が少なくないですが、そんな数値に意味はありません。財務数値を”生かす、活かす”ためには、これを経営のツールとしなければ、いけない、今日の記事を読んで、そんなことを考えました。
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なし
味の素が資本効率向上に向け、事業の再構築を急いでいる。5月に入り子会社のカルピス売却、2013年3月期の連結純利益予想を上回る500億円の自社株買いを相次いで決めた。意識するのが営業利益率、ROEで10%を超え、効率性に勝るネスレなど世界の競争相手。世界で戦うためにいま何がひつようか。伊藤雅俊社長に聞いた。
(日本経済新聞2012年5月22日15面)
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伊藤社長「世界的に強みのある調味料やアミノ酸を活用した先端バイオ分野に経営資源を集中し、成長を加速する狙いだ。欧米企業は事業の成長だけでなく、利益率や資本効率を意識して企業価値を高め、M&Aに備えている。世界で戦うには、これまでの日本企業の基準に満足せず、ある程度、欧米企業と同じ構造にしないといけない。自社株買いもキャッシュの水準や、成長投資との見合いを考えながら、今後も機動的に実施していく。」(前掲紙)
味の素は前期6.9%のROEを、2017年3月期に10%以上に引き上げる。
「ネスレの2011年12月期の株主還元額(配当と自社株買いの合計)は107億スイスフラン(約9000億円)と純利益(94億スイスフラン)を上回る。利益を増やすだけでなく、自己資本を圧縮することでROEを17%に高めている」
(日経ヴェリタス2012年5月20日2面)
サブプライム後、レバレッジは悪といった空気であったのが、少し変わってきたようです。ROEに焦点が当たってくると、CFOの仕事はいろいろと増えてきます。
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世界で戦う日本企業は、配当でもライバルの動向を意識する。投資家も高い配当を求める。株主への分配に力を入れている企業はどこか。独自の指標で採った。
(日経ヴェリタス2012年5月20日2面)
【CFOならこう読む】
事業活動のグローバル化に伴い、資本政策も「世界標準」を意識する企業が増えつつある。
以下今日の記事から抜粋します。
エーザイ・・・DOE(自己資本配当率)は、ファイザーやロシュと遜色ないレベル(柳良平執行役員)
テルモ・・・中長期的な配当性向を30%とする目標を設定。2012年3月期の純利益が前期比25%減るなかでも、年間配当は39円と5円増配した。
三井物産・・・「より健全な財務体質が実現できた」として、連結配当性向の下限を前期までの20%から今期は25%に引き上げる。
味の素・・・世界で戦うには資本効率やキャッシュを生み出す力が重要との認識から、5月8日に5000万株(発行済株式数の7.4%に相当)、500億円を上限に自社株買いをすると発表。また、2012年3月期の配当支払額(110億円)と合わせた株主還元額は610億円と純利益(417億円)を上回る。

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日本の会計基準づくりを担う企業会計基準委員会(ASBJ)は17日、年金の積み立て不足を貸借対照表に反映させることを柱とした新しい退職給付会計の基準を正式発表した。2014年3月期の連結決算から適用する。新基準は年金資産の配分など運用状況の詳細な開示を求めており、年金財政の透明性を高める。
(日本経済新聞2012年5月18日15面)
【CFOならこう読む】
「年金の積み立て不足は現在、企業が10年程度の期間で毎年分割して費用処理しており、総額は有価証券報告書に注記として開示している。新基準ではこれまでと同様の費用処理に加えて、積み立て不足を全額負債に即時に計上し、一方で自己資本を減額して貸借対照表に反映させる」
(前掲紙)
他注記事項も拡充されます。新会計基準が要求する注記は以下の通りです。
確定給付制度に係る次の事項について連結財務諸表及び個別財務諸表において注記 する。なお、(2)から(11)について、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない。
(1) 退職給付の会計処理基準に関する事項
(2) 企業の採用する退職給付制度の概要
(3) 退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表
(4) 年金資産の期首残高と期末残高の調整表
(5) 退職給付債務及び年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る負債及び資産の調整表
(6) 退職給付に関連する損益
(7) その他の包括利益に計上された数理計算上の差異及び過去勤務費用の内訳
(8) 貸借対照表のその他の包括利益累計額に計上された未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の内訳
(9) 年金資産に関する事項(年金資産の主な内訳を含む。)
(10) 数理計算上の計算基礎に関する事項
(11) その他の退職給付に関する事項
なお、新実務指針30項は、
「各事業年度において割引率を再検討し、その結果、少なくとも、割引率の変動が退職給付債務に重要な影響を及ぼすと判断した場合にはこれを見直し、退職給付債務を再計算する必要がある」
としています。
そして重要な影響の有無の判断に当たり、
「前期末に用いた割引率により算定した場合の 退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が 10%以上変動すると推定されるときには、重要な影響を及ぼすものとして期末の割引率を用いて退職給 付債務を再計算しなければならない」
としており、基本的な考え方に変更はありませんが、旧実務指針では、期末において割引率の変更を必要としない範囲について、【資料3】期末において割引率の変更を必要としない範囲、が参考となるとされていましたが、新実務指針ではこれが引き継がれていません(新実務指針72項)。
また、旧実務指針【資料4】平均残存勤務期間の計算例、も引き継がれていません(新実務指針72項)。
【リンク】
2012年5月17日「企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」の公表」企業会計基準委員会
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