テルモが30日発表した2012年4〜9月期の連結決算は経常利益が前年同期比23%減の242億円だった。
(日本経済新聞2012年10月31日15面)
【CFOならこう読む】
テルモはオリンパスとの統合の意義を次のように説明していました。
「日本の医療機器市場は輸入超過が続いており、貿易赤字は拡大の一途をたどっ ております。その原因は特に治療機器の大半が輸入品で占められていることにあります。 このような状況の中、両社の技術融合により日本発のイノベーションを起こすことで、 日本の産業活性化にも貢献できるものと考えております。」
以前にも書きましたが、国富創造の観点から統合のメリットを強調している点は評価できます。
「「経営統合を提案していたオリンパスがソニーとの提携を決めたことについて、新宅祐太郎社長は「オリンパスは経営の自主性を優先したのだろう」と述べた。」(前掲紙)
昨日の記事は、ソニーとの資本業務提携が順風満帆とは行っていない原因もオリンパスが経営の独立性を優先しているためであると指摘していました。
何より経営の自主性が大切なら、そもそもソニーやテルモといった事業会社から出資を受け入れるべきではないと、私は思います。
【リンク】
なし
10月下旬の夕刻、東京都八王子市にあるオリンパスの医療機器部門の研究所。門から出てきた社員は記者にこう話した。
「ソニーと組んだのは良いことだったかどうか」。
長年の粉飾決算で上場廃止寸前まで追い詰められたオリンパスから今、こんな声が漏れるのはなぜなのか。
(日本経済新聞2012年10月30日2面)
【CFOならこう読む】
「「本来は自社単独で財務体質を回復すべきだ。ソニーから出資を受けるにしても最小限でいい」。内視鏡の技術者出身としては異例の社長として4月に就任した笹宏行や会長の木本奉行らオリンパス経営陣は9月末に決着したソニーとの資本業務提携の交渉でも、決着直前まで強気だった。笹は一貫して「経営の独立性が最も重要」と言い続け、医療機器事業への他社の干渉を避ける方策を探った。」(前掲紙)
オリンパスの粉飾は、経営陣の自己保身を端緒としています。笹氏の言動から透けて見えるのも、いかにシナジーを実現し価値を創造するかということではなく、自分の城を守ること、すなわち自己保身でしかありません。
こういう会社と資本業務提携で組んでもなかなか成果を出すのは大変だと思います。
ソニーとしては、テルモの提案のように経営統合で行くか、内視鏡事業全体をソニーが買収するという方向性で行くべきだったのではないでしょうか?
【リンク】
なし
円高を背景に海外企業へのM&Aを加速させる日本 企業。 ソフトバンクの米スプリント社買収も大きな話題 となった。 しかし歴史をひもとけば、大型M&Aが「高値づか み」に終わることも多い。 買収が妥当な水準かを測る物差しを紹介しよう。
(日経ヴェリタス2012年10月28日54面)
【 CFOならこう読む 】
「割高買収のサインをどのようにしてつかむの かー。
M&Aの専門家に重視している 「物差し」を聞いたところ「EV/EBITDA倍率を見る」という声が最も多かった。
企業価値(EV)が買収対象会社の年間キャッシュフロー(EBITDA)の何年分にあたるか を示す指標だ。M&Aでは、株式取得額に純有利子 負債を足した額がEVとほぼ同じ 意味になる。価格妥当性の診断では、この倍率を見ることが最初のステップとなる」 (前掲紙)
EVとは、Enterprise Valueの略で、会社総価値す なわち株主に帰属する株主価値と 債権者に帰属する価値の和のことを言います。 EQV(Equity Value)すなわち株主価値と間違えない ようにする必要があります。
EBITDAとは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation&Amortizationの略で、 金利、税金、償却費を差し引く前の利益を差し引 く前の利益を言います。事業活動が 生み出すキャッシュフローの概念に近いとされています。
一般的に、 EV=株式時価総額+純有利子負債(有利子負債- 余剰現金) EV/EBITDA倍率=EV/EBITDA →買収時の企業価値が、買収対象会社の年間 キャッシュフローの何倍で評価されて いるかを示す指標です。
「M&A巧者として知られる日本電産の永守重信社 長は「シナジーが十分見込めないのに、 EV/EBITDA倍率が10倍を超える案件は、買収を見 送ってきた」(前掲紙)
もとよりEV/EBITDA倍率の基準は、業種やライフ ステージによって異なるので、10倍が絶対的な基準とはなり得ないことに留意が必要です。
【リンク】
なし
2003年に米IBMから約20億ドルで買収したハードディスク駆動装置(HDD)事業はその後、5年連続で営業赤字だった。「事業部門は後のことを考えずに買収を提案する。お金は本社任せという体制だった」。財務担当副社長の中村豊明は振り返る。
(日本経済新聞2012年10月26日11面)
【CFOならこう読む】
「2009年のカンパニー制導入を機に投資の仕組みを抜本的に見直した。カンパニー単位で貸借対照表やキャッシュフロー計算書を整備。カンパニーの財務内容で「社内格付け」を決めている。2011年度の営業利益が約1000億円の情報・通信システム社の場合、社内格付けで認められる投資の上限は500億円程度とみられる。その是非も経営会議や取締役会で厳しいチェックを受ける」(前掲紙)
こうした身の丈経営の結果、カンパニーごとの採算は改善したものの、副作用としてリスクを取ることを怖がるようになって、なかなか大型のM&Aが実行されないようになったと、中村副社長は分析しています。
投資の上限を決め、取締役会等における厳しいチェックを受ける、というプロセスは確かに必要です。
ですが、投資(M&Aも含む)の評価は、資本コストとの関係、すなわちリスクとの関連で行われるべきです(EVAやNPV)。その上で、大きなリターンを獲得したなら、大きな報酬が支払われる、といったインセンティブプランも合わせて導入する必要があると思います。
格付け、といったDebt的なメンタリティーを前面に出すだけでは、なかなか果敢にリスクを取ることが奨励されるような企業文化は育たないように思います。
【リンク】
なし
日本人科学者のノーベル賞受賞が続き、日本の実力を世界に示す一方、電機・IT業界では米アップルや韓国サムスン電子が市場を席巻し、日本の影はすっかり薄くなった。有力な新興企業が次々と生まれる米国で大学の果たす役割とは何か。高輝度な青色発光ダイオード(LED)の量産に世界で初めて成功した米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授に話を聞いた。
(日本経済新聞2012年10月25日27面)
【CFOならこう読む】
中村「大学であろうと企業の研究所であろうと、研究成果である知識やノウハウ、つまり頭脳の価値は正当に評価されるべきだ。米国では研究者が起業する場合、出資しなくても、株式が付与される。『頭脳』に対して株式が与えられるのだが、日本では研究者が資金を出さない限り、株式を受け取ることはない。頭脳に価値を認めていないからだ」(前掲紙)
頭脳に価値を認めていないから、ということよりも、「『頭脳』に対して株式を付与すること」について、会社法上(及び会計上、税務上)困難な点、又は取扱いに明確ではない点が少なからずあるからではないでしょうか?
中村「しかも日本のベンチャー投資は起業家に保証を求めることが多く、実質的には担保を取った融資だ。一方、米国のベンチャーキャピタルは投資リスクを取って出資する。企業に失敗した場合に起業家が自宅を失って再起不能になるようなことはほとんどないので失敗しても再挑戦しようとする。日米の仕組みや風土の違いは大きい」(前掲紙)
この点も日本でなかなか起業が増えない大きな要因となっています。
問題の所在は、価値の源泉がカネからヒト(頭脳)にシフトしているにも関わらず、日本のインフラは旧態依然のままだという点にあります。
日本初の知財を育て雇用に繋げて行くためには、大急ぎで改善・整備する必要があります。
【リンク】
なし
政府税制調査会は23日に証券税制や自動車の減税なども議論した。株式などへの課税では2014年に3年間の時限措置で非課税制度を導入予定だが、金融庁は恒久措置にするよう求めた。政策減税のあり方などを巡り、委員の意見が対立する場面も多かった。
(日本経済新聞2012年10月24日5面)
【CFOならこう読む】
「23日は省庁からの2回目のヒアリングで、減税額が大きいなど年末の税制改正で焦点となる要望の議論が中心となった」(前掲紙)
昨日は、経産省のヒアリングも行われています。経産省の税制改正要望には事業承継税制の抜本的な見直しが含まれています。
現行、一定の要件のもと、非上場株式の相続税評価額からの80%軽減が認められていますが、この要件が主要国と比べて厳しく、使い勝手が悪いとの批判が多く、次のように改めることを要望しています。
【現行制度】
相続・贈与後五年間は以下を満たさないと納税猶予全額打ち切り。
1. 先代経営者の親族である後継者が、代表者を継続。
2. 先代経営者が、役員を退任。
3. 雇用8割以上を毎年確保。
4.五年後以降も株式等を保有し事業継続すれば、後継者死 亡’又は会社倒産(時点で納税免除。
5.納税猶予対象は非上場株式等のみ。
6.会社所有の宅地等は小規模宅地特例の利用不可。
⇩
【要望】
1. 親族外承継を対象化。
2. 先代経営者の役員退任要件を、代表者退任要件に。
3. 雇用8割以上を五年間平均で評価。未達成の場合は下回った分を納税。
4.五年経過後に納税免除。
5.会社の事業資金の担保に供されている不動産も納税猶予の対象に。
6.小規模会社の宅地等の減額特例の創設。
【リンク】
なし
イスラム圏の人口は今後も増え続ける見通しで、イスラム金融も規模の拡大が見込まれる。海外業務に活路を見いだす日本の金融機関にとって、戦略分野の一つになりつつある。
(日本経済新聞2012年10月23日25面)
【CFOならこう読む】
「米調査会社トムソン・ロイターによると、イスラム債(スクーク)の発行高は、2011年に345億ドルと過去最高を記録した。金融商品の残高は1兆ドル規模との推計もある。もっとも世界の金融市場に占める割合はわずかで、伸びシロは大きいといえる。」(前掲紙)
金融庁の資料に基づき、日本版スクークの概要をまとめてみます。
スクーク(イスラム債)とは、利子を生じさせる社債を取り扱うことができないイスラムの投資家や発行体でも取り扱うことができる、イスラム法を遵守した金融 商品で、経済的に社債と同等の性質を有するものをいいます。
「日本版スクークとは、従来の投資家からのみではなく、イスラムの投資家からの資金調達をも可能とする金融商品で、法的には社債そのものではありませ んが、税制上は社債と同様の取扱いが措置されているものです。
投資家が受ける「日本版スクーク」の分配金は、税務上、社債の利子と同様に 取り扱われ、海外投資家(外国法人・非居住者)が支払を受ける場合、一定の要件のもと非課税となります。
平成23年度税制改正において、日本版スクーク(イスラム債)として活用しうる社債的受益権を社債と同様に取り扱う趣旨の税制措置が講じられたことにより、上記のように取扱われることになりました。
海外投資家が支払を受ける「日本版スクーク」の分配金に係る非課税措置は、 平成25年3月31日が適用期限とされていますが、我が国において「日本版スクーク」の発行実績が上がれば、上記適用期限の延長又は恒久化の可能性があります。
【リンク】
平成24年4月「日本版スクーク’イスラム債( に係る税制措置 Q&A」金融庁 [PDF]
15日に2013年から15年までの中期経営計画を発表したキリンホールディングス。説明会で三宅占二社長は、海外M&Aによる成長より、既存事業の拡大と株主への還元を強化する考えを強調した。
(日経ヴェリタス2012年10月22日14面)
【CFOならこう読む】
中期経営計画の数値目標は次の通りです。
【定量目標】
• 平準化※EBITDA:年平均1桁台半ば(%)の成長
• 平準化※EPS:年平均1桁台後半(%)の成長
【定量ガイダンス】
• 2015年グループ連結売上高23,000億円以上、営業利益1,800億円以上なお、本中期経営計画より売上高・営業利益ガイダンスについては1年毎にアップデートする
※平準化:特別損益等の非経常項目を除外し、より実質的な収益力を反映させるための調整
平準化EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 + のれん償却額 + 持分法適用関連会社からの受取配当金
平準化EPS = 平準化当期利益 / 期中平均株式数
平準化当期利益 = 当期利益 + のれん等償却額 ± 税金等調整後特別損益
売上高、営業利益は数値目標としては掲げず、【ガイダンス】として位置づけている点が特徴的です。
「今回の中計で三宅社長が強調したのが「(自力で成長する)オーガニック成長シフトの3年」。
これまでM&Aで成果を示せず、投資家の信頼を失ってきたからだ。」(前掲紙)
例えば、キリンが、ブラジルの飲料大手「スキンカリオール」を39億5000万レアル(約1988億円)で買収すると発表した直後の2011年8月8日に、フィナンシャル・タイムズはこの買収について疑問呈した”Schincariol bid raises questions for Japan Inc”という見出しの記事を掲載しています。
この記事の中で日本企業の海外企業買収について見られる一般的な傾向として次のような鋭い指摘を行っています。
The tendency to overpay without securing full ownership and repent at leisure has a long history.
意訳するとこんな感じです。
100%経営権を取得しないような案件に大金をつぎ込んで、あとでくよくよと後悔することを日本企業は長い間繰り返している。
失敗する理由としては、海外企業の買収におけるデューデリジェンスやストラクチャリングに今ひとつ長けていないことを挙げ、外部の投資銀行やコンサルタントをメンバーに加えたスペシャルチームを作る必要性を指摘しています。
これって、多くの日本企業にとって、海外案件だけじゃなく、国内案件にも当てはまる話じゃないでしょうか?!
【リンク】
2012年10月15日「『キリン・グループ・ビジョン2021」および「キリングループ2013年‐2015年中期経営計画』を策定」キリンホールディングス株式会社
日本航空(JAL)が9月19日に再上場してから1ヵ月間が経過する。株価は沖縄県の尖閣諸島を巡る問題による旅客減少を懸念し上場直後に急落したが、その後外国人投資家などの買いで回復してきた。18日終値は売り出し価格(3790円)を小幅ながら上回る3805円。
(日本経済新聞2012年10月19日13面)
【CFOならこう読む】
「背景にあるのは株価の割安感だ。売り出し価格を基にしたPERは5倍前後で、法的整理に伴う税制の優遇措置などを考慮しても8倍と低い」(前掲紙)
9月20日のエントリーにも書きましたが、新規公開時の有価証券届出書に記載されている税効果会計関係の注記を見ると2012年3月31日現在、繰越欠損金による繰延税金資産3,922億円との記載があります。会計上は、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」に従い、そのほとんどが回収不能であるとの判断のもと資産に計上されていませんが、会計上の判断とvaluationは別物です。
JALは営業利益を12年度で1500億円、13年度は1400億円見込んでいることを鑑みるとその多くは回収可能と見るべきかもしれません。
売り出し価格による時価総額は7000億円弱。この評価に際し、繰延税金資産3,922億円はどの程度勘案されたのでしょうか?
企業再生支援機構は売り出しにより3000億円近い売却益を得たと報道されていますが、繰延税金資産の価値を適正に評価すれば、もっと大きな売却益が得られていたかもしれません。
何故そうしなかったのでしょうか。
JALの税金を減免した上で、その価値に見合った利益を、さらに企業再生支援機構に落とすということに抵抗があったということでしょうか?
仮にそうであったとすると、本来国庫に入るべきキャッシュが他に漏れ出たということにならないでしょうか?
いずれにしても民間企業の再生は国が手を出すべき仕事ではありません。PEファンド等の民間に任せるべきです。
【リンク】
なし
日産自動車が現地企業と合弁で営む中国事業の収益の計上方法の変更を検討する。連結売上高や営業利益に反映させる従来方式に替え、営業外の「持分法投資損益」に計上する案が有力だ。国際的な会計基準の見直しに対応する。年間の営業利益を見かけ上1000億円超押し下げる要因となる見通しだ。
(日本経済新聞2012年10月18日13面)
【CFOならこう読む】
「日産自動車はこれまで、3社の中で唯一「比例連結」と呼ぶ計上方法を採用していた。現地合弁への出資比率が50%であるため、中国収益の半分をグループ業績に連結している。」(前掲紙)
日産の2012年3月期の有報の関係会社の状況に以下の記載があります。
「東風汽車有限公司は合弁企業であるが、提出会社の連結子会社である日産(中国)投資有限公司に現地会計基準に基づき比例連結されていることから、連結会社としている。」
比例連結とは合弁会社の資産、負債、収益、費用すべてについて、持分比率に応じ、連結上取り込む方法で、従来IFRSでは適用が認められていました(IAS31号)。
日本基準では、合弁会社については持分法を適用することとしており、比例連結は認められていません。
(企業結合に関する会計基準117項)
東風汽車有限公司の株式は100%子会社である日産(中国)投資有限公司によって保有されており、現地会計基準が、ジョイント・ベンチャー投資に比例連結が適用されることとされていたため、東風汽車有限公司の資産、負債、収益、費用の各項目の50%が日産(中国)投資有腿公司の各項目と合算され、この100%子会社を連結することにより、結果として東風汽車有限公司の50%を比例連結することになっています。
(大雄智「ジョイント・ベンチャーの投資」横浜経営研究第27巻1号(2006))
日産は、2012年3月期の有報の「未適用の会計基準等」に以下の記載を行っています。
IFRS第11号「共同支配の取決め」
平成23年5月12日に公表されたIFRS第11号は、IAS第31号「ジョイント・ベンチャーに対する持分」及びSIC第13号「共同支配企業-共同支配投資企業による非貨幣性資産の拠出」に置き換わる ものである。
IFRS第11号は、共同支配の取決めを従前の3つの分類から新たに共同支配事業と共同支配企業の 2つに分類、定義している。共同支配企業に対して比例連結を用いる会計処理の選択肢は廃止され ており、被共同支配企業に対する投資については、持分法を適用しなければならない。
適用予定日は2013年4月1日としており、これに合わせて東風汽車有限公司を比例連結から持分法適用対象に変更するものと思われます。
【リンク】
なし
最近のコメント