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2013 年 1 月 のアーカイブ

所得税、「広く薄い課税」に

・所得税は手厚い控除により「空洞化」が深刻
・財源調達や所得再分配などの機能回復急務
・給付付き税額控除や共通番号の導入も重要
(日本経済新聞2013年1月31日27ページ 経済教室 佐藤主光一橋大学教授)

【CFOならこう読む】

「社会の高齢化など新しい経済環境に適応するとともに経済の成長を支えるためにも、一部の所得層や世代に偏った課税から「広く薄い課税」への転換が必要である。まず、政治的配慮を除いた広い課税は、世代間・世代内の公平にかなうだろう。また、税率の水準を抑えた薄い課税は、投資や勤労の誘因を阻害しない。そして、給付付き税額控除は低所得の勤労世帯へのあらたなセーフティネット(安全網)になる」(前掲稿)

佐藤先生の主張は、課税ベースを広げ、税率を引き下げ、給付付き税額控除を導入するというもので、世界的な税制改正の潮流に合致したものと言えます。

課税ベースを広げるということは、政策的(政治的)配慮を極力排除するということです。

「課税ベースの拡大は単なる増収が目的ではない。むしろその狙いは、給与所得控除や公的年金等控除の内にある政策的(政治的)配慮を是正して、課税所得の定義を客観的・経済合理的にすることにある」(前掲稿)

単一民族国家で、一億総中流であった時代には、国家が一定の政策目的を税制を通じて実現して行くことに意義が認められたのでしょうが、もはやそんな時代は過ぎ去りました。
グローバル経済が深化し、大前研一氏が言う「世界を呼び込む吸引力」が必要とされる国家の実現にとって、従来の政策的配慮を維持することは障害になります。

であるなら、佐藤先生が主張するような方向で各国が税制改正を進めているのは、グローバル経済の深化に伴う必然であるかもしれません。

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なし

カテゴリー: 税制 タグ:

上場廃止基準、大証企業適用3年猶予

日本取引所グループは7月16日に予定する現物株市場の東京証券取引所への統合にからみ、大阪証券取引所に上場する企業に対しては上場廃止基準の適用を3年間猶予する方針を固めた。統合後の新市場は東証基準を採用するが、大証よりも基準が厳しく、一部の大証企業が廃止基準に該当する恐れがある。猶予期間を設け、現物株市場の統合を円滑に進める狙い。
(日本経済新聞2013年1月30日16ページ)

【CFOならこう読む】

「東証1部・2部共通の上場廃止基準としては株主数が400人未満、上場時価総額が10億円未満――などがある。一方、大証は株主数(150人未満)、上場時価総額(原則は5億円未満、年内は3億円未満)と開きがある。主に時価総額基準に抵触する企業が多いようだ。株価を高める施策などが必要となる。」(前掲紙)

東証・大証の上場廃止基準は次の通りです。

20130130

このうち流通株式時価総額はあまりなじみがないかも知れませんが、次のように計算されます。

流通株式数=上場株式数−(役員所有株式数+自己株式数+上場株式数の10%以上を所有する株式数)
流通株式時価総額=流通株式数×事業年度末日の最終価格

資本政策の上で、安定株主作りを間違えると上場廃止のリスクが高くなることを知っておく必要があります。

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なし

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3メガ銀、株減損が縮小

三菱UFJフィナンシャル・グループなど3メガ銀行の2013年3月期の業績が従来予想を上回る見通しだ。保有銘柄の株価上昇で業績の足を引っ張る株式減損額が大幅に減ったのが主因。なかでも三井住友フィナンシャルグループは06年3月期の過去最高益をうかがう勢いだ。
(日本経済新聞2013年1月29日5ページ)

【CFOならこう読む】

日経平均株価は昨年9月末の9000円弱から12月末には1万円台を回復。シャープなどの電機や鉄鋼、電力など3メガ銀の保有株も上昇した。4~9月期に3メガ銀合わせて6000億円超だった株式の減損額は2500億円程度減った。

有価証券の減損処理は、年度末においては切放し法のみですが、四半期ベースでは四半期切放し法と四半期洗替え法の選択適用が認められています(継続適用を条件とします)。

「四半期会計期間末における有価証券の減損処理にあたっては、四半期切放し法と四半期洗替え法のいずれかの方法を選択適用することができる。この場合、いったん採 用した方法は、原則として継続して適用する必要がある。なお、年度決算では、四半 期洗替え法を採用して減損処理を行った場合には、当該評価損戻入れ後の帳簿価額と年度末の時価等を比較して減損処理の要否を判断することとなる。」
(企業会計基準適用指針第 14 号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」第4項)

従って、洗替え法を採用している場合には、仮に第一四半期末に減損処理を行っていても年度末までに株価が回復している場合には通期では評価損が計上されません。

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日本電産、9割減益 【続き】

日本電産が正念場を迎えている。24日に2013年3月期の連結純利益(米国会計基準)が前期比89%減の45億円になる見通しだと発表。23%増の500億円だった従来予想を下方修正した。
不振に陥っている精密小型モーター事業中心の収益構造を転換するため、構造改革費用400億円を計上する。拠点再配置で収益性を高め、来期以降のV字回復につなげる考えだ。
(日経ヴェリタス2013年1月27日57ページ)

【CFOならこう読む】

25日のエントリー「日本電産、9割減益 」の続きです。

「時代の大きな変化に対応するため、今やらなければならないと判断した。」
24日の決算説明会で永守重信社長は今回の構造改革についてこう説明した。(前掲紙)

日本電産は、次表のように前期まで増配を続けてきています。

20130128

業績下方修正に伴い、今期の配当予想を、当初予想95円から80円に修正しています(前期の実績90円から10円減配)。配当余力は十分にあり、前期並の配当を行うことも可能ですが、そうしないところがこの会社らしいとも言えます。

日本電産が有価証券報告書に開示している配当政策は次の通りです。

「当社の配当政策は、安定配当を維持しながら連結純利益額の状況に応じて配当額の向上に取り組むと同時に、企業体質の一層の強化と積極的な事業展開の促進に備えて内部留保を充実することとしております。」

安定配当維持をうたってはいますが、連結純利益の状況に応じて上がることもあれば、下がることもあるということでしょうか。

いずれにしても筋は通っています。

【リンク】

2013年1月24日「通期連結業績予想ならびに配当予想の修正に関するお知らせ」日本電産株式会社 [PDF]

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日本電産、9割減益

日本電産は24日、2013年3月期の連結純利益(米国会計基準)が前期比89%減の45億円になるとの見通しを発表した。従来は23%増の500億円を見込んでいたが、一転して大幅減益となる。スマートフォン(スマホ)などの普及を背景に、主力のパソコン向けハードディスク駆動装置(HDD)用モーターの販売が落ち込む。収益悪化を受け、生産能力の削減など400億円の構造改革費用を計上。1988年の上場以来、実質的に初の普通配の減配に踏み切る。
(日本経済新聞2013年1月25日11ページ)

【CFOならこう読む】

「同日記者会見した永守重信社長は「世界的に生産体制を見直し、来期の収益のV字回復を目指す」と強調。海外工場の再編を進め、HDD用モーターの生産能力を3月末までに3割削減し、月4000万台に引き下げることを明らかにした。
部品在庫や生産設備を減損処理。1~3月期の3カ月間は237億円の最終赤字を見込む。四半期で最終赤字は08年10~12月期以来となる。」(前掲紙)

永守社長は24日の会見で「ダメなら一気にゼロに落とす。だらだらと損は垂れ流さない」と説明したとのことです。多くの経営者は、駄目かどうかの見極めができず、減損処理の決断が出来ず、処理を後送りしようとするものですが、永守社長の「ダメなら一気にゼロに落とす」との判断は、”さすが”と感じます。

減損処理というのは、経営者がダメだと判断し、生産能力を削減するという意思決定があって行われるもので、会計士がダメだと言うから仕方なく行うものではないのです。

また事業の見極めができない会計士が、経営者より前に出て判断すべき事柄でもありません。

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ユニチャーム、自社株買い

ユニ・チャームは2013年3月期中に100億円規模の自社株買いを実施する方針だ。前期(89億円)を上回り、同社では過去最大となる見通し。株価上昇で2010年に発行した新株予約権付社債の転換が進む可能性が高い。1株利益の希薄化を嫌う株主に配慮し、自社株買いと保有する金庫株を活用して発行済株式が増えないようにする。
(日本経済新聞2013年1月24日15ページ)

【CFOならこう読む】

「ユニチャームは2013年と2015年に満期を迎えるCB合計805億円を、2010年に発行。23日のユニチャーム株終値は4785円と転換価格(2つのCBとも3883円)を上回る。」(前掲紙)

2010年に発行されたCBの資金使途について、ユニチャームは次のように説明していました。

「当社は、ユニ・チャーム ペットケア株式に対する公開買付けの決済資金として金融機関から借り入れた短 期借入金 600 億円の返済資金及び平成 22 年 9 月 1 日の同社との合併に伴う公租公課の納税資金(具体的な金 額は未確定です。)の調達のために、本資金調達と別途金融機関から 700 億円の借入れを行う予定です。本 資金調達による発行手取金(グリーンシュー・オプション分を含みます。)につきましては、直接的には、 ほぼ全額を平成 22 年 10 月末までに上記納税資金に充当する予定です。」
(2010年9月7日 2013 年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債及び 2015 年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ)

表現が分かりづらいですが、要するにユニ・チャーム ペットケアのTOBに必要な資金700億円を借り入れで調達し、さらにその後に行われる合併に伴い生じる納税のために必要な資金をCBにより調達するということです。

この合併に伴う税金については、当ブログで2010年7月31日に取り上げています(「ユニチャーム、子会社のユニチャームペットケア合併によりタックスコスト削減」

合併はTOBに応募がなかったユニ・チャーム ペットケアの少数株主に対し、現金を交付する、現金対価の合併、すなわち税務上は非適格合併により行われています。

2010年7月31日のブログで、現金対価の合併を選択したことにより、「税務上みなし配当と株式譲渡損が両建て計上される例の規定が適用され、タックスメリットが取れることになると思われます(受配益金不算入&株式譲渡損のみ損金算入)」と書きました。

その後の有価証券報告書等の公表資料からこのスキームを採用することによって得られたタックスメリット(株式譲渡損)は約600億円程度であったと推測されます。

しかしこのタックスメリットを得るためには、非適格合併でなければならず、その結果ユニ・チャームペットケア側に譲渡益課税が生じ、この税負担は合併時に伴いユニチャームに移転することになります。CBにより調達された資金ははこの時生じた譲渡益に対する税金の支払いに充てられたというのです。

TOB価格で算定したユニ・チャーム ペットケアの時価総額は約1070億円。このときのユニ・チャーム ペットケアの純資産は、約190億円(税務上の金額は不明なため、会計数値によっています)。この差額に対しかかる合併に伴う譲渡益課税のために800億円の納税資金の手当が必要になったわけです。

私の試算では、実際の税負担は600億円程度であったものと思われますが、それにしても約900億円の譲渡益に対し、何故600億円もの課税が生じるのか?
この理由は、譲渡益の計算を税負担考慮後で行うためにグロスアップしなければならないという何とも不思議な税法の規定にあるのですが、この話はまた別の機会にしたいと思います。

ここまで読んで頂いた方は、600億円の株式譲渡損を得るために600億円の税金を払うんじゃ割に合わないのではないかと思われるかも知れませんが、そうではありません。
ユニ・チャーム ペットケア側で生じる合併に伴う譲渡益は、ユニチャームはのれん(資産調整勘定)として受け入れることになります。のれんは税務上5年で償却されるので、結局のところ譲渡益と同額ののれん償却費が計上され、時間価値を無視すれば損得はないということになります。

結局、通算すれば600億円の株式譲渡損(みなし配当と株式譲渡損が両建てにより計上される分)のタックスメリットが得られるわけです。

ですが、この話には続きがあります。のれんの償却費にしても株式譲渡損にしても税務上相当分が繰越欠損金を構成します。
この繰越欠損金が回収されるまでの時間価値を考慮した上で、タックスメリットの計算はされる必要があります。
さらにこのディール後、法人税率の引き下げがあり、タックスメリットは減少しています。(「平成24年3月期連結業績予想に関するお知らせ」 株式会社ユニ・チャーム [PDF]

つまり、時間価値や法人税率引き下げのリスクまで勘案すると、非適格合併を選択する意味がどれだけあったのか疑問に思います。そしてその顛末としてCB転換による希薄化が生じるということでは、株主としてはふんだり蹴ったりということにならないでしょうか?

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自公民、所得・相続増税で合意

2013 年 1 月 23 日 コメント 1 件

自民、公明、民主3党の税制責任者は22日、2013年度税制改正をめぐって国会内で協議し、 富裕層を対象にした所得税と相続税の増税案について合意した。最高税率の引き上げなどが柱。
(日本経済新聞2013年1月23日1ページ)

【 CFOならこう読む 】

「所得税は最高税率を現行の40%から45%に引き上げ、対象を課税所得4000万円超の部分とする。相続税は課税対象となる相続財産のうち6億円を超える部分に新たに55%の最高税率を設定。相続財産2億円超から3億円までの部分の税率も40%から45%似上げる。」(前掲紙)

米国オバマ大統領も21日の2期目の就任演説で、「一握りの人々だけが豊かさを享受する状況で我が国の成功はあり得ない」と訴え、格差是正へ富裕層増税などを推し進める決意を改めて表明した。

格差是正は理念としては正しいとしても、増税に見合う恩恵を国家から受けていないと考える富裕層は、やがてその国から出ていってしまうというのも事実でしょう。例えば、フランスでは富裕層増税に反対し国籍返上を表明した著名俳優ドパルデューさんがロシア国籍取得を認められたとのニュースがセンセーショナルに報道されています。

ユニクロの柳井さんが、著書「現実を視よ」の中で次のように述べています。

「富裕層への課税にしても、平均的な働き方をしていたら、人並みの収入しか手にすることはできない。人が寝ているときにも働いて、過酷な競争に勝ち抜いたからこそ、多くの富裕層は多額の報酬を得ることができている。
そうしたプロセスをまったく無視し、あそこにお金があるからこちらにもってきて、不足分を穴埋めしよう、足りない人にわけて
凸凹を均そうという発想は、稼ぐ力のある企業や個人を日本から追い出してしまう。この国にいちばん必要な競争力の源泉が、いたずらに失われてしまいかねない。」

これが富裕層の人に共通の認識であるなら、国家としてはまるで「「儲けることが悪である」かのように」(前掲書)、富裕層増税という形で稼ぎを巻き上げる方法ではない別の形で格差是正を達成する道を模索するべきであると、私は思います。

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シンガポールのウットラム社、日本ペイントにTOB

2013 年 1 月 22 日 コメント 1 件

日本ペイントは21日、シンガポールの塗料大手ウットラムグループからTOB(株式公開買い付け)の提案を受けたと発表した。ウットラムは日本ペイントに14・5%を出資する筆頭株主。アジアを中心とする新興国での事業拡大をにらみ出資比率を約45%まで高めたいとしており、事実上の買収提案となる。日本ペイントは「内容を現在確認・検討中。対応については追って速やかに開示する」とコメント。塗料分野で世界5位の企業連合づくりの是非を慎重に見極める構えだ。
(日本経済新聞2013年1月18日9ページ)

【CFOならこう読む】

「ウットラムは香港子会社のニプシー・インターナショナルを通じ、日本ペイント株を1株900円で8000万株を上限に買い付けを目指すとみられる。その場合の取得総額は最大720億円。取得額は21日終値(809円)を11%上回る。」(前掲紙)

ウットラムと日本ペイントは50年以上にわたって協力関係を維持しており、今回の買収提案は2代目のゴー・ハップジン氏が熟慮の末決めたものと見られています。

日本ペイントは、以下の内容の買収防衛策を導入しており、今後これに照らし対応を検討することになります。

「当社は、当社株式に対する大規模買付行為が行われた場合において、株主の 皆様に十分な情報提供が行われることを確保するとともに、企業価値および株 主共同の利益を毀損する買付行為を防止するため、平成19年6月28日開催の第 182回定時株主総会において株主の皆様にご承認いただき、特定株主グループ の議決権割合を20%以上とすることを目的とする当社株式の買付行為、または 結果として特定株主グループの議決権割合が20%以上となるような当社株式の 買付行為に関する対応方針として、「当社株式の大規模買付行為に関する対応 方針」(以下「本対応方針」といいます。)を導入いたしました。また、平成22 年6月29日開催の第185回定時株主総会において株主の皆様のご承認をいただ き、これを継続しております。
本対応方針は、大規模買付者が当社取締役会のあらかじめ定める手続に従わ ない場合、または当該大規模買付行為が当社の企業価値あるいは株主共同の利 益に回復しがたい損害をもたらすものであると判断される場合には、当社取締 役会の決議により、当該大規模買付者等は行使することができないという行使 条件を付した新株予約権の株主割当を実施し、当該大規模買付行為による損害 を防止いたします。なお、かかる判断にあたっては、当社取締役会から独立し た第三者機関である独立委員会の勧告を最大限尊重します。

本対応方針は、大規模買付者が基本方針に沿う者であるか否かを株主の皆様 および当社取締役会が判断するにあたり、十分な情報提供と判断を行うに相当
な期間を確保するために定めるものであり、特定の株主または投資家を優遇し、 あるいは拒絶するものではありません。また、対抗措置として新株予約権を発 行するのは、当該大規模買付行為が当社の企業価値あるいは株主共同の利益に 回復しがたい損害をもたらすものであると判断される場合など、厳重な客観的 要件を充足する場合に限定されるとともに、その発行の是非の判断にあたって も、独立委員会の中立公正な判断を重視することとしており、当社取締役会の 恣意的判断を排除しております。対抗措置として発行する新株予約権ならびに その行使条件についても、あらかじめその内容について開示を行うなど、企業 価値向上および株主共同の利益確保に必要かつ相当な範囲内の対抗措置である と考えます。
したがって、当社取締役会は、前記3の取組みは基本方針に沿うものであり、 株主共同の利益を損なうものでないとともに、役員の地位の維持を目的とする ものでないと判断いたしております。」(2012年3月期 事業報告より抜粋)

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「床屋談義」って・・・

今や安倍晋三首相の筆頭経済ブレーンにして、次期日銀総裁のフィクサーになった感もある浜田宏一イェール大学名誉教授。内閣官房参与でもある、氏による「アメリカは日本経済の復活を知っている」が売れている。まさに旬の人。多くの人がそのタイムリーさで本書を手に取るはずだ。
(日経ヴェリタス2013年1月20日61ページ)

【CFOならこう読む】

この週末に、浜田宏一「アメリカは日本経済の復活を知っている」と大前研一「クオリティ国家という戦略」を読みました。

浜田氏は、「円高を招き、マネーの動きを阻害し、株安をつくり、失業や倒産を生みだし」日銀が金融緩和を十分に行わなかったことにその責任があり」、年間3万人を超える自殺者と無関係でないと述べています。

一方、大前氏は、「日本はかつて「加工貿易立国」という国家モデルで大成功した。そしていまだにその成功モデルから抜け出せておらず、長期の低迷に陥っても危機感が欠落している。その大きな理由は将来世代からの借金(国債)を乱発することが鎮痛剤となっていたからである。」と述べています。

要するに、浜田氏は紙幣の印刷機の回し方が足りないと批判しているのに対し、大前氏は印刷機を回し過ぎたことが「加工貿易立国」から次の国家モデルへ転換を阻害していると批判しており、全く正反対の指摘をしています。

大前氏は、「加工貿易立国」から「クオリティ国家」への転換を主張しています。クオリティ国家とは「世界市場での競争力」と「世界を呼び込む吸引力」を兼ね備えている国家です。

・世界市場での競争力
クオリティ国家は、グローバルに通用する企業・人材・ブランドを輩出している

・世界を呼び込む吸引力
クオリティ国家は、世界から、企業、カネ、人材、情報を呼び寄せて反映している

一方、浜田氏は日本の製造業は十分に力を持っており、特に次の国家モデルへの転換の必要性を感じておられないようです。むしろ国内産業の空洞化は、「整理され解雇される国内の労働者にとっては、あまりに過酷で」、金融政策により円高を是正することにより国内産業の空洞化は是正されなければならないと主張しています。

私は、浜田氏が次の日本の国家ビジョンを語っていない点が極めて不満です。

国家ビジョンは、ミクロをきちんと把握してこそ語れるもので、この視点を欠いたマクロの議論は全く意味がない、と思っています。

浜田氏の本は、結局のところ、自分が主張する経済学の理論は世界の常識であり、これ以外の理論は「床屋談義」であると切り捨てているだけの本です(一般の人にわかるように平易に説明することに力点をおいておらず、君らにはわからないだろうが、世界の一流の経済学者にとっては常識だということを延々と説いているだけの本です)。

しかし、そもそも「床屋談義」なんぞという言葉を今の時代平然と使う経済学者の言葉を私は信用出来ない。

床屋って、1000円カットの隆盛等の産業構造の変化により、客離れが進んでおり、ほとんどの床屋は昔の床屋のまま生き残ることが難しくなっているわけでしょ。そんな時代に「床屋談義」という言葉を平然と使うその神経が理解できないし、ミクロが見えていない証拠のように思えるのです。

ああそう言えば、大前氏は「床屋」というビジネスの変革の必要性を随分昔に主張していたな。

日経ヴェリスの書評も、「リフレ派の泰斗の「集大成」は肩すかし」と厳しい評価をしていますが、私も同感です。

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PGMのアコーディアに対する敵対的TOB不成立

2013 年 1 月 18 日 コメント 1 件

ゴルフ場運営2位のPGMホールディングスが同首位のアコーディア・ゴルフに対して実施していた敵対的TOB(株式公開買い付け)が不成立となったことが分かった。応募株式の比率が買い付け予定の下限である20%にとどかなかったとみられる。
(日本経済新聞2013年1月18日9ページ)

【CFOならこう読む】

12月4日のエントリー「TOB開示資料分析】PGM・アコーディアー敵対的買収成るか?」及び
昨日のエントリー「投資会社レノ、アコーディア株買い増し」の続報です。

「最終日の17日、アコーディア株は一時、TOB価格(8万1000円)を上回る8万3800円まで上昇、終値は8万1100円だった。株主配分の強化を巡る思惑などもあり、応募株式が下限を下回ったようだ。」(前掲紙)

投資会社レノがホワイトナイトの役回りを担うことになったということでしょう。

TOBは不成立に終わりましたが、アコーディアはPGM との買付価格を含めた諸条件について交渉(PGM によ るデューディリジェンスの受け入れを含む)の場につくことを約束しており、今後の成り行きが注目されます。

【リンク】

なし

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