高齢化の進展により、国内の需要はそれほど伸びないといわれることが多い。しかし、保育や介護で常に順番待ちができているように、内需拡大のタネは実は豊富にある。家庭への電力小売分野で技術開発が進んでいるように、イノベーションのタネも豊富にある。規制改革により、事業者の創意工夫を阻む壁を取り除き、消費者の潜在的需要を開花させれば、日本経済の需給両面からの成長可能性は大きく広がる。
(日本経済新聞2013年2月27日31ページ 経済教室「規制改革どう進める上」大田弘子政策研究大学院大学教授)
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規制改革(規制緩和とは言わないのですね。)を語る上で、最も重要なのは労働市場改革です。この点大田教授は次のように指摘しています。
「規制改革は労働市場改革とセットである。経済再生が産業の新陳代謝を伴う以上、規制改革のみならず、あらゆる構造改革は雇用問題に直結する。高度成長期のいわゆる日本型雇用が崩れ始めた後も硬直的な労働市場は変わらず、転職が不利な状況が続いた。そのことが、働く者の変化への不安を大きくし、日本経済の長期停滞の一因となった可能性がある。
成長分野をつくるとは、そこに労働力が移動することでもある。そのとき、働く者の不利益を最小にし、逆に転職が結果的にプラスになるように、職業訓練を含めた労働市場全体の改革が必要だ。つまり、労働者を現状に固定して守るのではなく、企業間を移動しても守られる柔軟な労働市場にせねばならない。ここでも規制改革は重要な要素だ。正規雇用と非正規雇用の壁を低くし、転職が不利にならず、労働市場の流動性と働く者の保護が両立する新たな「日本型雇用システム」をつくっていかねばならない。」(前掲稿)
基本的なところで異論はありません。が、多くの場合労働市場改革を語る場合、経営者(マネージャー)を念頭においた議論がされていないように思われます。日本の場合、経営者もまた硬直的な労働市場に置かれ転職は容易ではありません。これが国富を創造するような望ましいM&Aをも阻害されている一つの大きな要因になっています。
経営者の労働市場改革を考える場合に、企業の報酬設計に関する創意工夫を否定しないことが重要です。例えば税制。定期同額という縛りは明らかに自由なインセンティブの設計を阻害します。
役員報酬に縛りがないと、法人は役員報酬により利益調整を行うことができるので、法人税を徴収すること困難になるという国側の理屈はわかりますが、コーポレートガバナンスが機能していれば、役員の税制メリットの視点だけで役員報酬が決まることはありえません。
別の言い方をすれば、役員報酬により利益調整を行うような会社は個人事業と大差ないわけで、こういう会社から無理に法人税を徴収する必要はないのです。むしろ留保利益まで含めてオーナーの所得税としてきっちり徴収すれば良いのです。
そう考えると、米国の小規模会社のチェック・ザ・ボックス(パススルーエンティティすなわち法人利益を所有者個人の利益として申告することを認める制度)のような制度の導入を検討すべき時期に来ているように思います。
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会社更生手続き中のDRAM大手、エルピーダメモリの更生計画案が、月内にも東京地裁の認可を受ける見通しとなった。約4400億円の負債を抱えて経営破綻してからちょうど1年、米半導体大手マイクロン・テクノロジーの傘下で再建を目指すことが正式に決まる。エルピーダの技術力を生かし、半導体メモリー最大手の韓国サムスン電子を追撃する。
(日本経済新聞2013年2月27日11ページ)
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「マイクロンは2000億円でエルピーダを買収する。まず13年前半にエルピーダの全株式を600億円で取得し、完全子会社にする。残る1400億円は19年までにエルピーダから供給を受けるDRAMの対価として支払う。エルピーダは2000億円を返済原資に充てる。負債総額4400億円のうち、約54%が返済されない計算になる。」(前掲紙)
エルピーダは2009年に改正産業活力再生法(産活法)の認定を受け、業績不振に陥った事業会社を公的資金を使って支援する枠組みの適用第1号となりました。このとき私は、このブログで、政府が個別の民間企業を公的に支援するのは止めるべきだと言いました(2012年6月30日「エルピーダ、公的支援本日決定」)。
また、このようなリスクの高い投資は、本来再生ファンド等その道のプロフェッショナルが手掛けるべきで、国がしゃしゃり出る分野ではないのです。
結果国はこの投資により280億円の損失を被りました。
(「エルピーダ破たん、公的負担280億円発生で問われる産業政策」)
この事実をしっかりと受け止め、今後の産業政策に活かして行ってもらいたいのものです。
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台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業グループによるシャープへの出資期限まで26日で残り1カ月。シャープは再建に向けた財務基盤立て直しの切り札に位置付けていたが、交渉は膠着状態にある。資本増強の検討作業には時間がかかることもあり、早ければ3月中とみられていた中期計画の公表は4月以降に先送りされる可能性も出ている。
(日本経済新聞2013年2月26日11ページ)
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「今年3月26日までに鴻海が約670億円を払い込み、シャープに9・9%出資する計画だった。だがシャープの業績悪化に伴い株価が一時140円台まで下落。当初合意していた1株550円を大きく下回ったため、条件見直しを求める鴻海と交渉してきた。
昨年末には奥田隆司社長が鴻海の郭台銘董事長に手続きを進めるよう求める文書を送った。しかし、鴻海側に表立った動きは見られない。」(前掲紙)
仮に第4四半期が損益トントンで行って、自己資本比率15%を達成しようとした場合、1370億円程度の規模の増資が必要になります。これを昨日の終値294円で割ると新たに発行される株式数は466百万株、現在の発行済株式数は1141百万株ですから、増資分の出資比率は29%程度になります。
今の株価水準を前提にすると、この辺が上限となるような気がします。
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ビューティガレージの株式上場の概要は次の通りです。

ビューティガレージは、2003年設立、理美容室などサロン向けの物販販売、店舗設計のほか、不動産紹介や人材紹介、講習会運営なども提供しており、サロンの新規開業支援と経営支援をワンストップサービスで行っている企業です。
公募価格は2,300円、予想PER14.5倍での株式公開となりました。

売上、利益とも順調に積み上がっています。
直前期にその前期まで連結子会社であったBG ナビを売却し連結範囲から外すとともに、新たにムサシの株式を追加取得し、持分法適用関連会社から連結子会社にするという連結範囲の変更を行っています。

第三者割当増資の発行価格が、2008年は225千円であったのが、2011年は140千円と下がっているのが目につきます。
2011年12月のストックオプションの行使は、2004年12月に発行した分で、従業員に付与されたものです。

上場後の社長の持株比率は約34%、社長と役員合わせて50%を超える資本政策になっています。
なお、上記BGナビ株式売却に伴い、同社代表取締役が一部持株の売却を行っています。
従業員のインセンティブは現物株、ストックオプション、従業員持株会によっています。
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株式会社ビューティガレージ
製紙業界4位の大王製紙は21日、筆頭株主で同5位の北越紀州製紙の株式を無断で取得していた関連会社、川崎紙運輸(川崎市)との資本関係を解消すると発表した。役員派遣もとりやめる。大王はグループの企業統治に不備があったとみて、74の子会社も対象に出資比率などを見直す。
(日本経済新聞2013年2月22日13ページ)
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「大王はこれを機に、74ある子会社の統治の見直しにも着手する。出資比率が適正か、役員派遣が妥当かを検証していく。川崎紙運輸と同じ持ち分法の非適用会社8社については、原則として出資関係を解消する。」(前掲紙)
2月15日のエントリー「北越紀州、大王と対立」の続報です。
大王は昨日公表した「当社持分法非適用関連会社のガバナンスについて」の中で、持分法非適用関連会社に対するガバナンスの改善の必要性を次のように説明しています。
「川崎紙運輸は当社の持分法非適用関連会社であって、その経営を支配し得る立場にないこと、及び上記のとおり、本件買付けはインサイダー取引に該 当するものではなく、違法性はまったくないことを考慮しても、本件買付けの事実を 当社において適時に把握できていなかった点に関しては、持分法非適用関連会社に対するガバナンスの改善が必要であると判断された」
しかし、関連会社に持分法を適用するか否かは、会計上の重要性の判断に基づき決定されるだけのことで、持分法非適用であろうがなかろうが関連会社には変わりありません。つまり問題とされる点があるとすれば、関連会社を含めた子会社統治全般についてということになります。
大王製紙には従前からこの点に問題があるとされており、北越もそれを知って出資しているのですから、一方的に北越側が批判すべき問題ではなく、北越自身のグループ会社統治の問題でもあると思います。
そしてそれを突き詰めていくと、”何のための出資か”というところに行きつきます。
北越は何のために、大王に出資しているのでしょうか?
【リンク】
2013年2月21日「当社持分法非適用会社のガバナンスについて」大王製紙株式会社 [PDF]
米国で投資ファンドによる企業のM&A(合併・買収)が急増している。今年2月中旬までのファンドによる買収額は前年同期の6倍強で推移。ブラジル系などファンド勢の顔ぶれが多彩になってきた。信用市場の落ち着きで買収資金の借り入れが容易になったことが主因で、異例の金融緩和がM&Aをかさ上げしている面もある。ファンドと組んで長期的に経営を立て直そうとする米企業は多く、株式非公開化も増える見通しだ。
(日本経済新聞2013年2月21日7ページ)
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「米国を中心にファンドのM&Aが増えているが、別世界なのが日本だ。今年だけで見ると、日本ではファンドによるM&Aが全体の3%にとどまる。経営者には民間のファンド資金の活用に抵抗も強く、政府系の官製ファンドの存在感が相対的に高まっている。」(前掲紙)
日本への対内直接投資は、米国3兆4514億ドル、フランス 1兆84億ドル、イギリス1兆 861億ドルに比し圧倒的に少なく2,149億ドルと主要国中最低の水準です(2010年、BBT総合研究所調べ)。
しかしこれからの日本は、経済の活性化、ひいては雇用の創出のために、世界からヒト・カネ・モノを呼び込むことが不可欠です。
「一部の経営不振企業を除き、日本企業は財務体質が良好で外部の資金に依存しない傾向がある。」(前掲紙)
財務体質が良好というのは、要するに新規投資を行わず、単にキャッシュが積み上がっている状況にあるということです。こういう会社は、株価が割安のまま放置されている場合が多く、買収の標的になりやすいと言えます。また、M&Aによる資本市場の規律の観点からは、このような会社が買収されることを阻害すべきでないとも考えられます。
しかし日本は外資による買収を国ぐるみで否定してきた歴史があります。世界からヒト・カネ・モノを呼び込むためには、すべての日本人が考え方を改め、ウェルカムの姿勢を示す必要があります。と同時に、法制度や雇用制度その他インフラを整備しなければなりません。
そんなことを考えながら、踏み切りで電車が通りすぎるのを待っているときに、何となく非常ボタンを眺めていると、そこには日本語による説明があるだけでEmergencyの一言もありません。変わるというのは大変なことです。
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脱デフレを掲げる安倍政権の登場で、日本経済は活気を取り戻しつつある。この勢いを一時的なものに終わらせず、息の長い成長につなげたい。重要な課題の一つは、次の時代を切り開く新しい企業を育て、停滞しがちな日本の産業の新陳代謝を促すことだ。
(日本経済新聞2013年2月20日2ページ)
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「企業創出の重要性は長らく指摘されてきたが、数字で見る限り情勢は甘くない。日本の新規株式公開は2000年の204社がピークで、その後、減少傾向をたどり、去年は46社だった。1年間に新規に生まれる企業の数を全企業数で割った開業率も、米英が10%を超えているのに対し、日本は5%程度にとどまる。だが、目を凝らせば、変化の予兆もみえる。若い世代を中心に「自ら企業をつくろう」という機運が徐々に高まっているのだ。」(前掲紙)
そういった機運の高まりを私も肌で感じます。しかし起業しやすい環境が整備されているとは言い難い日本の相も変わらぬ現状があるのもまた事実です。
例えばスタートアップ時のファイナンス。日本ではこれが難しい。制度融資的なものはあるにしても所詮はデットです。スタートアップ時の資金調達はエクイティで行うべきものですが、この部分を担うプレーヤーが圧倒的に少ない(VCも含め)。
また、エクイティで資金調達する際に、起業家の持分を一定程度確保するためには、株式報酬を付与することが必須ですが、税制を中心とした法制度の不備により、ストックオプション以外の株式報酬の利用が難しい。
日本では、米国の制限付株式(Restricted Stock)と同様の趣旨で、1円ストックオプションを利用するケースが増えています。
商事法務2013年2月5日号「役員報酬改革の新潮流と今後の諸論点(下)」で日本版Restricted Stockとして、BIP信託なるものが紹介されていますが、そもそも普通にRestricted Stockを付与できないこと自体が問題だと私は思います。
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ダウ工業株30種平均が市場最高値に迫る米国株。大胆な経営資源の組み替えで企業の利益水準は戦後最高に達し、自社株買いで資本効率化の手を緩めない。株式の価値をいかに磨き上げるか。
その飽くなき追求こそが米国の株式文化であり、力を改めて見せたのが危機後の5年間だといえる。
(日本経済新聞2013年2月19日17ページ 一目均衡 藤田和明「株式価値磨く米の伝統」)
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「50年連続増配の医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン。1月の決算発表もゴースキー最高経営責任者は自信にあふれていた。
『株主へのリターンこそが我々にとっての品質証明だ』。
研究開発も利益配分の方針もバリューという言葉に常に結びつけて説明していた。昨年夏には1超円超の自社株買いも実施し、株価は最高値を更新中だ。」(前掲紙)
「株主へのリターンこそが我々にとっての品質証明だ」。
至極、名言。
こういう言葉が日本企業の経営者から普通に聞かれるようになるのはいつの日か。
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大手食品メーカーの中期経営計画に変化が表れ始めている。会社の規模を表す売上高や営業利益の代わりに、
ROEやEPSの成長率など資本効率を示す指標で目標値を掲げ、投資家の関心に応えようとしている。株主還元
を重視する姿勢を鮮明にする例も目立つ。
(日本経済新聞2013年2月17日15ページ)
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「アサヒグループホールディングスは13日、3ヶ年の中期計画を発表した。最終年度である2015年12月期の
数値目標として掲げたのは「ROE10%」と「EPSの年平均成長率10%以上」だった。配当性向30%と自社株
買いを合わせた総還元性向でも50%以上の目標値を示し、株主還元に前向きなことを強調した。」(前掲紙)

日本たばこ産業の調整後EBITDA及び調整後EPSの定義は次の通りです。
•調整後EBITDA=営業利益+減価償却費及び償却費+のれんの減損損失-リストラクチャリングに係る収益+リストラクチャリングに係る費用
•調整後EPS=[当期利益(親会社所有者帰属分)+のれんの減損損失-リストラクチャリングに係る収益+リストラクチャリングに係る費用±法人所得税費 用及び非支配持分調整額]/希薄化後期中平均株式数(自己株式を除く)
キリンの平準化の定義は次の通りです。
平準化:特別損益等の非経常項目を除外し、より実質的な収益力を反映させるための調整
アサヒの中計は、わかりやすさという点で他社を上回っていると思います。
【リンク】
2011年2月25日「011-2013 中期経営計画 成長と構造強化 ~確かなグローバルカンパニーへ~」味の素株式会社 [PDF]
「「JT-11」の成果及び経営計画2012」日本たばこ産業株式会社 [PDF]
2012年10月15日「キリングループ長期経営構想「キリン・グループ・ビジョン2021」 および「キリングループ2013年-2015年中期経営計画」」キリンホールディングス株式会社
「『中期経営計画2015』の概要」アサヒグループホールディングス株式会社
北越紀州製紙は14日、大王製紙の関連会社が北越紀州株を取得した経緯があるとして、大王に第三者を入れた特別調査委員会の設置を要請したと発表した。北越紀州は大王の筆頭株主として、企業統治や法令順守の改善を求めている。大王は同日、「弁護士による調査で違法性はなかった」とコメント。両社の対立が深まっている。
(日本経済新聞2013年2月15日9ページ)
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「北越紀州は、大王経営陣と創業家の対立を収拾する形で大王の筆頭株主になった。ところが同年7月から12月にかけて、大王の関連会社の川崎紙運輸(川崎市)が北越紀州株を約2%まで購入していたことが判明した。2%であれば北越紀州の10位以内に入る株主だ。
川崎紙運輸には大王と大王の子会社が計38%出資し、大王の役員らが非常勤取締役になっている。北越紀州は12年11月に大王との技術提携を発表したが、その交渉中の情報を得て北越紀州株を買ったのではないか、とも指摘。「外形上インサイダーと疑われかねない」(北越紀州)との見方だ。」(前掲紙)
北越紀州は、将来大王製紙と経営統合したいとの思惑がありますが、大王は独立経営を志向しており、北越紀州の資本の論理に抵抗する姿勢を示しているということなのかもしれません。
2006年の王子製紙による北越への敵対的TOBの際に、資本の論理に徹底抗戦したのは北越でした。その北越が今度は資本の論理を振りかざす側に回っています。
この業界はいずれ本当の意味で資本の論理による業界再編が起こるような気がします。その結果、すべて外資の傘下に入るということにならないことを願います。
【リンク】
2013年2月14日「大王製紙に対する特別調査委員会設置等の要請に関するお知らせ」北越紀州製紙株式会社 [PDF]
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