企業が公募増資で新株を発行しても株価が急落することが減り、底堅く推移する例が目立ってきた。新株の主な買い手が短期売買で利益を狙うヘッジファンドから、年金マネーなど長期志向の機関投資家に変わってきたのが背景だ。
(日本経済新聞2013年8月30日17ページ)
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最近増資した主な企業の増資発表後の株価は次の通りです。
社名 |
株価下落率(%) |
最大希薄化率(%) |
電通 |
▲5.3 |
4.0 |
共立印刷 |
▲7.2 |
16.8 |
大和ハウス |
▲6.0 |
10.1 |
オリンパス |
▲3.8 |
12.1 |
タケエイ |
▲3.4 |
16.1 |
近鉄 |
▲7.8 |
11.4 |
(出所:前掲紙)
「空売り規制の効果も見逃せない。金融庁は11年12月、通称「日本版レギュレーションM」というルールを導入した。米国と同様、増資の公表日から一定期間は、増資で引き受ける新株を絡めた空売りを禁じた。日本証券業協会の調べによると、空売り規制を導入した後は、増資の発表に伴う空売りの規模が小さくなった。」(前掲紙)
理論的には、公募価格がフェアバリューで行われる限り増資は株価に影響を与えません。
中長期的に価値創造するしっかりとしたエクイティシナリオがあるなら、短期的な株価の動向を必要以上に気にする必要はないと思います。
【リンク】
なし
雑誌流通の春うららかな書房(東京・中央)はインターネットを活用した「クラウドファンディング」で株式を募集する。フェイスブックや動画共有サイト「ユーチューブ」経由で低コストで個人投資家を募る。
(日本経済新聞2013年8月29日15ページ)
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「最低投資金額は1株11万3000円。9月上旬に募集を始め、払い込みは9月末の予定。購入には独立系の日本クラウド証券(東京・港)の口座が必要になる。証券会社を通じた株式発行による資金調達は日本初。」(前掲紙)
クラウドファンディング(crowd-funding)とは、インターネットを通じて不特定多数の投資家から出資を募る活動のことを言います。クラウドファンディングのcrowdは群衆という意味ですので、雲を意味するクラウドコンピューティングのcloudとは異なります。
ちなみに日本クラウド証券の旧社名は、グリーシートを活用する株式公開をリードしてきたディー・ブレイン証券です。
【リンク】
なし
高島屋は27日、肥塚見春取締役(57、写真)が9月1日付で代表権のある専務に昇格すると発表した。同社で女性が代表取締役になるのは初めて。
(日本経済新聞2013年8月28日13ページ)
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「高島屋は女性の積極登用を進めている。昨年、正社員に占める女性の割合が初めて男性を逆転した。肥塚氏は企画本部長として財務や経営企画を担当する。」(前掲紙)
企画本部長として財務や経営企画を担当するということは、CFOの役割を担当すると言って良いかもしれません。
女性で代表権のあるCFO、もっとたくさん出てきて欲しい。
【リンク】
2013年8月27日「代表取締役・取締役、顧問の業務委嘱及び人事異動のお知らせ」株式会社高島屋 [PDF]
一流料理人が高級食材を惜しみなく使った料理を立食形式で手ごろな価格で提供する。そんな異色のレストランで人気を集め、米国進出を決めた。ニューヨークに来秋開く店は「(名店がひしめく)本場でも行列のできる店にする」と意気軒高だ
(日本経済新聞2013年8月27日2ページ)
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この記事は「俺の」シリーズ社長坂本孝を取り上げたものです。
記事の中に次のことが書かれています。
「料理人などを執行役員に積極登用し、社員250人の会社で役員数は43人に上る。経営意識を高めると共に、株式を割り当て目指す上場が実現した際により恩恵を行きわたらせるためだ」(前掲紙)
ベンチャー企業が自社株式を報酬として割り当てる場合、これを米国ではFounder’s stockと言います。
Founder’s stockは売却時点で低税率のキャピタルゲイン課税を受けるのですが、これは役務報酬であるから通常税率で課税すべき、という批判が米国にはあります。
日本では、そもそも会社が直接報酬として現物株を役員や従業員に付与する場合の法や会計面の整備がなされていません。
こういったところを国家がきちんと整備することこそが成長戦略策定の上で重要だと私は思います。
【リンク】
なし
「外国人投資家は秋に一斉に動き出す」。メリルリンチ日本証券の岡本ゲーリー日本株式営業部長は気を引き締める。証券各社が9月以降に開催する日本株セミナーに、外国人投資家が大挙して参加するのだ。メリルやみずほ証券のセミナーには昨年の2倍の投資家が参加する。
(日経ヴェリタス2013年8月26日1ページ)
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「安倍首相の「本気度」を見極めようとする外国人が最も注目するのが、税制の見直し。財政健全化の先送りにつながる消費増税の見送りは、明確な日本株売りの材料だ。一方、日本株買いの材料となり得るのが、成長戦略としての法人税率引き下げ。法人減税は13日付の報道で安倍首相が検討を指示したと伝わったが、複数の閣僚が否定したため、市場は消化し切れていない。仮に法人税率引き下げの方向が明確になれば「(外国人にとって)ポジティブサプライズになり、日本株全体を押し上げる(メリルリンチ日本証券の神山直樹チーフストラテジスト)」(前掲紙2ページ)
同じ紙面の中で、ファンドマネージャーのジェイムズ・サルター氏が法人税の課税ベースの拡大を同時に議論すべきであると指摘していますが、その通りだと思います。
7割以上の法人が赤字法人で法人税を減免されているという事態は明らかに異常です。
【リンク】
なし
・企業は国・地域の比較優位に応じ生産分散
・生産の特化は「仕事」の比較優位で決まる
・高度人材の養成・都市政策なども大きな課題
(日本経済新聞2013年8月16日24ページ 経済教室「広域FTAの時代」白石隆 政策研究大学院大学学長)
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「そこで重要なことは付加価値が国際価値連鎖の中でどう分配されるかである。ジュネーブ国際問題高等研究所教授のリチャード・ボールドウィン氏はこれを「スマイルカーブ」を使って明快に説明する。スマイルカーブとは、価値連鎖の上流・中流・下流がそれぞれどれくらいの付加価値を取れるかを示したもので、人間が笑ったときの口の形のように、両端が少し上がった形の曲線になる。
1970年代にはスマイルカーブはなだらかだった。しかし、生産システムの細分化、地理的分散、業務のオフショアリング(海外への委託)によって、その勾配は近年、きつくなっている。別の言い方をすれば、商品の企画、製品の設計、部品生産、製品の組み立て、マーケティング、アフターサービスなど、国際的な価値連鎖の中でどのような「仕事」に特化するかによって、どれほど付加価値を取れるか、国としても、企業としても、大きな違いが生まれることになった。」(前掲稿)
ジェトロとWTOが共催したシンポジウムでリチャード・ボールドウィン氏が講演した際のレジュメに「スマイルカーブ」についての説明があります。

「スマイルカーブの経済学的ロジックは単純である(Baldwin 2013)。加工・組 立工程はどの国でも容易に実現可能である。その結果、加工・組立工程が「商 品化」され、先進国の企業はこの工程をどこに移転するかについて無数の選択 肢を持つ。一方、製造をサポートするサービス業は「商品化」されていない。 こうしたサービス業では、専門的な技術を持った技能集団が複製しにくい価値 を生み出している。大量生産の技術は製造の段階には有効だが、その前後を取 り巻くサービス業においては機能しない。先進国では、製造の仕事は「悪い」 仕事になり、それをサポートする仕事が「良い」仕事となった。この考え方は 米国のアップル社やフィンランドのノキア社の経営戦略に如実に表れている。
政策的な視点から重要なのは、先進国においては、都市が 21 世紀型の工場に なったということである。賢明な政策立案者は、今後、都市政策をグローバル 化政策および産業政策に組み込んでいくべきである。非熟練労働者に用意され た製造の仕事は、先進国ではすでに過去のものである。それらは国内ではロボ ット、国外では中国の生産力に取って代わられている。良い仕事、すなわち、 突発的に海外移転されることのない仕事は、有能な人材を広範かつ厚く集積し た都市にこそ生まれるのだ。」
(http://www.ide.go.jp/Japanese/Event/Sympo/pdf/2013WTO_Keynote1_Baldwin_paper_jp.pdf)
白石氏は、付加価値の大きいところに日本として比較優位をもてるようにするために必要なことについて次のように論じています。
「高度人材・グローバル人材養成のための教育政策、そういう人たちを外国人もふくめ引きつける魅力的な都市作りなど、通商政策を大きく超える課題が、通関手続き、法人税制、雇用制度などの改革と並んで課題となる。」(前掲稿)
この課題に取り組むことこそが成長戦略なのだと私は思います。
【リンク】
http://www.ide.go.jp/Japanese/Event/Sympo/pdf/2013WTO_Keynote1_Baldwin_paper_jp.pdf
サントリー食品インターナショナル(SBF)上場後の初会合で議題となったのは、ある海外食品大手のM&A(合併・買収)案件。「価格が高い。今は突っ込むべきではない」。SBF執行役員で戦略開発部長の稲田晴久(48)が待ったをかけた。「待っていたら他社に取られてしまう」。推進派の幹部が食い下がったが、稲田は「そんな提案は突き放せ」と引かず、買収は見送りが固まった。
(日本経済新聞2013年8月15日2ページ)
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「上場を控えた今年3月にSBF入り。「アフリカにネットワークを持つ企業はないか」「世界で通用するブランドはどこか」。サントリーHD社長の佐治信忠(67)の口癖「買うだけなら小学生でもできる。大事なのは買ってからの収益化」を思い出しながら情報収集を急ぐ。」(前掲紙)
”買うだけなら小学生でもできる”
至極迷言です。
ポイントは、自社の傘下に対象企業が入ることで、利益をどれだけ大きくすることができるか、その利益に対する適正な対価はいくらか、です。
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なし
コードネーム「JOE」。2010年5月、サントリーホールディングス(HD)で飲料子会社、サントリー食品インターナショナル(SBF)の上場に向けた研究会が始まった。上場と、ボクシング漫画「あしたのジョー」にかけた。
(日本経済新聞2013年8月14日2ページ)
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「持株会社傘下に置かれたままでのSBF上場が認められるかどうかだ。少数株主ら投資家保護を重視する東京証券取引所の意向をチームは見極めようとした。「どうしたら認めてもらえるか」。証券会社を通じて探りを入れるうち、東証は子会社上場を望ましいものの、独立性の担保を条件としていることが見えてきた。」(前掲紙)
SBFは、独立性を確保するために、本社の移転、従業員の転籍、グループからの情報システムの遮断を実行します。
しかし、SBFの社長である鳥井氏がHD社長佐治信忠氏の後継者であることを佐治氏が示唆すると、東証は親会社の意向で上場子会社となるSBFの社長人事が決定するのは問題があると判断しました。
「5月、佐治は東証の担当者から直接説明を求められて、「経営の独立性には十分配慮する」と強調した。担当者は早急な社長交代はないと受け取った。同月29日に上場は正式に認可された」(前掲紙)
持株会社傘下にある子会社が、人事も含めて持株会社の意向に従うのは当然のことです。
上場時の審査時点のみ、経営の独立性を確保している外形を形式的に整えれば上場が認可されるというのでは、審査の意味がありません。
重要なことは少数株主や一般投資家をいかに保護するかです。
そう言う意味では実質面の審査が求められるところです。
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なし
中小企業向け融資の8割には現在、経営者の個人保証がついている。この個人保証を巡っては、
金融機関と中小企業との間で意見が対立する。金融機関は融資の安全を確保するために必要とする
一方、中小企業の経営者は経営の自由度を制約するとの理由から、個人保証に否定的な声が多い。
(日本経済新聞2013年8月13日19ページ)
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「法人中小企業の7~8割は赤字の小規模企業であると推測することもできる。赤字でしかも小規模ならば
、金融機関が経営者に個人保証を求めるのは経営判断上、仕方ない面もある。」
本来、赤字企業が継続企業であり続けることはできないはずです。にも関わらず赤字企業のほとんどは
意図的に赤字を選択していると考えられます。
「さらに赤字の背景を検討することも重要だ。多額の役員報酬の支払いで会社の利益を家計に付け替え、
赤字になっているとの企業もあるとの見方が多い。」(前掲紙)
つまり経営者と企業が混在となっているわけで、こういう会社に融資するためには個人保証が必要との金融機関の考え方は理解できます。
この問題を解決するためには、経営者と企業が一体となっている実態に合わせ、企業には課税せず企業の利益を構成員の所得として認識するパススルー課税の制度を日本でも導入する必要があると思います。
役員報酬の支払いで会社の利益を家計に付け替えることで、実質的にパススルーが認められていると見ることもできますが、問題は、会社で経費を利益から控除した上でさらに給与所得控除を取ることができる点です。
このタックスメリットが法人成りをする最大の誘因となっています。
国側は、これを防ぐために役員報酬の損金算入要件を厳格化することで対応していますが、これにより自由な報酬設計を阻害するという大きなデメリットが生じています。
ここはパススルー課税を制度上正式に導入した上で、これを選択した事業者には事業所得が黒字である限り、融資の際に個人保証は要しない、選択しない場合には法人所得が赤字である場合には個人保証を要するという様な仕組みにしたら良いのではないでしょうか?
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