アーカイブ

2013 年 10 月 のアーカイブ

日本電産永守社長の財務戦略

ホンダは30日、自動車向け電子制御部品子会社、ホンダエレシス(横浜市)の全保有株式を日本電産に売却すると発表した。販売が低迷していた太陽電池事業からの撤退も決めた。今後はエコカー開発や新興国を中心とした世界市場の攻略に経営資源を集中する。2016年度の世界販売600万台達成に向けて、部品コストの削減など事業構造の改革を急ぐ。
(日本経済新聞2013年10月31日11ページ)

【CFOならこう読む】

「ホンダエレシスは集積回路と専用ソフトでエンジンやブレーキなどの駆動部品を効率よく動かす技術を持つ。センサーと組み合わせて衝突を回避するなど次世代の「自動運転」にも欠かせない。高い技術力を生かし、日本電産はエコカーの中核部品である「駆動用モーターへの参入も狙う」(永守社長)」

本件と直接関係ありませんが、永守社長が日本電産創業13年後の昭和61年に「技術ベンチャー社長が書いた 体あたり財務戦略」という本を書いているのを知り、早速入手して読んでみました。
ベンチャー企業の企業財務の要諦が書かれていて、しかも本質に言及しているので今読んでも古さを感じません。

例えば、1株当たり利益を基準に経営すべし、と書かれています。
この時代は経常利益を重視すべしという人が大勢で、当期純利益しかもEPSを重視すべしという経営者はほとんどいなかったはず。

「私の経営の仕方というものは、「1株当たり利益」を基準にすべてを判断していく。つまり、この行為は「1株当たり利益」を上げるのか、それとも下げるのかーということを念頭に置き、行動に移すやリ方である。「1株当たり利益」を下げるようなことはできる限りしないことである。」(「技術ベンチャー社長が書いた 体あたり財務戦略」60ページ)

ほかにも役に立つことが書かれているので、機会をみつけて紹介しますね。

【リンク】

なし

カテゴリー: M&A タグ: ,

合併と企業統治

第一勧業、富士、日本興業の旧3行が統合したのが2000年。2度の大規模システム障害を起こすなど、みずほはトラブルが続いてきた。指摘されてきたのは「旧3行の意思疎通の悪さ」だ。持ち株会社と傘下2行の首脳ポストを旧3行で分け合っていた時代は「3首脳が顔を合わせて議論するのは毎金曜日の昼食会だけ」(みずほ銀幹部)と言われたほどだ。
(日本経済新聞2013年10月30日5ページ)

【CFOならこう読む】

「今回の問題の根底にも、旧行の“呪縛”がある。オリエントコーポレーション(オリコ)は旧第一勧銀と関係が深く、10年に持ち分法適用会社にした。長く経営不振が続いており旧富士銀出身の西堀利頭取(当時)はグループ化に強く反対。「押し切ったのが旧第一勧銀勢だった」(みずほ銀幹部)という。」(前掲紙)

今日の新聞では、阪急阪神ホテルズにおける出身会社ごとの主導権争いも指摘されています。

日本でよく見られる”対等の精神による経営統合”は、シナジーの実現に時間がかかるばかりか、ガバナンス上の問題を生むことを知るべきです。

【リンク】

なし

カテゴリー: コーポレートガバナンス タグ:

買収のプレッシャー

ドイツ銀行の資産運用部門で最高投資責任者を務めるアソカ・ヴァマン氏も、先週東京を訪れた一人。「夏以降、日本株を買い増している。日経平均株価は5年後、2倍になっていると思う」と強気だ。
理由の一つが、夏から市場で静かに進行している異常現象だ。長期の基準金利、国債10年物の利回りが実質マイナスに転じている。
(日本経済新聞2013年10月29日17ページ 一目均衡)

【CFOならこう読む】

「ヴァマン氏の読みはこうだ。「経営者は資金を眠らせておくのではなく、設備投資や企業買収に有効活用する圧力にさらされる。家計も大量の預金を目減りから守るために、株式などのリスク資産に移すだろう」。どちらのシナリオも、株高という結論に向かう。」(前掲紙)

資金を有効な投資に回せないのであれば、投資家は増配・自社株買いといった株主還元を求めることになるでしょう。これも余剰資金が株価に反映されていない銘柄については株高に向かうと考えられます。

そして、十分な施策を講じず株価が割安なまま放置されてるなら、そういった企業は買収リスクにさらされることになります。

これが資本市場の規律です。
わが国の問題の一つはこの資本市場の規律が十分に効かない仕組みになっているところにあります。

【リンク】

なし

ROE、なお欧米と開き

トムソン・ロイターによると、米主要500社の2013年の純利益は前期に比べ約5%増える見通し。増益基調を維持するが、米財政問題の影響などで先行きには不透明感が漂う。
(日経ヴェリタス2013年10月27日3ページ )

【CFOならこう読む】

「市場が注目するのは、欧米に比べてなお格差が大きいROEの動向だ。野村證券によると、日本の主力企業のROEは前期の5%台から今期9%台まで回復するが、13~14%の欧米とはなお差がある」
(前掲紙)

メリルリンチ日本証券の神山直樹チーフストラテジストは、

「年1割の増益が続き、その6割を株主に配分すれば、18年度にはROEが15%まで上昇する可能性もある」(前掲紙)

と言っています。

達成不可能な水準ではないという意味で言っているのでしょうが、多くの経営者に株主価値を創造しようという強い意識がない現状を鑑みると机上の空論と言わざるを得ません。今後外資による日本企業への投資が増えれば、株主のプレッシャーが強くなっていくでしょうから、そうなれば徐々に世界水準に近づいて行くことになるかも知れませんが、まだまだ時間がかかるように思います。

【リンク】

なし

M&Aにより人材を採用ーDeNA創業者 南場智子氏

日経フォーラム世界経営者会議
ゲームの顧客基盤生かす
(日本経済新聞2013年10月25日14ページ 攻めの経営を聞く)

【CFOならこう読む】

変化が速いネット分野は人材を育てる時間が少ないのでは
変化が乏しい安定期は、その分野に精通した人材をM&Aなどで外部採用することは有効だ。だが変化が激しい今は社内での人材育成がカギを握る。変化に対応でき、実行力や起業家精神のある人材を育てることが重要だ。現場に任せて若手を育てている。」(前掲紙)

“M&Aで人材を外部採用”
なかなか斬新な響きです。とても良いですね。

M&Aで買われた会社の従業員はリストラされるという強迫観念が、国富を創造するM&Aの実行を止める、ということがままありますが、買う側から見ると事業とともに良いヒトを採用できることがM&Aの動機になることもよくあるのです。

雇用ルールの改革が進まない現状では、M&Aの実行をもっと容易にできるよう、税制その他の面から支援することが必要であるように思います。
M&Aによりヒトが異動することが普通になれば雇用ルールを改正することに対する抵抗感も薄れていくのではないでしょうか。

【リンク】

なし

カテゴリー: M&A タグ: ,

法人減税へ議論

政府・与党内で2014年度税制改正に向けた議論が始まった。安倍晋三首相は成長戦略を軌道に乗せるため、15年度からの法人実効税率の引き下げを想定するが、自民党税制調査会には慎重論が強い。税制改正大綱でどこまで踏み込めるかは、安倍政権の成長戦略への取り組みの試金石になる。
(日本経済新聞2013年10月24日3ページ)

【CFOならこう読む】

「日本の法人実効税率(東京都で38・01%)は25%程度の韓国などと比べて高く、企業活動を阻害しているとみる。海外の投資を呼び込む「アベノミクス」戦略にもかかわらず、今年上半期の日本への新規投資は10年ぶりの低水準。法人実効税率の引き下げは欠かせないとの判断だ。」(前掲紙)

法人税の実効税率を下げることは必要ですが、日本における起業を増やすためには他にやるべきことがたくさんあります。

10月21日のエントリーで紹介したポール・グラハム氏は、”Why Startuos Condense in America”でアメリカにベンチャーが集中する理由を述べています。

以下項目だけ列挙してみます。

1. The US Allows Immigration.
2. The US Is a Rich Country.
3. The US Is Not (Yet) a Police State.
4. American Universities Are Better.
5. You Can Fire People in America.
6. In America Work Is Less Identified with Employment.
7. America Is Not Too Fussy.
8. America Has a Large Domestic Market.
9. America Has Venture Funding.
10. America Has Dynamic Typing for Careers.
(http://www.paulgraham.com/america.html)

良い大学がある、解雇が容易である、・・・。
具体的な将来ビジョンを示す政治のリーダーシップがなければ一歩も進みません。

【リンク】

http://www.paulgraham.com/america.html

資本再配分できる社会にー池尾和人氏

日本の金融が社会に役に立つ存在へと飛躍する条件を金融論が専門の池尾和人・慶大教授に聞いた。池尾氏は「金融は実体経済を映す鏡。金融に変化を求めるのなら、社会や実体経済も大きく変わらなければいけない」などと語った。
(日本経済新聞2013年10月23日5ページ  日経web刊)

【CFOならこう読む】

日本の金融の課題は何でしょうか。

日本の金融システムに欠けているのは、低収益企業から資本を引き揚げ、少しでも収益の高い企業に回す資本の再配分機能です。米国は1980年代からLBO(借り入れで資金量を増やした買収)などの手法を使って資本の再配分を行い、経済活性化のきっかけになりました

企業部門の新陳代謝を高めるのは、新規企業を育てるというきれい事ばかりではありません。古い企業に退出を迫り、収益性を高めるための雇用カットを容認しないといけない。本当に金融に変化を求めるのなら、社会や実体経済も大きく変わらなければいけない。社会が変化を決意するなら、金融の姿を再デザインしなければなりませんが、いまのところ、日本社会がその方向に向かっているようには見えません」(前掲紙)

一言でいうと、ヒト、モノ、カネが自由に移動する社会を目指すべきということです。
企業が貯め込んだ資金を使わせるのは、国家権力の役割ではなく、金融の役割です。
そして社会や文化が変わらなければ金融も変わることはできません。

「人材など他に企業活動を妨げている条件が変わらない限り、大きな効果はないでしょう。起業しようというアニマルスピリッツを持った人材が出てこないといけない。」(前掲紙)

社会の変化を促すのは、政治のリーダーシップの役割ですが、ぜひとも成功体験が欲しいところです。
多くの起業家が後に続きたくなるような成功体験が。

【リンク】

なし

おもしろおかしくー堀場製作所最高顧問堀場雅夫氏(日経フォーラム世界経営者会議)

経営者の仕事として一番重要なことは社員がどんな考えを持って働いているかを明らかにすることだ。企業は資本・経営・労働の3つで構成される。役割は分担され、報酬や利益も分配される。もし社員が仕事を「つまらない」「給料を得る手段」とだけ考えていたら残念だ。社員自ら、仕事を「おもしろい」と取り組めれば、新たな発想も続々と出てくる。
(日本経済新聞2013年10月22日15ページ)

【CFOならこう読む】

「小さな企業でも、家族や取引先などを含めれば関係者は何万人に上る。経営者はその全員に対して影響力がある。経営者としての最大の仕事は、「働く社員が、生きがいを持って人生を送れるかどうか」。それができれば、自然に企業は発展し、顧客満足度向上や社会や国家の発展にもつながっていく。」(前掲紙)

全面的に賛同します。
こういう話を聞くと、”一番大切なステークホルダーは云々”という議論に意味がない、ということがわかります。

従業員が楽しく働き、顧客が満足し、社会や国家の発展につながること、つまり国富(世界の冨)を創造することが企業には求められるのです。従業員が楽しく働けない企業は、中長期的に国富を創造し続けることはできません。

【リンク】

なし

カテゴリー: 未分類 タグ:

ラーメン代稼ぎ

創業間もないベンチャー企業が早期に「ラーメン代」、つまりメンバーの生活費を賄える程度の利益を稼ぐこと。利益を確保することで企業家のやる気が高まるうえ、資金集めの苦労も軽くなり、成功の可能性が高まるとの考え方。
(日経ヴェリタス2013年10月20日6ページ)

【CFOならこう読む】

「米シリコンバレーの著名ベンチャー投資家、ポール・グラハム氏が提唱し、日本のベンチャー企業家や投資家の間でも広まっている。同氏のエッセーでは「ramen profitable」と表現している。」(前掲紙)

ソフトウェアのベンチャー企業は低コストで運営できるので、最低限の生活費を賄えるだけの利益は比較的早期に稼ぐことができるし、そうなれば資金調達にあくせくしなくて良くなる、とポール・グラハム氏は言っているのです。

ちなみに「ramen profitable」はラーメン二郎で外食できるレベルではなく、家でインスタントラーメンを食すレベルを言っているのでお間違えなく。

【リンク】

Want to start a startup? Get funded by Y Combinator.

 

米サード・ポイント、ソニーへ分離提案「留保」

ソニーの大株主の米有力ヘッジファンド、サード・ポイント(ニューヨーク)のダニエル・ローブ最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に応じ、ソニーが映画や音楽など「エンターテインメント事業」の情報開示を強化するとの方針を評価する考えを示した。ソニーが拒否したサード・ポイントのエンタメ事業の分離上場提案については、一時的に留保する構えで、当面はソニーとの対話を重視する方針とみられる。
(日本経済新聞2013年10月18日13ページ)

【CFOならこう読む】

日本企業の経営のあり方、体質をどう評価するか。
 「欧米では社外取締役がおり、独立した立場から経営陣を客観的に評価する仕組みが一般的。日本企業も取り入れていくべきだ。企業にとって最も大切なステークホルダーは株主。日本企業は従業員など株主以外のステークホルダーを重視しすぎるため、企業の成長に悪影響を与えている」(前掲紙)

今後、日本における外資ファンドの活動が活性化されてくるものと思います。

また、それは日本への海外からの投資が増加することを意味し望ましいことと思います。
ですが、外資ファンドにはぜひとも「企業にとって最も大切なステークホルダーは株主」という主張は日本では受け容れられないということを理解して頂きたいと思います。こういった主張は無益な「会社は誰のものか」という論争と軋轢を生むだけで何の成果も生み出しません。

重要なことはパイの取り合いではなく、パイを大きくすることなのです。

【リンク】

なし