サンスターMBO裁判

歯磨き製品大手サンスターが行ったMBOを巡り、元株主1人が同社株の公正な買い取り価格の決定を申し立てていた即時抗告審で、大阪高裁が1株840円とする決定を出したことが8日分かった。大阪地裁が昨年9月に決定した同650円を約30%上回り、元株主に有利な認定となった。
(日本経済新聞2009年9月9日16面)

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大阪高裁の決定は、多くの点でレックス・ホールディングス事件の高裁及び最高裁決定と同様のものとなりました。

レックス・ホールディングス事件における高裁及び最高裁決定では、MBO公表日前日までの直近1ヶ月の終値単純平均に13.9%をプレミアムを付したTOB価格を支持した地裁の決定を覆し、MBO公表日直前に業績の下方修正を行ったことが、株価を下方に誘導する意図のもと行われたことは否定できないとして、単純平均する期間を直近半年と長めにとった上、本件に近接した時期に行われたMBOの事例を参考に20%のプレミアムが妥当であるとしてこれを付加した価格を公正な価格としました。

サンスター事件では地裁はTOB価格(2007年2月のMBO公表日前日から過去6ヶ月間の平均株価に19%を付した価格)を支持したのに対し、高裁決定は、

「「同社が2006年11月に発表した業績下方修正は株価の『安値誘導』を画策する工作の一つではないか」と指摘した。」(前掲紙)

その上で、

「MBOを発表した2007年3月期のサンスターの純利益がその前と後の期に比べて落ち込んでいるのは不自然として、MBO発 表の1年前の株価水準700円を基準に設定した。ここにMBOでの平均 的なプレミアム(上乗せ幅)2割を付けて適正株価を算出した。」(ブルームバーグニュース)

会社法は取得価格(=公正な価格)の決定を裁判所に委ねており、裁判所が決めるとなると、こんな風にするしかないのでしょうが、プレミアムは2割付せば良いという実務慣行が定着するのが恐い。

プレミアムの源泉はシナジーにあり、シナジーは個々の案件ごとに全く異なるわけで、一律に20%あれば良いというものでは決してありません。

サンスター事件では、会社側が決めた買い取り価格に約20%のプレミアムが織り込まれており、プレミアムの水準という点は大きな争点とはならなかったようです。この事件では直近半年の終値平均と1年前の株価水準のどちらを客観的価値とするのが良いかが大きな争点となっており、これを最高裁が決定することになります。

しかしこれは難しい。そもそもこんな判断を裁判所にさせることが妥当であるとも思えません。

やはり、法律又は市場ルールでMBO(TOB)価格の最低水準を決めておく必要があるのではないかと私は思います(例えば直近1年間の最高値を下回ってはいけない等)。

そういう少数株主保護の手当てがあることを前提に、長島・大野・常松法律事務所の酒井竜児弁護士の「「企業が公正な手続きで決定したMBO価格に裁判所が安易に介入するのは問題だと考える」(ブルームバーグニュース)という意見に賛成します。

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