日銀展望リポートー「経済・物価情勢の展望」の概要

日銀は2日公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」の全文で、2010年度初めの経済成長率がマイナスに転じる可能性も含め、景気が「踊り場」を迎える見通しを明らかにした。前週末の金融政策決定会合後の公表文で「当面、現在の低金利水準を維持する」という「時間軸政策」に近い効果を狙った表現を新たに追加。景気下支えをアピールしたが、景気や物価動向では追加緩和の圧力が浮上する可能性も残っている。
(日本経済新聞2009年11月3日4面)

 

【CFOならこう読む】

2009年度後半から2011年度の経済見通しは次の通りです。

「実質GDP成長率で考えると、足もとは在庫調整完了 や政策効果による強めの反発力が作用しているため、2009年4~6月に続き7~9月も、潜在成長率をかなり上回る高めのプラス成長が見込まれる。その後、そうした反発力が弱まる中で成長率は幾分減速し、2010 年度初め頃には、公共投資や耐久財消費に反動が生じるとみられること等から、実質GDPが一時的に弱まる局面もありうる。しかし、基調的にみれば、2010年度中も、輸出の増加が続くもとで、プラスの経済成長が維持され、世界経済の回復がより明確になる2011年度には、日本経済の成長率も潜在成長率を明確に上回っていくと想定される。これを年度単位でみると、2009年度に-3%台前半となったあと、2010年度は+1% 前後、2011年度は+2%前後と想定される。」

 実質成長率が2010年4~6月期に前期比マイナスに転じる可能性が示唆されています。

2009年度後半から2011年度の物価見通しは次の通りです。

 「国内企業物価の前年比は、2009年度は-5% 台前半、2010年度は-1%台前半、2011年度は-0%台後半と予想される。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2009年度については、年度全体でみると石油製品価格等の変動が大きく影響し、-1%台半ばと 過去最大のマイナス幅になると予想される。その後、2010年度は-0% 台後半、2011年度は-0%台半ばと、マイナス幅が次第に縮小していく と想定される。」

 2009年度後半から2011年度の輸出見通しは次の通りです。 

「2009 年度中は、各国の政策効果や海外在庫の調整進展の影響が大きい前半を 中心に、大きく反転上昇すると予想される。2010年度以降も、海外経済 が回復を続けるもとで、2009年度中のリバウンド局面に比べて勢いは鈍 るが、輸出の増加が続くと考えられる。ただし、きわめて大幅に落ち込 んだ水準からの回復であるため、2011年度末頃の輸出の水準は、2007年
度末頃のピーク並みないしそれを下回る水準にとどまる可能性が高い。」

 2009年度後半から2011年度の企業収益見通しは次の通りです。

 「今後の企業収益を展望すると、製造業では、人件費や減価償却費の削 減などを通じて損益分岐点を引き下げる動きが、しばらく続く可能性が 高い。そうした減価償却費の削減のため、新規の設備投資の抑制に加えて、既存設備の除却や廃棄も進められていくと考えられる。そうした固 定費の抑制と、輸出の回復により、製造業の経常利益は、2010 年度には ある程度はっきりした増益が予想される。他方、非製造業は、製造業に おけるコスト削減の動きが影響するほか、内需の回復には時間がかかるとみられることから、2010年度は固定費の抑制を続けても収益はさほど 回復せず、明確な回復は2011年度にずれ込むと考えられる。 」

 このような見通しを前提に、日銀は以下のように現行の低金利政策を維持する姿勢を明確にしています。

「金融政策運営に当たっては、きわ めて緩和的な金融環境を維持していく方針である。日本銀行としては、わ
が国経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰していくことを粘り強く支援していく考えである。」

これは時間軸政策に近い効果を狙ったものと市場では受けとめられているようです。

「時間軸政策とは、ある条件を満たすまで中央銀行が金融緩和政策を続けると約束して、期間が長めの金利にも
低下圧力がかかりやすくすること。政策金利の低下余地がほとんどない状態で、緩和効果を高める狙いがある。
市場参加者は当面は利上げなどの政策変更がないとわかるため、安心して調達や運用に動くことができ、金融
市場が安定しやすくなる。」(前掲紙)

 長期金利上昇のリスクを減じるための表現と受けとることができるようにも思います。

 

【リンク】

2009年11月2日「経済・物価情勢の展望(2009年10月)」日本銀行【PDF】