原油乱高下でヘッジ裏目

価格下落を享受できず 相次ぐデリバティブ損失(上)

為替や原油相場の急変動を受けて、デリバティブ取引で損失を計上する企業が相次いでいる。本来は価格変動によるリスクをヘッジするためのデリバティブ取引で、なぜ多額の損失が出るのか、その背景を探る。
(日本経済新聞2009年3月3日12面)

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記事では商船三井のケースが紹介されています。

商船三井は昨年夏以降の燃料価格の下落局面で、価格上昇をヘッジするための先物商品を金融機関から購入したが、燃料価格下落で約130億円の損失が発生。コンテナ船事業は2009年3月期に150億円の経常赤字に陥る見通しだとのことです。

これに対し、商船三井の芦田社長は、
「ヘッジ取引に失敗しなければコンテナ船事業は赤字が少なくて済んだはずだ」
と話したそうです。

しかしこの発言はヘッジの本質を理解しない不適切なものであると私は思います。

企業はなぜヘッジをするのか?

多くの事業において、保険やヘッジは金を稼ぐためではなく、リスクを減らすために行われる。それでは、なぜ、わざわざこのような方法によりリスクを減らそうとするのだろうか。まず、これによって財務計画を立てることが簡単になり、現金が不足するという困った事態に直面する可能性が減らせるということがあろう。
(「コーポレトファイナンス」リチャード・ブリーリー スチュワート・マイヤーズ著 日経BP社)

企業はどうしてデリバティブを利用するのだろうか。答えは、デリバティブが企業のリスク・エクスポージャーを変えるための道具であるからである。かつてある人が、ファイナンスにとってのデリバティブは、外科技術にとってのメスである、といった。デリバティブを用いることにより、企業はリスク・エクスポージャーの望ましくない部分を切り捨て、さらにエクスポージャーを違うかたちに変換することもできる。
(「コーポレートファイナンスの原理」ステファン A. ロス他 金融財政事情研究会)

商船三井は、原油価格の高騰という望ましくない部分を切り捨てるためにヘッジ取引を利用したのです。結果として割高な価格で燃料費を固定化することになったとしても、リスクエクスポージャーを減らすという判断は間違っていたわけではありません。ヘッジ手段であるデリバティブ部分から利益を出なければ、そのヘッジは失敗であるということになるなら、それはデリバティブを投機手段として用いるのと大差ないことになります。

少なくともリスク管理責任者であるCFOは、利益を出すためではなくリスクエクスポージャーを減らすためにヘッジするのですから、結果的にデリバティブ部分から損失が出ても責めを負うべきではありません。
そうでないと、マーケットの上がり下がりを賭けることが仕事になってしまいます。

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