優先出資証券による資金調達

負債と資本の中間的な性質を持つ「優先出資証券」で資金を調達する企業がじわりと増えている。昨年秋以降、東武鉄道、東洋紡、昭和電工が発行。負債が増えず、格付け会社が一定比率を資本とみなす利点がある。1株利益の希薄化を抑えられる財務基盤強化策としても注目されている。
(日本経済新聞2009年12月22日1面)

【CFOならこう読む】

「「公募増資だけでは必要な資金確保は難しかった」。今年10月に公募増資と優先出資証券で合計約600億円を調達した昭和電工の野村一郎取締役は振り返る。
調達額のうち240億円は優先出資証券で対応。すべて公募増資で賄えば、発行済株式数が増え、株価への影響が懸念される。優先出資証券は渡りに船だった。」(前掲紙)

当ブログでは、東武鉄道の優先出資証券については

2008年9月26日「東武のハイブリッド証券」

東洋紡の優先出資証券については

2009年2月17日「東洋紡 ハイブリッド証券で220億円調達」

で取り上げています。

昭和電工の優先出資証券のスキームは次の通りです。

「新株式発行及び株式売出し並びに第三者割当による 2014 年満期ユーロ円建 転換社債型新株予約権付社債(劣後特約付)の発行及び当社海外特別目的 子会社によるユーロ円建交換権付永久優先出資証券の発行に関するお知らせ」15ページより

1.会社は、海外特別目的子会社であるSD 社を割当先として本新株予約権付社債総額240億円を発行し、SD社は、株式会社みずほコーポレート銀行、みずほ信託銀行株式会社、興銀リース株式会社、東京センチュリーリース株式会社、富国生命保険相互会社、芙蓉総合リース株式会社、株式会社損害保険ジャパン、及びみずほキャピタル株式会社を割当先(予定)として本優先出資証券総額240億円を発行する。

2.会社は、本優先出資証券に係る配当、残余財産の分配等の支払いを保証する旨の契約(劣後保証契約)をSD社と締結する。

会社はプレスリリースで、本優先出資証券の特徴を次のように説明しています。

「本優先出資証券は、資本と負債の中間的な性質を持つハイブリッド証券であり、負債性調達手段の特性を有すると同時に、株式会社日本格付研究所から、75 の資本性が認められる見通しであるなど、実質的な財務構成比率を改善し、財務の安定性を高める資本性調達手段としての特性も兼ね備えております。 本ハイブリッドファイナンスは、必要な資金を全て公募増資で調達した場合の希薄化を可能な限り抑制し、実質的な資本増強による財務構成比率の改善を実現する効果を有しております。

本優先出資証券は、資本と負債の中間的な性質を持つハイブリッド証券であり、負債性調達手段の特性を有すると同時に、株式会社日本格付研究所から、75 の資本性が認められる見通しであるなど、実質的な財務構成比率を改善し、財務の安定性を高める資本性調達手段としての特性も兼ね備えております。

本ハイブリッドファイナンスは、必要な資金を全て公募増資で調達した場合の希薄化を可能な限り抑制し、実質的な資本増強による財務構成比率の改善を実現する効果を有しております。

当社が発行する社債に新株予約権を付与すること(本優先出資証券には、本新株予約権付社債に交換することができる交換権が付与されており、当該交換権を行使した場合は、本優先出資証券は本新株予約権付社債に交換され、当該本新株予約権付社債は自動的にかつ直ちに当社の普通株式に転換されます。)により、本邦でも実績のある海外SPCを通じた株式への交換権を付与せずに優先出資証券を発行する調達手段に比べて、相対的に有利な金利(配当)条件で資金調達を行うことが可能となっております。

但し、既存株主の皆様に配慮した商品性を実現すべく、時価を大幅に上回る水準に転換価額を設定するとともに現金及び株式を対価とする取得条項(※)を付与することにより、将来の株価上昇時においても株式の希薄化を極力抑制することを重視致しました。 」

今日の新聞記事は以上の特徴を次のように説明しています。

「昭和電工が新株予約権付社債(CB)を子会社のSPCに対して発行し、これを購入した子会社が銀行など投資家に優先出資証券を発行する。連結会計上は親子間の債権債務は相殺消去されるため、CBは消えて子会社が発行した優先出資証券だけが残る。子会社の資本調達は連結貸借対照表では少数株主持分になり、純資産の部に計上されて負債は増えない。

当初約5年の年利率は約4.8%。投資家側は普通株への実質的な転換権を持つが、転換価格は291円と直近株価の約1.7倍で、当面は新株増加を回避できる。日本格付研究所(JCR)は格付上、75%を資本として考慮するという」(前掲紙)

記事では、優先出資証券は、国際会計基準では負債として取り扱われる可能性が高いことを指摘しています。

さらに言うなら、優先出資証券は区分処理により転換権部分が分離され、毎期実質利回りにより利息(配当)の計上を行う可能性があるものと思われます。

【リンク】

2009年9月29日「新株式発行及び株式売出し並びに第三者割当による 2014 年満期ユーロ円建 転換社債型新株予約権付社債(劣後特約付)の発行及び当社海外特別目的 子会社によるユーロ円建交換権付永久優先出資証券の発行に関するお知らせ」昭和電工株式会社[PDF]