セブン&アイ・ホールディングスとイオンの苦闘

セブン&アイ・ホールディングスとイオンが苦闘している。国内消費の成熟を乗り越えようとM&Aなどで拡大路線を突き進んできた結果、ここへきてその非効率性が浮き彫りに。2007年2月期に営業最高益を記録した後は足踏みが続き、米タルボットの売却や西武百貨店の店舗閉鎖などに追い込まれた。収益力や財務力では差があるものの、「グループ力」のテコ入れが課題だという点は共通する。持株会社のあり方を含めた抜本的な経営体制の見直しが、待ったなしだ。
(日経ヴェリタス2010年2月21日14面)

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「イオンの上場子会社は17社と国内企業で最多。持分法適用会社は7社ある。海外でも子会社が4社上場している。かつては上場益を出店など成長投資に充てる前向きな目的もあったが、今では少数株主が増えたことで利益の社外流出を招くマイナス面が指摘されるようになった。前期末の少数株主持分は2,838億円で純資産の実に4分の1。税引後利益の約3割が少数株主利益として流出している。
中でも「本体との関係性が強く、完全子会社すべき」(国内証券)と指摘されるのが中核子会社のイオンモール。イオンモールの今期の予想純利益は前期比1%増の216億円で、イオン連結(75億円~150億円)を上回るグループ最大の稼ぎ頭だ。
(中略)
イオンモールを株式交換で完全子会社化すると、イオンの発行済株式数(約8億株)は約2割増えるが、それでも今期の1株利益は約18円~26円(のれん代償却を除く)とイオンの会社予想(9.8円~19.6円)より増える」(前掲紙)

イオンの2010年2月期の予想1株利益は、9.8円~19.6円。株価が924円(2月23日終値)なので、PERは47.1倍~94.2倍の水準です。一方、イオンモールの2010年2月期の予想1株利益は、118.71円。株価が1,620円(2月23日終値)なので、PERは13.6倍の水準です。

ところで、自社よりも低PERの会社を合併又は株式交換で買収すれば、必ず自社のEPSは上昇します(のれん償却費を計上しないと仮定した場合)。これはコングロの算術とも呼ばれ、1960年代にEPSの成長を目的に多数のコングロマリット企業群が誕生しました。

「もっともこうしたコングロマリット・ブームは長続きしなかった。財務会計ルールの不備と投資家の一時的な錯覚につけこんだコングロ企業のゲームのルールは、やがて投資家の気がつくところとなり、1960年代末には相場下落とともに馬脚を現し、成長の息の根を止められてしまった。しかし、わが国では、こうした財務会計指標の表面的な改善を重視したM&Aも非常に多いと思われる」(経営財務入門 井手正介/高橋文郎 日本経済新聞出版社)

完全子会社化は良いのですが、EPSが改善するからといって、価値が創造されることにはならないことに注意が必要です。

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