IBMが4千億円申告漏れ

コンピューター製造販売大手「日本アイ・ビー・エム」(日本IBM、東京都中央区)の企業グループが、東京国税局の税務調査を受け、平成20年12月期までの5年間で、4千億円超の申告漏れを指摘されていたことが18日、分かった。法人税の追徴税額は300億円以上とされ、申告漏れ額は過去最大規模とみられる。日本IBM側は争う意向を示している。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100318-00000504-san-soci

【CFOならこう読む】

「財政悪化が進む中業界関係者によると、日本IBMの親会社「アイ・ビー・エム・エイ・ピー・ホールディングス」(APH、同区)は平成14年ごろ、米IBMから日本IBMの全株(約2兆円相当)を購入。その後、株式の一部を購入時より安く日本IBMに売却した結果、20年12月期までの5年間で4千億円超の赤字を計上したとされる。
APHは20年から子会社を含むグループの所得の損益を合算して申告・納税する連結納税制度を導入しており、同年は日本IBMの黒字がAPHの赤字と相殺されたことでグループの法人税納税額がゼロになったという」(前掲紙)

購入価格より安く売却したことにより赤字が計上された点ではなく、自社株取得であるところが本件のポイントです。

法人が、市場等から時価で購入した株式を同じ価格で発行会社に買い取らせたとしても(発行会社にとっては自社株買い)、赤字を作ることができるのです。

楽天・TBSの案件その他の場面で、このことについては当ブログでは何度かお話ししています。

つまりこういうことでした。

税務上、自己株取得の場合、取得対価のうち、取得会社の「1株当たり資本等の金額」を上回る金額が「みなし配当」とされ、「1株当たり資本等の金額」と株主の譲渡原価との差額が株式譲渡損益となります。

例えば100円で市場から購入した株価を発行会社に100円で自社株買いさせるとします。発行会社の「1株当たり資本等の金額」が10円だとすると取得対価100円と「1株当たり資本等の金額」10円の差90円が「みなし配当」となり、「1株当たり資本等の金額」10円と株式の簿価100円との差90円が株式譲渡損となります。

法人の場合、受取配当の一部又は全部が益金不算入となるので譲渡損失だけを税務上赤字として計上することができるのです。

IBMの場合は、連結納税制度を採用していることにより、APHで生じた損失を日本IBMの利益と損益通算することにより納税額が圧縮されます。税務当局はこれを租税回避行為と認定したというのが今日の記事です。

・日本に持株会社を作るためにAPHが日本IBM株式を米IBM社から購入する。
・この株式を日本IBMがAPHから自社株買いする。
・連結納税により親子の赤字と黒字を損益通算する。

という一連の行為はそれぞれを見た場合異常な取引とは言えず、異議申立その他今後の進展が注目されます。

なお平成22年税制大綱では、この手のスキームを塞ぐべく以下の手当がなされています。

「 資本に関係する取引等に係る税制
イ みなし配当の際の譲渡損益
(イ) 100%グループ内の内国法人の株式を発行法人に対して譲渡する等の場合には、その譲渡損益を計上しないこととします。(再
掲)
(ロ) 自己株式として取得されることを予定して取得した株式が自己株式として取得された際に生ずるみなし配当については、益金
不算入制度(外国子会社配当益金不算入制度を含みます。)を適用しないこととします。
(ハ) 抱合株式については、譲渡損益を計上しないこととします。 」

【リンク】

2009年12月22日「平成22 年度税制改正大綱」[PDF]