金融庁、TOB資金の詳細文書要求

日本の企業買収ルールがさりげなく変わったのは今年3月末のことだ。金融庁が公表したTOBを巡る「Q&A集」の32番目に、それは記してある。TOB資金の出し手である銀行や投資ファンドなどに、詳細な融資・出資条件の開示を求める内容だ。一般には知られていないが、M&Aの専門家は「回復しつつあるM&A機運に水を差す」と危ぶんでいる。
(日経ヴェリタス2010年4月25日13面)

【CFOならこう読む】

「株券等の公開買付けに関するQ&A」問32の内容は次の通りです。


公開買付けに要する資金について、公開買付けの開始後に第三者から貸付けを受ける場合、公開買付届出書の添付書類である「公開買付けに要する資金・・・の存在を示すに足る書面」としてどのような書面を添付する必
要がありますか(法第27条の3第2項関係)

「公開買付けに要する資金・・・の存在を示すに足る書面」(他社株府令第13条第1項第7号)は、決済に要する資金の調達が可能であることを相当程度の確度をもって裏付けるものでなくてはならないと考えられます。

したがって、公開買付けに要する資金について、公開買付けの開始後に第三者から貸付けを受けるため、「公開買付けに要する資金・・・の存在を示すに足る書面」として融資証明書等を添付する場合には、当該融資証明書等によって、当該貸付けが相当程度の確度をもって実行されるものであることが裏付けられなければならないと考えられます。相当程度の確度があるか否かは、貸付人の状況及び貸付けに係る契約又は合意の内容等の事実関係に照らし、個別事案ごとに判断する必要があります。

具体的には、例えば、以下のような場合には、相当程度の確度がある場合には該当しないと考えられます。

・ 貸付人の資力に疑義があることが明らかである場合
・ 貸付けに係る契約の締結又は貸付けの実行のための前提条件が付されており、当該前提条件の内容が、重要な点において具体的かつ客観的ではない場合
・ 貸付人において、貸付けの実行のために当該時点において必要な内部的な手続(事前の条件提示に係る稟議・決裁等)が行われていない場合

また、相当程度の確度があるというためには、以下の点が確保されている必要があると考えられます。

・ 貸付人の承諾なく公開買付期間が延長されていないことを貸付けに係る契約の締結又は貸付けの実行のための前提条件とする場合には、与信判断に与える影響が軽微な事由による延長について当該承諾を不合理に拒否しないこととなっていること
・ 当該融資証明書等の効力に期限が付されている場合には、少なくとも、当初の公開買付期間(当初から予定されている延長を含みます。)及び公開買付けの終了から決済までの期間に10営業日を加えた期間をカバーするような期限であること

なお、当該貸付けに係る契約の締結又は貸付けの実行のための前提条件が付されている場合には、当該前提条件のうち、重要な事項の内容(いわゆる表明・保証等、当該前提条件において言及されている事項のうち、重要な事項の内容を含みます。以下この問において同じです。)を公開買付届出書に具体的に記載し、又は、当該前提条件のうち、重要な事項の内容が記載された書面を添付する必要があると考えられます。

(注)当該前提条件の内容が個人のプライバシーや会社の営業秘密に関わるなどの理由により、その開示をすることが、貸付人、公開買付者又は対象者その他の者の利益を著しく害するおそれがある場合には、当該利益に配慮した開示の方法が認められると考えられます。 」

このQ&Aが出てから最初の案件となったジェイ・エー・エーのMBOのケースでは17~18頁の融資証明書が開示されています。

たとえば三菱東京UFJ銀行の融資証明書には、別紙として以下の書類が添付されています。

融資引受条件
本件融資の実行の前提条件
借入人の表明・保証
期限の利益喪失事由

記事では、「本来なら正面から議論し、内閣府令の改正といった立法上の手立てをすべきだ」と言う弁護士の見解が紹介されています。

しかし「公開買付けに要する資金・・・の存在を示すに足る書面」の内容を金融庁がより明確化するためにQ&Aの手法によることが問題であるとは思えません。

「金融庁の見解はどうだろう。総務企画局の幹部は「規制を強化したのではなく、明確化したということだ」と説明する。詳しい融資条件などがわかれば「一般の投資家でも」TOBの確実性を見極めることができる」という」(前掲紙)

全くもって正論であると私は思います。

【リンク】

「株券等の公開買付けに関するQ&A」問32