不公正ファイナンス、摘発相次ぐ

増資した資金がすぐに流出する「不公正ファイナンス」が後を絶たない。証券取引等監視委員会は相次ぎ金融商品取引法の偽計容疑で増資に関与した会社経営者などを告発したほか、証券取引所や各財務局と連携して未然防止にも取り組む。しかし、現物出資を利用するなどの新たな手口が横行しつつあり、証券監視委は警戒を強めている。
(日本経済新聞2010年5月10日)

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「現物出資とは、不動産など資金以外の物の提供を受け対価として株式を発行することだ。証券監視委によると、特に不動産を現物出資する場合の価格に問題があるという。

不動産鑑定士の評価額をもとに対価とする株数を決めるが「素人が見ても明らかに高いケースがある(証券監視委 佐々木総務課長)。不動産の出資者は不当に安く株式を手に入れた可能性があり、株式を市場で売却すれば利益が転がり込む。

実際、現物出資の件数は急増している。2009年に現物出資すると開示した全国上場企業は延べ20社で2008年より7社増えた。2010年はすでに9社が開示している」(前掲紙)

現物出資の場合には、現物出資の価額を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申し立てをしなければなりませんが、次の場合にはこれを省略できることになっています。

1.募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が、発行済株式総数10分の1以下である場合
2.現物出資財産について定められた財産の価額の総額が500万円以下である場合
3.現物出資財産のうち、市場価格のある有価証券について定められた財産の価額が、その有価証券の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えない場合
4.現物出資財産について定められた価額が相当であることについて、弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士または税理士法人の証明(現物出資財産が不動産の場合は、証明および不動産鑑定士の鑑定評価)を受けた場合
5.現物出資財産が株式会社に対する金銭債権(弁済期が到来しているものに限る)であって、その金銭債権について定められた価額が、その金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合(会社法207条9項)

不動産の現物出資の場合には、上記4の不動産鑑定士の鑑定評価をもって検査役の調査が省略されます。つまり割高な不動産鑑定評価を得ることさえできれば、容易に「不公正ファイナンス」を行なうことができるのです。

実勢価格とかけはなれた鑑定評価を行う不動産鑑定士が存在するとは、直ちには信じられませんが、「素人が見ても明らかに高いケースがある」というのが事実であるなら、それにお墨付きを与えた不動産鑑定士がいるということになります。

なお、財産の価額について証明を行なったものは、財産の時価が定款に定めた価額に著しく不足するときには、会社に対して連帯してその不足額を支払う義務を負います(ただし証明にあたって注意を怠らなかったことを証明した場合には、義務は負わない)。

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