ユーロはギリシャに勝てるか

ギリシャは国内経済バランスの達成が急務だが、共通通貨ユーロが制約だ。通貨減価による財政赤字縮小はできず、政治的に困難な財政再建しか道はない。独立国家が通貨を共有するというユーロの実験は、政治的には壮大で野心的、理想主義が経済的現実に勝てるのか、ギリシャ問題が突きつけている。
(日経ヴェリタス2010年5月16日45面 異見達見 野口悠紀雄)

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ギリシャがユーロに加盟していなければ、ドラクマ(ユーロ加盟以前のギリシャ通貨)が減価し、インフレが生じること等により財政赤字が縮小し、経済バランスが達成できる可能性があるが、ギリシャがユーロに加盟し自国通貨を持たないため、こういった形で経済バランスを達成することはできず、政治的に困難な財政再建の道を歩まざるを得ない。こうした困難を強い政治力で克服できなければ、ギリシャはユーロを離脱するしか方法はない、

と野口氏は本稿で論じています。

さらにユーロの本質的な問題として次のような指摘を行なっています。

「ここに共通通貨ユーロの本質的な問題が表れている。すなわち「国内政治と財政は国ごとに独立し、他方では通貨を共有するため金融・為替政策の自由が各国から奪われている」という矛盾である。
ギリシャ問題は、ギリシャ一国の問題ではない。それは、ユーロを維持できるか否かという問題である。「独立国家が通貨を共有する」という経済的にはあり得ない奇妙な仕組みを維持できるのか、人類史上初めての壮大な実験が行なわれている」(前掲稿)

租税の分野でも同様の問題があります。

EUでは経済統合のために「4つの自由」(財・人・サービス・資本の自由な移動)を保障する法的枠組をつくっており、これを阻害する加盟国の国内法は内外無差別の原則に反するとして、禁止されています。

1990年代後半から、欧州裁判所が次々とEU加盟国の法人税制を無差別原則に反すると判断しています。ここに、税制は国ごとに独立しているが、4つの自由を守るため加盟国の税制が否定される、という矛盾があるのです。

野口氏は、本稿で、「(EUは)政治的にはきわめて野心的であるが、経済的には失敗することがほぼ確実なばかげた実験である」と冷たく言い放っていますが、これに反論することばが僕には見つかりません。

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