経済教室 – 安定配当、株主の利益にも

宮川寿夫 大阪市立大学専任講師
伊藤彰敏 一橋大学教授
・配当の多寡と企業価値の関係は明確でない
・経営者の裁量奪うとインセンティブも失う
・すべての企業に妥当な配当政策は存在せず

(日本経済新聞2010年6月1日27面)

【CFOならこう読む】

論稿はマイヤーズ教授の外部株主モデルを用い、リターンは株主と経営者の交渉力によって決まることを説きます。

「外部株主モデルは、株式会社は経営者から投入された経営能力など無形資産と、株主から投下された株主資本という双方の投資によって形成されると考える。

株主と経営者お互いが自ら投資したものから創出されるリターンの獲得を期待しているとする。リターンの分配方法は株主と経営者の交渉力によって決定される。
株主は株式の保有比率を背景に、経営者へのモニタリングを利かせることで交渉力を高められるが、あまりに過剰なモニタリングを行なうと経営者のモチベーションを低下させるため必ずしも企業価値の向上は望めなくなる。

(中略)

このような株主と経営者のトレードオフを調整する手段が固定的な配当政策であると主張するのがマイヤーズ教授である。

すなわち経営者が毎期安定した配当を支払い続ける限り、株主の将来配当に対する期待は安定し、株主は現経営者による企業活動の継続を認め、経営への介入を行なわないよう意思決定する。そうした固定的配当政策を継続できる限り、経営者の企業特殊的な人的資本投入のインセンティブが保持される。株主はそうした経営者のインセンティブを活用しながら株主資本コストに見合った投資収益を確保するのである」(前掲稿)

マイヤーズ教授のモデルは米国では適合しても、相対的に経営者の力が強い日本ではうまく当てはまりません。

具体的な投資計画を持たず資金需要が乏しいにも関わらず、キャッシュを貯め込んでいる企業が多いことが問題なのです。
今の日本では経営者のインセンティブを強調するより、株主価値を強調する方が得るべきものが大きいように思います。

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