退職給付の算定に使う割引率下げ相次ぐ

年金債務の算定に使う割引率を引き下げる企業が増えている。2010年3月期に引き下げたのは211社で、前の期に比べ79%増えた。会計基準の変更により、割引率を基準とする長期金利に連動しやすくなったのが主因。割引率の低下は積立不足額の償却負担増につながり、業績悪化の要因になる。足元の長期金利の低下が続けば、割引率を引き下げる企業が今期も増えそうだ。
(日本経済新聞2010年8月20日13面)

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「従来は過去5年平均の債券の金利を基に割引率を決めることができたが、2010年3月期から期末の金利に1本化された。前期末は新発10年物国債の利回りが過去5年平均を下回り、割引率の見直しに踏み切る企業が相次いだ」(前掲紙)

現行の退職給付会計に関する実務指針18項は次のように規定しています。

「18 割引率変更の要否
割引率は安全性の高い長期の債券の利回りを基礎として決定されるが、各事業年度において割引率を再検討し、その結果、割引率の変動が退職給付債務に重要な影響を及ぼすと判断した場合には、退職給付債務の再計算が必要である。
重要な影響の有無の判断に当たっては、前期末に用いた割引率により算定されている退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定される場合には、重要な影響を及ぼすものとして期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければならない(期末において割引率の変更を必要としない範囲については、資料3が参考となる。)」

実務指針の資料3は、期首割引率(2.0%から7.0%まで0,5%刻み)と平均残存勤務期間(10年から40年)の組み合わせに応じる割引率の範囲を記載していて、この範囲を超えて変動した場合には、退職給付債務が10%以上変動しているものと推定することができます。

平均残存勤務期間が短いほど許容範囲の下限は小さくなります。
資料3の中で許容範囲の下限が最も小さいのは期首割引率2.0%、平均残存勤務期間10年の場合で、1.1%~3.0%となっています。

現在の長期金利は1%を下回っており、この状況が期末まで続けば、前期割引率の見直しを行なわなかった企業も割引率の
変更を余儀なくされるものと思われます。

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