財務の弱い企業は淘汰される?-信越化学工業のケース

信越化学工業は塩化ビニールとシリコンウエハーという2つの市況産業で世界シェア首位を占める。世界経済がさらに悪化した場合の影響を問われ、金川千尋社長は「そうなれば財務諸表が弱い企業が撤退する」と即答した。市場全体が膨張と収縮を繰り返す構図は、事業会社も金融機関も同じだ。資本という裏付けのある「強い財務」を持つ企業だけが経済危機を勝ち残り、持続的成長を可能にする。
(日経ヴェリタス 2008年10月12日 11面)

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米国景気が一段と悪化すれば、塩ビ市場全体が縮小するのではありませんか、という記者の問いに対し、金川千尋社長は次のように答えています。

「そうなれば財務諸表の弱い企業が撤退すると思います。それを待つには自分が財務諸表が強く、圧倒的に強くなければなりません。オリンピックでも金メダルを取るのは大変でしょう。金メダルをとっても2~3年で引退する人をみるとがっかりしますね。」
「借金してまで投資をやりたくはない。新工場の設備投資はすべて手元資金です。私はもともと貧乏性で、お金を借りるというのは絶対に嫌。お金を借りて無理をして、手形を期日に落とせなかったり、買掛金が払えなくなったりするから、つぶれるんですよ」

金川千尋社長の言う財務諸表の強さとは、資本が充実していることを指しています。信越化学の場合、2008年3月期の純資産は1兆4836億円と売上高1兆3763億円を上回るだけの厚みを保持しています。

自己資本を積み増しながら、ROEも年々引き上げているところがこの会社の凄いところです。


表を見てわかるように、その源泉はマージンにあります。マージンを地道に高める努力を続けていることがROEの上昇につながっているのです。

ただし、自己資本の大きさは、企業が直面しているリスクとの関係で決まるのであって、無借金が全ての企業にとって最適であるわけではありません。
信越化学の主たる事業は市況産業で、リスクに対し十分な備えを必要とするのでしょう。それにしても売上高を上回るほどの自己資本が本当に必要であるか、ただ単に銀行と付き合いたくないだけではないか、現在の資本コストは不要に高くなっているのではないか、というような疑問がないわけではありません。

もっとも、業績が堅調な会社からも突如として融資を引き上げる、ビジョンのかけらもない日本の銀行から借金などしたくないという気持ちは分からなくもありませんが…。

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