TOB不成立-大日本印刷・インテリジェントウェイブのケース

18日。大日本印刷によるインテリジェントウェイブのTOBは応募総数が買い付け予定株数の下限の半分にも届かず失敗した。過半数を占める個人が議決権に目覚め、安易な経営支配嫌の移動に「待った」をかけた。
(日本経済新聞 2008年10月1日 16面)

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TOBは8月20日から9月18日まで実施されましたが、買い付け上限を52.02%、下限を33.41%に設定し、応募株数が下限を下回った場合は一切買い付けないことになっていました。買い付け価格の29,740円は過去3ヶ月間の終値平均を45%上回るプレミアムを付したものでしたが、多くの個人投資家が応募を見送った結果、わずか12.19%の応募にとどまりました。

本件、そもそも友好的TOBでありながら、筆頭株主である安達会長がTOBに応募しておらず、本気度今ひとつのTOBでしたが、記事が言うように、個人株主が「安易な経営支配嫌の移動に「待った」をかけた」、と解釈するのもどうかなという気がします。

TOBという制度は、必ずしも株主の望む通りの結果にならない可能性があることが、「TOBによる敵対的買収の不可能性」として1980年にサンフォード・グロスマンとオリバー・ハートにより指摘されています。

この理論によると、多くの株主が次のように考えます。
「大日本印刷はインテリジェントウェイブの将来性について自分たちの知らない良い情報を持っているに違いない。大日本印刷がマジョリティを握ることで株価はTOB価格より上がるはず。ならばそのまま持っていよう。」多くの個人株主がこのように考えるなら、当然TOBは不成立に終わります。

また、大日本印刷への支配権の移動に反対の株主もTOBには応じません。従って、こう考えるといずれにしてもTOBは成立しないことになるのです。さらに他の株主の行動をどのように予想するかということまで考えると、この結論は大きく変わり得ます。

大日本印刷への支配権の移動に反対の株主も、このTOBが成立しそうだと考えると、自分が支持しない経営者のもとで株主として取り残されるより、TOBに応募しようと考えるでしょう。

また、大日本印刷を支持する株主は、TOB不成立の可能性が高いと思えば、TOBに応募せず市場で売り抜けようと考えるでしょう。本件で、TOB期間の最終日付近でインテリジェントウェイブの株価が大きく下がったのは、このような要因によるものだったのかもしれません。

いずれにしても、TOB不成立=安易な経営支配嫌の移動に「待った」をかけた、ということではない可能性があることを我々は理解しておく必要があります。

【リンク】

平成20年8月19日「株式会社インテリジェントウェイブ株券に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」大日本印刷株式会社 [PDF]

平成20年8月19日「当社株式に対する公開買付けに関する参道の意見表明のお知らせ」株式会社インテリジェント ウェイブ [PDF]

平成20年9月20日「大日本印刷株式会社による当社株式の公開買付けの結果に関するお知らせ」株式会社インテリジェント ウェイブ [PDF]