日本電産、東洋電機製造に買収提案

日本電産、東洋電機製造に買収提案 「鉄道機器」に進出

日本電産は16日、鉄道用機器メーカーで東証1部上場の東洋電機製造に買収を提案したと発表した。TOB(株式公開買い付け)により子会社化し、モーターなど鉄道機器分野に進出する狙い。日本電産は多くのM&A(合併・買収)を手掛けてきたが、相手企業と合意する前に買収提案を公表するのは初めて。東洋電機製造は「対応を検討中」としており、買収が成功するかは同社の対応に左右されそうだ。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080917AT1D160CK16092008.html

【CFOならこう読む】

本件で今後想定されるシナリオは次の通りです。

①東洋電機製造経営陣はTOBに賛同し、TOBが実行される。
②東洋電機製造経営陣はTOBに反対する。

 ②の場合、日本電産は、
②-1 買収を諦める
②-2 敵対的TOBを実行する

 ②-2の場合、東洋電機製造は、
②-2-1 第三者割当増資等により安定株主を作る
(王子・北越のケース)
②-2-2 濫用的買収者として買収防衛策を発動する
(スティール・ブルドックのケース)
②-2-2 何もしない

ところで、②-2-2のケースでTOBは成功するのでしょうか?

東洋電機製造は、個人株主の比率が約5割と高く、TOBの成否は個人株主がTOBに応募してくるかどうかによって大きく左右されます。

TOB価格は1株635円で12日終値(305円)に約108.2%のプレミアムを上乗せした水準です。過去の株価の推移から見ても十分な水準のプレミアムであると言えます。

ですからこのTOBに多くの個人株主が応募してくるように思えます。ところがゲーム理論的なアプローチではこれが必ずしもそうはならないことが指摘されます。

日本電産の買収に賛同する株主は、日本電産は東洋電機製造のファンダメンタルズ価値がTOB価格以上であると考えているはずだと考え、保有株式を売らない、という選択をします。日本電産の買収に反対する株主も、保有株式を売りません。

したがって、支配株主がいない本件のケースでは、ゲーム理論的には日本電産の買収は成立しない、ということになります。

岩井克人氏の近著「M&A 国富論」(プレジデント社)は、次のようにTOB価格だけで買収の可否を決する方法を次のように批判し、新しい買収ルールを提案しています。


「ある買収者が市場を一生懸命リサーチし、買収して価値を高められそうな会社を見つけてTOBをかけた場合、既存株主は何もしない、つまり「寝て待つ」ことが最良の戦略となるのです。その結果、買収は成立しなくなる。このようにTOB価格だけで買収するかどうかを決めるという仕組みは、本質的な矛盾を含んでいます。
これはファイナンス理論の中の最も重要な命題の一つなのですが、そのような理論を無視して、教科書を表面的に勉強しただけの人が、TOBの価格だけで買収の勝負をつければよい、それが株主のためだと主張しているのを見ると、情けなくなります。」

私は、TOBの価格で買収の勝負をつけるのが良いと考えています。株主が欲するのは、良い経営ではなくキャピタルゲインです。十分なプレミアムを付せば、多くの個人株主はTOBに応募してくるのです。そしてそれだけのプレミアムを付けてもなおペイする自信のある株主に支配権が移動する、この仕組みが国富の点からも望ましいと、私は考えるのです。

岩井氏の提案する買収提案の詳細については、また別の機会にこのブログでとりあげます。

【リンク】

平成20年9月16日「東洋電機製造株式会社に対する資本・業務提携に関する提案書提出のお知らせ」日本電産株式会社 [PDF]
平成20年9月16日「貴社との資本・業務提携のご提案について」日本電産株式会社 [PDF]

M&A国富論―「良い会社買収」とはどういうことか
岩井 克人

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