企業価値研究報告書の位置付け

司法判断に抵触する内容 「ガイドライン」不適切 個別事例の蓄積重視せよ

今年6月30日、企業価値研究会(経済産業省産業政策局長の私的研究会)は、「近年の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」と題する報告書(第三次報告書)を公表した。これは2005年5月の第一次報告書及び 2006年3月の第二次報告書に続く、同研究会がまとめた買収防衛策のあり方に関する三番目の報告書である。
(日本経済新聞 2008年7月29日 27面 経済教室 「買収防衛策ー企業価値研究会をめぐって㊤」 太田洋弁護士)

【CFOならこう読む】

6月13日の記事(https://cfonews.exblog.jp/8120482/)で、私は企業価値研究会及び第3次報告書に対する違和感を次のように表現しました。

「ただあえてこのようなものを出さなければいけないというのはどういうことなのか、こんなものがなければ、司法も弁護士もまっとうな判断ができないのか、そうだとするととても情けない話だと私は思います。」

太田弁護士は、企業価値研究報告書の姿勢を「司法の独立性に対する行政の介入」として次のように批判しています。

「最高裁の判断に受け入れ難い部分があるなら、「ガイドライン」に類する形ではなく、立法提言の形や、それに対する(論評としての)「批判」の形で報告書を公表すべきである。建前上は「私的」研究会であるとはいえ、経産省という行政機関の公的権威をバックに、最高裁の判断内容の一部を事実上否定するような内容を、法令との関係や位置付けも不明確な形式で一般的に通用させようとするのは、三権分立の原則からも「ルール違反」といわざるを得ない。これでは企業や株主、投資家の間に無用の混乱を招いてしまう。
あえて批判をおそれずにいえば、わが国は、法的根拠の乏しい、官僚主導のルール形成や裁量行政が幅を利かせる時代を過去のものとしたはずである。実務も「お上」頼みでむやみに行政に「指針」を求めるのは自己責任の放棄である。」

経産省としては、日本の資本主義の健全の発展のために、買収防衛策のあるべき方向性へ誘導することが、自分たちの使命だと考えているようですが、ブルドックソース事件の際の、経産次官の「東京高裁判断は画期的」(https://cfonews.exblog.jp/6090182/)という発言からもわかるように、経産省の描くビジョンも一枚岩ではありません。導きたい方向性があるなら、現政権の政策としてそれを明確にしたうえで、国民に信を問うのが筋だと私は思います。

【リンク】

平成20年6月30日「企業価値研究会報告書-近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方-」経済産業政策局産業組織課
http://www.meti.go.jp/report/data/g80630aj.html