日本の株式市場は効率的か? その2-昭和シェル・東燃のケース

石油元売6月中間 会計処理方法で業績に明暗

石油元売り2社の2008年6月中間期の連結業績は、原油在庫の評価など会計処理方法の違いで明暗が分かれた。25日、昭和シェル石油は上方修正、東燃ゼネラル石油は下方修正をそれぞれで発表。ただ、原油高に伴う価格転嫁が十分に進まず、会計処理方法の影響を考慮した実質ベースの収益は両社とも厳しいのが実態だ。
昭和シェルの中間期の純利益は前年同期比86%増の390億円となり、従来予想を190億円上回った。同社は原油の在庫評価方法として、期初の在庫額と期中の仕入額を合計して平均する「総平均法」を採用。期中に原油価格が上昇すると、期初の割安な在庫による利益のかさ上げ効果(在庫評価益)が発生する。6月末のドバイ原油の実勢価格は昨年12月末に比べ1バレル当たり約40ドル上昇。在庫評価益が約400億円発生し、利益を大きく押し上げた。
一方、東燃ゼネラルの中間期の純利益は前年同期比65%減の59億となり、従来予想を101億円下回った。同社が在庫評価方法として採用する「後入先出法」では、直近に仕入れた在庫から先に出荷したとみなすため、売上原価が時価に近くなり、在庫評価益が発生しにくい。

(日本経済新聞 2008年7月26日 15面)

【CFOならこう読む】

会計上の在庫評価損益は、税金の影響を除くとキャッシュフローに影響しません。ということは、インフレ局面では会計上の利益が小さく出る後入先出法の方が平均法と比べ、課税所得が小さくなる分有利であると言えます。したがって市場が効率的であるなら、次のようなことが言えます。

「FIFO(先入先出法)によれば、先に在庫として積まれた商品の原価を費用控除する。LIFO(後入先出法)によれば、倉庫に最後に到着した商品の原価を費用控除する。インフレ率が高いときには最初に購入した商品のコストは、通常最後に購入した商品のコストよりも低い。したがって先入先出法によって計算された利益は、後入先出法によって計算された利益よりも大きくなるように見える。

さて、これが、プレゼンテーションの問題にすぎないのであれば、後入先出法から先入先出法に変更することは、何ら実害をもたらすものではないだろう。しかし、内国歳入庁、株主への報告に用いられるのと同じ方法を用いて企業の税金が計算されるべきだと主張している。したがって、後入先出法を用いることにより当面の税金支払いが軽減されている場合には、見かけ上の利益も低くなっていることになる。

仮に市場が効率的であるならば、投資家は見かけ上の利益の減少をもたらすものであっても、後入先出法への会計の変更を歓迎するだろう。BiddleとLindahlはこの問題を研究し、このとおりのことが実際に起きており、後入先出法への変更は通常以上の株価の上昇をもたらすと結論付けた。株主は、計数の背後を読み、節約された税金の額に焦点を当てているようであった。」「コーポレートファイナンス」(日経BP社)

つまり日本の株式市場が効率的で、かつ業績予想修正の影響がすでに株価に織り込まれていないのであれば、週明け東燃ゼネラルの株価は上がり、昭和シェルの株価は下がるはずです。

逆にそうならないとすれば、日本の株式市場は効率的でないということになります。

そして日本の株式市場は会計情報の持つ意味を正しく価格に織り込めない、つまりセミストロングフォームのレベルで日本の株式市場は効率的でないことを示す実例は枚挙にいとまがありません。

だから東燃ゼネラルと昭和シェルの株価が週明け、上とは逆の方向に動く可能性も十分にあるのです。

【過去記事】

2008年03月26日「日本の株式市場は効率的か?-出光興産のケース」
https://cfonews.exblog.jp/7602184/