法人税率引き下げの財源ー繰越欠損金の繰越控除制限

2011年度税制改正の焦点である法人税率の引き下げを巡り、政府税制調査会が検討している代替財源案のたたき台が28日判明した。企業が欠損金を翌期以降に繰り越して課税所得と相殺できる制度について、課税所得の「半分まで」に利用を制限するのが柱。
(日本経済新聞2010年10月29日1面)

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繰越欠損金とは、ある決算期で発生した赤字のことで、これは最長7年間繰り越され、翌期以降に生じた黒字と相殺することができます。

本来法人税の課税対象となるのは、純資産の増加分であるわけで、理論的には会社設立から現在までの価値増加分を課税対象とすべきところ、人為的に決算期を区切り
決算期ごとの価値増加分の計算をしているだけのことです。

ですから、設立から現在までの価値増加分を正しく計算するためには各期の赤字(繰越欠損金)と黒字は当然に相殺されないといけないのです。にも関わらず、繰越欠損金に利用制限をつけたり、もっというと7年間という期間制限を設けるのは間違っています。

しかも製品ライフサイクルが短く、事業のリスクが相対的に高まっている現代においては、赤字の期と黒字の期が交互に生じるということがあるわけで、この損益を通算できず、黒字の期には税金を払いなさいということになれば、それが仮に半分だけであっても、ベンチャービジネスは日本ではやれないね、ということになり兼ねません。

「欠損金の繰越控除制度を巡っては、課税所得と相殺できる範囲を「半額」までに制限することには反発が強いものの、最長7年間の繰越期間の大幅延長や、相殺範囲の拡大などによっては理解を得られる可能性もある」(前掲紙)

繰越可能期間が米国のように20年間となるのであれば、経産省や経団連が首をたてにふる可能性はあるのでしょう。

ですが、「わが国の立地競争力を高める」(平成23年度税制改正に関する経済産業省要望のポイントより)ために必要なのは本来法人税率引き下げではなく、ビジネスコストとしての法人税負担の軽減です。

法人税減税の財源を法人税に求めるというのでは意味がありません。

【リンク】

「平成23年度税制改正に関する経済産業省要望のポイント」[PDF]

「法人実効税率引下げについて」[PDF]