繰越欠損金の繰越控除制限 − 昨日の続き

【CFOならこう読む】

昨日は繰越欠損金に控除制限を設けることには反対であるという趣旨のお話しをしました。

今日はその続きです。

少しだけ国税の立場からこの問題を考えてみましょう。

日本の法人には個人企業と異ならない小法人が数多くあります。いわゆる法人成りの結果生まれた法人ですね。法人成りというのは何のために行われるかというと、税負担を軽減するためであるケースが多いのです。

このように税負担軽減のために作られる法人は黒字である必要はなく、むしろ赤字の方が望ましいと言えます。

先日黒字法人の割合が25.5%まで低下しているというお話しをしましたが(2010年10月26日エントリー「黒字法人の割合25.5%まで低下」)、全体の3/4を占める赤字法人にはこういう会社が相当数含まれていると考えられます。

国税としては当然脱税は看過できないわけですが、このように人為的に作られる赤字が合法であるか否かを漏れなくチェックするのは税務執行コストの点からも難しい。ですから最低限の防波堤として赤字に利用制限をつけているわけです。

ですが、こういう個人企業の出す赤字とリスクに果敢に挑んだ結果の赤字を一緒くたにするのは間違っています。

国が考えるべきは、安易に繰越欠損金の控除制限を設けることではなく、個人事業として事業を営んでも法人成りしても税負担に差異がないようにするための方策です。

「アメリカでは、これらの法人の税負担を、いかにして個人企業のそれに近づけるかが、一つの政策課題となっている(S法人の制度)。また、ドイツでは、人的会社は、法人格を与えられておらず、その所得は、出資者の所得として所得税の対象とされている」(租税法第15版 金子宏著 弘文堂 253頁)