株式分割は株主還元策か?

テクノ菱和、今期末 1株を1.1株に分割 16年ぶり最高益更新株主への配分手厚く

テクノ菱和は2009年3月期末の株主を対象に、1株を1.1株に分割する見通しだ。今期の連結純利益が土地売却益の計上などで16年ぶりに最高を更新するのがほぼ確実なため株主への利益配分を手厚くする。分割は1997年9月以来。1株配当は前期比0.5円増の年16円(期末に9.5円配)の計画で、分割を考慮すると1.45円の増配となる。
(日本経済新聞2009年1月22日12面)

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株式分割は株数が1.1倍になる一方、1株当たりの価値(株価)は1/1.1に引き下げられるので、株主価値に与える影響はありません。株主還元が目的なら、株式分割をせずに1.45円だけ1株配当を増やせばそれで足りるはずですが、同時に株式分割をするのはどういう意味があるのでしょうか?

新聞記事は、この点、「会社は発行済み株式総数を増やして流動性の向上につなげたい考え」と説明しています。

それはそれで嘘ではないとは思いますが、別の理由もあると思います。
安定配当を基本方針とする日本の多くの上場企業は、儲かったら増配するのが困難です。一旦増配するとそれを継続することが求められるからです。

テクノ菱和も安定配当を行うことを次のように宣言しています。

株主に対する配当政策は、経営の最重要課題の一つと認識し、長期的な視点に立って、財務体質の充実、競争力保持のため、内部留保の確保に意を用いつつ、配当性向を勘案して利益還元を図るとともに、安定した利益配当を維持することを基本方針といたしております。当社の剰余金の配当は、中間配当及び期末配当の年2回を基本的な方針としております。配当の決定機関は、中間配当は取締役会、期末配当は株主総会であります。

当事業年度末の配当金につきましては、上記の方針に基づき1株につき9円50銭(年間では1株につき15円50銭)を実施いたしました。
(第59期 2008年3月31日期末日 有報)

また配当政策は、配当の顧客効果、すなわち自社の配当政策を好む特定の投資家層を株主(顧客)として選択している効果を勘案すると、簡単に配当政策を変更するのは困難です。

なぜなら、企業が急に配当政策を変更すれば、従来の配当政策を支持してきた株主は、自分の好む配当政策をおこなう他の企業の株式に乗り換える必要が生じるが、それにはコストがかかる上、予期せぬ株価の変動を引き起こす原因になりうるからである。
(「経営財務入門」井手正介・高橋文朗著 日本経済新聞社)

したがって増配をする場合にも1株配当の増加の幅は極力小さくし、株式分割を併せて行うことにより実質的な増配をアピールするという方法が好まれるのです。
この方法によれば、将来仮に利益水準が低下したとしても、減配をせず、株式併合により配当減資を減らすことができるというのも経営陣に好まれる理由の一つでしょう。

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