日本のネット企業、利益率は突出もPERは低水準
原材料が不要で労働力も少なくて済むインターネットサービス企業。そもそも利益率は高いが、日本勢は海外勢に比べても高い。SNSのグリーや日本のヤフーは売上高営業利益率が50%を超える。日本勢の収益力の源泉はどこにあるのか。
(日本経済新聞2011年1月14日15面)
【CFOならこう読む】
「もっとも、世界的に高い収益力を持ちながらPERは海外勢と比べ低水準だ。日本のヤフーやディー・エヌ・エーは10倍台で、米グーグルの25倍を下回る。人口減少の日本で「国内限定のビジネスを展開しても中長期的には需要の拡大を期待できない」(いちよし経済研究所の納博司主席研究員)ためだ」(前掲紙)
これがどういうことか以下数式により説明してみます。
一定成長配当割引モデルを用いると、株式の価値は次のように表されます。
P= D1/r-g = D0(1+g)/r-g
ただし、
P=株式の理論価格
Dt=t期の配当の期待値
r=株主の期待収益率(株主資本コスト)
g=配当の期待成長率
ここで、前期の配当(D0)はすでに決まっているので、株価を決定するのは、その他の2変数(r, g)と考えることができます。このうち、株式の期待収益率rは企業の事業リスクや財務リスクに基づいて資本市場で決定されると考えられます。
一方、配当の期待成長率gは次の内部成長率(増資なしに達成できる1株当たり利益の成長率)の式によって決まると考えられます。
g=ROE・(1-d)
ただし、
ROE=株主資本税引後当期利益率
d=配当性向
内部成長率を決定する変数のうち、配当性向は長期的には大きく変わらないとすれば、高い水準のROEを維持することが利益・配当の成長のために重要になります。一定成長モデルと内部成長率の考え方を前提とすれば、ROEが高ければ株価が高くなるという関係が成立します。
ROE=税引後利益/株主資本=税引後利益/売上高 × 売上高/株主資本
売上高営業利益率が高ければROEも高くなります。
実際グリーのROEは80%と高水準です。
ところでPER(=株価/1株当たり利益)は、一定成長モデルの変形であると言えます。
つまり、
P=D1/rーg
両辺をEPS1(第1期の1株当たり利益)で割ると、
P/EPS1=(D1/EPS1)/rーg
となります。
すなわち、
PER=d/rーg=d/(rーROE・(1-d))
=配当性向/(資本コストーROE・(1ー配当性向)
この式から配当性向の影響を考えなければ、ROEが高いほどPERが高くなることがわかります。
それでは何故日本のネット企業のPERは低いのでしょうか?
それを解くカギはgにあります。
g=ROE・(1-d)でした。
しかし、この成長率の算式は毎期獲得される利益がROEの利益率で事業に再投資されることを前提しているのです。
再投資の機会がないということなら、現在のROEがどんなに高くても成長率は高くはなりません。
今日の記事の「「国内限定のビジネスを展開しても中長期的には需要の拡大を期待できない」というのは、
「国内限定のビジネスモデルでは獲得した利益を再投資する投資機会を見出すことが早晩できなくなる」
と読むべきなのです。
投資機会を見出せなくなれば、キャッシュがじゃぶじゃぶ余って行きます。
そうなれば、企業は増配することでPERが上昇する可能性があるのですが、その辺のところはまた別の機会にお話しします。
【リンク】
なし