解散価値によるTOB−コマ・スタジアムのケース

東宝がコマ・スタジアム買収へ 友好的TOBで

東宝は22日、東京・歌舞伎町の「新宿コマ劇場」を運営するコマ・スタジアムを完全子会社化すると発表した。株式公開買い付け(TOB)を実施し、友好的に買収する。劇場は年内で閉館する予定で、東宝が主導して跡地を再開発する。
http://www.47news.jp/CN/200807/CN2008072201000610.html

【CFOならこう読む】

コマの7月22日終値1545円に比し、TOB価格は何とその4.8倍の7400円です。このTOB価格は何のバリューに基づくものなのでしょうか?

新聞記事によると東宝のTOBの目的を次のように説明しています。

「コマは演歌など興業の不振から主力の「新宿コマ劇場」閉鎖を決めたが、建物の解体から新しいビルの完成まで約4年間は事業停止となる。事業の継続が難しくなるため、東宝傘下で再建を図る。東宝はコマ劇場に隣接する自社の不動産と一体で再開発を進める。」(日本経済新聞 2008年7月23日 11面)

東宝は、この点公開買付開始公告の中で次のように書いています。

「当社は、対象者の所有する「新宿コマ劇場」建物の所在地(東京都新宿区歌舞伎町一丁目19 番1)を含む一帯の土地(以下「本件土地」といいます。)を所有しており、対象者は、本件土地5,385.33平方メートルの南側部分3,164.38 平方メートル(以下「本件土地南側部分」といいます。)を当社より賃借し、「新宿コマ劇場」建物の敷地として利用しております。また、当社は、本件土地の北側部分を、自社の所有する「新宿東宝会館」建物(地下4階・地上9階、テナントとして映画館・飲食店・レジャー施設等)の敷地として利用しております。ところが近年になり、演劇公演における観客ニーズの多様化から、特に対象者が得意とした演歌公演の観客動員の減少が続き、対象者は深刻な業績不振に陥りました。そのため、対象者は、平成15 年11 月には「経営再建計画」を策定し、平成17 年3月には「梅田コマ劇場」の資産売却により大阪地区の劇場経営から撤退いたしました。その後、対象者は、「新宿コマ劇場」を唯一の拠点として、話題性のある企画公演、他社との提携・貸館公演の実施等、時代のニーズに合った公演施策への転換を図ってまいりましたが、観客動員の回復には結びつかず、平成20 年3月期決算では2期連続の大幅な営業赤字を計上するに至り、再び抜本的な経営の見直しを迫られました。

また、「新宿コマ劇場」(昭和31 年築)及び「新宿東宝会館」(昭和44 年築)はともに、築後相当の年数が経過し、施設・設備の老朽化が激しくなっております。さらに、歌舞伎町一丁目地区は、演劇劇場2館、映画館計14 スクリーンが集積する一大映画・演劇興行街でありますが、昨今の周辺環境の変化や近隣競合地区へのシネマコンプレックス(複合映画館)の新規出店の影響を受け、映画・演劇興行立地の地盤沈下が急速に進んでいる状況にあります。

このような事態を踏まえ、対象者は、「新宿コマ劇場」建物の敷地を所有する当社に対して全面的な経営支援を要請し、「新宿コマ劇場」を閉館して当社と協同して本件土地の再開発事業に取り組むことが、最善の選択との判断に至りました。また、当社にとっても、本件土地は、都内の主要繁華街では希少な大型物件でありながら、きわめて収益性・効率性の低い資産と化しており、当社の経営方針に照らして、本件土地の早期の再開発による有効活用が必要と考え、そのためには、何よりも本件土地南側部分の借地権を有する対象者の協力が不可欠と判断いたしました。」

要するに土地再開発のためにコマが有する借地権を取得する必要があり、TOBの目的はそこにあるというわけです。

こういうことですから、コマ・スタジアムの評価をもはや継続価値によって行うことはできません。東宝は時価純資産法に基づきTOB価格の決定を行ったことを開始公告の中で次のように説明しています。

「当社は、本公開買付けにおける買付価格を決定する際の参考とするため、当社及び対象者から独立した第三者算定機関としての算定人であるアビームM&A コンサルティング株式会社(以下「アビームM&A コンサルティング」といいます。)に対し、対象者の株式価値の評価を依頼しました。アビームM&A コンサルティングは、当社からのかかる依頼に基づき、時価純資産法及び市場株価法により対象者の株式価値の評価を実施し、当社は、アビームM&A コンサルティングから平成20 年7月18 日付で株式価値算定書(以下「アビームM&A コンサルティング算定書」といいます。)を受領しています。それぞれの手法において算定された対象者の株式1株当たりの価値の範囲は、時価純資産法では7,057 円から7,401 円、市場株価法では1,555 円から1,728 円です。なお、アビームM&A コンサルティングは、対象者の株式価値の評価においては、対象者の本件土地南側部分の借地権には相当の含み益が存在しその重要性が高いことから、時価純資産法を採用するとともに、株式会社生駒データサービスシステム(以下「生駒データサービスシステム」といいます。)により実施されたかかる借地権の不動産鑑定に基づき、かかる借地権の適正な時価を対象者の株式価値に反映しております。また、対象者が唯一の事業所であり収益基盤であった「新宿コマ劇場」を閉館して、当社と協同して本件土地の再開発事業に取り組み、対象者の演劇事業が大幅に縮小されることが予定されていることから、対象者の事業資産から生み出される将来キャッシュフローに基づく株式価値の評価を行うことは難しいため、ディスカウンティッド・キャッシュフロー法は採用しておりません。当社は、本公開買付けにおける買付価格を決定するに際して、アビームM&A コンサルティング算定書の時価純資産法の評価結果を重視しつつ、対象者に対する事業・法務・会計・税務に係るデュー・ディリジェンスの結果、対象者による本公開買付けへの賛同の可否、対象者株式の市場価格の推移、及び本公開買付けの見通し等を総合的に勘案し、かつ、対象者と協議・交渉した結果等も踏まえ、平成20 年7月22 日の取締役会において本公開買付けにおける買付価格を7,400 円と決定いたしました。なお、本公開買付けにおける買付価格は、対象者株式の株式会社大阪証券取引所(以下「大阪証券取引所」といいます。)市場第二部における平成20 年7月18 日までの過去1ヶ月間の終値の単純平均値1,559 円(小数点以下を四捨五入)に対して約375%(小数点以下を四捨五入)のプレミアムを、平成20 年7月18 日までの過去3ヶ月間の終値の単純平均値1,680 円(小数点以下を四捨五入)に対して約341%(小数点以下を四捨五入)のプレミアムを、平成20年7月18 日の終値1,545 円に対して約379%(小数点以下を四捨五入)のプレミアムをそれぞれ加えた価格となります。」

なお、TOBに先立ち、5月28日付で東宝はコマ・スタジアムと「新宿コマ劇場」跡地の再開発に共同して取り組む旨合意したことを公表しています。時価純資産法による評価の前提として、このような合意が必要であると考えたのではないかと推察されます。

【リンク】

「投資家の皆様へ」東宝株式会社
http://www.toho.co.jp/toho_ir/welcome-j.html

開示情報 平成20年7月22日「株式会社コマ・スタジアム株式に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」